言葉がチートスキルになった世界で、僕だけが黙示録を書き換える破神構文。創造者と被造者の黙示録

みにぶた🐽

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墜落と再臨

第3章  精霊の警告

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 僕は立ち止まって、森の奥から響く歌声に耳を澄ませた。その旋律には確かに不吉な響きが混じっている。普通なら危険を避けて引き返すべきだろう。
 しかし、この世界の創造者として、僕には知る責任がある。

「エリシア」
 僕は振り返った。
「少し危険かもしれませんが、あの歌声の正体を確かめてみませんか?」

 エリシアは僕の顔をじっと見つめた。彼女の瞳には迷いがあったが、やがて決意の光が宿った。
「はい。私も、この世界で起こっていることを知りたいです」
 彼女は僕の隣に並んだ。
「一緒に行きましょう」

 僕たちは森の小径を奥へと進んだ。木々の間を舞う光る文字が、まるで道案内をするように僕たちの前を飛んでいく。歌声は次第に大きくなり、複数の声が重なり合っているのがわかった。

 やがて、森の奥にある小さな空き地に出た。そこには古い石の祭壇があり、その周りを無数の光る文字が輪を描いて舞っている。文字たちは確かに歌っていた。古い言語で紡がれる、美しくも悲しげな調べを。

「文字の精霊たちですね」
 エリシアが息を呑んで呟いた。
「でも、いつもと様子が違います」

 確かに、精霊たちの様子は異常だった。普段なら穏やかに舞っているはずの文字たちが、激しく明滅しながら、まるで何かに怯えるように動き回っている。

 僕は構文魔法の基礎を思い出し、古い言語の解読を試みた。大学時代に設定した文法体系が、不思議なことに頭の中に蘇ってくる。

「『警告』『破綻』『境界』……」
 僕は聞き取れた単語を口にした。
「『創造者』『崩壊』『選択』……」

 エリシアが僕の腕を掴んだ。
「アルカディア様、『創造者』という言葉が聞こえましたか?」
「ええ、確かに」

 その時、精霊たちの歌声が一瞬止まった。そして、祭壇の上に一つの大きな文字が現れた。それは古代語で『真実』を意味する文字だった。

 文字はゆっくりと僕たちの方に向かって浮かんできた。そして、僕の目の前で止まると、突然光を放った。

 瞬間、僕の頭の中に映像が流れ込んできた。

 それは、この世界を俯瞰した映像だった。空の上から見下ろすと、大陸全体に巨大な文字が刻まれているのが見える。しかし、その文字の一部が歪み、崩れ始めている。
 文字が崩れるたびに、対応する場所で異変が起こる。山が崩れ、川の流れが変わり、街の建物が歪んでいく。

 そして映像の最後に、一つの声が響いた。
『創造者よ、汝の世界に亀裂が生じている。放置すれば、全てが崩壊する』

 光が消えて、僕は膝をついた。あまりの情報量に、頭が混乱している。
「アルカディア様!」
 エリシアが僕を支えてくれた。
「大丈夫ですか? 何が見えたのですか?」

「この世界が……」
 僕は震え声で言った。
「この世界が、崩壊し始めています」

「崩壊?」
「世界の基盤となる文字構造に亀裂が入っている。このまま放置すれば、全てが無に帰してしまう」

 エリシアの顔が青ざめた。
「それは、どうして起こっているのでしょうか?」

 僕は答えに窮した。なぜなら、その原因は僕自身にあるかもしれないからだ。
 未完の小説、不完全な設定、放置された伏線。それらが積み重なって、世界の安定性を損なっているのかもしれない。

「わからない」
 僕は正直に答えた。
「でも、必ず原因を突き止めて、解決方法を見つけます」

 その時、祭壇の周りの精霊たちが再び歌い始めた。今度は、より明確に聞き取れた。

『汝に与えられし時間は短し』
『月が三度満ちる前に』
『選択を為さねば』
『全ては虚無に帰す』

「三回の満月……」
 エリシアが呟いた。
「それまでに、何かを選択しなければならないということですね」

「どんな選択でしょうか?」
 僕は精霊たちに問いかけた。

 すると、祭壇の上に三つの文字が浮かび上がった。
 一つ目は『修復』。二つ目は『再構築』。三つ目は『放棄』。

 精霊たちの声が響く。
『修復』とは、現在の世界を維持したまま亀裂を塞ぐこと。しかし、根本的な問題は解決されない。
『再構築』とは、世界を一度破壊し、完全な形で作り直すこと。しかし、現在の住民たちの記憶と関係性は全て失われる。
『放棄』とは、世界を自然に崩壊させ、全てを終わらせること。

 僕は愕然とした。どの選択肢も、重すぎる責任を伴っている。

「アルカディア様」
 エリシアが僕の手を握った。
「この世界の問題について、あなたは何かご存知なのですね?」

 僕は彼女の瞳を見つめた。真摯で、信頼に満ちた眼差しだった。
「エリシア、もし僕が……」
 僕は言いかけて、言葉を呑み込んだ。まだ、真実を告げる時ではない。

「もし?」
「もし僕が、この問題を解決できる可能性があるとしたら、あなたは僕を信じてくれますか?」

 エリシアは微笑んだ。
「もちろんです。あなたを信じています」

 その時、森の向こうから足音が聞こえた。複数の人間が、こちらに向かってくる。
「誰かが来ます」
 エリシアが警戒した。

 やがて、木々の間から三人の人影が現れた。一人は僕の知っているキャラクターだった。カイル・ドラグナー。僕が設定した主人公の親友役だ。
 黒い髪に鋭い目つき、剣を腰に差した騎士見習いの青年。彼の隣には、見知らぬ二人の大人が立っている。

「アルカディア、エリシア」
 カイルが駆け寄ってきた。
「学院で君たちを探していた。こんな所にいたのか」

「カイル、どうして?」
「グランベル先生から緊急召集がかかった」
 カイルの表情は深刻だった。
「王都で異変が起こっている。構文魔法が暴走して、建物が勝手に形を変えたり、道路の文字が消えたりしているそうだ」

 僕の予想は的中していた。世界の崩壊は既に始まっている。

「それで、優秀な魔法学院生は全員、調査団に参加することになった」
 カイルは僕とエリシアを見た。
「君たちも来てくれるか?」

 僕は迷った。王都の調査は重要だが、精霊たちからもっと情報を得る必要もある。
 しかし、エリシアが先に答えた。

「行きましょう。みんなの力を合わせれば、きっと解決策が見つかります」

 僕は彼女の強い意志を感じ取った。
「わかりました。行きましょう」

 僕たちは精霊たちに別れを告げて、カイルたちと共に森を出た。しかし、歩きながら僕は考え続けていた。
 三つの選択肢のうち、どれを選ぶべきなのか。
 そして、いつエリシアたちに真実を告げるべきなのか。

 王都への道中、カイルが僕に近づいてきた。
「アルカディア、最近君の様子がおかしい」
 彼は小声で言った。
「何か隠していることがあるんじゃないか?」

 僕はカイルを見た。彼もまた、僕が設定したキャラクターだった。直感的で、友人思いで、正義感の強い青年として描いていた。
 その設定どおり、彼は僕の変化に気づいている。

「カイル、君は……」
 僕は慎重に言葉を選んだ。
「最近、変わった夢を見ることはありませんか?」

 カイルの足が止まった。彼は僕を見つめ、それから周りを確認して声を潜めた。
「なぜそれを知っている?」
「やはり、君も」
「ああ。毎晩のように見る。俺が、誰かの頭の中で『考えられた』存在だという夢を」

 僕の心臓が激しく鼓動した。エリシアだけでなく、カイルも真実に近づいている。
 これは僕が想定していなかった展開だった。キャラクターたちが自発的に、自分たちの正体に気づき始めている。

「アルカディア」
 カイルが僕の肩を掴んだ。
「もし君が何か知っているなら、教えてくれ。俺たちは仲間だろう?」

 僕は深く息を吸った。仲間。確かに、彼らは僕の創造したキャラクターではあるが、今では大切な仲間でもある。
 しかし、真実を告げるには、まだ準備が不十分だった。

「今はまだ話せません」
 僕は苦しい胸の内を隠して言った。
「でも、必ず適切な時に全てを説明します。それまで、少し時間をください」

 カイルは不満そうな表情を浮かべたが、やがて頷いた。
「わかった。でも、一人で抱え込むなよ」

 王都が見えてきた。しかし、その様子は明らかに異常だった。
 建物の形が歪み、道路に刻まれた文字が点滅している。空には、意味不明な文字列が浮かんでいる。

 世界の崩壊は、僕が思っていた以上に深刻だった。
 そして僕は、もう時間がないことを理解した。
 三度の満月を待つ余裕はない。今すぐにでも、行動を起こさなければならない。
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