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墜落と再臨
第5章 賢者の助言
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その夜、僕は一睡もできなかった。
『真の創造者』からの脅迫状を何度も読み返し、その意味を考え続けていた。偽りの創造者。なぜ僕がそう呼ばれるのか。そして、真の創造者とは一体何者なのか。
夜明けと共に、僕はグランベル先生の研究室を訪ねることにした。
これ以上一人で抱え込むのは限界だった。師匠なら、何か解決の糸口を知っているかもしれない。
研究室の扉をノックすると、いつものように優しい声が返ってきた。
「はい、どうぞ」
部屋に入ると、グランベル先生は机の上に広げられた古い書物と格闘していた。昨夜の事件を受けて、何かを調べているようだった。
「アルカディア君、おはようございます」
先生は顔を上げて微笑んだ。
「早いですね。昨夜はよく眠れましたか?」
「実は……」
僕は躊躇した。どこから話せばいいのだろうか。
「何か悩みがあるのですね」
グランベル先生は僕の表情を読み取った。
「座ってください。ゆっくり話しましょう」
僕は椅子に座り、深呼吸をした。そして、意を決して口を開いた。
「先生、もし仮に……この世界が誰かの創作物だったとしたら、どう思われますか?」
グランベル先生の表情が変わった。驚きではなく、むしろ納得したような表情だった。
「ああ、ついにその質問をする時が来ましたね」
「え?」
僕は困惑した。
「先生は、もしかして……」
「はい、薄々気づいていました」
グランベル先生は穏やかに答えた。
「この世界の成り立ちについて、長年疑問を抱いていたのです」
僕は愕然とした。師匠も、この世界の真実に気づいていたのか。
「いつ頃からですか?」
「数年前からでしょうか」
先生は古い書物のページをめくりながら説明した。
「この世界の歴史を調べているうちに、不自然な点がいくつも見つかったのです」
「不自然な点?」
「例えば、この国の建国神話です。リテラ王国は『言葉の神』によって創造されたとされていますが、その神話の構造があまりにも整然としすぎている。まるで誰かが後から『設定』として作り上げたかのように」
僕の心臓が激しく鼓動した。確かに、僕が大学生の時に考えた設定だった。
「それから、この世界の魔法体系も不思議です」
グランベル先生は続けた。
「構文魔法という概念は非常に独創的ですが、その理論体系が完璧すぎる。まるで一人の天才が一度に考え出したかのようです」
僕は何も言えなかった。なぜなら、それも僕が考えた設定だったからだ。
「そして決定的だったのは、最近の異変です」
先生の表情が深刻になった。
「昨夜の事件以前から、世界のあちこちで『設定の矛盾』のような現象が起こっていました」
「設定の矛盾?」
「例えば、歴史書に書かれた出来事と、実際の遺跡の年代が合わない。キャラクター……いえ、人物の性格設定に一貫性がない部分がある」
僕は震えた。それは僕が小説を書いていた時の問題そのものだった。設定を練り込まずに書き進めたため、矛盾が生じていたのだ。
「先生、僕は……」
僕は告白しようとした。しかし、グランベル先生が手を上げて制した。
「まず、昨夜あなたに何があったのか聞かせてください」
先生の瞳は優しいが、鋭い洞察力を秘めていた。
「きっと重要な出来事があったのでしょう」
僕は昨夜受け取った脅迫状のことを話した。『真の創造者』を名乗る人物からの挑戦状、『偽りの創造者』という言葉、そして仲間たちへの脅迫について。
グランベル先生は静かに聞いていたが、話が終わると深いため息をついた。
「やはり、そういうことでしたか」
「やはり?」
「実は、私のもとにも似たような接触がありました」
先生は机の引き出しから一通の手紙を取り出した。
「三日前に届いたものです」
手紙には、こう書かれていた。
『老いたる賢者よ
汝は気づいているであろう
この世界の真実に
偽りの創造者の正体に
彼を守ろうとするな
さもなくば、汝も同じ運命を辿ることになる』
「僕を守ろうと……」
「ええ。どうやら、あなたの正体について何者かが勘づいているようです」
僕は混乱した。なぜグランベル先生が僕を守ろうとするのか。そして、なぜ敵は先生のことまで知っているのか。
「先生、僕の正体とは……」
「アルカディア君」
グランベル先生は立ち上がって、書棚から一冊の古い本を取り出した。
「あなたは、自分が『転生者』だと思っているのではありませんか?」
僕は頷いた。
「現代の世界から、この世界に転生してきたと」
「それは半分正しく、半分間違いです」
先生は本を開いた。そこには古い文字で『創世記録』と書かれていた。
「この世界には、確かに『創造者』が存在します。しかし、それは一人ではありません」
「一人では……?」
「複数の存在が、時代を超えてこの世界に関わっているのです」
グランベル先生は説明を続けた。
「最初の創造者は、世界の基盤を作りました。しかし、その作品は未完成でした」
僕の胸が締め付けられた。未完成。まさに僕の小説の状態だった。
「その後、二番目の創造者が現れ、世界を発展させようとしました。しかし、その試みも中途半端に終わった」
「二番目の創造者?」
「そして今、三番目の創造者が現れた。それが、あなたです」
僕は愕然とした。三番目? それでは、『真の創造者』を名乗る存在は……。
「おそらく、最初か二番目の創造者のうちの一人でしょう」
グランベル先生は推測した。
「自分の作品を後から来た者に奪われたと感じているのかもしれません」
「でも、僕は確実にこの世界を創造しました」
僕は反論した。
「キャラクターも、設定も、全て僕が考えたものです」
「それも正しいでしょう。しかし、あなたが創造したのは『この時代』の世界です」
先生は『創世記録』のページをめくった。
「この世界には、あなたの設定以前の歴史が存在します。古代文明、失われた技術、封印された魔法……それらは、前任の創造者たちの遺産なのです」
僕は理解し始めた。この世界は僕一人の作品ではない。複数の創造者による、継ぎ接ぎの世界だったのだ。
「それで、前任者が怒っているということですか?」
「可能性としては高いでしょう」
グランベル先生は頷いた。
「特に、世界が不安定になっている今、責任の所在が問題になっているのかもしれません」
「どうすればいいでしょうか?」
僕は師匠に助言を求めた。
グランベル先生は長い間考え込んでいた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「まず、他の創造者の正体を突き止める必要があります」
「どうやって?」
「この『創世記録』には、過去の創造者についての手がかりが記されているはずです。一緒に調べましょう」
僕たちは古い文献の解読に取り掛かった。グランベル先生の知識と僕の構文魔法の理解を組み合わせることで、少しずつ謎が解けていく。
そして、昼頃になって重要な発見があった。
「これを見てください」
先生が指差したページには、二つの名前が記されていた。
『第一創造者:エターナル・ヴォイド』
『第二創造者:リュウジ・タカハシ』
「エターナル・ヴォイドとリュウジ・タカハシ……」
僕は名前を反復した。
「そうですね」
グランベル先生は苦笑いした。
「おそらく、あなたと同じような経緯でこの世界に関わった人たちなのでしょう」
その時、研究室の扉が激しくノックされた。
「グランベル先生、アルカディア君」
エリシアの切迫した声が聞こえる。
「大変なことが起こりました」
扉を開けると、エリシアとカイルが息を切らして立っていた。
「王都の中央広場に、巨大な文字が現れています」
カイルが報告した。
「『審判の時』と書かれた文字が空中に浮かんでいて、その下に黒いローブの人物が立っています」
「ついに現れましたね」
グランベル先生が厳しい表情を浮かべた。
「先生、僕は行かなければなりません」
僕は決意した。
「このまま逃げ続けるわけにはいきません」
「危険です」
エリシアが心配そうに言った。
「一人で行くのは無謀よ」
「そうだ」
カイルも同意した。
「俺たちも一緒に行く」
僕は二人の顔を見た。彼らは僕の正体を知らないまま、僕を守ろうとしてくれている。
「グランベル先生、どうすればいいでしょうか?」
先生は深く考え込んでいた。そして、ついに答えた。
「アルカディア君、真実を話す時が来たのかもしれません」
「真実を?」
「はい。エリシア嬢とカイル君に、あなたの正体を明かしなさい」
先生は二人を見た。
「彼らには、知る権利があります。そして、あなたには仲間の支えが必要です」
僕は躊躇した。しかし、もはや隠し通すことは不可能だった。
「わかりました」
僕は深呼吸をして、エリシアとカイルの方を向いた。
「二人とも、聞いてください。僕には、話さなければならないことがあります」
窓の外では、王都の空に『審判の時』の文字が不吉に輝いていた。
そして僕は、ついに真実を告白する決意を固めた。
『真の創造者』からの脅迫状を何度も読み返し、その意味を考え続けていた。偽りの創造者。なぜ僕がそう呼ばれるのか。そして、真の創造者とは一体何者なのか。
夜明けと共に、僕はグランベル先生の研究室を訪ねることにした。
これ以上一人で抱え込むのは限界だった。師匠なら、何か解決の糸口を知っているかもしれない。
研究室の扉をノックすると、いつものように優しい声が返ってきた。
「はい、どうぞ」
部屋に入ると、グランベル先生は机の上に広げられた古い書物と格闘していた。昨夜の事件を受けて、何かを調べているようだった。
「アルカディア君、おはようございます」
先生は顔を上げて微笑んだ。
「早いですね。昨夜はよく眠れましたか?」
「実は……」
僕は躊躇した。どこから話せばいいのだろうか。
「何か悩みがあるのですね」
グランベル先生は僕の表情を読み取った。
「座ってください。ゆっくり話しましょう」
僕は椅子に座り、深呼吸をした。そして、意を決して口を開いた。
「先生、もし仮に……この世界が誰かの創作物だったとしたら、どう思われますか?」
グランベル先生の表情が変わった。驚きではなく、むしろ納得したような表情だった。
「ああ、ついにその質問をする時が来ましたね」
「え?」
僕は困惑した。
「先生は、もしかして……」
「はい、薄々気づいていました」
グランベル先生は穏やかに答えた。
「この世界の成り立ちについて、長年疑問を抱いていたのです」
僕は愕然とした。師匠も、この世界の真実に気づいていたのか。
「いつ頃からですか?」
「数年前からでしょうか」
先生は古い書物のページをめくりながら説明した。
「この世界の歴史を調べているうちに、不自然な点がいくつも見つかったのです」
「不自然な点?」
「例えば、この国の建国神話です。リテラ王国は『言葉の神』によって創造されたとされていますが、その神話の構造があまりにも整然としすぎている。まるで誰かが後から『設定』として作り上げたかのように」
僕の心臓が激しく鼓動した。確かに、僕が大学生の時に考えた設定だった。
「それから、この世界の魔法体系も不思議です」
グランベル先生は続けた。
「構文魔法という概念は非常に独創的ですが、その理論体系が完璧すぎる。まるで一人の天才が一度に考え出したかのようです」
僕は何も言えなかった。なぜなら、それも僕が考えた設定だったからだ。
「そして決定的だったのは、最近の異変です」
先生の表情が深刻になった。
「昨夜の事件以前から、世界のあちこちで『設定の矛盾』のような現象が起こっていました」
「設定の矛盾?」
「例えば、歴史書に書かれた出来事と、実際の遺跡の年代が合わない。キャラクター……いえ、人物の性格設定に一貫性がない部分がある」
僕は震えた。それは僕が小説を書いていた時の問題そのものだった。設定を練り込まずに書き進めたため、矛盾が生じていたのだ。
「先生、僕は……」
僕は告白しようとした。しかし、グランベル先生が手を上げて制した。
「まず、昨夜あなたに何があったのか聞かせてください」
先生の瞳は優しいが、鋭い洞察力を秘めていた。
「きっと重要な出来事があったのでしょう」
僕は昨夜受け取った脅迫状のことを話した。『真の創造者』を名乗る人物からの挑戦状、『偽りの創造者』という言葉、そして仲間たちへの脅迫について。
グランベル先生は静かに聞いていたが、話が終わると深いため息をついた。
「やはり、そういうことでしたか」
「やはり?」
「実は、私のもとにも似たような接触がありました」
先生は机の引き出しから一通の手紙を取り出した。
「三日前に届いたものです」
手紙には、こう書かれていた。
『老いたる賢者よ
汝は気づいているであろう
この世界の真実に
偽りの創造者の正体に
彼を守ろうとするな
さもなくば、汝も同じ運命を辿ることになる』
「僕を守ろうと……」
「ええ。どうやら、あなたの正体について何者かが勘づいているようです」
僕は混乱した。なぜグランベル先生が僕を守ろうとするのか。そして、なぜ敵は先生のことまで知っているのか。
「先生、僕の正体とは……」
「アルカディア君」
グランベル先生は立ち上がって、書棚から一冊の古い本を取り出した。
「あなたは、自分が『転生者』だと思っているのではありませんか?」
僕は頷いた。
「現代の世界から、この世界に転生してきたと」
「それは半分正しく、半分間違いです」
先生は本を開いた。そこには古い文字で『創世記録』と書かれていた。
「この世界には、確かに『創造者』が存在します。しかし、それは一人ではありません」
「一人では……?」
「複数の存在が、時代を超えてこの世界に関わっているのです」
グランベル先生は説明を続けた。
「最初の創造者は、世界の基盤を作りました。しかし、その作品は未完成でした」
僕の胸が締め付けられた。未完成。まさに僕の小説の状態だった。
「その後、二番目の創造者が現れ、世界を発展させようとしました。しかし、その試みも中途半端に終わった」
「二番目の創造者?」
「そして今、三番目の創造者が現れた。それが、あなたです」
僕は愕然とした。三番目? それでは、『真の創造者』を名乗る存在は……。
「おそらく、最初か二番目の創造者のうちの一人でしょう」
グランベル先生は推測した。
「自分の作品を後から来た者に奪われたと感じているのかもしれません」
「でも、僕は確実にこの世界を創造しました」
僕は反論した。
「キャラクターも、設定も、全て僕が考えたものです」
「それも正しいでしょう。しかし、あなたが創造したのは『この時代』の世界です」
先生は『創世記録』のページをめくった。
「この世界には、あなたの設定以前の歴史が存在します。古代文明、失われた技術、封印された魔法……それらは、前任の創造者たちの遺産なのです」
僕は理解し始めた。この世界は僕一人の作品ではない。複数の創造者による、継ぎ接ぎの世界だったのだ。
「それで、前任者が怒っているということですか?」
「可能性としては高いでしょう」
グランベル先生は頷いた。
「特に、世界が不安定になっている今、責任の所在が問題になっているのかもしれません」
「どうすればいいでしょうか?」
僕は師匠に助言を求めた。
グランベル先生は長い間考え込んでいた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「まず、他の創造者の正体を突き止める必要があります」
「どうやって?」
「この『創世記録』には、過去の創造者についての手がかりが記されているはずです。一緒に調べましょう」
僕たちは古い文献の解読に取り掛かった。グランベル先生の知識と僕の構文魔法の理解を組み合わせることで、少しずつ謎が解けていく。
そして、昼頃になって重要な発見があった。
「これを見てください」
先生が指差したページには、二つの名前が記されていた。
『第一創造者:エターナル・ヴォイド』
『第二創造者:リュウジ・タカハシ』
「エターナル・ヴォイドとリュウジ・タカハシ……」
僕は名前を反復した。
「そうですね」
グランベル先生は苦笑いした。
「おそらく、あなたと同じような経緯でこの世界に関わった人たちなのでしょう」
その時、研究室の扉が激しくノックされた。
「グランベル先生、アルカディア君」
エリシアの切迫した声が聞こえる。
「大変なことが起こりました」
扉を開けると、エリシアとカイルが息を切らして立っていた。
「王都の中央広場に、巨大な文字が現れています」
カイルが報告した。
「『審判の時』と書かれた文字が空中に浮かんでいて、その下に黒いローブの人物が立っています」
「ついに現れましたね」
グランベル先生が厳しい表情を浮かべた。
「先生、僕は行かなければなりません」
僕は決意した。
「このまま逃げ続けるわけにはいきません」
「危険です」
エリシアが心配そうに言った。
「一人で行くのは無謀よ」
「そうだ」
カイルも同意した。
「俺たちも一緒に行く」
僕は二人の顔を見た。彼らは僕の正体を知らないまま、僕を守ろうとしてくれている。
「グランベル先生、どうすればいいでしょうか?」
先生は深く考え込んでいた。そして、ついに答えた。
「アルカディア君、真実を話す時が来たのかもしれません」
「真実を?」
「はい。エリシア嬢とカイル君に、あなたの正体を明かしなさい」
先生は二人を見た。
「彼らには、知る権利があります。そして、あなたには仲間の支えが必要です」
僕は躊躇した。しかし、もはや隠し通すことは不可能だった。
「わかりました」
僕は深呼吸をして、エリシアとカイルの方を向いた。
「二人とも、聞いてください。僕には、話さなければならないことがあります」
窓の外では、王都の空に『審判の時』の文字が不吉に輝いていた。
そして僕は、ついに真実を告白する決意を固めた。
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