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墜落と再臨
第6章 告白する創造者
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僕は深く息を吸い込んだ。もはや逃げることはできない。エリシアとカイルの信頼に応えるためにも、真実を告げる時が来たのだ。
「二人とも、聞いてください」
僕は彼らの顔を見つめた。エリシアの緑の瞳は心配そうに僕を見つめ、カイルの鋭い眼差しには疑問と友情が混じっている。
「僕には、隠していたことがあります。とても重要で、信じがたいことです」
グランベル先生が無言で頷いた。先生の表情には励ましと覚悟が宿っている。
「アルカディア様」
エリシアが優しく言った。
「どんなことでも、私たちは聞きます。あなたを信じていますから」
「そうだ」
カイルも同意した。
「俺たちは仲間だろう? 何があっても一緒に立ち向かう」
彼らの言葉に勇気をもらい、僕は口を開いた。
「僕は、この世界の創造者です」
研究室に静寂が流れた。時計の針音だけが、重い沈黙を刻んでいる。
「創造者……」
エリシアが小さく繰り返した。
「つまり、私たちの世界を作った神様ということですか?」
「神様というほど大げさなものではありません」
僕は首を振った。
「僕は元々、別の世界の人間でした。現代という、魔法も構文術も存在しない世界に住んでいた、ただの小説家です」
カイルが眉をひそめた。
「小説家?」
「はい。物語を書く人です。そして僕は、大学生の時にこの世界を創造しました。リテラ王国も、構文魔法も、この街も……そして、あなたたちも」
エリシアの顔が青ざめた。カイルは拳を握りしめている。
「つまり、俺たちは……」
「僕が創造したキャラクターです」
僕は正直に答えた。
「でも、それは僕が元の世界にいた時の話です。今のあなたたちは、僕の想像を遥かに超えた存在になっています」
エリシアが立ち上がった。彼女の手は震えている。
「私たちは……作り物なのですね」
「違います」
僕は強く否定した。
「確かに最初は僕が設定した存在でした。でも今のあなたたちは、完全に独立した人格を持っています。僕が書いた設定を超えて、自分自身の意志で行動し、感情を抱いている」
「本当に?」
エリシアの声が震えた。
「私が感じている悲しみや喜びは、本物なのでしょうか?」
「間違いなく本物です」
僕は彼女に近づいた。
「あなたが僕に向ける優しさも、カイルの友情も、全て真実です。僕が書いた台本どおりに動いているわけではありません」
カイルが口を開いた。
「だが、俺たちの人生の基盤は、お前が作ったものなんだろう?」
「そうです」
僕は頷いた。
「だからこそ、僕には責任があります。この世界と、あなたたちを守る責任が」
グランベル先生が割って入った。
「アルカディア君、続きを話しなさい。真の創造者のことも」
僕は師匠の言葉に従い、説明を続けた。
「実は、この世界には僕以外にも創造者がいます。僕は三番目の創造者で、前に二人の創造者がこの世界に関わっていました」
「三番目?」
エリシアが驚いた。
「はい。そして今、最初か二番目の創造者が『真の創造者』を名乗って、僕を偽物呼ばわりしています。王都で起こっている異変も、その人物の仕業です」
カイルが剣の柄を握った。
「つまり、俺たちの世界を壊そうとしている奴がいるということか」
「そうです。そして今、その人物が王都の中央広場に現れました」
窓の外を見ると、『審判の時』の文字が血のように赤く光っている。
エリシアが僕の手を取った。
「アルカディア様……いえ、アルカディア君」
彼女は微笑んだ。
「あなたが創造者だったとしても、私の気持ちは変わりません」
「エリシア……」
「確かに最初は驚きました。でも、考えてみれば当然のことかもしれません」
彼女の瞳に涙が浮かんでいる。
「私たちに意識を与えてくれて、この美しい世界で生きる機会をくれたのですから、感謝しています」
カイルも立ち上がった。
「俺も同じ気持ちだ」
彼は僕の肩を叩いた。
「作られた存在だろうと、俺は俺だ。そして、お前は俺の親友だ」
僕の目に涙が滲んだ。彼らの反応は、僕が恐れていたものとは正反対だった。
「ありがとう……本当にありがとう」
「でも、一つ約束してください」
エリシアが真剣な表情で言った。
「もう秘密は作らないでください。私たちは仲間なのですから、一緒に困難を乗り越えましょう」
「約束します」
僕は頷いた。
グランベル先生が古い書物を閉じた。
「さて、真実を共有できたところで、現実的な問題に取り組みましょう」
先生は立ち上がって、窓の外を見た。
「審判者はまだ広場にいるようですね。どうしますか?」
「行きましょう」
僕は決断した。
「このまま逃げ続けるわけにはいきません」
「危険です」
エリシアが心配そうに言った。
「相手がどれほど強力かわかりません」
「だからこそ、みんなで一緒に行くんです」
僕は三人を見回した。
「一人では立ち向かえないかもしれませんが、仲間がいれば何とかなるはずです」
カイルが剣を確認した。
「よし、行こう。でも、無謀な行動は禁物だ」
「私も構文魔法で支援します」
エリシアも決意を固めた。
「私は君たちを見守ろう」
グランベル先生も同行を申し出た。
「老骨に鞭打って、最後の大仕事をしてみたいものです」
僕たちは研究室を出て、王都の中央広場に向かった。廊下を歩きながら、僕は不思議な感覚を覚えていた。
重い秘密を打ち明けたことで、心が軽くなっている。そして同時に、仲間たちとの絆がより深くなったように感じられた。
外に出ると、街の様子は更に悪化していた。建物の形は益々歪み、空中に浮かぶ文字も増えている。人々は恐怖に怯え、あちこちで構文魔法の暴走が起こっている。
「急ぎましょう」
僕は歩調を早めた。
中央広場に近づくにつれて、不気味な静寂が辺りを支配していることに気がついた。普段なら賑やかな商店街も、人影が全く見えない。
「妙に静かですね」
エリシアが呟いた。
「まるで時が止まったようです」
「魔法の影響かもしれません」
グランベル先生が分析した。
「強力な構文術によって、時間の流れが改変されている可能性があります」
広場の入り口に着くと、僕たちは立ち止まった。
そこには、想像を絶する光景が広がっていた。
広場の中央に、巨大な文字の渦巻きが形成されている。『審判の時』『破滅』『終焉』『復讐』といった不吉な言葉が、螺旋を描きながら舞い踊っている。
そして、その中心に一人の人影が立っていた。
黒いローブに身を包み、フードで顔を隠した人物。その周りには、現実を歪める強力な構文魔法の波動が渦巻いている。
「ついに来たか、偽りの創造者よ」
低く響く声が広場に響いた。声には怒りと軽蔑が込められている。
「そして、操り人形たちも連れてきたのか」
カイルが怒りを露わにした。
「操り人形だと? ふざけるな」
「落ち着いて、カイル」
僕は彼を制した。
「相手の挑発に乗ってはいけません」
僕は前に出て、審判者に向かって叫んだ。
「あなたが真の創造者を名乗る人ですね。話がしたい」
「話?」
審判者が嘲笑した。
「貴様のような半端者と話すことなど何もない」
フードが風で翻り、顔の一部が見えた。その瞬間、僕は息を呑んだ。
それは、僕と同じような年頃の青年の顔だった。しかし、その眼差しには深い憎悪と絶望が宿っている。
「あなたも、元は現代世界の人間ですね」
僕は推測を口にした。
「同じように、この世界に関わった小説家の一人では?」
「小説家……」
審判者の声に苦々しさが混じった。
「そう、私も昔はそう呼ばれていた。だが今は違う。私は復讐者だ」
「復讐? 一体何に対する復讐ですか?」
「決まっているだろう」
審判者は右手を上げた。空中の文字が激しく光る。
「この世界を中途半端に作って放置した者たちに対する復讐だ。そして、後から来て勝手に世界を書き換えた貴様に対する復讐だ」
僕は理解した。この人物は、第一創造者か第二創造者の一人なのだ。そして、自分の作品を未完のまま放置したことを後悔し、憎悪に駆られている。
「でも、世界を破壊することが解決になるのですか?」
僕は問いかけた。
「住民たちは何も悪くありません。彼らには幸せに生きる権利があります」
「住民?」
審判者が哄笑した。
「あれらは所詮、我々が作り出した人形に過ぎん。意識があるように見えても、それは錯覚だ」
「違います」
エリシアが前に出た。
「私たちは確かに意識を持っています。感情も、意志も、全て本物です」
「黙れ、人形」
審判者が手を振ると、強烈な風がエリシアを襲った。僕は咄嗟に彼女を抱きしめて庇う。
「エリシアに手を出すな」
僕は怒りを込めて叫んだ。
「彼女は人形じゃない。立派な一人の人間だ」
「人間?」
審判者の声に狂気が混じった。
「ならば証明してみろ。その人形が、本当に独立した意志を持っているかどうかを」
空中の文字が新しい形を作り始めた。『支配』『操作』『従属』といった言葉が組み合わさって、巨大な構文魔法陣を形成している。
「私がその娘に命令を下したとき、彼女が抵抗できるかどうか見てやろう」
魔法陣から赤い光線がエリシアに向かって放たれた。
「エリシア」
僕は彼女を守ろうとしたが、光線は僕の体をすり抜けて彼女に命中した。
エリシアの体が光に包まれる。彼女の瞳が一瞬虚ろになった。
「命令する」
審判者が宣言した。
「偽りの創造者を殺せ」
僕の心臓が止まりそうになった。エリシアが僕の方を向く。その瞳には、意志の光が宿っていない。
しかし、次の瞬間、エリシアの体が震えた。
「い……やです」
彼女が苦しそうに呟いた。
「私は……アルカディア君を……傷つけたくない」
審判者が驚愕した。
「何? 命令に逆らうだと?」
「私の意志は……」
エリシアが必死に抵抗している。
「誰にも……操られません」
彼女の瞳に、再び意志の光が戻った。支配の魔法が破綻し、赤い光が消散する。
「不可能だ」
審判者が動揺した。
「人形が創造者の命令に逆らうなど……」
「彼女は人形ではありません」
僕は胸を張って言った。
「エリシアは独立した人格を持つ、立派な人間です。あなたの支配など受けません」
カイルもエリシアの隣に立った。
「俺たちは誰の操り人形でもない。自分の意志で生きている」
グランベル先生も杖を構えた。
「若者よ、君の復讐心は理解できる。しかし、無実の人々を巻き込むのは間違いだ」
審判者の表情が歪んだ。怒りと困惑が入り混じっている。
「ならば、全てを破壊するまでだ」
彼は両手を天に向けて掲げた。
「この欠陥だらけの世界ごと、消し去ってやる」
空に浮かぶ『審判の時』の文字が巨大化し始めた。その文字から、破壊的なエネルギーが放射される。
「みんな、危険です」
僕は仲間たちに警告した。
「一旦退避しましょう」
しかし、エリシアが僕の袖を引いた。
「待って、アルカディア君。逃げるだけでは解決になりません」
「でも、相手は強すぎます」
「一人では無理でも、みんなでなら」
カイルが剣を抜いた。
「俺たちには構文魔法がある。力を合わせれば、何とかなるかもしれない」
グランベル先生が頷いた。
「その通りです。創造者同士の戦いなら、住民である我々にも役割があるはずです」
僕は三人の決意を感じ取った。確かに、逃げるだけでは根本的な解決にならない。
「わかりました」
僕は覚悟を決めた。
「みんなで力を合わせて、この世界を守りましょう」
審判者の破壊魔法が完成に近づいている。空に巨大な亀裂が生じ、虚無の闇が覗いている。
僕たちは手を取り合い、対抗する構文魔法の準備を始めた。
創造者と被造者が力を合わせる、前代未聞の戦いが始まろうとしていた。
果たして、僕たちはこの世界を救うことができるのだろうか。
そして、審判者の真の正体と目的は何なのか。
運命の戦いの幕が、今まさに上がろうとしていた。
「二人とも、聞いてください」
僕は彼らの顔を見つめた。エリシアの緑の瞳は心配そうに僕を見つめ、カイルの鋭い眼差しには疑問と友情が混じっている。
「僕には、隠していたことがあります。とても重要で、信じがたいことです」
グランベル先生が無言で頷いた。先生の表情には励ましと覚悟が宿っている。
「アルカディア様」
エリシアが優しく言った。
「どんなことでも、私たちは聞きます。あなたを信じていますから」
「そうだ」
カイルも同意した。
「俺たちは仲間だろう? 何があっても一緒に立ち向かう」
彼らの言葉に勇気をもらい、僕は口を開いた。
「僕は、この世界の創造者です」
研究室に静寂が流れた。時計の針音だけが、重い沈黙を刻んでいる。
「創造者……」
エリシアが小さく繰り返した。
「つまり、私たちの世界を作った神様ということですか?」
「神様というほど大げさなものではありません」
僕は首を振った。
「僕は元々、別の世界の人間でした。現代という、魔法も構文術も存在しない世界に住んでいた、ただの小説家です」
カイルが眉をひそめた。
「小説家?」
「はい。物語を書く人です。そして僕は、大学生の時にこの世界を創造しました。リテラ王国も、構文魔法も、この街も……そして、あなたたちも」
エリシアの顔が青ざめた。カイルは拳を握りしめている。
「つまり、俺たちは……」
「僕が創造したキャラクターです」
僕は正直に答えた。
「でも、それは僕が元の世界にいた時の話です。今のあなたたちは、僕の想像を遥かに超えた存在になっています」
エリシアが立ち上がった。彼女の手は震えている。
「私たちは……作り物なのですね」
「違います」
僕は強く否定した。
「確かに最初は僕が設定した存在でした。でも今のあなたたちは、完全に独立した人格を持っています。僕が書いた設定を超えて、自分自身の意志で行動し、感情を抱いている」
「本当に?」
エリシアの声が震えた。
「私が感じている悲しみや喜びは、本物なのでしょうか?」
「間違いなく本物です」
僕は彼女に近づいた。
「あなたが僕に向ける優しさも、カイルの友情も、全て真実です。僕が書いた台本どおりに動いているわけではありません」
カイルが口を開いた。
「だが、俺たちの人生の基盤は、お前が作ったものなんだろう?」
「そうです」
僕は頷いた。
「だからこそ、僕には責任があります。この世界と、あなたたちを守る責任が」
グランベル先生が割って入った。
「アルカディア君、続きを話しなさい。真の創造者のことも」
僕は師匠の言葉に従い、説明を続けた。
「実は、この世界には僕以外にも創造者がいます。僕は三番目の創造者で、前に二人の創造者がこの世界に関わっていました」
「三番目?」
エリシアが驚いた。
「はい。そして今、最初か二番目の創造者が『真の創造者』を名乗って、僕を偽物呼ばわりしています。王都で起こっている異変も、その人物の仕業です」
カイルが剣の柄を握った。
「つまり、俺たちの世界を壊そうとしている奴がいるということか」
「そうです。そして今、その人物が王都の中央広場に現れました」
窓の外を見ると、『審判の時』の文字が血のように赤く光っている。
エリシアが僕の手を取った。
「アルカディア様……いえ、アルカディア君」
彼女は微笑んだ。
「あなたが創造者だったとしても、私の気持ちは変わりません」
「エリシア……」
「確かに最初は驚きました。でも、考えてみれば当然のことかもしれません」
彼女の瞳に涙が浮かんでいる。
「私たちに意識を与えてくれて、この美しい世界で生きる機会をくれたのですから、感謝しています」
カイルも立ち上がった。
「俺も同じ気持ちだ」
彼は僕の肩を叩いた。
「作られた存在だろうと、俺は俺だ。そして、お前は俺の親友だ」
僕の目に涙が滲んだ。彼らの反応は、僕が恐れていたものとは正反対だった。
「ありがとう……本当にありがとう」
「でも、一つ約束してください」
エリシアが真剣な表情で言った。
「もう秘密は作らないでください。私たちは仲間なのですから、一緒に困難を乗り越えましょう」
「約束します」
僕は頷いた。
グランベル先生が古い書物を閉じた。
「さて、真実を共有できたところで、現実的な問題に取り組みましょう」
先生は立ち上がって、窓の外を見た。
「審判者はまだ広場にいるようですね。どうしますか?」
「行きましょう」
僕は決断した。
「このまま逃げ続けるわけにはいきません」
「危険です」
エリシアが心配そうに言った。
「相手がどれほど強力かわかりません」
「だからこそ、みんなで一緒に行くんです」
僕は三人を見回した。
「一人では立ち向かえないかもしれませんが、仲間がいれば何とかなるはずです」
カイルが剣を確認した。
「よし、行こう。でも、無謀な行動は禁物だ」
「私も構文魔法で支援します」
エリシアも決意を固めた。
「私は君たちを見守ろう」
グランベル先生も同行を申し出た。
「老骨に鞭打って、最後の大仕事をしてみたいものです」
僕たちは研究室を出て、王都の中央広場に向かった。廊下を歩きながら、僕は不思議な感覚を覚えていた。
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外に出ると、街の様子は更に悪化していた。建物の形は益々歪み、空中に浮かぶ文字も増えている。人々は恐怖に怯え、あちこちで構文魔法の暴走が起こっている。
「急ぎましょう」
僕は歩調を早めた。
中央広場に近づくにつれて、不気味な静寂が辺りを支配していることに気がついた。普段なら賑やかな商店街も、人影が全く見えない。
「妙に静かですね」
エリシアが呟いた。
「まるで時が止まったようです」
「魔法の影響かもしれません」
グランベル先生が分析した。
「強力な構文術によって、時間の流れが改変されている可能性があります」
広場の入り口に着くと、僕たちは立ち止まった。
そこには、想像を絶する光景が広がっていた。
広場の中央に、巨大な文字の渦巻きが形成されている。『審判の時』『破滅』『終焉』『復讐』といった不吉な言葉が、螺旋を描きながら舞い踊っている。
そして、その中心に一人の人影が立っていた。
黒いローブに身を包み、フードで顔を隠した人物。その周りには、現実を歪める強力な構文魔法の波動が渦巻いている。
「ついに来たか、偽りの創造者よ」
低く響く声が広場に響いた。声には怒りと軽蔑が込められている。
「そして、操り人形たちも連れてきたのか」
カイルが怒りを露わにした。
「操り人形だと? ふざけるな」
「落ち着いて、カイル」
僕は彼を制した。
「相手の挑発に乗ってはいけません」
僕は前に出て、審判者に向かって叫んだ。
「あなたが真の創造者を名乗る人ですね。話がしたい」
「話?」
審判者が嘲笑した。
「貴様のような半端者と話すことなど何もない」
フードが風で翻り、顔の一部が見えた。その瞬間、僕は息を呑んだ。
それは、僕と同じような年頃の青年の顔だった。しかし、その眼差しには深い憎悪と絶望が宿っている。
「あなたも、元は現代世界の人間ですね」
僕は推測を口にした。
「同じように、この世界に関わった小説家の一人では?」
「小説家……」
審判者の声に苦々しさが混じった。
「そう、私も昔はそう呼ばれていた。だが今は違う。私は復讐者だ」
「復讐? 一体何に対する復讐ですか?」
「決まっているだろう」
審判者は右手を上げた。空中の文字が激しく光る。
「この世界を中途半端に作って放置した者たちに対する復讐だ。そして、後から来て勝手に世界を書き換えた貴様に対する復讐だ」
僕は理解した。この人物は、第一創造者か第二創造者の一人なのだ。そして、自分の作品を未完のまま放置したことを後悔し、憎悪に駆られている。
「でも、世界を破壊することが解決になるのですか?」
僕は問いかけた。
「住民たちは何も悪くありません。彼らには幸せに生きる権利があります」
「住民?」
審判者が哄笑した。
「あれらは所詮、我々が作り出した人形に過ぎん。意識があるように見えても、それは錯覚だ」
「違います」
エリシアが前に出た。
「私たちは確かに意識を持っています。感情も、意志も、全て本物です」
「黙れ、人形」
審判者が手を振ると、強烈な風がエリシアを襲った。僕は咄嗟に彼女を抱きしめて庇う。
「エリシアに手を出すな」
僕は怒りを込めて叫んだ。
「彼女は人形じゃない。立派な一人の人間だ」
「人間?」
審判者の声に狂気が混じった。
「ならば証明してみろ。その人形が、本当に独立した意志を持っているかどうかを」
空中の文字が新しい形を作り始めた。『支配』『操作』『従属』といった言葉が組み合わさって、巨大な構文魔法陣を形成している。
「私がその娘に命令を下したとき、彼女が抵抗できるかどうか見てやろう」
魔法陣から赤い光線がエリシアに向かって放たれた。
「エリシア」
僕は彼女を守ろうとしたが、光線は僕の体をすり抜けて彼女に命中した。
エリシアの体が光に包まれる。彼女の瞳が一瞬虚ろになった。
「命令する」
審判者が宣言した。
「偽りの創造者を殺せ」
僕の心臓が止まりそうになった。エリシアが僕の方を向く。その瞳には、意志の光が宿っていない。
しかし、次の瞬間、エリシアの体が震えた。
「い……やです」
彼女が苦しそうに呟いた。
「私は……アルカディア君を……傷つけたくない」
審判者が驚愕した。
「何? 命令に逆らうだと?」
「私の意志は……」
エリシアが必死に抵抗している。
「誰にも……操られません」
彼女の瞳に、再び意志の光が戻った。支配の魔法が破綻し、赤い光が消散する。
「不可能だ」
審判者が動揺した。
「人形が創造者の命令に逆らうなど……」
「彼女は人形ではありません」
僕は胸を張って言った。
「エリシアは独立した人格を持つ、立派な人間です。あなたの支配など受けません」
カイルもエリシアの隣に立った。
「俺たちは誰の操り人形でもない。自分の意志で生きている」
グランベル先生も杖を構えた。
「若者よ、君の復讐心は理解できる。しかし、無実の人々を巻き込むのは間違いだ」
審判者の表情が歪んだ。怒りと困惑が入り混じっている。
「ならば、全てを破壊するまでだ」
彼は両手を天に向けて掲げた。
「この欠陥だらけの世界ごと、消し去ってやる」
空に浮かぶ『審判の時』の文字が巨大化し始めた。その文字から、破壊的なエネルギーが放射される。
「みんな、危険です」
僕は仲間たちに警告した。
「一旦退避しましょう」
しかし、エリシアが僕の袖を引いた。
「待って、アルカディア君。逃げるだけでは解決になりません」
「でも、相手は強すぎます」
「一人では無理でも、みんなでなら」
カイルが剣を抜いた。
「俺たちには構文魔法がある。力を合わせれば、何とかなるかもしれない」
グランベル先生が頷いた。
「その通りです。創造者同士の戦いなら、住民である我々にも役割があるはずです」
僕は三人の決意を感じ取った。確かに、逃げるだけでは根本的な解決にならない。
「わかりました」
僕は覚悟を決めた。
「みんなで力を合わせて、この世界を守りましょう」
審判者の破壊魔法が完成に近づいている。空に巨大な亀裂が生じ、虚無の闇が覗いている。
僕たちは手を取り合い、対抗する構文魔法の準備を始めた。
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空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
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