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墜落と再臨
第7章 分散する意志
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空に開いた亀裂から虚無の闇が覗き、審判者の破壊魔法が完成に近づいている。このまま正面から立ち向かっても、僕たちに勝ち目はない。
「みんな、聞いてください」
僕は素早く作戦を伝えた。
「正面突破は無謀です。分散して審判者の注意を逸らしながら戦いましょう」
「分散?」
カイルが眉をひそめた。
「それは危険じゃないか?」
「確かに危険ですが、全員で固まっていては一度に全滅してしまいます」
僕は広場の配置を素早く確認した。
「エリシアは東側から構文魔法で牽制を。カイルは西側から接近戦を仕掛けて。グランベル先生は南側から支援魔法を。僕は北側から本格的な構文術で対抗します」
「わかりました」
エリシアが頷いた。
「でも、無理は禁物よ。危険を感じたらすぐに退避して」
「お前こそ気をつけろよ」
カイルが剣を構えた。
「俺たちはチームだ。誰一人欠けてはいけない」
グランベル先生が杖を振った。
「それでは、始めましょう」
僕たちは四方向に散らばった。審判者は僕たちの動きを見て嘲笑を浮かべた。
「分散しようと無駄だ。虫けらが何匹集まろうと、巨象は倒せん」
しかし、その瞬間、エリシアが東側から行動を開始した。
「『光よ、舞い踊れ』」
彼女が空中に美しい文字を描くと、無数の光の矢が審判者に向かって飛んだ。威力は大きくないが、審判者の注意を引くには十分だった。
「ちょこまかと……」
審判者が右手を振ると、光の矢は全て消滅した。しかし、その隙にカイルが西側から接近していた。
「はあああああ」
カイルの剣が青い光を纏って審判者に向かう。これは単なる物理攻撃ではない。剣に構文魔法を込めた『断言の剣』だった。
「『この剣は必ず届く』」
カイルの宣言と共に、剣は審判者の防御魔法を突き破った。しかし、寸前で審判者が体を逸らし、致命傷は避けられる。
「小癪な」
審判者が左手でカイルに向けて黒い稲妻を放った。しかし、その瞬間、グランベル先生の支援魔法が発動した。
「『護りの言葉よ、盾となれ』」
カイルの前に光る文字の盾が現れ、黒い稲妻を防いだ。
「今です、アルカディア君」
先生の合図で、僕は北側から最大威力の構文魔法を放った。
「『混沌よ、秩序に変われ。破壊よ、創造に転じよ』」
僕が描いた巨大な文字列が審判者の破壊魔法に向かって飛ぶ。これは相手の魔法を逆転させる高度な技術だった。
審判者の表情が変わった。
「なるほど、少しは骨があるようだな」
彼は両手を組み合わせ、より強力な魔法を準備し始めた。
「だが、所詮は付け焼き刃。真の力を見せてやろう」
空中に『絶対破壊』という文字が現れた。それは僕が今まで見た中で最も禍々しい構文だった。
「みんな、危険です」
僕は叫んだ。
「一旦距離を取って」
しかし、エリシアが首を振った。
「まだです。彼の魔法が完成する前に、もう一度攻撃を」
彼女は更に複雑な構文を描き始めた。
「『愛の力よ、憎しみを包め』」
美しい金色の文字が審判者を包み込む。これは直接的な攻撃ではなく、相手の感情に働きかける特殊な魔法だった。
審判者の動きが一瞬止まった。
「愛だと? ばかばかしい」
しかし、彼の声には微かな動揺が混じっていた。
その隙を突いて、カイルが再び接近した。今度は正面からではなく、側面から回り込んでいる。
「『真実の刃よ、偽りを断て』」
カイルの剣が白い光を放った。これは物理的な攻撃と同時に、相手の本質を暴く魔法でもあった。
剣が審判者のローブを裂く。フードが落ち、ついに審判者の全貌が明らかになった。
それは僕と同年代の青年だった。しかし、その顔には深い絶望と狂気が刻まれている。目の下には隈があり、頬はこけていた。まるで長い間、苦悩に苛まれ続けたかのような表情だった。
「見るな」
審判者が叫んだ。
「この惨めな姿を見るな」
彼の感情が露わになったことで、魔法の制御が乱れた。『絶対破壊』の文字が不安定に点滅している。
グランベル先生がこの機会を逃さなかった。
「『心の闇よ、光に照らされよ』」
先生の杖から暖かい光が放たれ、審判者を包み込んだ。これは攻撃魔法ではなく、治癒と浄化の魔法だった。
審判者の体が光に包まれると、彼の表情が変わった。狂気が薄れ、代わりに深い悲しみが浮かび上がった。
「やめろ……その光を当てるな」
彼の声が震えている。
「俺の絶望を癒そうとするな。それが俺の全てなのだ」
僕は審判者の心境を理解し始めた。この人は創造者としての失敗と挫折に苛まれ続けているのだ。
「あなたの名前を教えてください」
僕は構文魔法を止めて、彼に近づいた。
「危険です、アルカディア君」
エリシアが警告したが、僕は歩みを止めなかった。
「大丈夫です。もう戦う必要はありません」
審判者は僕を見つめた。その瞳には憎悪だけでなく、深い孤独感も宿っていた。
「名前……そんなものに意味はない」
彼は呟いた。
「俺はもう、ただの失敗者だ。誰からも忘れ去られた、無価値な創造者だ」
「そんなことはありません」
僕は更に近づいた。
「あなたも僕と同じように、この世界を愛していたはずです」
「愛?」
審判者が苦笑いした。
「愛していたからこそ、完成させることができずに苦しんだのだ。愛していたからこそ、未完のまま放置してしまった自分を許せないのだ」
僕の胸が痛んだ。彼の気持ちがよくわかった。創作者としての責任感と、完璧を求めるあまりに手が止まってしまう苦悩。
「俺の名前は……」
審判者がゆっくりと口を開いた。
「リュウジ・タカハシ。お前と同じように、現代世界の小説家だった男だ」
「リュウジさん」
僕は彼の名前を呼んだ。
「あなたがこの世界の第一創造者ですか?」
「いや、俺は第二創造者だ」
リュウジが首を振った。
「第一創造者のエターナル・ヴォイドが世界の基盤を作り、俺がそれを発展させようとした。だが……」
彼の声が途切れた。
「だが、俺は完成させることができなかった。キャラクターたちに満足のいく結末を与えることができず、中途半端な状態で投げ出してしまった」
エリシアが僕の隣に来た。
「それで、この世界に恨みを抱くようになったのですか?」
「恨み?」
リュウジがエリシアを見た。
「違う。俺が恨んでいるのは、この世界ではない。無責任に放置した自分自身だ」
カイルも剣を下ろして近づいてきた。
「だったら、なぜ世界を破壊しようとする?」
「なぜなら……」
リュウジの拳が震えた。
「この世界は俺の罪の証拠だからだ。俺の無能さと無責任さの象徴だからだ。存在する限り、俺は自分の失敗を思い出し続ける」
グランベル先生が杖を地面に突いた。
「若者よ、それは間違った考えだ」
先生の声は優しいが、確固とした信念に満ちていた。
「君が作り上げた世界は、確かに未完成かもしれない。しかし、それは失敗作ではない」
「何だと?」
「見てごらん」
先生は街の方向を指差した。
「君の創造した世界で、多くの人々が生きている。愛し合い、支え合い、笑い合っている。それは紛れもない成功ではないか」
リュウジの表情が揺らいだ。
「だが、俺は彼らに満足のいく物語を与えてやれなかった」
「物語は一人で作るものではありません」
僕は言った。
「あなたが基盤を作り、僕が発展させ、そして住民たちが自分自身の物語を紡いでいく。それが本当の創作なのではないでしょうか」
エリシアが頷いた。
「私たちは確かにあなたたちが作ったキャラクターかもしれません。でも今は、自分自身の意志で生きています」
カイルも同意した。
「俺たちの人生は、誰か一人のものじゃない。みんなで作り上げていくものだ」
リュウジは僕たちを見回した。その瞳に、少しずつ光が戻ってきている。
「お前たちは……本当に、自分の意志で俺を説得しているのか?」
「はい」
僕たちは声を揃えて答えた。
その時、空に開いていた亀裂が縮み始めた。リュウジの心境の変化と共に、破壊魔法が弱くなっているのだ。
「俺は……俺は一体何をしていたんだ」
リュウジが膝をついた。
「自分の罪悪感のために、無実の人々を巻き込もうとしていた」
僕は彼に手を差し伸べた。
「過去の過ちは変えられません。でも、これからの行動は変えられます」
リュウジは僕の手を見つめた。そして、ゆっくりとその手を取った。
「すまなかった……本当に、すまなかった」
彼の目から涙が流れ落ちた。
「俺は間違っていた。お前たちを人形だと思い込み、自分の都合で世界を破壊しようとした」
エリシアが優しく微笑んだ。
「謝る必要はありません。大切なのは、今気づけたことです」
カイルも頷いた。
「そうだ。これからは一緒に、この世界をより良くしていこう」
グランベル先生が杖を振ると、広場に散らばっていた破壊の文字が消え始めた。代わりに、『和解』『希望』『再生』といった美しい文字が空に浮かんだ。
しかし、その時、新たな異変が起こった。
広場の地面に巨大な魔法陣が浮かび上がったのだ。それは今まで見たことのない、複雑で不吉な構文で構成されていた。
「これは何だ?」
リュウジが驚いた。
「俺の魔法ではない」
魔法陣から赤黒い光が立ち上り、その中央に新たな人影が現れ始めた。
「まさか……」
グランベル先生が愕然とした。
「第一創造者が現れるというのか?」
光の中から響いてきたのは、低く響く女性の声だった。
「愚かな男どもよ。感動的な和解劇はそこまでだ」
現れたのは、長い黒髪を持つ美しい女性だった。しかし、その美貌には氷のような冷たさが宿っている。
「エターナル・ヴォイド……」
リュウジが震え声で呟いた。
「なぜここに?」
「決まっているだろう」
エターナル・ヴォイドと名乗る女性が冷ややかに微笑んだ。
「私の世界を勝手に改変し、挙句の果てに茶番劇を繰り広げる愚か者たちを始末するためだ」
彼女の周りに、さらに強力な破壊の文字が現れ始めた。リュウジの魔法とは比較にならないほどの威力を感じる。
「真の審判は、これから始まる」
エターナル・ヴォイドが手を上げると、空全体が暗雲に覆われた。
僕たちは顔を見合わせた。和解したばかりのリュウジと共に、さらに強大な敵に立ち向かわなければならないのだ。
しかし、不思議と恐怖は感じなかった。仲間がいる。そして今度は、元敵だったリュウジも味方として戦ってくれる。
「みんな、聞いてください」
僕は素早く作戦を伝えた。
「正面突破は無謀です。分散して審判者の注意を逸らしながら戦いましょう」
「分散?」
カイルが眉をひそめた。
「それは危険じゃないか?」
「確かに危険ですが、全員で固まっていては一度に全滅してしまいます」
僕は広場の配置を素早く確認した。
「エリシアは東側から構文魔法で牽制を。カイルは西側から接近戦を仕掛けて。グランベル先生は南側から支援魔法を。僕は北側から本格的な構文術で対抗します」
「わかりました」
エリシアが頷いた。
「でも、無理は禁物よ。危険を感じたらすぐに退避して」
「お前こそ気をつけろよ」
カイルが剣を構えた。
「俺たちはチームだ。誰一人欠けてはいけない」
グランベル先生が杖を振った。
「それでは、始めましょう」
僕たちは四方向に散らばった。審判者は僕たちの動きを見て嘲笑を浮かべた。
「分散しようと無駄だ。虫けらが何匹集まろうと、巨象は倒せん」
しかし、その瞬間、エリシアが東側から行動を開始した。
「『光よ、舞い踊れ』」
彼女が空中に美しい文字を描くと、無数の光の矢が審判者に向かって飛んだ。威力は大きくないが、審判者の注意を引くには十分だった。
「ちょこまかと……」
審判者が右手を振ると、光の矢は全て消滅した。しかし、その隙にカイルが西側から接近していた。
「はあああああ」
カイルの剣が青い光を纏って審判者に向かう。これは単なる物理攻撃ではない。剣に構文魔法を込めた『断言の剣』だった。
「『この剣は必ず届く』」
カイルの宣言と共に、剣は審判者の防御魔法を突き破った。しかし、寸前で審判者が体を逸らし、致命傷は避けられる。
「小癪な」
審判者が左手でカイルに向けて黒い稲妻を放った。しかし、その瞬間、グランベル先生の支援魔法が発動した。
「『護りの言葉よ、盾となれ』」
カイルの前に光る文字の盾が現れ、黒い稲妻を防いだ。
「今です、アルカディア君」
先生の合図で、僕は北側から最大威力の構文魔法を放った。
「『混沌よ、秩序に変われ。破壊よ、創造に転じよ』」
僕が描いた巨大な文字列が審判者の破壊魔法に向かって飛ぶ。これは相手の魔法を逆転させる高度な技術だった。
審判者の表情が変わった。
「なるほど、少しは骨があるようだな」
彼は両手を組み合わせ、より強力な魔法を準備し始めた。
「だが、所詮は付け焼き刃。真の力を見せてやろう」
空中に『絶対破壊』という文字が現れた。それは僕が今まで見た中で最も禍々しい構文だった。
「みんな、危険です」
僕は叫んだ。
「一旦距離を取って」
しかし、エリシアが首を振った。
「まだです。彼の魔法が完成する前に、もう一度攻撃を」
彼女は更に複雑な構文を描き始めた。
「『愛の力よ、憎しみを包め』」
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審判者の動きが一瞬止まった。
「愛だと? ばかばかしい」
しかし、彼の声には微かな動揺が混じっていた。
その隙を突いて、カイルが再び接近した。今度は正面からではなく、側面から回り込んでいる。
「『真実の刃よ、偽りを断て』」
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剣が審判者のローブを裂く。フードが落ち、ついに審判者の全貌が明らかになった。
それは僕と同年代の青年だった。しかし、その顔には深い絶望と狂気が刻まれている。目の下には隈があり、頬はこけていた。まるで長い間、苦悩に苛まれ続けたかのような表情だった。
「見るな」
審判者が叫んだ。
「この惨めな姿を見るな」
彼の感情が露わになったことで、魔法の制御が乱れた。『絶対破壊』の文字が不安定に点滅している。
グランベル先生がこの機会を逃さなかった。
「『心の闇よ、光に照らされよ』」
先生の杖から暖かい光が放たれ、審判者を包み込んだ。これは攻撃魔法ではなく、治癒と浄化の魔法だった。
審判者の体が光に包まれると、彼の表情が変わった。狂気が薄れ、代わりに深い悲しみが浮かび上がった。
「やめろ……その光を当てるな」
彼の声が震えている。
「俺の絶望を癒そうとするな。それが俺の全てなのだ」
僕は審判者の心境を理解し始めた。この人は創造者としての失敗と挫折に苛まれ続けているのだ。
「あなたの名前を教えてください」
僕は構文魔法を止めて、彼に近づいた。
「危険です、アルカディア君」
エリシアが警告したが、僕は歩みを止めなかった。
「大丈夫です。もう戦う必要はありません」
審判者は僕を見つめた。その瞳には憎悪だけでなく、深い孤独感も宿っていた。
「名前……そんなものに意味はない」
彼は呟いた。
「俺はもう、ただの失敗者だ。誰からも忘れ去られた、無価値な創造者だ」
「そんなことはありません」
僕は更に近づいた。
「あなたも僕と同じように、この世界を愛していたはずです」
「愛?」
審判者が苦笑いした。
「愛していたからこそ、完成させることができずに苦しんだのだ。愛していたからこそ、未完のまま放置してしまった自分を許せないのだ」
僕の胸が痛んだ。彼の気持ちがよくわかった。創作者としての責任感と、完璧を求めるあまりに手が止まってしまう苦悩。
「俺の名前は……」
審判者がゆっくりと口を開いた。
「リュウジ・タカハシ。お前と同じように、現代世界の小説家だった男だ」
「リュウジさん」
僕は彼の名前を呼んだ。
「あなたがこの世界の第一創造者ですか?」
「いや、俺は第二創造者だ」
リュウジが首を振った。
「第一創造者のエターナル・ヴォイドが世界の基盤を作り、俺がそれを発展させようとした。だが……」
彼の声が途切れた。
「だが、俺は完成させることができなかった。キャラクターたちに満足のいく結末を与えることができず、中途半端な状態で投げ出してしまった」
エリシアが僕の隣に来た。
「それで、この世界に恨みを抱くようになったのですか?」
「恨み?」
リュウジがエリシアを見た。
「違う。俺が恨んでいるのは、この世界ではない。無責任に放置した自分自身だ」
カイルも剣を下ろして近づいてきた。
「だったら、なぜ世界を破壊しようとする?」
「なぜなら……」
リュウジの拳が震えた。
「この世界は俺の罪の証拠だからだ。俺の無能さと無責任さの象徴だからだ。存在する限り、俺は自分の失敗を思い出し続ける」
グランベル先生が杖を地面に突いた。
「若者よ、それは間違った考えだ」
先生の声は優しいが、確固とした信念に満ちていた。
「君が作り上げた世界は、確かに未完成かもしれない。しかし、それは失敗作ではない」
「何だと?」
「見てごらん」
先生は街の方向を指差した。
「君の創造した世界で、多くの人々が生きている。愛し合い、支え合い、笑い合っている。それは紛れもない成功ではないか」
リュウジの表情が揺らいだ。
「だが、俺は彼らに満足のいく物語を与えてやれなかった」
「物語は一人で作るものではありません」
僕は言った。
「あなたが基盤を作り、僕が発展させ、そして住民たちが自分自身の物語を紡いでいく。それが本当の創作なのではないでしょうか」
エリシアが頷いた。
「私たちは確かにあなたたちが作ったキャラクターかもしれません。でも今は、自分自身の意志で生きています」
カイルも同意した。
「俺たちの人生は、誰か一人のものじゃない。みんなで作り上げていくものだ」
リュウジは僕たちを見回した。その瞳に、少しずつ光が戻ってきている。
「お前たちは……本当に、自分の意志で俺を説得しているのか?」
「はい」
僕たちは声を揃えて答えた。
その時、空に開いていた亀裂が縮み始めた。リュウジの心境の変化と共に、破壊魔法が弱くなっているのだ。
「俺は……俺は一体何をしていたんだ」
リュウジが膝をついた。
「自分の罪悪感のために、無実の人々を巻き込もうとしていた」
僕は彼に手を差し伸べた。
「過去の過ちは変えられません。でも、これからの行動は変えられます」
リュウジは僕の手を見つめた。そして、ゆっくりとその手を取った。
「すまなかった……本当に、すまなかった」
彼の目から涙が流れ落ちた。
「俺は間違っていた。お前たちを人形だと思い込み、自分の都合で世界を破壊しようとした」
エリシアが優しく微笑んだ。
「謝る必要はありません。大切なのは、今気づけたことです」
カイルも頷いた。
「そうだ。これからは一緒に、この世界をより良くしていこう」
グランベル先生が杖を振ると、広場に散らばっていた破壊の文字が消え始めた。代わりに、『和解』『希望』『再生』といった美しい文字が空に浮かんだ。
しかし、その時、新たな異変が起こった。
広場の地面に巨大な魔法陣が浮かび上がったのだ。それは今まで見たことのない、複雑で不吉な構文で構成されていた。
「これは何だ?」
リュウジが驚いた。
「俺の魔法ではない」
魔法陣から赤黒い光が立ち上り、その中央に新たな人影が現れ始めた。
「まさか……」
グランベル先生が愕然とした。
「第一創造者が現れるというのか?」
光の中から響いてきたのは、低く響く女性の声だった。
「愚かな男どもよ。感動的な和解劇はそこまでだ」
現れたのは、長い黒髪を持つ美しい女性だった。しかし、その美貌には氷のような冷たさが宿っている。
「エターナル・ヴォイド……」
リュウジが震え声で呟いた。
「なぜここに?」
「決まっているだろう」
エターナル・ヴォイドと名乗る女性が冷ややかに微笑んだ。
「私の世界を勝手に改変し、挙句の果てに茶番劇を繰り広げる愚か者たちを始末するためだ」
彼女の周りに、さらに強力な破壊の文字が現れ始めた。リュウジの魔法とは比較にならないほどの威力を感じる。
「真の審判は、これから始まる」
エターナル・ヴォイドが手を上げると、空全体が暗雲に覆われた。
僕たちは顔を見合わせた。和解したばかりのリュウジと共に、さらに強大な敵に立ち向かわなければならないのだ。
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