言葉がチートスキルになった世界で、僕だけが黙示録を書き換える破神構文。創造者と被造者の黙示録

みにぶた🐽

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反乱する物語

第3章  召還される力

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 僕は迷わず答えた。

「儀式を行いましょう」

 エリシアの顔に安堵の表情が浮かんだ。しかし、すぐに不安そうな眼差しに変わる。

「本当によろしいのですか? 現代世界に戻れなくなるかもしれません」

「構いません」

 僕は彼女の手を握った。

「僕にとって大切なものは、全てこの世界にあります」

 黒田さんも頷いた。

「私も同じ意見だ。自分が創造した世界を守るのは、創造者の責任だろう」

 エリシアの目に涙が浮かんだ。

「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」

 その時、扉が勢いよく開いた。カイルとグランベル先生が息を切らして駆け込んできた。

「アルカディア! 本当に戻ってきたのか!」

 カイルが僕に抱きついた。

「心配したぞ。もう二度と会えないと思っていた」

「カイル……」

 僕も親友との再会を喜んだ。しかし、窓の外では初期化の光がさらに近づいている。

「状況は聞いております」

 グランベル先生が深刻な表情で言った。

「創造者召還の儀式ですね。確かに、それが唯一の対抗手段かもしれません」

「先生、詳しく教えてください」

 僕は師匠に向き直った。

「儀式にはどのような準備が必要ですか?」

 グランベル先生は古い書物を取り出した。

「まず、儀式の場所ですが、学院の地下にある『創世の間』という特別な部屋を使います」

「創世の間?」

「この世界が創造された時の魔法的残滓が集中している場所です」

 先生がページをめくりながら説明した。

「そこに、創造者の数だけ魔法陣を描きます。今回は二人なので、二重円環の陣形になります」

 黒田さんが質問した。

「儀式にはどの程度の時間がかかるのですか?」

「準備に一時間、実際の召還に三十分程度です」

 エリシアが窓の外を見た。

「初期化の波が学院に到達するまで、あと二時間です。ギリギリですが、間に合います」

「では、すぐに準備を始めましょう」

 僕は立ち上がった。

「必要な材料は何ですか?」

 グランベル先生がリストを読み上げた。

「星の砂、月光石の粉末、古代樹の樹液、そして……」

 先生が一瞬躊躇した。

「それぞれの創造者の血が少量必要です」

「血ですか?」

「はい。創造者としての資格を証明するためです」

 僕と黒田さんは顔を見合わせた。確かに、それほど重要な儀式なら、相応の代償が必要だろう。

「分かりました」

 僕は覚悟を決めた。

「他に注意すべきことはありますか?」

「儀式中は絶対に魔法陣から出てはいけません」

 エリシアが真剣な表情で警告した。

「一度儀式が始まれば、途中で中断することはできません。最後まで やり抜くしかないのです」

「そして……」

 グランベル先生が重々しく続けた。

「儀式が成功した場合、お二人の魂はこの世界と永続的に結びつきます。物理的には現代世界に戻ることも可能ですが、精神的にはこの世界の一部になるのです」

 僕は深く息を吸った。つまり、完全にこの世界の住民になるということだ。

「もし失敗したら?」

「全員が消滅します」

 部屋に重い沈黙が流れた。

 しかし、僕の決意は揺らがなかった。

「やりましょう」

 僕は皆を見回した。

「エリシアを、この世界を守るためなら、僕はどんなリスクでも受け入れます」

 黒田さんも頷いた。

「私も覚悟はできている」

 カイルが拳を握った。

「俺たちも手伝わせてくれ。儀式の成功のために、できることは何でもする」

 エリシアが微笑んだ。

「では、準備を始めましょう」

 僕たちは手分けして、儀式の準備に取り掛かった。

 カイルとグランベル先生は材料の収集に向かい、エリシアは住民たちへの避難指示と協力要請に回った。僕と黒田さんは、創世の間の確認に向かった。

 学院の地下は、僕が知っているよりもはるかに深かった。石の階段を下りていくと、古い魔法の気配が濃くなっていく。

「この空気……」

 黒田さんが呟いた。

「確かに、創造の力が残っている」

 最深部に到達すると、そこには円形の石室があった。天井は高く、壁には古代語の文字がびっしりと刻まれている。

「これが創世の間ですか」

 僕は部屋の中央に立った。

 床には、すでに基本的な魔法陣が刻まれていた。これを基盤として、より複雑な召還陣を描く必要がある。

「田中」

 黒田さんが壁の文字を見つめていた。

「これを読めるか?」

 僕は壁に近づいた。古代語で書かれた長い文章だった。

「『ここに眠るは創世の記憶。言葉ありて世界あり。世界ありて住民あり。住民ありて愛あり』」

 僕は続きを読んだ。

「『創造者よ、汝の愛が真実ならば、この力を受け取れ。されど覚悟せよ、愛には代償が伴うことを』」

 黒田さんが振り返った。

「まるで、今の私たちの状況を予言しているようだな」

「そうですね」

 僕は壁の文字を見上げた。

「きっと、過去にも同じような選択を迫られた創造者がいたのでしょう」

 その時、上から足音が聞こえてきた。エリシアたちが戻ってきたようだ。

「アルカディア君、黒田さん」

 エリシアが階段を下りてきた。

「住民の皆さんが、儀式の成功を祈って集まってくれています」

 続いて、カイルとグランベル先生、そして驚いたことに、街の住民たちも一緒に下りてきた。

 あの時の老婆、マルクス・ヴェリタス、商人、職人、学生たち……。僕たちを追放したはずの人々が、今度は僕たちを支援しに来てくれたのだ。

「皆さん……」

 僕は感動で言葉を失った。

 老婆が前に出てきた。

「少年よ、私たちは間違っていた」

 彼女の瞳に涙が浮かんでいる。

「あなたたちを追放したことを、深く後悔している」

 マルクスも頭を下げた。

「我々の独立のために、あなたたちに犠牲を強いてしまった。今度は、我々があなたたちを支える番です」

 商人が大きな袋を差し出した。

「星の砂と月光石を集めてきました」

 職人も樹液の入った瓶を持参していた。

「古代樹から採取した最高品質の樹液です」

 僕は胸がいっぱいになった。

「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」

 エリシアが僕の隣に立った。

「アルカディア君、皆さんの気持ちに応えましょう」

 僕は頷いた。

「はい。必ず成功させます」

 グランベル先生が魔法陣の描画を開始した。床に刻まれた基本陣形の上に、より複雑な文様を描いていく。星の砂で外周を、月光石の粉末で内側の円を、古代樹の樹液で文字を描く。

 二重の円環ができあがった。一つは僕用、もう一つは黒田さん用だった。

「準備ができました」

 グランベル先生が振り返った。

「お二人とも、それぞれの魔法陣の中央に立ってください」

 僕と黒田さんは、指定された位置に立った。

「では、血の契約を行います」

 エリシアが小さなナイフを取り出した。

「少量で構いません」

 僕は右手の人差し指を軽く切った。血が一滴、床の魔法陣に落ちる。瞬間、陣形が赤く光った。

 黒田さんも同様に血を流した。今度は陣形が青く光る。

「契約成立です」

 グランベル先生が宣言した。

「これより、創造者召還の儀式を開始します」

 住民たちが創世の間の周囲に円形に並んだ。彼らも儀式の一部として、精神的な支援を提供してくれるのだ。

 エリシアが古い呪文を唱え始めた。

「『古き力よ、新たなる意志に応えよ』」

 魔法陣が激しく光った。

「『創造者の魂よ、一つとなりて世界を守れ』」

 僕と黒田さんの足元から光の柱が立ち上がった。

 その瞬間、僕の意識が拡張した。

 この世界の全てが見える。王都の街並み、森の動物たち、遠い国の人々……。全ての生命が、僕の意識の中に流れ込んできた。

 そして、黒田さんの意識とも繋がった。彼女の記憶、感情、創造への想いが直接伝わってくる。

 さらに、驚いたことに、別の意識も感じられた。

 エターナル・ヴォイドとリュウジの意識だった。

「二人とも、無事なのですか?」

 僕は意識の中で呼びかけた。

「アルカディア……」

 エターナル・ヴォイドの声が響いた。

「やはり来てくれたのね」

「俺たちは大丈夫だ」

 リュウジの声も聞こえる。

「オリジン・ゼロの支配下にあるが、意識は保たれている」

「なるほど」

 黒田さんの声が割り込んだ。

「だから儀式に参加できるのですね」

 四人の創造者の意識が一つになった瞬間、世界が震えた。

 初期化の波が学院に到達したのだ。

 しかし、創世の間だけは光に包まれて守られている。

「来たな」

 突然、オリジン・ゼロの声が響いた。

「愚かな真似を……」

 創世の間の上空に、黒い影が現れた。オリジン・ゼロの姿だった。

 しかし、今度は顔がはっきりと見える。

 僕は愕然とした。

 それは、僕とほとんど同じ顔だったのだ。

「驚いたか?」

 オリジン・ゼロが嘲笑した。

「私は、お前の『もう一つの可能性』だ」

「もう一つの可能性?」

「そうだ。お前が小説家になれずに諦めた場合の、お前自身だ」

 僕の血が凍った。

「創作に挫折し、絶望し、全てを憎むようになった、お前の影の部分だ」

 エリシアが僕を見つめた。

「アルカディア君……」

「違います」

 僕は強く否定した。

「僕は諦めていません。今でも、これからも、創作を愛し続けます」

「愛?」

 オリジン・ゼロの表情が歪んだ。

「その愛とやらが、どれほど脆いものか教えてやろう」

 黒い光が創世の間に向かって放たれた。

 しかし、四人の創造者の力が結集した光の障壁が、それを跳ね返した。

「不可能だ……」

 オリジン・ゼロが動揺した。

 その時、住民たちが一斉に声を上げた。

「私たちも戦います」

 エリシアが構文魔法を発動した。

「『愛の力よ、憎しみを浄化せよ』」

 カイルも剣を構えた。

「『友情の刃よ、絆を断ち切る者を討て』」

 グランベル先生も伺を振った。

「『智慧の光よ、無知の闇を照らせ』」

 住民たち一人一人が、それぞれの想いを込めた構文魔法を放った。

 創世の間が虹色の光に包まれた。

 四人の創造者の力と、住民たちの愛情が融合したのだ。

「これが……」

 僕は理解した。

「これが真の創造の力です」

 僕たちは声を合わせて、最後の構文を唱えた。

「『創造と愛と絆の名において、全ての憎しみと絶望を浄化せよ』」

 光の奔流がオリジン・ゼロを包み込んだ。

 彼の絶叫が響き、やがて静寂が戻った。

 光が収まると、そこには一人の青年が立っていた。

 オリジン・ゼロではない。僕と同じ顔をした、しかし穏やかな表情の青年だった。

「ありがとう……」

 青年が微笑んだ。

「君たちのおかげで、私は絶望から解放された」

 僕は魔法陣から出て、青年に近づいた。

「あなたは……」

「私は確かに、君の影の部分だった」

 青年が頷いた。

「しかし、君たちの愛を見て理解した。創作とは、愛することなのだと」

 青年の体が光の粒子となって消えていく。

「私はもう、必要ない。君たちが真の創造者だ」

 最後の光の粒子が消えた時、世界が大きく変化した。

 初期化の波が止まり、逆に美しい光が世界中に広がっていく。

 街の建物は元の姿に戻り、住民たちの顔にも笑顔が戻った。

 僕はエリシアを抱きしめた。

「終わったんですね」

「はい」

 エリシアが涙を流しながら微笑んだ。

「これで、本当に平和になりました」

 黒田さんも魔法陣から出てきた。

「しかし、私たちは……」

「ええ」

 僕は頷いた。

「もうこの世界の一部です」

 しかし、後悔はなかった。

 愛する人たちと共に生きられるなら、それが僕の望みだった。

 カイルが駆け寄ってきた。

「アルカディア、本当にもう離れ離れにならないんだな?」

「はい」

 僕は親友の肩を叩いた。

「今度こそ、ずっと一緒です」

 グランベル先生が深くお辞儀をした。

「お疲れ様でした、真の創造者たちよ」

 住民たちからも、温かい拍手が起こった。

 僕たちは、ついに本当の意味で一つになったのだ。

 創造者と被造者という区別を超えて、一つの世界の住民として。

 窓の外では、二つの月が美しく輝いていた。

 そして僕は、永遠にこの光景を見続けることができるのだ。

 愛する人たちと共に。
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