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反乱する物語
第4章 新世界の調和
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儀式から三日が経った。
僕は学院の屋上で、二つの月を眺めていた。青白い大きな月と、淡い赤色をした小さな月。以前と変わらぬ美しさだったが、今の僕にはその輝きが格別に感じられた。
なぜなら、僕は今や完全にこの世界の一部だからだ。
「アルカディア君」
背後からエリシアの声がした。振り返ると、彼女が夜食を持って現れた。
「また夜更かしですね。体調を崩されますよ」
「ありがとう、エリシア」
僕は彼女の隣に座った。
「でも、眠れないんです。この世界の全てが、以前より鮮明に感じられて」
それは事実だった。創造者召還の儀式を経て、僕の感覚は飛躍的に向上していた。風の音、街の人々の気配、遠くの森で息づく動物たち。全てが手に取るように分かる。
「黒田さんも同じことを言っていました」
エリシアが微笑んだ。
「今日、図書館で古い文献を調べていたそうです」
「何を調べているのでしょうか?」
「『統合創造者』についての記録だそうです」
統合創造者。僕と黒田さんが今置かれている状況を表す言葉だった。
「何か分かったことはありますか?」
「詳しくは黒田さんから聞いてください」
エリシアは立ち上がった。
「明日の朝、皆で集まることになっています」
翌朝、僕たちは学院の会議室に集まった。
アルカディア、エリシア、カイル、グランベル先生、そして黒田さん。オリジン・ゼロとの戦いを共に戦った仲間たちだった。
「皆さん、重要な発見がありました」
黒田さんが古い書物を開いた。
「統合創造者についての記録を調べていたところ、興味深い事実が判明しました」
彼女は一枚の古い地図を広げた。
「この世界以外にも、統合創造者が存在する世界があるようです」
地図には、リテラ王国を中心として、周囲に複数の大陸が描かれていた。しかし、それらの大陸は僕が設定した覚えのない場所ばかりだった。
「これらの世界は?」
僕が尋ねると、グランベル先生が答えた。
「恐らく、他のリターナーたちが創造した世界でしょう」
「他のリターナーの世界と繋がっているということですか?」
カイルが驚いた。
「正確には、統合創造者の存在によって、世界間の境界が薄くなっているのです」
黒田さんが説明した。
「私たちが世界と完全に融合したことで、他の世界との交流が可能になったのかもしれません」
僕は地図を見つめた。確かに、魅力的な可能性だった。
「でも、それは良いことなのでしょうか?」
エリシアが不安そうに言った。
「他の世界の創造者が、必ずしも友好的とは限りません」
「その通りです」
グランベル先生が頷いた。
「現代世界でも、リターナーたちの意見は分かれていました。中には、攻撃的な考えを持つ者もいるでしょう」
その時、会議室の扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、マルクス・ヴェリタスだった。
「緊急事態です」
彼の表情は深刻だった。
「王都の東門に、見知らぬ人物が現れました」
僕たちは急いで王都の東門に向かった。
そこには、確かに見慣れない人物が立っていた。
三十代前半の男性で、現代風の服装をしている。明らかに、この世界の住民ではない。
「あなたは?」
僕が声をかけると、男性が振り返った。
「君がアルカディアか」
男性の瞳には、冷たい光が宿っていた。
「私は佐藤健一。君たちと同じリターナーだ」
佐藤健一。確か、現代世界の集会で会った人物だった。戦記物の異世界を創造していると言っていた。
「どうしてここに?」
黒田さんが警戒しながら尋ねた。
「君たちが勝手に世界間の境界を破ったからだ」
佐藤の声には怒りが込められていた。
「おかげで、私の世界にも影響が出ている」
「どのような影響ですか?」
「私の世界の軍事バランスが崩れた」
佐藤は拳を握った。
「突然、構文魔法という未知の力が流入して、戦争の勝敗が決まってしまった」
僕は理解した。世界間の境界が薄くなったことで、僕たちの世界の魔法システムが他の世界に漏れ出しているのだ。
「申し訳ありません」
僕は頭を下げた。
「でも、それは意図したことではありません」
「意図?」
佐藤が冷笑した。
「君たちが自分勝手な行動を取った結果だろう」
カイルが前に出た。
「言いがかりはやめろ。俺たちは世界を守るために戦ったんだ」
「世界を守る?」
佐藤の表情が険しくなった。
「君たちが守ったのは、自分たちの世界だけだ。他の世界のことなど考えていなかっただろう」
僕は言葉に詰まった。確かに、その通りだった。
「しかし、もう手遅れだ」
佐藤は懐から何かを取り出した。
それは、黒い石のような物体だった。
「これは『世界核』だ」
「世界核?」
「各世界の中核となるエネルギー源だ」
佐藤は石を掲げた。
「私はこれを使って、君たちの世界を私の世界に統合するつもりだ」
「統合?」
エリシアが青ざめた。
「私の戦記世界の軍事システムで、この平和ボケした世界を管理してやる」
グランベル先生が伺を構えた。
「それは侵略行為ではないか」
「侵略?」
佐藤が嘲笑した。
「これは救済だ。君たちのような甘い考えでは、いずれ他の脅威に滅ぼされる」
佐藤が世界核を起動させようとした時、突然空間が歪んだ。
新たな人影が現れた。今度は女性だった。
「佐藤、やめなさい」
現れたのは、山本凛だった。同じく現代世界の集会にいたリターナーの一人だ。
「山本? なぜここに?」
「あなたを止めるためよ」
山本さんは僕たちの方を向いた。
「申し訳ありません。彼の暴走を止められませんでした」
「山本、邪魔をするな」
佐藤が世界核のエネルギーを高めた。
「私の世界では、数百万の住民が戦争に巻き込まれているんだ。このまま放置するわけにはいかない」
「でも、他の世界を侵略するのは間違っています」
山本さんが必死に説得した。
「必ず他の方法があるはずです」
その時、さらに空間が歪み、三人目の人物が現れた。
鈴木だった。
「皆さん、落ち着いてください」
彼は両手を上げて平和的な姿勢を示した。
「私が調べたところ、世界間の問題にはもっと根本的な解決策があります」
「根本的な解決策?」
僕が尋ねた。
「はい。『世界協議会』の設立です」
鈴木さんが説明した。
「各世界の代表者が集まり、世界間の問題を話し合いで解決する組織です」
佐藤が眉をひそめた。
「話し合い? そんな悠長なことを言っている場合か」
「緊急事態だからこそ、慎重に対処する必要があります」
山本さんが佐藤を見つめた。
「一度世界を統合してしまえば、元に戻すことはできません」
僕は考えた。確かに、鈴木さんの提案は理にかなっている。
「世界協議会ですか」
「はい」
鈴木さんが頷いた。
「各世界から統合創造者と住民代表を一名ずつ派遣し、定期的に会議を開くのです」
エリシアが興味深そうに言った。
「それは素晴らしいアイデアですね」
カイルも同意した。
「話し合いで解決できるなら、それが一番だ」
しかし、佐藤は首を振った。
「理想論だ。結局、強い者が弱い者を支配することになる」
「そうでしょうか?」
黒田さんが口を開いた。
「私たちの世界では、住民たちが自分の意志で創造者を支援してくれました。信頼関係があれば、対等な協力は可能です」
佐藤の表情が揺らいだ。
「信頼関係……」
「佐藤さん」
僕は彼に近づいた。
「あなたの世界の住民たちは、あなたをどう思っているのですか?」
「それは……」
佐藤が言葉に詰まった。
「私は、彼らを守るために戦っている」
「でも、彼らの意見は聞いたことがありますか?」
山本さんが優しく問いかけた。
佐藤は長い間沈黙していた。やがて、世界核を下ろした。
「分からない……私には、分からないんだ」
彼の声に苦悩が滲んでいた。
「私は住民たちを愛している。でも、彼らが私をどう思っているかは……」
僕は理解した。佐藤さんも、僕たちと同じような不安を抱えているのだ。
「一緒に考えましょう」
僕は彼に手を差し伸べた。
「世界協議会で、皆で解決策を見つけましょう」
佐藤は僕の手を見つめた。そして、ゆっくりと握り返した。
「ありがとう……すまなかった」
こうして、最初の世界間危機は回避された。
その日の夕方、僕たちは学院の大講堂に集まった。
リテラ王国の主要な住民たちと、三人のリターナーが一堂に会している。
「それでは、世界協議会設立に向けての準備会議を開始します」
グランベル先生が司会を務めた。
「まず、各世界の現状報告から始めましょう」
佐藤さんが立ち上がった。
「私の世界『ベリクス帝国』は、現在三つの国家が戦争状態にあります」
彼は地図を広げた。
「構文魔法の流入により、戦力バランスが崩れ、混乱が生じています」
山本さんが続いた。
「私の世界『桜咲学園』では、恋愛関係の魔法的増幅により、学生たちの感情が不安定になっています」
鈴木さんも報告した。
「私の世界『星間連邦』では、時空魔法の影響で航行システムに異常が発生しています」
どの世界も、深刻な問題を抱えているようだった。
「では、解決策について話し合いましょう」
エリシアが提案した。
「まず、世界間の魔法的干渉を制御する方法を考える必要がありますね」
マルクスが資料を配った。
「古い文献によると、『境界調整の儀式』という技術があるようです」
「境界調整?」
「世界間の魔法的境界を調整し、干渉の度合いをコントロールする技術です」
グランベル先生が説明した。
「ただし、この儀式には全ての関係世界の合意が必要です」
佐藤さんが頷いた。
「なるほど。一方的な統合ではなく、相互の合意に基づく調整ということですね」
「その通りです」
僕も同意した。
「各世界の自主性を尊重しながら、協力していく」
山本さんが嬉しそうに微笑んだ。
「それは理想的ですね」
鈴木さんが技術的な面から提案した。
「定期的な会議のために、世界間通信システムも必要でしょう」
カイルが興味深そうに言った。
「他の世界がどんな場所なのか、見てみたいな」
僕も同感だった。他のリターナーたちがどんな世界を創造したのか、とても興味がある。
「では、来月を目処に第一回世界協議会を開催しましょう」
エリシアが提案した。
「場所はリテラ王国で、各世界から代表者をお招きします」
全員が賛成した。
会議が終わった後、僕は一人で夜空を見上げていた。
二つの月の光の下で、新しい時代の始まりを感じていた。
これまでは、自分の世界だけを考えていた。しかし今は、より大きな視野で物事を見る必要がある。
複数の世界、複数の創造者、そして無数の住民たち。
全てが調和して共存できる未来を、僕は信じている。
「アルカディア君」
エリシアが隣に来た。
「何を考えているのですか?」
「未来のことです」
僕は彼女の手を取った。
「きっと素晴らしい時代が来ますよ」
「はい」
エリシアが微笑んだ。
「みんなで力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられます」
僕たちは手を繋いで、月を見上げた。
新しい世界の調和が、今始まろうとしていた。
僕は学院の屋上で、二つの月を眺めていた。青白い大きな月と、淡い赤色をした小さな月。以前と変わらぬ美しさだったが、今の僕にはその輝きが格別に感じられた。
なぜなら、僕は今や完全にこの世界の一部だからだ。
「アルカディア君」
背後からエリシアの声がした。振り返ると、彼女が夜食を持って現れた。
「また夜更かしですね。体調を崩されますよ」
「ありがとう、エリシア」
僕は彼女の隣に座った。
「でも、眠れないんです。この世界の全てが、以前より鮮明に感じられて」
それは事実だった。創造者召還の儀式を経て、僕の感覚は飛躍的に向上していた。風の音、街の人々の気配、遠くの森で息づく動物たち。全てが手に取るように分かる。
「黒田さんも同じことを言っていました」
エリシアが微笑んだ。
「今日、図書館で古い文献を調べていたそうです」
「何を調べているのでしょうか?」
「『統合創造者』についての記録だそうです」
統合創造者。僕と黒田さんが今置かれている状況を表す言葉だった。
「何か分かったことはありますか?」
「詳しくは黒田さんから聞いてください」
エリシアは立ち上がった。
「明日の朝、皆で集まることになっています」
翌朝、僕たちは学院の会議室に集まった。
アルカディア、エリシア、カイル、グランベル先生、そして黒田さん。オリジン・ゼロとの戦いを共に戦った仲間たちだった。
「皆さん、重要な発見がありました」
黒田さんが古い書物を開いた。
「統合創造者についての記録を調べていたところ、興味深い事実が判明しました」
彼女は一枚の古い地図を広げた。
「この世界以外にも、統合創造者が存在する世界があるようです」
地図には、リテラ王国を中心として、周囲に複数の大陸が描かれていた。しかし、それらの大陸は僕が設定した覚えのない場所ばかりだった。
「これらの世界は?」
僕が尋ねると、グランベル先生が答えた。
「恐らく、他のリターナーたちが創造した世界でしょう」
「他のリターナーの世界と繋がっているということですか?」
カイルが驚いた。
「正確には、統合創造者の存在によって、世界間の境界が薄くなっているのです」
黒田さんが説明した。
「私たちが世界と完全に融合したことで、他の世界との交流が可能になったのかもしれません」
僕は地図を見つめた。確かに、魅力的な可能性だった。
「でも、それは良いことなのでしょうか?」
エリシアが不安そうに言った。
「他の世界の創造者が、必ずしも友好的とは限りません」
「その通りです」
グランベル先生が頷いた。
「現代世界でも、リターナーたちの意見は分かれていました。中には、攻撃的な考えを持つ者もいるでしょう」
その時、会議室の扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、マルクス・ヴェリタスだった。
「緊急事態です」
彼の表情は深刻だった。
「王都の東門に、見知らぬ人物が現れました」
僕たちは急いで王都の東門に向かった。
そこには、確かに見慣れない人物が立っていた。
三十代前半の男性で、現代風の服装をしている。明らかに、この世界の住民ではない。
「あなたは?」
僕が声をかけると、男性が振り返った。
「君がアルカディアか」
男性の瞳には、冷たい光が宿っていた。
「私は佐藤健一。君たちと同じリターナーだ」
佐藤健一。確か、現代世界の集会で会った人物だった。戦記物の異世界を創造していると言っていた。
「どうしてここに?」
黒田さんが警戒しながら尋ねた。
「君たちが勝手に世界間の境界を破ったからだ」
佐藤の声には怒りが込められていた。
「おかげで、私の世界にも影響が出ている」
「どのような影響ですか?」
「私の世界の軍事バランスが崩れた」
佐藤は拳を握った。
「突然、構文魔法という未知の力が流入して、戦争の勝敗が決まってしまった」
僕は理解した。世界間の境界が薄くなったことで、僕たちの世界の魔法システムが他の世界に漏れ出しているのだ。
「申し訳ありません」
僕は頭を下げた。
「でも、それは意図したことではありません」
「意図?」
佐藤が冷笑した。
「君たちが自分勝手な行動を取った結果だろう」
カイルが前に出た。
「言いがかりはやめろ。俺たちは世界を守るために戦ったんだ」
「世界を守る?」
佐藤の表情が険しくなった。
「君たちが守ったのは、自分たちの世界だけだ。他の世界のことなど考えていなかっただろう」
僕は言葉に詰まった。確かに、その通りだった。
「しかし、もう手遅れだ」
佐藤は懐から何かを取り出した。
それは、黒い石のような物体だった。
「これは『世界核』だ」
「世界核?」
「各世界の中核となるエネルギー源だ」
佐藤は石を掲げた。
「私はこれを使って、君たちの世界を私の世界に統合するつもりだ」
「統合?」
エリシアが青ざめた。
「私の戦記世界の軍事システムで、この平和ボケした世界を管理してやる」
グランベル先生が伺を構えた。
「それは侵略行為ではないか」
「侵略?」
佐藤が嘲笑した。
「これは救済だ。君たちのような甘い考えでは、いずれ他の脅威に滅ぼされる」
佐藤が世界核を起動させようとした時、突然空間が歪んだ。
新たな人影が現れた。今度は女性だった。
「佐藤、やめなさい」
現れたのは、山本凛だった。同じく現代世界の集会にいたリターナーの一人だ。
「山本? なぜここに?」
「あなたを止めるためよ」
山本さんは僕たちの方を向いた。
「申し訳ありません。彼の暴走を止められませんでした」
「山本、邪魔をするな」
佐藤が世界核のエネルギーを高めた。
「私の世界では、数百万の住民が戦争に巻き込まれているんだ。このまま放置するわけにはいかない」
「でも、他の世界を侵略するのは間違っています」
山本さんが必死に説得した。
「必ず他の方法があるはずです」
その時、さらに空間が歪み、三人目の人物が現れた。
鈴木だった。
「皆さん、落ち着いてください」
彼は両手を上げて平和的な姿勢を示した。
「私が調べたところ、世界間の問題にはもっと根本的な解決策があります」
「根本的な解決策?」
僕が尋ねた。
「はい。『世界協議会』の設立です」
鈴木さんが説明した。
「各世界の代表者が集まり、世界間の問題を話し合いで解決する組織です」
佐藤が眉をひそめた。
「話し合い? そんな悠長なことを言っている場合か」
「緊急事態だからこそ、慎重に対処する必要があります」
山本さんが佐藤を見つめた。
「一度世界を統合してしまえば、元に戻すことはできません」
僕は考えた。確かに、鈴木さんの提案は理にかなっている。
「世界協議会ですか」
「はい」
鈴木さんが頷いた。
「各世界から統合創造者と住民代表を一名ずつ派遣し、定期的に会議を開くのです」
エリシアが興味深そうに言った。
「それは素晴らしいアイデアですね」
カイルも同意した。
「話し合いで解決できるなら、それが一番だ」
しかし、佐藤は首を振った。
「理想論だ。結局、強い者が弱い者を支配することになる」
「そうでしょうか?」
黒田さんが口を開いた。
「私たちの世界では、住民たちが自分の意志で創造者を支援してくれました。信頼関係があれば、対等な協力は可能です」
佐藤の表情が揺らいだ。
「信頼関係……」
「佐藤さん」
僕は彼に近づいた。
「あなたの世界の住民たちは、あなたをどう思っているのですか?」
「それは……」
佐藤が言葉に詰まった。
「私は、彼らを守るために戦っている」
「でも、彼らの意見は聞いたことがありますか?」
山本さんが優しく問いかけた。
佐藤は長い間沈黙していた。やがて、世界核を下ろした。
「分からない……私には、分からないんだ」
彼の声に苦悩が滲んでいた。
「私は住民たちを愛している。でも、彼らが私をどう思っているかは……」
僕は理解した。佐藤さんも、僕たちと同じような不安を抱えているのだ。
「一緒に考えましょう」
僕は彼に手を差し伸べた。
「世界協議会で、皆で解決策を見つけましょう」
佐藤は僕の手を見つめた。そして、ゆっくりと握り返した。
「ありがとう……すまなかった」
こうして、最初の世界間危機は回避された。
その日の夕方、僕たちは学院の大講堂に集まった。
リテラ王国の主要な住民たちと、三人のリターナーが一堂に会している。
「それでは、世界協議会設立に向けての準備会議を開始します」
グランベル先生が司会を務めた。
「まず、各世界の現状報告から始めましょう」
佐藤さんが立ち上がった。
「私の世界『ベリクス帝国』は、現在三つの国家が戦争状態にあります」
彼は地図を広げた。
「構文魔法の流入により、戦力バランスが崩れ、混乱が生じています」
山本さんが続いた。
「私の世界『桜咲学園』では、恋愛関係の魔法的増幅により、学生たちの感情が不安定になっています」
鈴木さんも報告した。
「私の世界『星間連邦』では、時空魔法の影響で航行システムに異常が発生しています」
どの世界も、深刻な問題を抱えているようだった。
「では、解決策について話し合いましょう」
エリシアが提案した。
「まず、世界間の魔法的干渉を制御する方法を考える必要がありますね」
マルクスが資料を配った。
「古い文献によると、『境界調整の儀式』という技術があるようです」
「境界調整?」
「世界間の魔法的境界を調整し、干渉の度合いをコントロールする技術です」
グランベル先生が説明した。
「ただし、この儀式には全ての関係世界の合意が必要です」
佐藤さんが頷いた。
「なるほど。一方的な統合ではなく、相互の合意に基づく調整ということですね」
「その通りです」
僕も同意した。
「各世界の自主性を尊重しながら、協力していく」
山本さんが嬉しそうに微笑んだ。
「それは理想的ですね」
鈴木さんが技術的な面から提案した。
「定期的な会議のために、世界間通信システムも必要でしょう」
カイルが興味深そうに言った。
「他の世界がどんな場所なのか、見てみたいな」
僕も同感だった。他のリターナーたちがどんな世界を創造したのか、とても興味がある。
「では、来月を目処に第一回世界協議会を開催しましょう」
エリシアが提案した。
「場所はリテラ王国で、各世界から代表者をお招きします」
全員が賛成した。
会議が終わった後、僕は一人で夜空を見上げていた。
二つの月の光の下で、新しい時代の始まりを感じていた。
これまでは、自分の世界だけを考えていた。しかし今は、より大きな視野で物事を見る必要がある。
複数の世界、複数の創造者、そして無数の住民たち。
全てが調和して共存できる未来を、僕は信じている。
「アルカディア君」
エリシアが隣に来た。
「何を考えているのですか?」
「未来のことです」
僕は彼女の手を取った。
「きっと素晴らしい時代が来ますよ」
「はい」
エリシアが微笑んだ。
「みんなで力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられます」
僕たちは手を繋いで、月を見上げた。
新しい世界の調和が、今始まろうとしていた。
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