18 / 40
反乱する物語
第8章 神となりし者
しおりを挟む
魔法の森の世界に到着した瞬間、僕たちは圧倒的な自然の力に包まれた。
巨大な古木が天に向かって伸び、その枝から光る蔦が美しく垂れ下がっている。花々は虹色に輝き、小川のせせらぎには音楽のような旋律がある。
しかし、その美しさの中に不穏な気配が混じっていた。
森の奥から、野獣の咆哮のような音が断続的に響いてくる。木々が不自然に震え、花々の色が時折暗く変化する。
「これが精霊の暴走の影響ですね」
エリシアが心配そうに呟いた。
「ええ。自然の調和が崩れています」
星間連邦から同行してきた青い肌の技術者、ゼノン博士が装置を操作しながら分析した。
「魔法的エネルギーの波長が異常に高くなっています」
僕たちは森の入り口にある避難キャンプに向かった。
そこには、森から逃れてきた住民たちが不安そうに集まっていた。彼らは皆、自然と調和した美しい民族だった。緑色の髪に褐色の肌、そして瞳には自然への深い愛情が宿っている。
「リテラ王国からの調停団の皆様でしょうか」
住民の代表らしき女性が僕たちを迎えた。
「私はシルフィア・ナチュラル、森の民の長老です」
「アルカディア・ヴォルテクスです」
僕は挨拶した。
「状況を詳しく教えてください」
シルフィア長老の表情が暗くなった。
「一週間前から、森の精霊たちが凶暴化し始めました」
彼女は森の方向を指差した。
「火の精霊は制御を失って山火事を起こし、水の精霊は洪水を引き起こし、風の精霊は竜巻を発生させています」
「住民の被害は?」
カイルが心配そうに尋ねた。
「幸い、死者は出ていません」
シルフィア長老が答えた。
「しかし、森での生活が不可能になりました。食料の確保も困難で、このままでは……」
僕は深刻な状況を理解した。
「ミスティ・エンチャント様はどちらに?」
「森の最深部にある『世界樹』の根元におられます」
シルフィア長老が不安そうに答えた。
「精霊たちを鎮めようと努力されていますが、逆に精霊の怒りが激しくなっているようで……」
その時、森の奥から巨大な爆発音が響いた。
空が一瞬赤く染まり、次に青く、そして緑色に変化した。
「精霊たちの力が衝突しています」
ゼノン博士が装置の数値を確認した。
「エネルギーレベルが危険域に達しています」
僕は決断した。
「すぐに森の最深部に向かいましょう」
「危険すぎます」
シルフィア長老が制止した。
「精霊たちは今、何者も近づけない状態です」
「でも、このまま放置するわけにはいきません」
僕は星間連邦から持参したデータクリスタルを取り出した。
「魔導科学の理論を使えば、必ず解決できます」
エリシアが僕の袖を引いた。
「アルカディア君、少し慎重になりませんか?」
「慎重に?」
僕は振り返った。
「エリシア、僕たちはもう十分に慎重でした。ベリクス帝国、桜咲学園、星間連邦、全てで成功を収めています」
「でも、この世界は他とは違います」
黒田さんが心配そうに言った。
「自然の精霊は、人工的な技術と相性が悪いかもしれません」
「大丈夫です」
僕は自信に満ちて答えた。
「魔導科学理論は、あらゆる魔法現象に対応できます。星間連邦で実証済みです」
グランベル先生が穏やかに諌めた。
「アルカディア君、住民の方々の意見も聞いてはいかがでしょうか?」
「意見を聞いている時間はありません」
僕は森の方向を見つめた。
「精霊の暴走が続けば、被害はさらに拡大します。迅速な解決が必要です」
僕は歩き始めた。
「皆さんは、ここで待機していてください」
「一人で行くつもりですか?」
カイルが驚いた。
「統合創造者としての権限を行使します」
僕は振り返らずに答えた。
「この世界のシステムを直接修正すれば、すぐに問題は解決します」
「アルカディア君!」
エリシアが僕を追いかけようとしたが、僕は構文魔法で結界を張った。
「『障壁よ、彼らを守れ』」
光の壁が僕と仲間たちの間に現れた。
「アルカディア!」
カイルが結界を叩いた。
「一人で行くな!危険すぎる!」
「心配いりません」
僕は冷静に答えた。
「すぐに戻ります」
僕は森の奥に向かって歩いた。
仲間たちの呼び声が背後で響いているが、振り返らなかった。
これまでの成功により、僕は自分の力を完全に信頼していた。そして、統合創造者としての権限があれば、どんな問題でも解決できると確信していた。
森の中を進むにつれて、精霊たちの怒りがより強く感じられるようになった。
火の精霊が作り出した炎の壁、水の精霊による激流、風の精霊の竜巻、土の精霊の地割れ。
しかし、僕は構文魔法で全てを押し通った。
「『炎よ、道を開け』」
「『水よ、流れを変えよ』」
「『風よ、静まれ』」
「『大地よ、平らになれ』」
精霊たちの力が僕の魔法によって強制的に抑制される。
しかし、それは対話や調和ではなく、一方的な力による支配だった。
森の最深部に到達すると、そこには巨大な世界樹がそびえ立っていた。
その根元で、一人の女性が倒れていた。
桃原美咲さん……ミスティ・エンチャントだった。
彼女は疲労困憊しており、顔色も悪かった。
「ミスティさん」
僕は彼女に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「アルカディア……さん?」
ミスティが薄っすらと目を開けた。
「来てくださったのですね……でも、危険です。精霊たちが……」
「もう大丈夫です」
僕は彼女を支えながら言った。
「僕が全てを解決します」
世界樹の周りには、四つの巨大な精霊が渦巻いていた。
火の精霊は巨大な炎の龍の姿で、水の精霊は津波のような水流で、風の精霊は竜巻の形で、土の精霊は岩石の巨人として現れていた。
彼らは皆、激しい怒りを放射している。
「なぜ精霊たちが怒っているのですか?」
僕はミスティに尋ねた。
「分からないのです」
ミスティが苦しそうに答えた。
「急に暴走し始めて……私の呼びかけにも応えてくれません」
僕は精霊たちを見上げた。
その瞬間、直感的に理解した。
精霊たちの怒りの原因は、構文魔法の流入による自然界の汚染だった。
人工的な魔法の力が、純粋な自然の精霊たちには毒のように作用しているのだ。
しかし、僕は問題の根本的解決よりも、迅速な解決を選択した。
「統合創造者の権限により、世界システムの強制修正を実行します」
僕はデータクリスタルを取り出し、魔導科学理論を発動させた。
「『自然よ、人工の秩序に従え』」
「『精霊よ、創造者の意志を受け入れよ』」
「『この世界の全システム、完全制御下に置く』」
強大な力が世界樹から放射された。
精霊たちが苦悶の声を上げながら、強制的に人間の姿に変化させられていく。
炎の龍は赤い髪の少女に、水流は青い髪の青年に、竜巻は白い髪の少女に、岩石巨人は茶色い髪の大男に。
彼らの瞳からは、自然の野性が失われ、人工的な従順さが宿っていた。
「制御完了」
僕は満足げに呟いた。
「精霊たちは今後、住民に危害を加えることはありません」
ミスティが震え声で言った。
「アルカディアさん……あなたは一体何を……」
「問題を解決したのです」
僕は振り返った。
「もう森は安全です。住民たちも帰還できます」
「でも……精霊たちの魂が……」
ミスティの目に涙が浮かんだ。
「彼らはもう、自然の精霊ではありません。ただの人形です」
「それでいいのです」
僕は冷静に答えた。
「制御できない力よりも、管理された安全の方が優れています」
その瞬間、世界樹が悲しげに鳴った。
葉が枯れ始め、幹に亀裂が入った。
世界樹は、自然の調和の象徴だった。その調和が人工的な支配によって破壊されたことで、世界樹自体が傷ついたのだ。
「世界樹が……」
ミスティが絶望的な声を上げた。
「止めてください!このままでは森全体が死んでしまいます!」
「大丈夫です」
僕は世界樹に手をかざした。
「これも修正します」
「『世界樹よ、新しい秩序に適応せよ』」
世界樹の亀裂が魔法によって修復される。しかし、その生命力は明らかに人工的なものになっていた。
僕は完璧な解決を成し遂げたと感じていた。
精霊の暴走は止まり、住民は安全になり、森も安定した。
しかし、その代償として、この世界の自然な美しさと神秘性は完全に失われていた。
僕は避難キャンプに戻った。
仲間たちが心配そうに迎えてくれた。
「アルカディア君!無事でしたか?」
エリシアが駆け寄ってきた。
「ええ。問題は全て解決しました」
僕は誇らしげに報告した。
「精霊たちを完全に制御下に置き、森の安全を確保しました」
住民たちが喜びの声を上げた。
「本当ですか?」
「森に帰れるのですね?」
シルフィア長老だけは、複雑な表情を浮かべていた。
「制御……とは、どのような方法で?」
「統合創造者の権限により、世界システムを直接修正しました」
僕は詳しく説明した。
「精霊たちは今後、住民に害をなすことはありません」
しかし、住民たちが森に戻った時、彼らの表情は困惑に変わった。
確かに森は安全になっていた。しかし、それは彼らが愛していた自然の森ではなかった。
精霊たちは人間の姿で整然と並び、機械的に森の管理を行っている。
花々は完璧に整列し、小川は一定の流量で流れ、木々は等間隔で配置されている。
美しいが、生命力のない、人工的な森だった。
「これは……私たちの森ではありません」
シルフィア長老が悲しそうに呟いた。
「確かに安全ですが……魂がありません」
他の住民たちも同様の反応を示した。
「精霊たちとの対話がなくなりました」
「自然の歌声が聞こえません」
「これでは、ただの公園です」
僕は住民たちの不満を理解できなかった。
「安全で美しい森を提供したのです。何が不満なのですか?」
「アルカディア君」
エリシアが僕の袖を引いた。
「少し話があります」
僕たちは人里離れた場所で話し合った。
「あなたは変わってしまいました」
エリシアが悲しそうに言った。
「前のあなたなら、住民の気持ちをもっと大切にしていたはずです」
「僕は住民のために行動しています」
僕は反論した。
「安全で秩序のある世界を提供したのです」
「でも、彼らはそれを望んでいませんでした」
カイルが厳しく言った。
「お前は、住民の意見を聞かずに一方的に決めつけた」
「時間がなかったのです」
僕はいらだちを感じた。
「迅速な解決が必要でした」
「それは言い訳です」
グランベル先生が悲しそうに首を振った。
「あなたは、統合創造者の力に溺れています」
「力に溺れる?」
僕は信じられなかった。
「僕は責任を果たしているだけです」
「責任?」
黒田さんが険しい表情で言った。
「住民の意志を無視して、勝手に世界を改変することが責任なのですか?」
僕は仲間たちの批判に憤りを感じた。
「僕がいなければ、どの世界も破滅していました」
僕は声を荒らげた。
「ベリクス帝国の戦争も、桜咲学園の混乱も、星間連邦の事故も、全て僕が解決したのです」
「それは事実です」
エリシアが認めた。
「でも、今回のやり方は間違っています」
「間違っている?」
僕は立ち上がった。
「結果が全てです。森は安全になり、住民は保護されました」
「その代償として、世界の魂が失われました」
ミスティ・エンチャントが現れた。
彼女の瞳には、深い悲しみが宿っていた。
「アルカディアさん、あなたは神になろうとしています」
「神?」
「はい。全てを支配し、全てを管理する神に」
ミスティが静かに言った。
「しかし、本当の創造者とは、住民と共に歩む存在ではないでしょうか?」
僕は黙り込んだ。
仲間たちの視線が、僕を見つめている。
そこには、以前のような温かさはなかった。
代わりにあるのは、失望と警戒だった。
僕は初めて、自分の行動を客観視した。
確かに、僕は最近、住民の意見よりも自分の判断を優先するようになっていた。
統合創造者としての力に、知らず知らずのうちに依存していたのかもしれない。
しかし、僕はそれを認めることができなかった。
「僕は正しいことをしています」
僕は頑なに主張した。
「世界を守り、住民を保護している」
「アルカディア君……」
エリシアが最後の説得を試みた。
「お願いです。元の森に戻してください」
「戻す?」
僕は首を振った。
「危険な状態に戻すなんて、できません」
僕は踵を返した。
「僕は他の世界でも同様の改善を行います」
「待ってください」
ミスティが呼び止めた。
「もしあなたが他の世界でも同じことをするなら……」
「どうなると言うのですか?」
「住民たちが、あなたに反乱を起こすかもしれません」
ミスティの警告が、夜風と共に響いた。
「創造者への反乱を」
僕は振り返らずに答えた。
「その時は、反乱も鎮圧します」
僕は一人、世界間移動の魔法を発動させた。
リテラ王国に戻る光の扉をくぐりながら、僕は思っていた。
仲間たちには理解されなかったが、僕は正しい道を歩んでいる。
統合創造者として、全ての世界を完璧に管理する責任がある。
そのためなら、多少の犠牲は仕方ない。
僕は、完全に変わってしまっていた。
愛に満ちた創造者から、冷酷な支配者へと。
そして、その変化こそが、これから始まる真の悲劇の序章だった。
巨大な古木が天に向かって伸び、その枝から光る蔦が美しく垂れ下がっている。花々は虹色に輝き、小川のせせらぎには音楽のような旋律がある。
しかし、その美しさの中に不穏な気配が混じっていた。
森の奥から、野獣の咆哮のような音が断続的に響いてくる。木々が不自然に震え、花々の色が時折暗く変化する。
「これが精霊の暴走の影響ですね」
エリシアが心配そうに呟いた。
「ええ。自然の調和が崩れています」
星間連邦から同行してきた青い肌の技術者、ゼノン博士が装置を操作しながら分析した。
「魔法的エネルギーの波長が異常に高くなっています」
僕たちは森の入り口にある避難キャンプに向かった。
そこには、森から逃れてきた住民たちが不安そうに集まっていた。彼らは皆、自然と調和した美しい民族だった。緑色の髪に褐色の肌、そして瞳には自然への深い愛情が宿っている。
「リテラ王国からの調停団の皆様でしょうか」
住民の代表らしき女性が僕たちを迎えた。
「私はシルフィア・ナチュラル、森の民の長老です」
「アルカディア・ヴォルテクスです」
僕は挨拶した。
「状況を詳しく教えてください」
シルフィア長老の表情が暗くなった。
「一週間前から、森の精霊たちが凶暴化し始めました」
彼女は森の方向を指差した。
「火の精霊は制御を失って山火事を起こし、水の精霊は洪水を引き起こし、風の精霊は竜巻を発生させています」
「住民の被害は?」
カイルが心配そうに尋ねた。
「幸い、死者は出ていません」
シルフィア長老が答えた。
「しかし、森での生活が不可能になりました。食料の確保も困難で、このままでは……」
僕は深刻な状況を理解した。
「ミスティ・エンチャント様はどちらに?」
「森の最深部にある『世界樹』の根元におられます」
シルフィア長老が不安そうに答えた。
「精霊たちを鎮めようと努力されていますが、逆に精霊の怒りが激しくなっているようで……」
その時、森の奥から巨大な爆発音が響いた。
空が一瞬赤く染まり、次に青く、そして緑色に変化した。
「精霊たちの力が衝突しています」
ゼノン博士が装置の数値を確認した。
「エネルギーレベルが危険域に達しています」
僕は決断した。
「すぐに森の最深部に向かいましょう」
「危険すぎます」
シルフィア長老が制止した。
「精霊たちは今、何者も近づけない状態です」
「でも、このまま放置するわけにはいきません」
僕は星間連邦から持参したデータクリスタルを取り出した。
「魔導科学の理論を使えば、必ず解決できます」
エリシアが僕の袖を引いた。
「アルカディア君、少し慎重になりませんか?」
「慎重に?」
僕は振り返った。
「エリシア、僕たちはもう十分に慎重でした。ベリクス帝国、桜咲学園、星間連邦、全てで成功を収めています」
「でも、この世界は他とは違います」
黒田さんが心配そうに言った。
「自然の精霊は、人工的な技術と相性が悪いかもしれません」
「大丈夫です」
僕は自信に満ちて答えた。
「魔導科学理論は、あらゆる魔法現象に対応できます。星間連邦で実証済みです」
グランベル先生が穏やかに諌めた。
「アルカディア君、住民の方々の意見も聞いてはいかがでしょうか?」
「意見を聞いている時間はありません」
僕は森の方向を見つめた。
「精霊の暴走が続けば、被害はさらに拡大します。迅速な解決が必要です」
僕は歩き始めた。
「皆さんは、ここで待機していてください」
「一人で行くつもりですか?」
カイルが驚いた。
「統合創造者としての権限を行使します」
僕は振り返らずに答えた。
「この世界のシステムを直接修正すれば、すぐに問題は解決します」
「アルカディア君!」
エリシアが僕を追いかけようとしたが、僕は構文魔法で結界を張った。
「『障壁よ、彼らを守れ』」
光の壁が僕と仲間たちの間に現れた。
「アルカディア!」
カイルが結界を叩いた。
「一人で行くな!危険すぎる!」
「心配いりません」
僕は冷静に答えた。
「すぐに戻ります」
僕は森の奥に向かって歩いた。
仲間たちの呼び声が背後で響いているが、振り返らなかった。
これまでの成功により、僕は自分の力を完全に信頼していた。そして、統合創造者としての権限があれば、どんな問題でも解決できると確信していた。
森の中を進むにつれて、精霊たちの怒りがより強く感じられるようになった。
火の精霊が作り出した炎の壁、水の精霊による激流、風の精霊の竜巻、土の精霊の地割れ。
しかし、僕は構文魔法で全てを押し通った。
「『炎よ、道を開け』」
「『水よ、流れを変えよ』」
「『風よ、静まれ』」
「『大地よ、平らになれ』」
精霊たちの力が僕の魔法によって強制的に抑制される。
しかし、それは対話や調和ではなく、一方的な力による支配だった。
森の最深部に到達すると、そこには巨大な世界樹がそびえ立っていた。
その根元で、一人の女性が倒れていた。
桃原美咲さん……ミスティ・エンチャントだった。
彼女は疲労困憊しており、顔色も悪かった。
「ミスティさん」
僕は彼女に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「アルカディア……さん?」
ミスティが薄っすらと目を開けた。
「来てくださったのですね……でも、危険です。精霊たちが……」
「もう大丈夫です」
僕は彼女を支えながら言った。
「僕が全てを解決します」
世界樹の周りには、四つの巨大な精霊が渦巻いていた。
火の精霊は巨大な炎の龍の姿で、水の精霊は津波のような水流で、風の精霊は竜巻の形で、土の精霊は岩石の巨人として現れていた。
彼らは皆、激しい怒りを放射している。
「なぜ精霊たちが怒っているのですか?」
僕はミスティに尋ねた。
「分からないのです」
ミスティが苦しそうに答えた。
「急に暴走し始めて……私の呼びかけにも応えてくれません」
僕は精霊たちを見上げた。
その瞬間、直感的に理解した。
精霊たちの怒りの原因は、構文魔法の流入による自然界の汚染だった。
人工的な魔法の力が、純粋な自然の精霊たちには毒のように作用しているのだ。
しかし、僕は問題の根本的解決よりも、迅速な解決を選択した。
「統合創造者の権限により、世界システムの強制修正を実行します」
僕はデータクリスタルを取り出し、魔導科学理論を発動させた。
「『自然よ、人工の秩序に従え』」
「『精霊よ、創造者の意志を受け入れよ』」
「『この世界の全システム、完全制御下に置く』」
強大な力が世界樹から放射された。
精霊たちが苦悶の声を上げながら、強制的に人間の姿に変化させられていく。
炎の龍は赤い髪の少女に、水流は青い髪の青年に、竜巻は白い髪の少女に、岩石巨人は茶色い髪の大男に。
彼らの瞳からは、自然の野性が失われ、人工的な従順さが宿っていた。
「制御完了」
僕は満足げに呟いた。
「精霊たちは今後、住民に危害を加えることはありません」
ミスティが震え声で言った。
「アルカディアさん……あなたは一体何を……」
「問題を解決したのです」
僕は振り返った。
「もう森は安全です。住民たちも帰還できます」
「でも……精霊たちの魂が……」
ミスティの目に涙が浮かんだ。
「彼らはもう、自然の精霊ではありません。ただの人形です」
「それでいいのです」
僕は冷静に答えた。
「制御できない力よりも、管理された安全の方が優れています」
その瞬間、世界樹が悲しげに鳴った。
葉が枯れ始め、幹に亀裂が入った。
世界樹は、自然の調和の象徴だった。その調和が人工的な支配によって破壊されたことで、世界樹自体が傷ついたのだ。
「世界樹が……」
ミスティが絶望的な声を上げた。
「止めてください!このままでは森全体が死んでしまいます!」
「大丈夫です」
僕は世界樹に手をかざした。
「これも修正します」
「『世界樹よ、新しい秩序に適応せよ』」
世界樹の亀裂が魔法によって修復される。しかし、その生命力は明らかに人工的なものになっていた。
僕は完璧な解決を成し遂げたと感じていた。
精霊の暴走は止まり、住民は安全になり、森も安定した。
しかし、その代償として、この世界の自然な美しさと神秘性は完全に失われていた。
僕は避難キャンプに戻った。
仲間たちが心配そうに迎えてくれた。
「アルカディア君!無事でしたか?」
エリシアが駆け寄ってきた。
「ええ。問題は全て解決しました」
僕は誇らしげに報告した。
「精霊たちを完全に制御下に置き、森の安全を確保しました」
住民たちが喜びの声を上げた。
「本当ですか?」
「森に帰れるのですね?」
シルフィア長老だけは、複雑な表情を浮かべていた。
「制御……とは、どのような方法で?」
「統合創造者の権限により、世界システムを直接修正しました」
僕は詳しく説明した。
「精霊たちは今後、住民に害をなすことはありません」
しかし、住民たちが森に戻った時、彼らの表情は困惑に変わった。
確かに森は安全になっていた。しかし、それは彼らが愛していた自然の森ではなかった。
精霊たちは人間の姿で整然と並び、機械的に森の管理を行っている。
花々は完璧に整列し、小川は一定の流量で流れ、木々は等間隔で配置されている。
美しいが、生命力のない、人工的な森だった。
「これは……私たちの森ではありません」
シルフィア長老が悲しそうに呟いた。
「確かに安全ですが……魂がありません」
他の住民たちも同様の反応を示した。
「精霊たちとの対話がなくなりました」
「自然の歌声が聞こえません」
「これでは、ただの公園です」
僕は住民たちの不満を理解できなかった。
「安全で美しい森を提供したのです。何が不満なのですか?」
「アルカディア君」
エリシアが僕の袖を引いた。
「少し話があります」
僕たちは人里離れた場所で話し合った。
「あなたは変わってしまいました」
エリシアが悲しそうに言った。
「前のあなたなら、住民の気持ちをもっと大切にしていたはずです」
「僕は住民のために行動しています」
僕は反論した。
「安全で秩序のある世界を提供したのです」
「でも、彼らはそれを望んでいませんでした」
カイルが厳しく言った。
「お前は、住民の意見を聞かずに一方的に決めつけた」
「時間がなかったのです」
僕はいらだちを感じた。
「迅速な解決が必要でした」
「それは言い訳です」
グランベル先生が悲しそうに首を振った。
「あなたは、統合創造者の力に溺れています」
「力に溺れる?」
僕は信じられなかった。
「僕は責任を果たしているだけです」
「責任?」
黒田さんが険しい表情で言った。
「住民の意志を無視して、勝手に世界を改変することが責任なのですか?」
僕は仲間たちの批判に憤りを感じた。
「僕がいなければ、どの世界も破滅していました」
僕は声を荒らげた。
「ベリクス帝国の戦争も、桜咲学園の混乱も、星間連邦の事故も、全て僕が解決したのです」
「それは事実です」
エリシアが認めた。
「でも、今回のやり方は間違っています」
「間違っている?」
僕は立ち上がった。
「結果が全てです。森は安全になり、住民は保護されました」
「その代償として、世界の魂が失われました」
ミスティ・エンチャントが現れた。
彼女の瞳には、深い悲しみが宿っていた。
「アルカディアさん、あなたは神になろうとしています」
「神?」
「はい。全てを支配し、全てを管理する神に」
ミスティが静かに言った。
「しかし、本当の創造者とは、住民と共に歩む存在ではないでしょうか?」
僕は黙り込んだ。
仲間たちの視線が、僕を見つめている。
そこには、以前のような温かさはなかった。
代わりにあるのは、失望と警戒だった。
僕は初めて、自分の行動を客観視した。
確かに、僕は最近、住民の意見よりも自分の判断を優先するようになっていた。
統合創造者としての力に、知らず知らずのうちに依存していたのかもしれない。
しかし、僕はそれを認めることができなかった。
「僕は正しいことをしています」
僕は頑なに主張した。
「世界を守り、住民を保護している」
「アルカディア君……」
エリシアが最後の説得を試みた。
「お願いです。元の森に戻してください」
「戻す?」
僕は首を振った。
「危険な状態に戻すなんて、できません」
僕は踵を返した。
「僕は他の世界でも同様の改善を行います」
「待ってください」
ミスティが呼び止めた。
「もしあなたが他の世界でも同じことをするなら……」
「どうなると言うのですか?」
「住民たちが、あなたに反乱を起こすかもしれません」
ミスティの警告が、夜風と共に響いた。
「創造者への反乱を」
僕は振り返らずに答えた。
「その時は、反乱も鎮圧します」
僕は一人、世界間移動の魔法を発動させた。
リテラ王国に戻る光の扉をくぐりながら、僕は思っていた。
仲間たちには理解されなかったが、僕は正しい道を歩んでいる。
統合創造者として、全ての世界を完璧に管理する責任がある。
そのためなら、多少の犠牲は仕方ない。
僕は、完全に変わってしまっていた。
愛に満ちた創造者から、冷酷な支配者へと。
そして、その変化こそが、これから始まる真の悲劇の序章だった。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる