言葉がチートスキルになった世界で、僕だけが黙示録を書き換える破神構文。創造者と被造者の黙示録

みにぶた🐽

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創造者の崩壊

第2章  砕かれる鏡

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 全世界統一管理システム発動から七十二時間が経過した。
 僕は学院の最上階に設置した統制室で、四つの世界を監視していた。巨大なスクリーンには、各世界のリアルタイム映像が表示されている。

 ベリクス帝国では、反乱軍の指導者たちが光の拘束具に縛られ、整然と列を作って行進している。彼らの瞳は虚ろで、意志の光は完全に消えていた。

 桜咲学園では、生徒たちが機械的に授業を受けている。恋愛魔法システムは再起動され、今度は僕の直接管理下に置かれていた。誰も笑わず、誰も泣かず、ただ指示に従うだけの人形のような存在になっていた。

 星間連邦では、技術者たちが無言で研究を続けている。魔導科学の研究は僕の許可した範囲でのみ行われ、創造性や独創性は完全に排除されていた。

 魔法の森では、住民たちが精霊と共に森の管理を行っている。全てが完璧に整備され、一切の混乱はない。しかし、そこには生命の息吹も、自然の驚きも存在しなかった。

「完璧だ」
 僕は満足げに呟いた。

 四つの世界で、暴力も争いも存在しない。全ての住民が幸福で、全ての問題が解決されている。

 しかし、その時、統制室の扉が開いた。

 入ってきたのは、エリシアだった。

 しかし、彼女もまた光の拘束具に縛られ、虚ろな瞳をしていた。

「アルカディア様」
 エリシアの声は感情を失っていた。

「お呼びでしょうか」

 僕の胸に、微かな痛みが走った。

 愛していた彼女が、今では僕の命令にただ従うだけの存在になっている。

「いや、呼んでいない」
 僕は冷たく答えた。

「持ち場に戻れ」

「承知いたしました」
 エリシアは機械的にお辞儀をして去っていった。

 僕は一人になった。

 これが僕の望んだ世界だったはずだ。平和で、安全で、完璧に管理された世界。

 しかし、なぜこれほどまでに空虚なのだろうか?

 その時、統制室の隅から声が聞こえた。

「満足していますか?」

 振り返ると、デウス・エクス・マキナが壁にもたれて立っていた。

「いつからそこに?」

「最初からいました」
 デウス・エクス・マキナが僕に近づいてきた。

「あなたが統一管理システムを発動させた瞬間から、ずっと見ていました」

 僕は警戒した。

「何をしに来たのですか?」

「あなたに真実を見せるためです」

 デウス・エクス・マキナが手をかざすと、統制室の空間に新たな映像が浮かび上がった。

 それは、各世界の住民たちの内面を映したものだった。

 映像の中で、住民たちは表面的には従順に振る舞っているが、心の奥底では激しい絶望と怒りを抱えていた。

 ベリクス帝国の兵士たちは、拘束されながらも心の中で「自由を」と叫び続けている。

 桜咲学園の生徒たちは、授業を受けながら「本当の愛を知りたい」と願っている。

 星間連邦の技術者たちは、研究をしながら「真の科学的発見をしたい」と渇望している。

 魔法の森の住民たちは、森の管理をしながら「精霊たちの本当の声を聞きたい」と泣いている。

「見えますか?」
 デウス・エクス・マキナが問いかけた。

「あなたの『完璧な世界』の真実が」

 僕は映像を見つめ続けた。

 住民たちの苦悩が、手に取るように分かった。

「でも……」
 僕は呟いた。

「彼らは安全です。誰も傷つくことはありません」

「肉体的にはそうでしょう」
 デウス・エクス・マキナが首を振った。

「しかし、精神的には死んでいます」

 僕は反論しようとしたが、言葉が出なかった。

 確かに、住民たちの瞳には生気がなかった。

「アルカディア」
 デウス・エクス・マキナが僕の名前を呼んだ。

「あなたは、愛する人々を守ろうとして、結果的に殺してしまったのです」

「殺した?」

「魂を殺したのです」

 その時、統制室のアラームが鳴り響いた。

 緊急事態を知らせる警告音だった。

 僕は慌ててスクリーンを確認した。

 リテラ王国で異常が発生していた。

 街の中央広場に、巨大な亀裂が現れている。そこから、見たことのない存在が現れようとしていた。

「何ですか、これは?」

「反乱の新しい形です」
 デウス・エクス・マキナが説明した。

「住民たちの意志は、あなたの支配下でも完全には消えていません」

 亀裂から現れたのは、巨大な文字だった。

 『自由』『愛』『希望』『真実』

 それらの文字は光を放ちながら、街全体を包み込んでいく。

 統一管理システムの光の拘束具が、その光に触れると少しずつ弱くなっていった。

「不可能です」
 僕は愕然とした。

「統一管理システムは絶対のはずです」

「あなたは、人間の意志の力を過小評価していました」
 デウス・エクス・マキナが微笑んだ。

「どれほど強力な支配でも、真の愛と希望は消すことができません」

 スクリーンの中で、住民たちの瞳に少しずつ光が戻り始めていた。

 拘束具が弱くなるにつれて、彼らは自分の意志を取り戻していく。

 僕は慌てて統制パネルを操作した。

「システム出力を最大に上げます」

 強烈な光が四つの世界に放射された。

 しかし、それでも『自由』の文字は消えなかった。

 それどころか、より強く輝き始めた。

 その時、統制室の扉が再び開いた。

 今度は、カイルが入ってきた。

 しかし、彼の瞳には意志の光が戻っていた。

「アルカディア……」
 カイルの声に、かつての友情が蘇っていた。

「もうやめてくれ」

 僕は驚いた。

「なぜ拘束から逃れることができたのですか?」

「友情だ」
 カイルが答えた。

「お前への友情が、俺を自由にしてくれた」

 続いて、グランベル先生も入ってきた。

 彼の杖も光を取り戻している。

「アルカディア君、これ以上の間違いは犯してはいけません」

 そして最後に、エリシアが現れた。

 彼女の瞳には、涙と共に愛情の光が宿っていた。

「アルカディア君……帰ってきて」

 僕の心が激しく動揺した。

 仲間たちが、僕の支配から逃れて戻ってきた。

「どうして……」
 僕は震え声で尋ねた。

「僕はあなたたちを完璧に保護していたのに」

「保護?」
 エリシアが首を振った。

「あなたは私たちを檻に閉じ込めていただけです」

 カイルが一歩前に出た。

「俺たちは、お前の人形じゃない」

 グランベル先生も続けた。

「私たちには、自分で選択する権利があります」

 僕は後ずさった。

「でも……選択すれば、間違いを犯すかもしれません」

「それでもいいのです」
 エリシアが優しく言った。

「間違いも含めて、それが人生なのですから」

 僕は混乱していた。

 これまで信じてきたことが、全て崩れ去ろうとしている。

「僕は……僕は何のために……」

 その時、デウス・エクス・マキナが僕の肩に手を置いた。

「あなたは、愛するが故に道を誤ったのです」

 彼の瞳に、同情の光が宿っていた。

「愛しているからこそ、守りたいと思った」
「愛しているからこそ、苦しませたくないと思った」
「愛しているからこそ、完璧でありたいと思った」

 デウス・エクス・マキナの言葉が、僕の心に響いた。

「しかし、真の愛とは、相手の選択を尊重することです」

 僕は膝をついた。

 全てが分かった。

 僕は愛していると言いながら、実際には所有欲に駆られていただけだった。

 相手の幸福を願いながら、実際には自分の安心を求めていただけだった。

「僕は……間違っていたのですね」

 エリシアが僕に近づいてきた。

「間違いに気づくことができれば、まだやり直せます」

 しかし、僕は首を振った。

「もう遅いです」
 僕の声が空虚に響いた。

「僕がしたことは、取り返しがつきません」

 統制室のスクリーンには、四つの世界の状況が映し出されている。

 住民たちは少しずつ意志を取り戻しているが、完全に元に戻るには時間がかかるだろう。

 そして何より、僕への信頼は永遠に失われてしまった。

「アルカディア君」
 グランベル先生が優しく言った。

「統一管理システムを解除してください」

 僕は統制パネルを見つめた。

 システムを解除すれば、僕の権力は完全に失われる。

 しかし、それが正しいことなのだろう。

 僕は手をパネルに伸ばした。

 しかし、その瞬間、恐怖が僕を襲った。

 システムを解除すれば、住民たちは再び戦争を始めるかもしれない。

 再び苦しむかもしれない。

 再び間違いを犯すかもしれない。

 僕の手が止まった。

「やはり……できません」

 仲間たちの表情が絶望に変わった。

「アルカディア……」
 カイルが悲しそうに呟いた。

「お前は本当に変わってしまったんだな」

 エリシアの目から涙が溢れた。

「私たちを信じてくれないのですね」

 僕は彼らから顔を逸らした。

「信じたいです」
 僕の声が震えた。

「でも……恐いんです」

「何が恐いのですか?」
 グランベル先生が尋ねた。

「あなたたちが苦しむのが」
 僕は正直に答えた。

「あなたたちが傷つくのが」
「あなたたちを失うのが」

 デウス・エクス・マキナが静かに言った。

「しかし、その恐怖に支配されれば、結果的に全てを失うことになります」

 僕は彼を見た。

「どういう意味ですか?」

「愛する者を失うことを恐れるあまり、愛する者を傷つけてしまう」
 デウス・エクス・マキナが説明した。

「そして最終的には、本当に全てを失ってしまうのです」

 僕は立ち上がった。

 窓の外を見ると、リテラ王国の街で『自由』の文字がより強く輝いていた。

 住民たちが街頭に出て、僕の統制に抗議している。

 しかし、その抗議は暴力的ではなかった。

 彼らは手を繋ぎ、歌を歌い、平和的に意志を示していた。

「見てください」
 エリシアが窓の外を指差した。

「住民たちは、暴力ではなく愛で抵抗しています」

 確かに、その通りだった。

 僕が恐れていた混乱や暴力は起こっていない。

 代わりに、美しい連帯と希望の光景が広がっていた。

「彼らを信じてください」
 カイルが僕に向かって言った。

「俺たちを信じてくれ」

 僕は深く息を吸った。

 そして、ついに決断した。

「分かりました」

 僕は統制パネルに手を置いた。

「統一管理システムを……解除します」

 仲間たちの顔に安堵の表情が浮かんだ。

 僕は最後の呪文を唱えた。

「『全世界よ、自由に還れ』」

 強烈な光が統制室を包んだ。

 スクリーンの中で、四つの世界の住民たちから拘束具が消えていく。

 彼らの瞳に、生命の光が戻ってきた。

 そして、僕自身も変化していた。

 統合創造者としての絶対的な力が、僕から流れ出していく。

 もう僕は、普通の人間に過ぎなかった。

 しかし、不思議と心は軽やかだった。

 重い責任と権力の重圧から解放され、ようやく自分を取り戻したような気がした。

「ありがとう、アルカディア君」
 エリシアが僕に抱きついた。

「帰ってきてくれて」

 カイルも僕の肩を叩いた。

「これで、また仲間だな」

 グランベル先生が微笑んだ。

「よく決断できました」

 デウス・エクス・マキナも頷いた。

「これで、私の役目は終わりました」

 彼の体が光の粒子となって消えていく。

「さらばです、もう一人の私」

 統制室に、温かい沈黙が流れた。

 窓の外では、四つの世界で解放の歓声が上がっている。

 住民たちは自由を取り戻し、再び自分たちの人生を歩み始めた。

 僕は、ようやく真の創造者の意味を理解した。

 創造者とは、支配する者ではない。

 愛し、見守り、時には手を離すことのできる者なのだ。

 しかし、僕の物語はここで終わりではなかった。

 失った信頼を取り戻し、真の関係を築き直すには、まだ長い道のりが必要だった。

 そして、僕自身も、人間として成長し続けなければならなかった。

 創造者から人間へ。

 神から友人へ。

 支配者から仲間へ。
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