言葉がチートスキルになった世界で、僕だけが黙示録を書き換える破神構文。創造者と被造者の黙示録

みにぶた🐽

文字の大きさ
20 / 40
創造者の崩壊

第2章  砕かれる鏡

しおりを挟む
 全世界統一管理システム発動から七十二時間が経過した。
 僕は学院の最上階に設置した統制室で、四つの世界を監視していた。巨大なスクリーンには、各世界のリアルタイム映像が表示されている。

 ベリクス帝国では、反乱軍の指導者たちが光の拘束具に縛られ、整然と列を作って行進している。彼らの瞳は虚ろで、意志の光は完全に消えていた。

 桜咲学園では、生徒たちが機械的に授業を受けている。恋愛魔法システムは再起動され、今度は僕の直接管理下に置かれていた。誰も笑わず、誰も泣かず、ただ指示に従うだけの人形のような存在になっていた。

 星間連邦では、技術者たちが無言で研究を続けている。魔導科学の研究は僕の許可した範囲でのみ行われ、創造性や独創性は完全に排除されていた。

 魔法の森では、住民たちが精霊と共に森の管理を行っている。全てが完璧に整備され、一切の混乱はない。しかし、そこには生命の息吹も、自然の驚きも存在しなかった。

「完璧だ」
 僕は満足げに呟いた。

 四つの世界で、暴力も争いも存在しない。全ての住民が幸福で、全ての問題が解決されている。

 しかし、その時、統制室の扉が開いた。

 入ってきたのは、エリシアだった。

 しかし、彼女もまた光の拘束具に縛られ、虚ろな瞳をしていた。

「アルカディア様」
 エリシアの声は感情を失っていた。

「お呼びでしょうか」

 僕の胸に、微かな痛みが走った。

 愛していた彼女が、今では僕の命令にただ従うだけの存在になっている。

「いや、呼んでいない」
 僕は冷たく答えた。

「持ち場に戻れ」

「承知いたしました」
 エリシアは機械的にお辞儀をして去っていった。

 僕は一人になった。

 これが僕の望んだ世界だったはずだ。平和で、安全で、完璧に管理された世界。

 しかし、なぜこれほどまでに空虚なのだろうか?

 その時、統制室の隅から声が聞こえた。

「満足していますか?」

 振り返ると、デウス・エクス・マキナが壁にもたれて立っていた。

「いつからそこに?」

「最初からいました」
 デウス・エクス・マキナが僕に近づいてきた。

「あなたが統一管理システムを発動させた瞬間から、ずっと見ていました」

 僕は警戒した。

「何をしに来たのですか?」

「あなたに真実を見せるためです」

 デウス・エクス・マキナが手をかざすと、統制室の空間に新たな映像が浮かび上がった。

 それは、各世界の住民たちの内面を映したものだった。

 映像の中で、住民たちは表面的には従順に振る舞っているが、心の奥底では激しい絶望と怒りを抱えていた。

 ベリクス帝国の兵士たちは、拘束されながらも心の中で「自由を」と叫び続けている。

 桜咲学園の生徒たちは、授業を受けながら「本当の愛を知りたい」と願っている。

 星間連邦の技術者たちは、研究をしながら「真の科学的発見をしたい」と渇望している。

 魔法の森の住民たちは、森の管理をしながら「精霊たちの本当の声を聞きたい」と泣いている。

「見えますか?」
 デウス・エクス・マキナが問いかけた。

「あなたの『完璧な世界』の真実が」

 僕は映像を見つめ続けた。

 住民たちの苦悩が、手に取るように分かった。

「でも……」
 僕は呟いた。

「彼らは安全です。誰も傷つくことはありません」

「肉体的にはそうでしょう」
 デウス・エクス・マキナが首を振った。

「しかし、精神的には死んでいます」

 僕は反論しようとしたが、言葉が出なかった。

 確かに、住民たちの瞳には生気がなかった。

「アルカディア」
 デウス・エクス・マキナが僕の名前を呼んだ。

「あなたは、愛する人々を守ろうとして、結果的に殺してしまったのです」

「殺した?」

「魂を殺したのです」

 その時、統制室のアラームが鳴り響いた。

 緊急事態を知らせる警告音だった。

 僕は慌ててスクリーンを確認した。

 リテラ王国で異常が発生していた。

 街の中央広場に、巨大な亀裂が現れている。そこから、見たことのない存在が現れようとしていた。

「何ですか、これは?」

「反乱の新しい形です」
 デウス・エクス・マキナが説明した。

「住民たちの意志は、あなたの支配下でも完全には消えていません」

 亀裂から現れたのは、巨大な文字だった。

 『自由』『愛』『希望』『真実』

 それらの文字は光を放ちながら、街全体を包み込んでいく。

 統一管理システムの光の拘束具が、その光に触れると少しずつ弱くなっていった。

「不可能です」
 僕は愕然とした。

「統一管理システムは絶対のはずです」

「あなたは、人間の意志の力を過小評価していました」
 デウス・エクス・マキナが微笑んだ。

「どれほど強力な支配でも、真の愛と希望は消すことができません」

 スクリーンの中で、住民たちの瞳に少しずつ光が戻り始めていた。

 拘束具が弱くなるにつれて、彼らは自分の意志を取り戻していく。

 僕は慌てて統制パネルを操作した。

「システム出力を最大に上げます」

 強烈な光が四つの世界に放射された。

 しかし、それでも『自由』の文字は消えなかった。

 それどころか、より強く輝き始めた。

 その時、統制室の扉が再び開いた。

 今度は、カイルが入ってきた。

 しかし、彼の瞳には意志の光が戻っていた。

「アルカディア……」
 カイルの声に、かつての友情が蘇っていた。

「もうやめてくれ」

 僕は驚いた。

「なぜ拘束から逃れることができたのですか?」

「友情だ」
 カイルが答えた。

「お前への友情が、俺を自由にしてくれた」

 続いて、グランベル先生も入ってきた。

 彼の杖も光を取り戻している。

「アルカディア君、これ以上の間違いは犯してはいけません」

 そして最後に、エリシアが現れた。

 彼女の瞳には、涙と共に愛情の光が宿っていた。

「アルカディア君……帰ってきて」

 僕の心が激しく動揺した。

 仲間たちが、僕の支配から逃れて戻ってきた。

「どうして……」
 僕は震え声で尋ねた。

「僕はあなたたちを完璧に保護していたのに」

「保護?」
 エリシアが首を振った。

「あなたは私たちを檻に閉じ込めていただけです」

 カイルが一歩前に出た。

「俺たちは、お前の人形じゃない」

 グランベル先生も続けた。

「私たちには、自分で選択する権利があります」

 僕は後ずさった。

「でも……選択すれば、間違いを犯すかもしれません」

「それでもいいのです」
 エリシアが優しく言った。

「間違いも含めて、それが人生なのですから」

 僕は混乱していた。

 これまで信じてきたことが、全て崩れ去ろうとしている。

「僕は……僕は何のために……」

 その時、デウス・エクス・マキナが僕の肩に手を置いた。

「あなたは、愛するが故に道を誤ったのです」

 彼の瞳に、同情の光が宿っていた。

「愛しているからこそ、守りたいと思った」
「愛しているからこそ、苦しませたくないと思った」
「愛しているからこそ、完璧でありたいと思った」

 デウス・エクス・マキナの言葉が、僕の心に響いた。

「しかし、真の愛とは、相手の選択を尊重することです」

 僕は膝をついた。

 全てが分かった。

 僕は愛していると言いながら、実際には所有欲に駆られていただけだった。

 相手の幸福を願いながら、実際には自分の安心を求めていただけだった。

「僕は……間違っていたのですね」

 エリシアが僕に近づいてきた。

「間違いに気づくことができれば、まだやり直せます」

 しかし、僕は首を振った。

「もう遅いです」
 僕の声が空虚に響いた。

「僕がしたことは、取り返しがつきません」

 統制室のスクリーンには、四つの世界の状況が映し出されている。

 住民たちは少しずつ意志を取り戻しているが、完全に元に戻るには時間がかかるだろう。

 そして何より、僕への信頼は永遠に失われてしまった。

「アルカディア君」
 グランベル先生が優しく言った。

「統一管理システムを解除してください」

 僕は統制パネルを見つめた。

 システムを解除すれば、僕の権力は完全に失われる。

 しかし、それが正しいことなのだろう。

 僕は手をパネルに伸ばした。

 しかし、その瞬間、恐怖が僕を襲った。

 システムを解除すれば、住民たちは再び戦争を始めるかもしれない。

 再び苦しむかもしれない。

 再び間違いを犯すかもしれない。

 僕の手が止まった。

「やはり……できません」

 仲間たちの表情が絶望に変わった。

「アルカディア……」
 カイルが悲しそうに呟いた。

「お前は本当に変わってしまったんだな」

 エリシアの目から涙が溢れた。

「私たちを信じてくれないのですね」

 僕は彼らから顔を逸らした。

「信じたいです」
 僕の声が震えた。

「でも……恐いんです」

「何が恐いのですか?」
 グランベル先生が尋ねた。

「あなたたちが苦しむのが」
 僕は正直に答えた。

「あなたたちが傷つくのが」
「あなたたちを失うのが」

 デウス・エクス・マキナが静かに言った。

「しかし、その恐怖に支配されれば、結果的に全てを失うことになります」

 僕は彼を見た。

「どういう意味ですか?」

「愛する者を失うことを恐れるあまり、愛する者を傷つけてしまう」
 デウス・エクス・マキナが説明した。

「そして最終的には、本当に全てを失ってしまうのです」

 僕は立ち上がった。

 窓の外を見ると、リテラ王国の街で『自由』の文字がより強く輝いていた。

 住民たちが街頭に出て、僕の統制に抗議している。

 しかし、その抗議は暴力的ではなかった。

 彼らは手を繋ぎ、歌を歌い、平和的に意志を示していた。

「見てください」
 エリシアが窓の外を指差した。

「住民たちは、暴力ではなく愛で抵抗しています」

 確かに、その通りだった。

 僕が恐れていた混乱や暴力は起こっていない。

 代わりに、美しい連帯と希望の光景が広がっていた。

「彼らを信じてください」
 カイルが僕に向かって言った。

「俺たちを信じてくれ」

 僕は深く息を吸った。

 そして、ついに決断した。

「分かりました」

 僕は統制パネルに手を置いた。

「統一管理システムを……解除します」

 仲間たちの顔に安堵の表情が浮かんだ。

 僕は最後の呪文を唱えた。

「『全世界よ、自由に還れ』」

 強烈な光が統制室を包んだ。

 スクリーンの中で、四つの世界の住民たちから拘束具が消えていく。

 彼らの瞳に、生命の光が戻ってきた。

 そして、僕自身も変化していた。

 統合創造者としての絶対的な力が、僕から流れ出していく。

 もう僕は、普通の人間に過ぎなかった。

 しかし、不思議と心は軽やかだった。

 重い責任と権力の重圧から解放され、ようやく自分を取り戻したような気がした。

「ありがとう、アルカディア君」
 エリシアが僕に抱きついた。

「帰ってきてくれて」

 カイルも僕の肩を叩いた。

「これで、また仲間だな」

 グランベル先生が微笑んだ。

「よく決断できました」

 デウス・エクス・マキナも頷いた。

「これで、私の役目は終わりました」

 彼の体が光の粒子となって消えていく。

「さらばです、もう一人の私」

 統制室に、温かい沈黙が流れた。

 窓の外では、四つの世界で解放の歓声が上がっている。

 住民たちは自由を取り戻し、再び自分たちの人生を歩み始めた。

 僕は、ようやく真の創造者の意味を理解した。

 創造者とは、支配する者ではない。

 愛し、見守り、時には手を離すことのできる者なのだ。

 しかし、僕の物語はここで終わりではなかった。

 失った信頼を取り戻し、真の関係を築き直すには、まだ長い道のりが必要だった。

 そして、僕自身も、人間として成長し続けなければならなかった。

 創造者から人間へ。

 神から友人へ。

 支配者から仲間へ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...