言葉がチートスキルになった世界で、僕だけが黙示録を書き換える破神構文。創造者と被造者の黙示録

みにぶた🐽

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創造者の崩壊

第5章  覗かれる物語

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 自己分析を始めて三週間が経った。
 僕は毎夜、図書館の最奥部にある小さな個人研究室で、心理魔法学の技法を使って自分の内面と向き合っていた。

 『精神鏡視の術』と呼ばれる魔法により、自分の記憶や感情を客観的に観察することができる。それは時として苦痛を伴う作業だったが、確実に自己理解は深まっていた。

 今夜も、僕は水晶球の前に座り、呪文を唱えた。

「『心よ、真実の姿を映せ』」

 水晶球の中に、僕の記憶が浮かび上がった。

 エリシアと初めて出会った時の記憶。彼女が僕に向けた優しい笑顔。あの時、僕は確かに心を動かされた。

 しかし、その記憶を詳しく見つめていると、奇妙なことに気がついた。

 記憶の中の風景が、まるで舞台装置のように見えるのだ。

 背景の建物は完璧すぎるほど整然としており、光の加減も不自然なほど美しい。まるで、誰かが意図的に演出したかのような……。

 僕は眉をひそめた。

 記憶とは、通常もっと曖昧で断片的なものではないだろうか?

 しかし、僕の記憶は妙に鮮明で、まるで小説の一場面のように完結している。

 次に、カイルとの友情の記憶を探った。

 初めて会った時、剣の稽古をした時、困難を共に乗り越えた時。

 ここでも同じ違和感があった。

 僕たちの会話は、どれも妙に完成度が高い。まるで、誰かが台本を書いたかのような自然さと深さを併せ持っている。

 現実の会話は、もっとぎこちなく、不完全なものではないだろうか?

 そして、最も奇妙だったのは、グランベル先生との師弟関係の記憶だった。

 先生の教えは常に的確で、僕の成長にとって必要なタイミングで必要な言葉をかけてくれる。

 まるで、僕の成長を促すために設計されたキャラクターのように……。

 僕は水晶球から手を離した。

 心臓が激しく鼓動している。

 恐ろしい可能性が頭をよぎった。

 もしかすると、僕の記憶は……僕の人生は……。

 その時、研究室の扉がノックされた。

「アルカディア君、まだ起きているのですか?」

 グランベル先生の声だった。

 僕は慌てて水晶球を片付けた。

「はい、先生。少し研究をしていました」

 先生が入ってきた。

「遅い時間ですね。体調を崩してはいけませんよ」

 先生の優しい眼差しを見て、僕の疑念は一層深まった。

 なぜ先生は、いつも僕にとって完璧なタイミングで現れるのだろう?

 なぜ先生の言葉は、いつも僕の心境にぴったりと寄り添うのだろう?

「先生」
 僕は恐る恐る尋ねた。

「僕たちの出会いについて、もう一度聞かせてもらえませんか?」

 先生が少し戸惑ったような表情を浮かべた。

「出会い、ですか?」

「はい。最初に僕がこの世界に来た時のことです」

 先生は椅子に座って、ゆっくりと話し始めた。

「あなたは突然、学院の保健室で目を覚ましました。記憶が曖昧で、混乱していた」

 僕は先生の話を注意深く聞いた。

 確かに、その通りの記憶がある。

 しかし、今思い返すと、その「記憶の曖昧さ」さえも、妙に都合が良すぎるように感じられた。

「先生、僕について知らないことはありますか?」

「知らないこと?」

「僕の過去、性格、能力について、先生が知らない部分があるでしょうか?」

 先生は長い間考え込んでいた。

 そして、困ったような表情を浮かべた。

「不思議ですね。考えてみると、あなたについて知らないことが思い浮かばないのです」

 僕の血が凍った。

「それは……」

「まるで、最初からあなたのことを完全に理解していたかのような……」

 先生自身も、自分の発言に困惑しているようだった。

 僕は立ち上がった。

「先生、失礼します。少し一人になりたいのです」

「アルカディア君……」

 僕は研究室を出て、学院の屋上に向かった。

 夜風が頬を撫でていく。

 二つの月が静かに輝いている。

 僕は手すりにもたれかかり、深く考え込んだ。

 もしかすると、僕が思っている「転生」は、実際には転生ではないのかもしれない。

 もしかすると、僕は最初からこの世界のキャラクターで、現代世界の記憶は偽物なのかもしれない。

 いや、それよりもさらに恐ろしい可能性が……。

 僕が創造したと思っているこの世界が、実際には誰か別の存在によって創造されたものだとしたら?

 そして、僕自身も含めて、全てがその存在の想像の産物だとしたら?

 その時、背後で足音がした。

 振り返ると、エリシアが立っていた。

「アルカディア君……眠れないのですね」

 僕は彼女を見つめた。

 美しい顔立ち、優しい瞳、心配そうな表情。

 全てが完璧すぎる。

 まるで、誰かが「理想的なヒロイン」として設計したかのような……。

「エリシア」
 僕は震え声で尋ねた。

「君は、自分のことをどれくらい知っていますか?」

「自分のこと?」

「君の過去、家族、この世界に来る前のことです」

 エリシアは困惑した表情を浮かべた。

「それは……」

 彼女は長い間考え込んでいた。

 そして、顔色を変えた。

「思い出せません」

「思い出せない?」

「私の記憶は、あなたと出会った時から始まっているような気がします」

 僕の心臓が止まりそうになった。

「それより前の記憶は……まるで霧がかかったように曖昧で……」

 エリシアも、自分の発言に困惑しているようだった。

「これは一体……」

 僕は手すりを強く握った。

 恐ろしい可能性が頭をよぎった。

 僕が「創造者」だと思っていたが、実際には僕も誰かの創造物なのではないか?

 僕が「転生」したと思っている現代世界の記憶も、実は植え付けられた偽の記憶なのではないか?

 つまり、僕は創造者ではなく、より上位の存在によって「創造者だと思い込まされているキャラクター」なのではないか?

 僕は空を見上げた。

 星空の向こうに、巨大な目があるような気がした。

 僕たちを観察している、見えない存在の目が。

「誰ですか?」
 僕は空に向かって叫んだ。

「僕を『創造者』だと思い込ませているのは誰ですか?」

 エリシアが驚いて僕を見た。

「アルカディア君、どうしたのですか?」

 僕は彼女を振り返った。

 彼女の困惑した表情も、今となってはシナリオ通りのように見える。

「エリシア、君も感じませんか?」

「何を?」

「僕が『創造者』だと思っているこの感覚が、実は錯覚かもしれないという恐怖を」

 エリシアは首を振った。

 しかし、その瞬間、彼女の表情が変わった。

「まさか……」

 彼女も何かに気づいたようだった。

「確かに、時々感じることがあります」

「どんなことを?」

「自分の行動が、誰かに『読まれている』ような感覚」

 僕たちは顔を見合わせた。

 そして、同時に理解した。

 僕は創造者だと思い込んでいたが、実際には僕もまた、より上位の存在の創造物なのかもしれない。

 そして今、この瞬間も、その真の創造者が僕たちの物語を見ているのかもしれない。

 僕は再び空を見上げた。

「聞こえますか?」
 僕は声を張り上げた。

「真の創造者よ、僕の声が聞こえますか?」

 風が答えるように、強く吹いた。

 エリシアが僕の腕を掴んだ。

「アルカディア君、もしそれが本当なら……」

「本当なら?」

「あなたが創造者だと信じていたこの世界での体験も、全て……」

 僕は首を振った。

「違います」
 僕は確信を持って言った。

「たとえ僕が偽の創造者で、僕たちが上位存在の物語の一部だったとしても、僕たちの感情は本物です」

「どうして分かるのですか?」

「なぜなら、今この瞬間、僕は確実に君を愛していると感じているからです」

 エリシアの瞳が潤んだ。

「私も……私も同じです」

 僕たちは抱き合った。

 そして、僕は空の向こうの存在に向かって叫んだ。

「見ていますね?」

「僕たちの物語を創造し、読んでいますね?」

「でも、知ってください」

「僕は自分を創造者だと思っていました」

「でも、もしかすると僕もあなたの創造物かもしれません」

「それでも、僕たちの心は本物です」

「僕たちの愛は本物です」

「そして、僕たちは自分の意志で生きています」

 風が再び強く吹いた。

 まるで、答えるかのように。

 僕とエリシアは、月明かりの下で抱き合い続けた。

 物語の登場人物として。

 しかし、確実に本物の感情を持つ存在として。

 そして僕は知った。

 真の問題は、「僕が本当の創造者かどうか」ではない。

 真の問題は、「たとえ偽の創造者であっても、どう生きるか」ということなのだ。

 僕は新しい決意を固めた。

 たとえ僕が偽の創造者で、この世界での体験が全て誰かの物語の一部だったとしても、僕は僕らしく生きていく。

 愛し、成長し、選択し続けていく。

 なぜなら、それこそが「生きる」ということだから。

 物語の向こう側にいる存在よ。

 僕たちを見ていてください。

 僕たちがどれほど真剣に、この虚構の世界で本物の人生を歩んでいるかを。

 そして、いつか機会があれば、直接お話ししたいと思います。

 創造者と被造者として。

 ではなく、一個の存在同士として。

 夜風が、僕たちの決意を運んでいった。

 星空の向こう側へと。
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