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第1章:ステータス貸与・追放編
第5話 黄金の弾丸
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冒険者ギルド王都中央支部。
そこは野心と熱気が渦巻く、この国の心臓部と言える場所だ。だが、今のそこを支配しているのは、腐りかけた果実のような停滞感だった。
「ふざけるな! 鑑定ミスだ! この俺の聖剣が、なまくらなわけがあるか!」
中央ホールの鑑定デスク。アラスの怒号が、吹き抜けの天井に反響する。
彼の前には、かつて神々しい光を放っていたはずの『聖剣グラム』が置かれていた。だが、今のそれは、まるで数十年も墓場に放置されていたかのように錆びつき、刃こぼれが目立つ鉄の棒に成り果てている。
「アラス様、何度申し上げても同じです。魔力反応はゼロ。強度は一般的な鉄剣以下。……これは、ただの粗悪な模造品です」
「なまくらなわけがあるかぁぁっ!」
アラスが狂ったように叫び、デスクの鑑定士に掴みかかろうとする。
周囲の冒険者たちは、それを冷ややかな嘲笑で見守っていた。昨日までの英雄が、今はただの往生際の悪い無能。その転落を、誰もが心のどこかで楽しんでいた。
「……醜いな。借り物を返しただけで、ここまで空になるとは」
ギルドの重厚な二連扉を押し開け、俺は静かに足を踏み入れた。
俺の隣には、背筋を真っ直ぐに伸ばしたミィナ。そして、フードを深く被り、その下に隠しきれない気品を漂わせたエリーゼが続いている。
「ソ、ソラ……ッ! てめえ、よくも面を出しやがったな!」
俺の姿を認めるなり、アラスが血走った目で突進してきた。彼の後ろには、やつれた顔のリナとガルトも続いている。
彼はエリーゼの肩に手をかけ、没落貴族の売れ残りだと罵ろうとした。
アラスの手が、彼女のドレスに触れようとした、その瞬間だった。
バチンッ! と、乾いた衝撃音が響いた。
「ぐ、あぁぁぁっ!?」
アラスが突然、悲鳴を上げてその場にのけぞった。
エリーゼは何もしていない。ただ、アラスが踏み出した足元が、経年劣化で僅かに浮き上がっていたタイルの角に引っかかり、その勢いのまま、自らの肘を石柱に強打したのだ。
世界が、エリーゼを守る側に回った。説明じゃない、宣告として。
「あ、痛てぇ……! な、なんだ、今の……!?」
「……幸運が、お前を拒絶したんだよ」
俺はエリーゼを庇い、鑑定デスクに『原初の魔宝石』を置いた。
ギルド内の喧騒が、水を打ったように静まり返る。
暗い室内で、宝石はそれ自体が意思を持っているかのように、深みのある黄金の輝きを放っていた。鑑定士の老人が、持っていたルーペを床に落とした。
「こ、これは……まさか……」
「鑑定しろ。……エリーゼ・ヴァン・ゴールディングの名においてな」
エリーゼが震える手でフードを取った。
露わになったその美貌と、伝説の商家の名を耳にし、ギルド中がどよめきに包まれる。
鑑定士の手が、見たこともないほど激しく震え始める。彼は慌てて奥の小部屋へと走り、数分後、この支部の最高責任者――ギルドマスターを連れて戻ってきた。出てきたのは、顔に大きな傷跡のある、厳めしい大男だった。
「騒々しいぞ、何事だ。……っ!?」
ギルドマスターは、宝石を見るよりも先に、俺の顔を見て、その場で金縛りにあったように硬直した。
彼の瞳に宿ったのは、明らかな恐怖。
数秒の沈黙の後、彼は脂汗を流しながら、絞り出すような声で言った。
「……鑑定を続けろ。最優先だ。不備があれば、この支部の全員を首にすると思え」
その言葉に、ギルド中が凍りついた。
アラスたちは、その異常な空気に気圧され、言葉も出せずに立ち尽くしている。
やがて、鑑定結果が出た。鑑定士の声が、ホールに響く。
「……市場価値、測定不能。最低入札価格――」
「金貨、五万枚からと判定します」
五万枚。 アラスたちの借金を一万回返済してもお釣りが来る、天文学的な数字。
「ご、五万枚……? そんな、馬鹿な! そんなことがあるはずがない!」
アラスが、泡を食って叫んだ。
自分がゴミと呼んでいた荷物持ちが、一瞬で国を買い取れるほどの富を手にした現実を、彼は拒絶しようとしていた。
「盗んだんだ! そうだ、こいつがゴールディング家の残党と組んで、どこかから盗み出したに決まっている! ギルドマスター、今すぐこの犯罪者を捕らえろ!」
アラスが、狂乱状態で俺を指差す。
だが、ギルドマスターはアラスを一瞥もせず、ただ深く、深く俺に向かって頭を下げた。
「……無礼な発言、失礼いたしました。この宝石の正当な所有権は、ゴールディング家に帰属することを確認しました。……アラス・ルミナス。貴殿の発言は、当ギルドに対する侮辱とみなす」
「処理しろ」
ギルドマスターの冷徹な一言。
それは英雄の末路として、あまりに残酷な幕引きだった。
彼は最後まで、自分が“裁かれた”理由を理解できていなかった。
警備員たちが、抵抗するアラス、リナ、ガルトの三人を羽交い締めにする。
「離せ! ソラ、てめえぇぇ! 許さねえ、絶対に許さねえぞぉぉ!」
アラスの絶叫が遠ざかっていく。
その姿は、かつての英雄などではなく、ただの無様な敗北者そのものだった。
「……終わったんですね。本当に、すべてが……」
「いいえ、エリーゼ様。これはまだ、始まりですよ」
ミィナが、優しく、しかし確固たる意志を込めて言った。
俺はギルドマスターから渡された莫大な額の預かり証を受け取り、それをエリーゼに手渡した。
「エリーゼ。これで借金は完済だ。……だが、俺への利息は忘れるなよ」
「はい……ソラ様。この幸運、そして再生する商会のすべてを、あなたに捧げます」
視界が、青い火花で明滅した。
『――エリーゼ・ヴァン・ゴールディングの忠誠度が限界値を突破』
『利息:徴収条件が「選択」へと移行します』
俺はギルドの窓から、王都のさらに奥、白く輝く聖堂を見つめる。
因果の逆流は、すでに始まった。
そこには、エリーゼの不運を餌にしていた、本当の債務者たちがいるはずだ。
「さあ、取り立てを始めようか」
俺の呟きは、熱狂に包まれるギルドの中で、誰にも聞こえることなく消えていった。
そこは野心と熱気が渦巻く、この国の心臓部と言える場所だ。だが、今のそこを支配しているのは、腐りかけた果実のような停滞感だった。
「ふざけるな! 鑑定ミスだ! この俺の聖剣が、なまくらなわけがあるか!」
中央ホールの鑑定デスク。アラスの怒号が、吹き抜けの天井に反響する。
彼の前には、かつて神々しい光を放っていたはずの『聖剣グラム』が置かれていた。だが、今のそれは、まるで数十年も墓場に放置されていたかのように錆びつき、刃こぼれが目立つ鉄の棒に成り果てている。
「アラス様、何度申し上げても同じです。魔力反応はゼロ。強度は一般的な鉄剣以下。……これは、ただの粗悪な模造品です」
「なまくらなわけがあるかぁぁっ!」
アラスが狂ったように叫び、デスクの鑑定士に掴みかかろうとする。
周囲の冒険者たちは、それを冷ややかな嘲笑で見守っていた。昨日までの英雄が、今はただの往生際の悪い無能。その転落を、誰もが心のどこかで楽しんでいた。
「……醜いな。借り物を返しただけで、ここまで空になるとは」
ギルドの重厚な二連扉を押し開け、俺は静かに足を踏み入れた。
俺の隣には、背筋を真っ直ぐに伸ばしたミィナ。そして、フードを深く被り、その下に隠しきれない気品を漂わせたエリーゼが続いている。
「ソ、ソラ……ッ! てめえ、よくも面を出しやがったな!」
俺の姿を認めるなり、アラスが血走った目で突進してきた。彼の後ろには、やつれた顔のリナとガルトも続いている。
彼はエリーゼの肩に手をかけ、没落貴族の売れ残りだと罵ろうとした。
アラスの手が、彼女のドレスに触れようとした、その瞬間だった。
バチンッ! と、乾いた衝撃音が響いた。
「ぐ、あぁぁぁっ!?」
アラスが突然、悲鳴を上げてその場にのけぞった。
エリーゼは何もしていない。ただ、アラスが踏み出した足元が、経年劣化で僅かに浮き上がっていたタイルの角に引っかかり、その勢いのまま、自らの肘を石柱に強打したのだ。
世界が、エリーゼを守る側に回った。説明じゃない、宣告として。
「あ、痛てぇ……! な、なんだ、今の……!?」
「……幸運が、お前を拒絶したんだよ」
俺はエリーゼを庇い、鑑定デスクに『原初の魔宝石』を置いた。
ギルド内の喧騒が、水を打ったように静まり返る。
暗い室内で、宝石はそれ自体が意思を持っているかのように、深みのある黄金の輝きを放っていた。鑑定士の老人が、持っていたルーペを床に落とした。
「こ、これは……まさか……」
「鑑定しろ。……エリーゼ・ヴァン・ゴールディングの名においてな」
エリーゼが震える手でフードを取った。
露わになったその美貌と、伝説の商家の名を耳にし、ギルド中がどよめきに包まれる。
鑑定士の手が、見たこともないほど激しく震え始める。彼は慌てて奥の小部屋へと走り、数分後、この支部の最高責任者――ギルドマスターを連れて戻ってきた。出てきたのは、顔に大きな傷跡のある、厳めしい大男だった。
「騒々しいぞ、何事だ。……っ!?」
ギルドマスターは、宝石を見るよりも先に、俺の顔を見て、その場で金縛りにあったように硬直した。
彼の瞳に宿ったのは、明らかな恐怖。
数秒の沈黙の後、彼は脂汗を流しながら、絞り出すような声で言った。
「……鑑定を続けろ。最優先だ。不備があれば、この支部の全員を首にすると思え」
その言葉に、ギルド中が凍りついた。
アラスたちは、その異常な空気に気圧され、言葉も出せずに立ち尽くしている。
やがて、鑑定結果が出た。鑑定士の声が、ホールに響く。
「……市場価値、測定不能。最低入札価格――」
「金貨、五万枚からと判定します」
五万枚。 アラスたちの借金を一万回返済してもお釣りが来る、天文学的な数字。
「ご、五万枚……? そんな、馬鹿な! そんなことがあるはずがない!」
アラスが、泡を食って叫んだ。
自分がゴミと呼んでいた荷物持ちが、一瞬で国を買い取れるほどの富を手にした現実を、彼は拒絶しようとしていた。
「盗んだんだ! そうだ、こいつがゴールディング家の残党と組んで、どこかから盗み出したに決まっている! ギルドマスター、今すぐこの犯罪者を捕らえろ!」
アラスが、狂乱状態で俺を指差す。
だが、ギルドマスターはアラスを一瞥もせず、ただ深く、深く俺に向かって頭を下げた。
「……無礼な発言、失礼いたしました。この宝石の正当な所有権は、ゴールディング家に帰属することを確認しました。……アラス・ルミナス。貴殿の発言は、当ギルドに対する侮辱とみなす」
「処理しろ」
ギルドマスターの冷徹な一言。
それは英雄の末路として、あまりに残酷な幕引きだった。
彼は最後まで、自分が“裁かれた”理由を理解できていなかった。
警備員たちが、抵抗するアラス、リナ、ガルトの三人を羽交い締めにする。
「離せ! ソラ、てめえぇぇ! 許さねえ、絶対に許さねえぞぉぉ!」
アラスの絶叫が遠ざかっていく。
その姿は、かつての英雄などではなく、ただの無様な敗北者そのものだった。
「……終わったんですね。本当に、すべてが……」
「いいえ、エリーゼ様。これはまだ、始まりですよ」
ミィナが、優しく、しかし確固たる意志を込めて言った。
俺はギルドマスターから渡された莫大な額の預かり証を受け取り、それをエリーゼに手渡した。
「エリーゼ。これで借金は完済だ。……だが、俺への利息は忘れるなよ」
「はい……ソラ様。この幸運、そして再生する商会のすべてを、あなたに捧げます」
視界が、青い火花で明滅した。
『――エリーゼ・ヴァン・ゴールディングの忠誠度が限界値を突破』
『利息:徴収条件が「選択」へと移行します』
俺はギルドの窓から、王都のさらに奥、白く輝く聖堂を見つめる。
因果の逆流は、すでに始まった。
そこには、エリーゼの不運を餌にしていた、本当の債務者たちがいるはずだ。
「さあ、取り立てを始めようか」
俺の呟きは、熱狂に包まれるギルドの中で、誰にも聞こえることなく消えていった。
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