レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ

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第1章:ステータス貸与・追放編

第7話 利息の返済期限

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王都を包囲する巨大な防壁。 
その外側に広がる、湿り気を帯びた深い森の中で、俺たちは足を止めていた。頭上の月は不吉なほど赤く、木々を揺らす風の音が、地を這う亡者の呻き声のように耳にまとわりつく。

「……ソラ様。来ます。すごく、速い」

ミィナが腰の折れた木剣に手をかけ、闇を睨んだ。 
俺が貸与した敏捷値により、彼女の聴覚は常人の限界を超えている。数キロ先を駆ける馬蹄、鎧の擦れる不快な金属音――この国の精鋭、聖騎士団だ。

「ああ。聖域の連中だ。エリーゼから吸い上げていた“幸運”の逆流を止めようと、必死なんだろ」

俺は切り株に腰を下ろし、懐から漆黒の硬貨を一枚取り出す。 
金でも銀でもない。債務者の覚悟を測り、因果を確定させるための、俺自身の権能の欠片だ。

「……ミィナ。ままごとは終わりだ。最初の返済期限――デッドラインが来た」

「返済……期限?」

戦闘態勢だった彼女の声に、幼い不安が混じる。

「言ったはずだ。これは救済じゃない、投資だってな。お前は借りた力で生き延び、価値を上げた。だが力には維持費がかかる。――利息を払え」

俺の言葉と同時に、ミィナの足元に赤黒い紋様が浮かび上がる。 
瞬間、彼女の身体から熱量が奪われ、膝が崩れた。貸与ステータスが“未払い”として一時凍結されたのだ。

「あ、が……っ。力が……抜けて……身体が、重い……っ!」

「道は二つある」

俺は動けないミィナの前に立つ。 
闇の向こうに、松明の列が見え始めた。五十――今の彼女では到底相手取れない数だ。

「一つ。力を返上し、ただの獣人の娘に戻る。命だけは助かるだろう。 
 二つ。契約を更新する。だが今回の利息は、経験値じゃない」

俺は彼女の瞳を覗き込む。

「お前の“過去”だ。 
 死んだ両親との唯一の思い出――その温もりを差し出せば、聖騎士団を殲滅できる出力を貸す」

残酷な二択。無償の覚醒など、俺の契約には存在しない。

「……私は」

一瞬。 
ミィナの脳裏を、遠い日の温かいスープの匂いや、不器用だった父の掌の感触が、走馬灯のように駆け巡った。それは彼女という人間を形作る、最後の一片。

恐怖が彼女の喉を締め上げ、剣を握る指先が微かに震える。 
だが、その迷いも、迫り来る聖騎士たちの殺気が一気に塗り潰した。

「見つけたぞ、大罪人ソラ! 穢れた獣人め! 聖域の因果を乱した罪、その命で償え!」

団長が光を纏う長槍を突きつける。王国システム由来の、不当な魔力。

「……ミィナ。返答は」

「私は……あの日、ゴミ捨て場で死ぬはずでした。ソラ様が、価値があると言ってくれた……」

彼女は叫んだ。

「だったら……思い出なんて、要りません!」

涙は地面に落ちる前に蒸発した。

視界が、青い火花で明滅した。

『――契約更新完了』 
『利息:カテゴリー【郷愁】を凍結』 
『貸与出力:リミッター解除。全ステータス一万倍』

空気が凍る。 
ミィナから、黄金と黒が混ざった重たい魔力が溢れ出した。

「……ミィナ。取り立ての時間だ。一匹も残すな」

「……はい。ソラ様」

一歩踏み出しただけで、大地が陥没する。 
次の瞬間、彼女は消えた。

衝撃波だけで、最前列の聖騎士が鎧ごと砕け散る。

「陣を――」

団長の声は途中で途切れた。 
目の前には、無感情な瞳のミィナ。彼女は木剣を、軽く横に振る。

夜の森を、横一線の光が貫いた。

五十人と、巨木数百本が紙屑のように切断され、防壁まで到達する。 
生き残ったのは団長一人だけ。俺が“回収先”として残した。

「……何者、だ……」

「楯突いた? 違うな」

俺はミィナの頭を撫でる。

「不当に使い込まれた資産を、回収しに来ただけだ」

「……私、静かです。胸の奥の温かい何かが……思い出せません」

「それでいい。力を得た証拠だ」

視界に、再び火花が散った。

『魂の適応率40%超過』 
『副次効果:共感性減衰。複利計算開始』

俺は団長の首を掴んだ。

「教皇に伝えろ。返済猶予は三十日。揃えられなければ――」

切り裂かれた防壁を見据える。

「この国ごと、不良債権として処分する」

死臭漂う森で、ミィナは俺の影に寄り添っていた。 
折れた木剣は、徴収した過去を吸い込み、鈍い黄金色に輝いている。
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