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第1章:ステータス貸与・追放編
第11話 清算の火、再建の盾
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王都は、一晩にして「地獄」へと姿を変えていた。
昨日まで夜道を照らしていた魔導灯はことごとく沈黙し、奇跡の恩恵で病を癒やしていた者たちは、反動による激痛にのたうち回っている。
『聖域』が停止したことで、この国が無理に前借りしていた千年の繁栄は、猛烈な勢いで「負債」として民衆に降り注いでいた。
路地裏では飢えた者たちが暴徒化し、至る所で奪い合いが始まっている。
だが、その混沌のただ中で、一点だけ異質な「静寂」を保つ場所があった。
没落したはずのゴールディング邸。
そこを中心とした半径数百メートルの区画だけが、夜の闇を払う透き通った青い光の膜――『再建の盾』によって保護されていた。
「助けてくれ! 頼む、中に入れてくれ!」
「金ならある! どんな端金でも払う、子供だけでも助けてくれ!」
光の膜の外側。縋り付く民衆の叫びが、結界に跳ね返されて消えていく。
俺は屋敷のバルコニーから、その無機質な絶望を眺めていた。
「……ソラ様。現在、外郭に集まっている避難民は三千を超えました。騎士団の残党も数名、武器を捨てて慈悲を乞うております」
背後に立つエリーゼが、手にした羊皮紙をめくりながら淡々と告げる。
彼女の指には、市場から回収したばかりの莫大な富を象徴する、新たな宝飾品が輝いていた。
「慈悲、か。彼らはまだ、自分たちが『破産した』という現実を認めたくないらしいな」
「はい。彼らが求めているのは『救済』です。……無償の、愛という名の踏み倒しを」
エリーゼの微笑には、以前のような迷いはなかった。
彼女は、自分が振るった幸運の裏側で、誰が不運を肩代わりしているかを知った。 そして、その「肩代わり」をさせる側の冷徹さを、すでに身につけている。
「ミィナ。……『徴収』を始めろ」
俺の短い命令に応え、バルコニーの影からミィナが音もなく飛び出した。
彼女が光の膜の外へと降り立つと、殺気立った民衆が一瞬で静まり返る。
一振りで防壁を断ち切ったその少女の「正体」を、彼らは本能で察知していた。
彼女はもう、単なる剣ではない。契約を破った者を処理する、冷徹な『秩序』そのものだった。
「……静かに。ソラ様が、条件を提示します」
ミィナの声が、騒乱の王都に冷たく響き渡る。
俺は一歩前へ出た。
「聞きなさい、負債者諸君」
俺の声には、魔力を乗せていない。
だが、今の王都で最も『価値』を持つ者の言葉として、それは何者よりも重く響いた。
「俺に『救済』を求めるのは筋違いだ。俺はあそこにいる教皇や公爵とは違う。……俺は、あんたたちの命にすら価値を付ける『貸主』だ」
ざわめきが広がる。だが、俺はそれを一喝するように続けた。
「ここから先、この結界の中に入りたい者は、新たな契約書にサインしろ。……俺が与えるのは『安全』と『食料』。そして――働いた分だけ、確実に返ってくる『未来』だ」
「未来……だと?」
群衆の中から戸惑いの声が漏れる。
「そうだ。血筋も身分も関係ない。俺のシステムに利益をもたらす者には、相応の配分を約束する。……その代価として、あんたたちの今後の人生、そして魂の運用権を、俺に一括で『譲渡』してもらう」
俺は懐から、漆黒の契約書を取り出し、宙に放り投げた。
契約書は結界の表面に張り付き、不気味な青いログを周囲に撒き散らす。
視界に、整然としたシステム言語が流れた。
『――新秩序:ゴールディング経済圏(プロビジョナル)の構築を開始』
『第一期債務整理:対象者の生活圏を担保に設定』
『リスク評価:SSS。……再建コストを全額、債務者に転嫁します』
「選べ。外で飢えて、かつての王国の借金を背負ったまま死ぬか。……それとも、俺の『資産』として、新たな秩序の中で生き直すか。……返済猶予は、あと五分だ」
沈黙。
そして、一人が膝をつき、血の滲む指で契約書に触れた。
それを合図に、雪崩を打ったように人々が契約へと殺到する。
ミィナが冷徹に、サインをした者だけを膜の内側へと導いていく。
その光景を、俺は冷めた瞳で見下ろしていた。
「……ソラ様。これで王都の人口の二割が、あなたの『私有財産』となりました」
エリーゼが、満足げに帳簿を閉じる。
「ああ。清算の次は、再建(リストラ)だ。……ミィナ。騎士団の残党で、まだ使える奴を連れてこい。新しい秩序には、少しばかりの『暴力』が必要だからな」
燃え盛る王都を背に、俺の『再建計画』は始まった。
これは救済ではない。
崩壊した世界を、より効率的に、より残酷に管理するための、新たな支配の形。
貸主(オーナー)としての俺の時代が、今、幕を開けようとしていた。
昨日まで夜道を照らしていた魔導灯はことごとく沈黙し、奇跡の恩恵で病を癒やしていた者たちは、反動による激痛にのたうち回っている。
『聖域』が停止したことで、この国が無理に前借りしていた千年の繁栄は、猛烈な勢いで「負債」として民衆に降り注いでいた。
路地裏では飢えた者たちが暴徒化し、至る所で奪い合いが始まっている。
だが、その混沌のただ中で、一点だけ異質な「静寂」を保つ場所があった。
没落したはずのゴールディング邸。
そこを中心とした半径数百メートルの区画だけが、夜の闇を払う透き通った青い光の膜――『再建の盾』によって保護されていた。
「助けてくれ! 頼む、中に入れてくれ!」
「金ならある! どんな端金でも払う、子供だけでも助けてくれ!」
光の膜の外側。縋り付く民衆の叫びが、結界に跳ね返されて消えていく。
俺は屋敷のバルコニーから、その無機質な絶望を眺めていた。
「……ソラ様。現在、外郭に集まっている避難民は三千を超えました。騎士団の残党も数名、武器を捨てて慈悲を乞うております」
背後に立つエリーゼが、手にした羊皮紙をめくりながら淡々と告げる。
彼女の指には、市場から回収したばかりの莫大な富を象徴する、新たな宝飾品が輝いていた。
「慈悲、か。彼らはまだ、自分たちが『破産した』という現実を認めたくないらしいな」
「はい。彼らが求めているのは『救済』です。……無償の、愛という名の踏み倒しを」
エリーゼの微笑には、以前のような迷いはなかった。
彼女は、自分が振るった幸運の裏側で、誰が不運を肩代わりしているかを知った。 そして、その「肩代わり」をさせる側の冷徹さを、すでに身につけている。
「ミィナ。……『徴収』を始めろ」
俺の短い命令に応え、バルコニーの影からミィナが音もなく飛び出した。
彼女が光の膜の外へと降り立つと、殺気立った民衆が一瞬で静まり返る。
一振りで防壁を断ち切ったその少女の「正体」を、彼らは本能で察知していた。
彼女はもう、単なる剣ではない。契約を破った者を処理する、冷徹な『秩序』そのものだった。
「……静かに。ソラ様が、条件を提示します」
ミィナの声が、騒乱の王都に冷たく響き渡る。
俺は一歩前へ出た。
「聞きなさい、負債者諸君」
俺の声には、魔力を乗せていない。
だが、今の王都で最も『価値』を持つ者の言葉として、それは何者よりも重く響いた。
「俺に『救済』を求めるのは筋違いだ。俺はあそこにいる教皇や公爵とは違う。……俺は、あんたたちの命にすら価値を付ける『貸主』だ」
ざわめきが広がる。だが、俺はそれを一喝するように続けた。
「ここから先、この結界の中に入りたい者は、新たな契約書にサインしろ。……俺が与えるのは『安全』と『食料』。そして――働いた分だけ、確実に返ってくる『未来』だ」
「未来……だと?」
群衆の中から戸惑いの声が漏れる。
「そうだ。血筋も身分も関係ない。俺のシステムに利益をもたらす者には、相応の配分を約束する。……その代価として、あんたたちの今後の人生、そして魂の運用権を、俺に一括で『譲渡』してもらう」
俺は懐から、漆黒の契約書を取り出し、宙に放り投げた。
契約書は結界の表面に張り付き、不気味な青いログを周囲に撒き散らす。
視界に、整然としたシステム言語が流れた。
『――新秩序:ゴールディング経済圏(プロビジョナル)の構築を開始』
『第一期債務整理:対象者の生活圏を担保に設定』
『リスク評価:SSS。……再建コストを全額、債務者に転嫁します』
「選べ。外で飢えて、かつての王国の借金を背負ったまま死ぬか。……それとも、俺の『資産』として、新たな秩序の中で生き直すか。……返済猶予は、あと五分だ」
沈黙。
そして、一人が膝をつき、血の滲む指で契約書に触れた。
それを合図に、雪崩を打ったように人々が契約へと殺到する。
ミィナが冷徹に、サインをした者だけを膜の内側へと導いていく。
その光景を、俺は冷めた瞳で見下ろしていた。
「……ソラ様。これで王都の人口の二割が、あなたの『私有財産』となりました」
エリーゼが、満足げに帳簿を閉じる。
「ああ。清算の次は、再建(リストラ)だ。……ミィナ。騎士団の残党で、まだ使える奴を連れてこい。新しい秩序には、少しばかりの『暴力』が必要だからな」
燃え盛る王都を背に、俺の『再建計画』は始まった。
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