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第1章:銀河創生編
第13話 隣国からの使者
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王都の北、かつての街道を塞ぐ『再建の盾』の境界線に、鋼の光沢を放つ一団が現れた。
隣国・バルディア帝国の外交使節団。だが、その実態は重装騎兵を百名以上も伴った、事実上の「武装調査隊」である。
彼らは崩壊した王都の惨状を馬上で眺め、鼻で笑いながら、結界の膜を隔てて俺たちを待っていた。
「私はバルディア帝国特使、ローランド伯爵である! この地を実効支配しているという僭越なる管理人に告ぐ! 速やかに門を開け、帝国の『慈悲ある管理』を受け入れよ!」
馬上で朗々と宣言するローランドの瞳には、飢えたハイエナのような欲望が透けて見えた。
彼らにとって、今の王都は主を失った広大な空き地であり、略奪し放題の宝物庫に過ぎないのだろう。
俺はバルコニーに腰掛け、エリーゼが淹れた最高級の茶を啜った。
「エリーゼ。……あの男、バルディア帝国の財政状況はどうなっている」
「バルディア帝国……ですね。軍備の過剰投資により、外債が膨らんでいます。実態は属州からの搾取を利益として計上しているだけの、綱渡りの自転車操業。信用格付けで言えば、Bマイナスといったところでしょうか」
「……ゴミだな」
俺は立ち上がり、境界線の最前線へと歩みを進めた。
背後には、無感情な瞳で木剣を握るミィナが寄り添っている。
「名乗るほどでもない。俺はこの領域の管理主だ。……ローランドと言ったか。あんたの国が提示する『慈悲』とやら、具体的な利息を言ってみろ」
俺の声に、ローランドが不快そうに眉をひそめた。
「利息だと? 貴様、何を勘違いしている。帝国がこの地の無秩序を鎮めてやるのだ。報酬として、その結界の魔導技術、および保管されている魔宝石のすべてを差し出すのは当然の義務だろう」
「……なるほど。投資ではなく、略奪の提案か」
俺は小さく息を吐き、視界をシステム画面へと切り替えた。
視界に、バルディア帝国全土の因果と負債が、膨大な数値となって浮かび上がる。粉飾された黒字、老朽化した軍備、そして奪われた属州の怨念。
「ローランド。あんたの国、見た目よりもボロボロだな。……あと三ヶ月もすれば、北の蛮族への支払いが滞り、内乱が起きる計算だぞ」
「な……!? 貴様、なぜそれを……ッ!」
「自分の足元が燃えているのに、他人の火事を心配するとは。……いいだろう、ローランド。せっかくここまで来たんだ。俺から新たな『融資案』を提示してやる。帝国が抱えている外債、および内乱の火種。それらすべて、俺が『肩代わり』してやってもいいぞ」
「……正気か?」
ローランドの声が震えた。個人が国家規模の負債を肩代わりするなど、正気の沙汰ではない。
「ただし、担保はバルディア帝国全土の『主権』だ。……お前の皇帝に伝えろ。俺の靴を舐めて融資を乞うか、あるいは、三ヶ月後に国家デフォルト(支払い不能)に沈むか。……選ぶのはどっちだ?」
「貴様ぁぁっ! 帝国を愚弄するか!」
激高したローランドが右手を振り下ろした。
百人の重装騎兵が結界に向けて突撃を開始する。その先端には、膜を物理的に食い破るための魔導兵器『破城槌』が展開されていた。
だが。
「ミィナ。……新規の債務者候補が、少し騒がしい。……黙らせろ」
「……了解」
ミィナが一歩、前に出た。
彼女が木剣の鞘を地面に軽く突き立てた瞬間、王都全域の『再建エネルギー』が彼女の右腕に収束する。
爆発音すらなかった。
境界線から外側、数百メートルの大地が、突如として数メートル「陥没」したのだ。
突撃していた騎兵たちは、馬ごと奈落の底へと飲み込まれ、唯一生き残ったローランドだけが、地面の縁にしがみついていた。
「ひ、あ、あぁ……っ!?」
「いい目だ、ローランド。それが絶望に沈む、負債者の顔だ」
俺は陥没した穴の縁に立ち、無様に縋り付く特使を見下ろした。
彼の脳裏に浮かんだのは、帝国の栄光ではない。「この男に、皇帝を会わせてはいけない」という、純粋な恐怖だった。
「命だけは貸しておいてやる。……次に来る時は、使者としてではなく『物乞い』として来るんだな」
ミィナが指を鳴らすと、帝国の騎士たちの装備が磁石に吸い寄せられるようにこちらへと飛んできた。
【システムログ】
『徴収完了:帝国製最高級魔導鎧 105領、金貨 25,000枚』
『再建エネルギー充填率:18%』
『ターゲット:バルディア帝国(要注意債務者)』
「ソラ様。……随分と、実入りの良い挨拶でしたね」
「ああ。隣国という名の、巨大な不良債権が市場に出てきた」
世界は広すぎる。
だが、不良債権は、必ずどこかに帳簿として残る。
隣国・バルディア帝国の外交使節団。だが、その実態は重装騎兵を百名以上も伴った、事実上の「武装調査隊」である。
彼らは崩壊した王都の惨状を馬上で眺め、鼻で笑いながら、結界の膜を隔てて俺たちを待っていた。
「私はバルディア帝国特使、ローランド伯爵である! この地を実効支配しているという僭越なる管理人に告ぐ! 速やかに門を開け、帝国の『慈悲ある管理』を受け入れよ!」
馬上で朗々と宣言するローランドの瞳には、飢えたハイエナのような欲望が透けて見えた。
彼らにとって、今の王都は主を失った広大な空き地であり、略奪し放題の宝物庫に過ぎないのだろう。
俺はバルコニーに腰掛け、エリーゼが淹れた最高級の茶を啜った。
「エリーゼ。……あの男、バルディア帝国の財政状況はどうなっている」
「バルディア帝国……ですね。軍備の過剰投資により、外債が膨らんでいます。実態は属州からの搾取を利益として計上しているだけの、綱渡りの自転車操業。信用格付けで言えば、Bマイナスといったところでしょうか」
「……ゴミだな」
俺は立ち上がり、境界線の最前線へと歩みを進めた。
背後には、無感情な瞳で木剣を握るミィナが寄り添っている。
「名乗るほどでもない。俺はこの領域の管理主だ。……ローランドと言ったか。あんたの国が提示する『慈悲』とやら、具体的な利息を言ってみろ」
俺の声に、ローランドが不快そうに眉をひそめた。
「利息だと? 貴様、何を勘違いしている。帝国がこの地の無秩序を鎮めてやるのだ。報酬として、その結界の魔導技術、および保管されている魔宝石のすべてを差し出すのは当然の義務だろう」
「……なるほど。投資ではなく、略奪の提案か」
俺は小さく息を吐き、視界をシステム画面へと切り替えた。
視界に、バルディア帝国全土の因果と負債が、膨大な数値となって浮かび上がる。粉飾された黒字、老朽化した軍備、そして奪われた属州の怨念。
「ローランド。あんたの国、見た目よりもボロボロだな。……あと三ヶ月もすれば、北の蛮族への支払いが滞り、内乱が起きる計算だぞ」
「な……!? 貴様、なぜそれを……ッ!」
「自分の足元が燃えているのに、他人の火事を心配するとは。……いいだろう、ローランド。せっかくここまで来たんだ。俺から新たな『融資案』を提示してやる。帝国が抱えている外債、および内乱の火種。それらすべて、俺が『肩代わり』してやってもいいぞ」
「……正気か?」
ローランドの声が震えた。個人が国家規模の負債を肩代わりするなど、正気の沙汰ではない。
「ただし、担保はバルディア帝国全土の『主権』だ。……お前の皇帝に伝えろ。俺の靴を舐めて融資を乞うか、あるいは、三ヶ月後に国家デフォルト(支払い不能)に沈むか。……選ぶのはどっちだ?」
「貴様ぁぁっ! 帝国を愚弄するか!」
激高したローランドが右手を振り下ろした。
百人の重装騎兵が結界に向けて突撃を開始する。その先端には、膜を物理的に食い破るための魔導兵器『破城槌』が展開されていた。
だが。
「ミィナ。……新規の債務者候補が、少し騒がしい。……黙らせろ」
「……了解」
ミィナが一歩、前に出た。
彼女が木剣の鞘を地面に軽く突き立てた瞬間、王都全域の『再建エネルギー』が彼女の右腕に収束する。
爆発音すらなかった。
境界線から外側、数百メートルの大地が、突如として数メートル「陥没」したのだ。
突撃していた騎兵たちは、馬ごと奈落の底へと飲み込まれ、唯一生き残ったローランドだけが、地面の縁にしがみついていた。
「ひ、あ、あぁ……っ!?」
「いい目だ、ローランド。それが絶望に沈む、負債者の顔だ」
俺は陥没した穴の縁に立ち、無様に縋り付く特使を見下ろした。
彼の脳裏に浮かんだのは、帝国の栄光ではない。「この男に、皇帝を会わせてはいけない」という、純粋な恐怖だった。
「命だけは貸しておいてやる。……次に来る時は、使者としてではなく『物乞い』として来るんだな」
ミィナが指を鳴らすと、帝国の騎士たちの装備が磁石に吸い寄せられるようにこちらへと飛んできた。
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