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第1章:銀河創生編
第19話 教皇庁、最後の粉飾決算
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聖教国セレスティアの本山、大聖堂の奥深く。
かつて世界で最も価値があると謳われた黄金の回廊には、今や祈りの静謐(せいひつ)はなく、ただ破産を待つ組織特有の、冷たく淀んだ腐臭だけが漂っていた。
「……信じられん。五万の十字軍が、一瞬で『無効化』されただと?」
教皇庁の最奥、玉座に座る教皇グレゴリオは、震える手で決算報告書を握りつぶした。
彼の前には、輝きを失い、ただの古紙へと成り下がった『信仰債券』の山。
国を支えてきた「信徒の祈り」という名の通貨は、ソラの介入によって一夜にしてハイパーインフレを起こし、紙屑と化していた。
「陛下、もはや隠し通せません! 聖都の全銀行が取り付け騒ぎを起こし、民衆は自分たちの『加護』が消えたことに気づき始めています。……我が国は、完全なデフォルト(不渡り)に陥りました!」
財務枢機卿が、床に額を擦りつけながら絶叫する。
セレスティアは数世紀にわたり、「神の愛」という実体のない資産を担保に、未来の因果を前借りし続けてきた。その虚飾の帳簿が、ソラという名の「正当な監査人」の手によって、白日の下に晒されたのだ。
「……まだだ。まだ、最後の『資金調達』が残っている」
教皇の瞳に、濁った狂気が宿る。
彼は玉座の裏に隠された、禁忌の地下祭壇――「負債の墓場」へと続く扉を開けた。
「神よ。我が国の全霊、全土、全歴史を担保に、最大融資を要求する。……『神降ろし』の執行だ!」
それは、神の権能を現世に引きずり出す、禁断のリファイナンス。
発動すれば国家の未来は一瞬で燃え尽きるが、その刹那だけは絶対的な力を手にできる。国を心中させてでも「不都合な監査人」を消し去ろうとする、経営者の末路だった。
その時。
地下祭壇の重厚な石門が、物理的な衝撃ではなく、「契約の無効化」によって音もなく崩壊した。
「――無駄だ、教皇。その資産は、すでに俺が『仮差し押さえ』を済ませている」
静寂の中、冷徹な靴音が響く。
現れたのは、漆黒の帳簿を手に携えたソラ。
そしてその傍らには、黄金の眼光で因果の歪みを監視するミィナと、冷静に「目録」をチェックするエリーゼが控えていた。
「き、貴様……っ! 不信心者の分際で、ここが神の心臓部だと知っての狼藉か!」
「神の心臓? いいえ。ここは『過剰融資のゴミ捨て場』ですよ」
エリーゼが、祭壇に渦巻く魔力の正体を冷ややかに指摘する。
彼女の持つ『因果スコープ』には、神の力などではなく、数千年にわたって積み上げられた「民衆からの未払い負債」が、真っ黒なヘドロのように映し出されていた。
「教皇。あんたは『神』を盾にすれば、どんな負債も踏み倒せると信じていた。だが、俺が管理する新秩序において、聖域(サンクチュアリ)などという名の治外法権は存在しない」
ソラが、一歩前に出る。
教皇が狂ったように「神降ろし」の詠唱を叫ぶが、空間を支配したのは、無慈悲なシステムログだった。
『――不当契約の試行を検知』
『担保(セレスティア全土)の所有権は、すでにソラ個体へ移転済みです』
『判定:教皇グレゴリオによる「資産隠し」と定義。強制執行を開始します』
「な……が、がはっ!?」
教皇の身体から、彼が「神の代理人」として着服していた膨大な因果の光が、強制的に剥ぎ取られていく。
それは治癒の力であり、長寿の源であり、彼の存在そのものを支えていた「借り物の輝き」だった。
「ミィナ。……執行しろ。教皇庁の全機能を停止させ、その全資産を『再建リソース』へと変換(コンバート)しろ」
「……了解。……清算、開始」
ミィナが、一切の情を排して木剣を一閃させる。
地下祭壇の闇を黄金の断層が切り裂き、教皇庁が数世紀かけて溜め込んできた「信仰の貯蓄」が、純粋なエネルギーへと還元され、ソラの帳簿へと吸い込まれていった。
教皇グレゴリオは、もはや豪華な法衣に埋もれた、ただの惨めな老人に過ぎなかった。
『徴収完了:聖教国セレスティア全領土の主権、および地下備蓄資産』
『取得:神域への優先交渉権(ゴールデン・パス)』
『警告:世界最大の負債者の消滅により、システムが「真の均衡」へと移行します』
「……終わったな。これで、この大陸から『不当な利権』を貪る組織は完全に消滅した」
ソラは、空っぽになった祭壇を見下ろしながら、静かに帳簿を閉じた。
地下から地上を見上げれば、聖都の空を覆っていた重苦しい「神の威光」という名の雲が晴れ、管理都市ゴールディングと同じ、透き通った青い空が広がっていた。
「ソラ様。これで、ようやく世界全体の『貸借対照表』が合いましたね」
エリーゼが、満足げに手元の記録を閉じ、一礼する。
「ああ。だが、これはゴールではない」
ソラは、ミィナとエリーゼを引き連れ、光の射す地上へと歩き出した。
破産した聖教国の瓦礫の向こうには、一人の「貸主」によって統制され、二度と不条理な負債を許さない、新たな世界の夜明けが待っていた。
「――ようやく、この世界の『株主』どもと、対等に話せる土俵が整っただけだ」
ソラの見据える視線は、もはや地上にはなかった。
雲の切れ間、そのさらに奥にある「神域」という名の、次なる市場を見据えて。
かつて世界で最も価値があると謳われた黄金の回廊には、今や祈りの静謐(せいひつ)はなく、ただ破産を待つ組織特有の、冷たく淀んだ腐臭だけが漂っていた。
「……信じられん。五万の十字軍が、一瞬で『無効化』されただと?」
教皇庁の最奥、玉座に座る教皇グレゴリオは、震える手で決算報告書を握りつぶした。
彼の前には、輝きを失い、ただの古紙へと成り下がった『信仰債券』の山。
国を支えてきた「信徒の祈り」という名の通貨は、ソラの介入によって一夜にしてハイパーインフレを起こし、紙屑と化していた。
「陛下、もはや隠し通せません! 聖都の全銀行が取り付け騒ぎを起こし、民衆は自分たちの『加護』が消えたことに気づき始めています。……我が国は、完全なデフォルト(不渡り)に陥りました!」
財務枢機卿が、床に額を擦りつけながら絶叫する。
セレスティアは数世紀にわたり、「神の愛」という実体のない資産を担保に、未来の因果を前借りし続けてきた。その虚飾の帳簿が、ソラという名の「正当な監査人」の手によって、白日の下に晒されたのだ。
「……まだだ。まだ、最後の『資金調達』が残っている」
教皇の瞳に、濁った狂気が宿る。
彼は玉座の裏に隠された、禁忌の地下祭壇――「負債の墓場」へと続く扉を開けた。
「神よ。我が国の全霊、全土、全歴史を担保に、最大融資を要求する。……『神降ろし』の執行だ!」
それは、神の権能を現世に引きずり出す、禁断のリファイナンス。
発動すれば国家の未来は一瞬で燃え尽きるが、その刹那だけは絶対的な力を手にできる。国を心中させてでも「不都合な監査人」を消し去ろうとする、経営者の末路だった。
その時。
地下祭壇の重厚な石門が、物理的な衝撃ではなく、「契約の無効化」によって音もなく崩壊した。
「――無駄だ、教皇。その資産は、すでに俺が『仮差し押さえ』を済ませている」
静寂の中、冷徹な靴音が響く。
現れたのは、漆黒の帳簿を手に携えたソラ。
そしてその傍らには、黄金の眼光で因果の歪みを監視するミィナと、冷静に「目録」をチェックするエリーゼが控えていた。
「き、貴様……っ! 不信心者の分際で、ここが神の心臓部だと知っての狼藉か!」
「神の心臓? いいえ。ここは『過剰融資のゴミ捨て場』ですよ」
エリーゼが、祭壇に渦巻く魔力の正体を冷ややかに指摘する。
彼女の持つ『因果スコープ』には、神の力などではなく、数千年にわたって積み上げられた「民衆からの未払い負債」が、真っ黒なヘドロのように映し出されていた。
「教皇。あんたは『神』を盾にすれば、どんな負債も踏み倒せると信じていた。だが、俺が管理する新秩序において、聖域(サンクチュアリ)などという名の治外法権は存在しない」
ソラが、一歩前に出る。
教皇が狂ったように「神降ろし」の詠唱を叫ぶが、空間を支配したのは、無慈悲なシステムログだった。
『――不当契約の試行を検知』
『担保(セレスティア全土)の所有権は、すでにソラ個体へ移転済みです』
『判定:教皇グレゴリオによる「資産隠し」と定義。強制執行を開始します』
「な……が、がはっ!?」
教皇の身体から、彼が「神の代理人」として着服していた膨大な因果の光が、強制的に剥ぎ取られていく。
それは治癒の力であり、長寿の源であり、彼の存在そのものを支えていた「借り物の輝き」だった。
「ミィナ。……執行しろ。教皇庁の全機能を停止させ、その全資産を『再建リソース』へと変換(コンバート)しろ」
「……了解。……清算、開始」
ミィナが、一切の情を排して木剣を一閃させる。
地下祭壇の闇を黄金の断層が切り裂き、教皇庁が数世紀かけて溜め込んできた「信仰の貯蓄」が、純粋なエネルギーへと還元され、ソラの帳簿へと吸い込まれていった。
教皇グレゴリオは、もはや豪華な法衣に埋もれた、ただの惨めな老人に過ぎなかった。
『徴収完了:聖教国セレスティア全領土の主権、および地下備蓄資産』
『取得:神域への優先交渉権(ゴールデン・パス)』
『警告:世界最大の負債者の消滅により、システムが「真の均衡」へと移行します』
「……終わったな。これで、この大陸から『不当な利権』を貪る組織は完全に消滅した」
ソラは、空っぽになった祭壇を見下ろしながら、静かに帳簿を閉じた。
地下から地上を見上げれば、聖都の空を覆っていた重苦しい「神の威光」という名の雲が晴れ、管理都市ゴールディングと同じ、透き通った青い空が広がっていた。
「ソラ様。これで、ようやく世界全体の『貸借対照表』が合いましたね」
エリーゼが、満足げに手元の記録を閉じ、一礼する。
「ああ。だが、これはゴールではない」
ソラは、ミィナとエリーゼを引き連れ、光の射す地上へと歩き出した。
破産した聖教国の瓦礫の向こうには、一人の「貸主」によって統制され、二度と不条理な負債を許さない、新たな世界の夜明けが待っていた。
「――ようやく、この世界の『株主』どもと、対等に話せる土俵が整っただけだ」
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