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第1章:銀河創生編
第22話 次元ハイエナへの存在空売り
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銀河市場の深淵――次元の継ぎ目に位置する「漂流宙域」。
そこは、破産した世界の残骸が潮溜まりのように流れ着く、監視の及ばぬ無法地帯だった。
漆黒の宇宙には、かつては美しかったであろう惑星の砕けた地殻、機能を失った古代の超構造体が無数に浮かび、墓標のように静止している。
だが、その死んだ景色を切り裂くように、異形の船舶が獲物を漁る獣の群れのごとく蠢いていた。
「……ソラ様。前方、崩壊したアステリアの残存領土に、複数の『未公認監査人』を確認。
世界の残余魔力を、正規価格の十分の一以下で買い叩いています」
管理都市ゴールディング、次元港指令室。
エリーゼはホログラムに映る船影を指し示し、氷のように冷えた声で告げた。
船体から伸びる巨大な吸引管が、次元の亀裂へと直接突き立てられている。
死にゆく世界から、最後の一滴まで因果を吸い上げる所業。
抽出されたエネルギーは、ドス黒い輝きを放つ結晶へ精製され、無言でコンテナに積み上げられていく。
「他人の不幸を安値で仕入れ、別の市場で高値で流す……」
ソラは窓の外、遥か彼方の宙域を見据え、漆黒の帳簿を指でなぞった。
「次元のハイエナ共か」
奴らに世界を救う意思はない。
破綻した世界の中から「値段の付く部分」だけを剥ぎ取り、残りは次元のゴミ捨て場へ放り出す。
宇宙経済に巣食う、典型的な寄生虫だ。
「ソラ様……排除、しますか?」
ミィナが静かに問う。
彼女の背後では、凍結状態で固定されたアステリアの勇者が、重力制御フィールドに囚われたまま浮遊していた。
彼のような「不良債権」からすら、ハイエナたちは価値を毟り取ろうとしている。
「いや。単なる排除は非効率だ」
ソラは即答した。
「奴らの“資本”を、この場で全て凍結する。略奪者には、略奪者に相応しい終わり方を用意する――それが管理者の礼儀だ」
彼は次元港の制御系へ、自身の帳簿を直結同期させた。
*
宙域に停泊するハイエナ商会の旗艦。
ブリッジでは、金メッキの歯を剥き出しにした商人の長が、下卑た笑い声を上げていた。
「ハッハッハ! これだ、これこそが倒産案件の醍醐味よ!
英雄が守ろうとした世界も、切り刻めば最高の換金財産になる!」
彼は落ち着きなく指を動かし、空中に浮かぶ収益予測を弾く。
「見ろ、この純度! ネブラの旦那に流せば、今月の利益は過去最高だ!」
その笑い声を、けたたましい警告音が叩き潰した。
『――警告。貴艦の全保有資産に対し、緊急の“逆監査”を検知』
『取得経緯が不透明です。証拠金の即時積み増しを要求します』
「……なに?」
商人の長が凍りつく。
「逆監査だと? 馬鹿な! この宙域に、我らを査定できる上位組織など――」
端末を叩くが、操作はすべて拒絶された。
代わりに、メインスクリーンへ一人の青年が映し出される。
「どこの馬の骨かは知らないが」
ソラは淡々と告げた。
「俺の抵当権に入っている資産に、無断で管を差し込むのは感心しないな」
「抵当権だと? 笑わせるな! アステリアはとっくに破産したゴミの山だ! 回収業者がいなければ消えるだけの――」
「残念だが、その全負債は俺が買い取った」
言葉が、容赦なく遮られる。
「つまり、塵一つ残らず、今は俺の私有財産だ。
無許可の採取は、“資産侵害”に該当する」
ソラの指が動く。
帳簿に、ハイエナ商会の船舶群の“時価”が書き込まれていく。
「不当に吸い上げた因果の対価として――
あんたたちの“存在確率”を、全額空売りさせてもらった」
『――執行:超高速空売り(ハイフリークエンシー・ショート)』
『信用格付け:C → デフォルト』
『流動性、完全枯渇。全資産の強制清算を開始します』
次の瞬間。
船体を支えていた重力制御が霧散した。
物理的な攻撃は、一切ない。
だが、船は黄金の粒子となり、端から崩れ溶けていく。
ソラが行ったのはただ一つ。
奴らの「存在の根拠」である信用資本を、銀河市場のシステム上からゼロに書き換えただけだ。
宇宙において、信用の喪失は死よりも残酷だった。
存在の対価を支払えなくなった肉体は、次元圧に耐えきれず、情報の塵となって消える。
「や、やめろ……! 金が……俺の積み上げた利益が……!」
金歯の商人は、消えゆく指で架空の硬貨を数え続けながら、絶叫と共に霧散した。
後に残ったのは、膨大な盗品と、帳簿に刻まれた莫大な利益ログだけだった。
「……回収完了」
ソラは淡々と告げる。
「ミィナ。浮遊している因果結晶を全て確保。
アステリア再起動の原資に回す」
「了解、ソラ様。……本当に、綺麗に片付きました」
ミィナが宙を舞い、光の粒子を一つずつ回収していく。
奪われていた世界の破片が戻ったことで、凍結されていたアステリアの表情に、わずかな生気が宿った。
「ソラ様。通信ログを解析した結果、さらに巨大な投資ファンドの存在を確認しました」
エリーゼが続ける。
「統計的に不自然な速度で世界をデフォルトへ追い込み、その“種の残骸”を組織的に収集しています」
報告を聞き、ソラは不敵に口角を上げた。
「世界破壊を前提にした、破産ビジネスか……面白い」
彼の視線が、次元のさらに奥――
巨万の富が歪に集積する、銀河市場の中心地を射抜く。
「そのファンド、俺が丸ごと敵対的買収してやる」
略奪者の時代は、終わる。
これからは、理を貸し与える者が、すべての帳簿を書き換える番だ。
そこは、破産した世界の残骸が潮溜まりのように流れ着く、監視の及ばぬ無法地帯だった。
漆黒の宇宙には、かつては美しかったであろう惑星の砕けた地殻、機能を失った古代の超構造体が無数に浮かび、墓標のように静止している。
だが、その死んだ景色を切り裂くように、異形の船舶が獲物を漁る獣の群れのごとく蠢いていた。
「……ソラ様。前方、崩壊したアステリアの残存領土に、複数の『未公認監査人』を確認。
世界の残余魔力を、正規価格の十分の一以下で買い叩いています」
管理都市ゴールディング、次元港指令室。
エリーゼはホログラムに映る船影を指し示し、氷のように冷えた声で告げた。
船体から伸びる巨大な吸引管が、次元の亀裂へと直接突き立てられている。
死にゆく世界から、最後の一滴まで因果を吸い上げる所業。
抽出されたエネルギーは、ドス黒い輝きを放つ結晶へ精製され、無言でコンテナに積み上げられていく。
「他人の不幸を安値で仕入れ、別の市場で高値で流す……」
ソラは窓の外、遥か彼方の宙域を見据え、漆黒の帳簿を指でなぞった。
「次元のハイエナ共か」
奴らに世界を救う意思はない。
破綻した世界の中から「値段の付く部分」だけを剥ぎ取り、残りは次元のゴミ捨て場へ放り出す。
宇宙経済に巣食う、典型的な寄生虫だ。
「ソラ様……排除、しますか?」
ミィナが静かに問う。
彼女の背後では、凍結状態で固定されたアステリアの勇者が、重力制御フィールドに囚われたまま浮遊していた。
彼のような「不良債権」からすら、ハイエナたちは価値を毟り取ろうとしている。
「いや。単なる排除は非効率だ」
ソラは即答した。
「奴らの“資本”を、この場で全て凍結する。略奪者には、略奪者に相応しい終わり方を用意する――それが管理者の礼儀だ」
彼は次元港の制御系へ、自身の帳簿を直結同期させた。
*
宙域に停泊するハイエナ商会の旗艦。
ブリッジでは、金メッキの歯を剥き出しにした商人の長が、下卑た笑い声を上げていた。
「ハッハッハ! これだ、これこそが倒産案件の醍醐味よ!
英雄が守ろうとした世界も、切り刻めば最高の換金財産になる!」
彼は落ち着きなく指を動かし、空中に浮かぶ収益予測を弾く。
「見ろ、この純度! ネブラの旦那に流せば、今月の利益は過去最高だ!」
その笑い声を、けたたましい警告音が叩き潰した。
『――警告。貴艦の全保有資産に対し、緊急の“逆監査”を検知』
『取得経緯が不透明です。証拠金の即時積み増しを要求します』
「……なに?」
商人の長が凍りつく。
「逆監査だと? 馬鹿な! この宙域に、我らを査定できる上位組織など――」
端末を叩くが、操作はすべて拒絶された。
代わりに、メインスクリーンへ一人の青年が映し出される。
「どこの馬の骨かは知らないが」
ソラは淡々と告げた。
「俺の抵当権に入っている資産に、無断で管を差し込むのは感心しないな」
「抵当権だと? 笑わせるな! アステリアはとっくに破産したゴミの山だ! 回収業者がいなければ消えるだけの――」
「残念だが、その全負債は俺が買い取った」
言葉が、容赦なく遮られる。
「つまり、塵一つ残らず、今は俺の私有財産だ。
無許可の採取は、“資産侵害”に該当する」
ソラの指が動く。
帳簿に、ハイエナ商会の船舶群の“時価”が書き込まれていく。
「不当に吸い上げた因果の対価として――
あんたたちの“存在確率”を、全額空売りさせてもらった」
『――執行:超高速空売り(ハイフリークエンシー・ショート)』
『信用格付け:C → デフォルト』
『流動性、完全枯渇。全資産の強制清算を開始します』
次の瞬間。
船体を支えていた重力制御が霧散した。
物理的な攻撃は、一切ない。
だが、船は黄金の粒子となり、端から崩れ溶けていく。
ソラが行ったのはただ一つ。
奴らの「存在の根拠」である信用資本を、銀河市場のシステム上からゼロに書き換えただけだ。
宇宙において、信用の喪失は死よりも残酷だった。
存在の対価を支払えなくなった肉体は、次元圧に耐えきれず、情報の塵となって消える。
「や、やめろ……! 金が……俺の積み上げた利益が……!」
金歯の商人は、消えゆく指で架空の硬貨を数え続けながら、絶叫と共に霧散した。
後に残ったのは、膨大な盗品と、帳簿に刻まれた莫大な利益ログだけだった。
「……回収完了」
ソラは淡々と告げる。
「ミィナ。浮遊している因果結晶を全て確保。
アステリア再起動の原資に回す」
「了解、ソラ様。……本当に、綺麗に片付きました」
ミィナが宙を舞い、光の粒子を一つずつ回収していく。
奪われていた世界の破片が戻ったことで、凍結されていたアステリアの表情に、わずかな生気が宿った。
「ソラ様。通信ログを解析した結果、さらに巨大な投資ファンドの存在を確認しました」
エリーゼが続ける。
「統計的に不自然な速度で世界をデフォルトへ追い込み、その“種の残骸”を組織的に収集しています」
報告を聞き、ソラは不敵に口角を上げた。
「世界破壊を前提にした、破産ビジネスか……面白い」
彼の視線が、次元のさらに奥――
巨万の富が歪に集積する、銀河市場の中心地を射抜く。
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