レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ

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第1章:銀河創生編

第25話 黒い城の残余資産を強制接収する嵐

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次元の狭間に、その城は浮かんでいた。

漆黒の巨大構造体――ネブラ・アセット・マネジメント本社『黒い城』。

かつて銀河の因果を吸い上げ、数多の世界を破産へ追い込んできたその拠点は、 
今や神域決議によって、解体を待つだけの「違法建築物」へと成り下がっていた。

だが、死に体の巨獣は、なおもその牙を剥く。

「……ソラ様。敵残党、最後の防衛プロトコルを起動」

次元艦のブリッジ。 
エリーゼの報告は、もはや事務的な情報の羅列に過ぎない。

「隠し倉庫より『不完全世界(バグ・アセット)』を複数展開。……質量兵器として、こちらへ投射してきました」

モニターに映し出されたのは、吐き気を催すような「ゴミの塊」だ。

物理法則がねじ切れ、空と海が不自然に混ざり合い、時間が逆流する。 
ネブラが処理しきれず蓄積してきた、宇宙の膿。

それが因果の濁流となって、俺たちの艦を飲み込もうと迫る。

「……救う価値もないスクラップだな」

俺は艦の甲板に立ち、虚空を見据えた。

かつてなら、あの光景に嫌悪感や恐怖を覚えただろう。 
だが、今の俺には、それらがただの「処理すべきエラー」にしか見えない。

感情が、遠い。

「ソラ様。……指示を。あんなもの、この世界に触れさせてはいけません」

背後から届くミィナの声。 
彼女は俺を直視せず、俺の背後にある「何か」を恐れるように視線を彷徨わせていた。

「……ミィナ。お前の役割は変わらない」

俺は、手にした【マスター・アカウント】を開いた。 
もはや指先に重みすら感じない。 
ただ意識をページに流し込むだけで、宇宙の理(システム)が書き換わっていく。

「判断は俺がする。お前は、俺の指し示す『継ぎ目』を斬れ」

「……了解、です」

ミィナが、真空の宇宙へと飛び出した。

                  *

迫りくる『バグ・アセット』。 
次元の裂け目が触手のように蠢き、俺たちの存在を情報の藻屑に変えようと襲いかかる。

俺は、マスター・アカウントに視線を落とした。 
肉眼で見える光景の裏側に、膨大な因果の「数式」が透けて見える。

『――評価(レーティング):Eランク。残余価値なし』 
『判定:強制解体。構成要素を[初期化(リセット)]します』

「……執行(エクセキューション)」

俺は、その一文を指でなぞった。 
瞬間、宇宙そのものが悲鳴を上げた。

「ミィナ。右斜め三十五度。……そこが、ゴミの根源だ」

「――『破産宣告(デッド・ライン)』!」

ミィナの一閃が、虚空を切り裂いた。

黄金の光が、バグ世界の中央を両断する。 
神域の承認を得た俺の監査と、彼女の物理的介入。 
その前では、宇宙のバグすら単なる書き換え可能なデータに過ぎない。

爆発的な極光。 
壊れた世界は、純粋なエネルギーの霧へと霧散し、俺の管理する「次元港」へと吸い込まれていく。

「な、何だと……! 我がファンドが千年をかけて蒐集した成果が、これほど容易く……っ!」

通信回線に、ネブラの執行官の絶望的な叫びが混じる。

「……成果、だと?」

俺は、崩壊を続ける『黒い城』の中心部へ、冷徹な意識を流し込んだ。

「あんたたちの目は節穴か。これは兵器ではない。ただの『未処理の負債』だ」

俺の意志に従い、城を構成する素材が瞬時に逆監査に晒される。

金、銀、魔導触媒、そして奪われてきた魂。 
それらが一つ残らず、俺の帳簿の「取得資産リスト」へと書き換えられていく。

「責任を持って、すべて俺が清算してやる。……あんたたちの『命』も含めてな」

「や、やめろ! 返してくれ! 俺の利益が、俺の積み上げた功績がぁぁぁ!」

絶叫と共に、通信が途絶えた。

城の心臓部が、黄金の炎に包まれる。 
それは破壊ではなく、因果の帳尻を合わせるための浄化のプロセスだ。

やがて。

次元の狭間に君臨していた『黒い城』は、跡形もなく消滅した。

崩壊の余韻すら消え去った虚空には、絶対的な静寂だけが戻っていた。 
宇宙がわずかに「軽く」なったような、妙な清涼感だけが漂う。

後に残されたのは、奪われていた世界たちの「種の残骸」が詰まった、数千の保管容器。

「……回収完了。ミィナ、怪我はないか」

俺は艦に戻った彼女に、声をかけた。

「……はい、ソラ様。……でも」

ミィナは、浮遊する容器の一つを、壊れ物を扱うように優しく抱きかかえた。

「この種たち、みんな泣いています。……ソラ様には、この声、聞こえないんですか?」

「……今は資産の整理中だ。個別対応は後でする」

俺は彼女を見ず、淡々と業務を続けた。 
だが、ミィナの悲しげな視線が背中に刺さり、言葉を継がせる。

「泣かせておけ。……感情を記号に置換すれば、痛みは消える」

「……ソラ様……」

ミィナの震える声に答えず、俺は新たに手に入れた「資産リスト」をスクロールした。

「感傷に浸る時間は終わった。これからこれらすべてに『再就職先』を用意するのが、俺の仕事だ」

「ソラ様……」

エリーゼが、傍らでデータチップを掲げた。

「……ネブラの隠し帳簿の最深部より、重要データを発見。彼らがこれほどまでに『種』を集めていた、真の理由です」

エリーゼの手で投影されたのは、一つの巨大な「座標」。 
それは、神域の投資家たちよりも、さらに深層に位置する聖域。

「彼らは、転売のために集めていたのではありませんでした。……宇宙を創ったとされる『原始の七神』への、献上の記録です」

「原始の七神……」

その言葉を聞いた瞬間、脳内にマスター・アカウントから強烈なノイズが走り抜けた。

頭痛ではない。
システムが、その存在を「最大級の負債者」として認識したサインだ。

「……どうやら、監査すべき対象は、まだ上にいるらしいな」

俺は、こめかみを軽く押さえた。 
もはや、そこに正義感も、使命感もない。

ただ、「帳簿を合わせなければならない」という強迫観念だけが、俺を突き動かしている。

「エリーゼ、ミィナ。……準備しろ」

俺は、マスター・アカウントを再び強く握りしめた。

「逃げる選択肢はない。……宇宙の創世主(オーナー)共に、督促状を叩きつけに行くぞ」

略奪者の城を落とした。 
その次に待っているのは、この世界のルールを創った者たちとの、最も醜悪な決算だ。

俺の指先から散る火花は、もはや青白く、人間のものではなくなっていた。
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