レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ

文字の大きさ
29 / 51
第1章:銀河創生編

第29話 多次元市場への監査通告

しおりを挟む
黄金の光が、銀河の隅々までを等しく満たしていた。

古い負債を清算した宇宙は、今やかつてないほどの安定を得ている。
管理都市ゴールディングの全域で、因果の循環は極限まで効率化されていた。

ソラは官邸のテラスに立ち、黄金色に輝く自らの領土を、ただ静かに見下ろしていた。

「……ソラ様。銀河全域の再建プラン、第一段階の完了を報告します。……現在、宇宙全体の幸福指数は、観測史上最高値を更新。誤差はありません」

エリーゼの声が、静かに響く。
彼女の手にある【マスター・アカウント】は、今や銀河の全情報を司り、一瞬ごとに天文学的な因果を処理し続けている。

完成された、調律。
だが、ソラの瞳に満足の光はない。

かつての彼なら、この光景を前にして、安堵の溜息くらいはついたかもしれない。
だが、今の彼には「成功」という実感すらも、遠い。
ただ、システムが正常に稼働している。それだけが、今の彼を支える唯一の事実だった。

「……ソラ様。これ、新しくできた茶葉なんです。……少しだけ、休んでください」

ミィナが、おずおずと差し出したのは、一杯の紅茶だった。

ソラは無言で、そのカップを受け取った。
指先に触れる温度。立ち上る香り。
かつては、それが彼を「人」として繋ぎ止めていた。

ソラは一口だけ口をつけ、機械的な声で言った。

「……ありがとう、ミィナ。……いい香りがするな」

ミィナの瞳が、一瞬だけ明るく輝き、そしてすぐに潤んだ。
彼女には見えていたのだ。
「香りがする」と口にしながら、その瞳が一度も茶葉の香りを慈しんでいないことを。
それが、主(あるじ)による精一杯の「嘘」であることを。

だが、その歪な静寂を破るように、ソラの手の中にあるマスター・アカウントが、鋭い振動を繰り返した。

 ――ビ、と。

それは、心臓の鼓動などではない。
システムの深淵から発せられた、冷徹な**「臨界エラー通知」**。

「……? ソラ様、今のは……」

エリーゼが即座に因果の波形を読み取る。
負債など一つも残っていないはずの帳簿の最下段に、不気味な文字列が浮かび上がっていた。

『――警告。上位市場(マーケット・ハイアー)より、未確認の請求を検知』
『項目:宇宙占有権料(地代)の不足』
『判定:前管理者の滞納分を、現管理者が継承したと見なします』

ソラの瞳が、かつての鋭い光を取り戻す。

「……なるほど。そういうことか」

原始の七神は、経営者ではあったが、オーナーではなかった。
彼らもまた、さらに上の「誰か」から、この宇宙という区画を借り受けていただけに過ぎなかったのだ。

宇宙の外側。
多次元を跨ぎ、無数の銀河を「金融資産」として取り扱う上位市場。
ソラが神々の権利を奪い取ったことで、その膨大な「地代の支払い義務」までもが、彼の手元に転がり込んできたのだ。

「ソラ様……。……まさか、まだ終わっていないのですか?」

エリーゼの問いに、ソラは口角を微かに上げた。
それは、感情を失ってから初めて浮かべた、本物の不敵な笑みだった。

「……ああ。どうやら、まだ帳簿が合っていない場所があるらしい」

ソラは、マスター・アカウントを強く閉じた。

「この銀河を完璧に管理するだけでは、足りない。……俺たちの存在の代価を、勝手に決めている奴らが、外側にいる」

テラスから空を見上げたソラの瞳に、黄金の光の向こう側――
さらに広大で、さらに理不尽な「多次元市場」の輪郭が、冷たく映り込んでいた。

「エリーゼ、ミィナ。……準備しろ。……管理都市ゴールディングを、次元移動形態へ移行させる」

「……! どこへ、向かわれるのですか?」

ミィナが、決意を込めた瞳で問いかける。
ソラは、かつての追放された日の自分を思い出すように、懐かしい言葉を口にした。

「……不当な請求が来る場所だ。……借りた覚えのない『存在の利息』を、根こそぎ奪い返しに行く」

一宇宙の管理者(アドミニストレーター)から。
多次元を監査し、不当な支配を解体する、真の清算人(リクイデイター)へ。

ソラの歩みは、止まらない。
たとえその先に、どれほどの摩耗と、冷徹な孤独が待ち受けていたとしても。

彼の指先から散る火花が、黄金から、虹色の無機質な多次元発光へと変わっていく。

新たな、そして最も醜悪な市場の幕が、今、開いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

処理中です...