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第1章:銀河創生編
第29話 多次元市場への監査通告
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黄金の光が、銀河の隅々までを等しく満たしていた。
古い負債を清算した宇宙は、今やかつてないほどの安定を得ている。
管理都市ゴールディングの全域で、因果の循環は極限まで効率化されていた。
ソラは官邸のテラスに立ち、黄金色に輝く自らの領土を、ただ静かに見下ろしていた。
「……ソラ様。銀河全域の再建プラン、第一段階の完了を報告します。……現在、宇宙全体の幸福指数は、観測史上最高値を更新。誤差はありません」
エリーゼの声が、静かに響く。
彼女の手にある【マスター・アカウント】は、今や銀河の全情報を司り、一瞬ごとに天文学的な因果を処理し続けている。
完成された、調律。
だが、ソラの瞳に満足の光はない。
かつての彼なら、この光景を前にして、安堵の溜息くらいはついたかもしれない。
だが、今の彼には「成功」という実感すらも、遠い。
ただ、システムが正常に稼働している。それだけが、今の彼を支える唯一の事実だった。
「……ソラ様。これ、新しくできた茶葉なんです。……少しだけ、休んでください」
ミィナが、おずおずと差し出したのは、一杯の紅茶だった。
ソラは無言で、そのカップを受け取った。
指先に触れる温度。立ち上る香り。
かつては、それが彼を「人」として繋ぎ止めていた。
ソラは一口だけ口をつけ、機械的な声で言った。
「……ありがとう、ミィナ。……いい香りがするな」
ミィナの瞳が、一瞬だけ明るく輝き、そしてすぐに潤んだ。
彼女には見えていたのだ。
「香りがする」と口にしながら、その瞳が一度も茶葉の香りを慈しんでいないことを。
それが、主(あるじ)による精一杯の「嘘」であることを。
だが、その歪な静寂を破るように、ソラの手の中にあるマスター・アカウントが、鋭い振動を繰り返した。
――ビ、と。
それは、心臓の鼓動などではない。
システムの深淵から発せられた、冷徹な**「臨界エラー通知」**。
「……? ソラ様、今のは……」
エリーゼが即座に因果の波形を読み取る。
負債など一つも残っていないはずの帳簿の最下段に、不気味な文字列が浮かび上がっていた。
『――警告。上位市場(マーケット・ハイアー)より、未確認の請求を検知』
『項目:宇宙占有権料(地代)の不足』
『判定:前管理者の滞納分を、現管理者が継承したと見なします』
ソラの瞳が、かつての鋭い光を取り戻す。
「……なるほど。そういうことか」
原始の七神は、経営者ではあったが、オーナーではなかった。
彼らもまた、さらに上の「誰か」から、この宇宙という区画を借り受けていただけに過ぎなかったのだ。
宇宙の外側。
多次元を跨ぎ、無数の銀河を「金融資産」として取り扱う上位市場。
ソラが神々の権利を奪い取ったことで、その膨大な「地代の支払い義務」までもが、彼の手元に転がり込んできたのだ。
「ソラ様……。……まさか、まだ終わっていないのですか?」
エリーゼの問いに、ソラは口角を微かに上げた。
それは、感情を失ってから初めて浮かべた、本物の不敵な笑みだった。
「……ああ。どうやら、まだ帳簿が合っていない場所があるらしい」
ソラは、マスター・アカウントを強く閉じた。
「この銀河を完璧に管理するだけでは、足りない。……俺たちの存在の代価を、勝手に決めている奴らが、外側にいる」
テラスから空を見上げたソラの瞳に、黄金の光の向こう側――
さらに広大で、さらに理不尽な「多次元市場」の輪郭が、冷たく映り込んでいた。
「エリーゼ、ミィナ。……準備しろ。……管理都市ゴールディングを、次元移動形態へ移行させる」
「……! どこへ、向かわれるのですか?」
ミィナが、決意を込めた瞳で問いかける。
ソラは、かつての追放された日の自分を思い出すように、懐かしい言葉を口にした。
「……不当な請求が来る場所だ。……借りた覚えのない『存在の利息』を、根こそぎ奪い返しに行く」
一宇宙の管理者(アドミニストレーター)から。
多次元を監査し、不当な支配を解体する、真の清算人(リクイデイター)へ。
ソラの歩みは、止まらない。
たとえその先に、どれほどの摩耗と、冷徹な孤独が待ち受けていたとしても。
彼の指先から散る火花が、黄金から、虹色の無機質な多次元発光へと変わっていく。
新たな、そして最も醜悪な市場の幕が、今、開いた。
古い負債を清算した宇宙は、今やかつてないほどの安定を得ている。
管理都市ゴールディングの全域で、因果の循環は極限まで効率化されていた。
ソラは官邸のテラスに立ち、黄金色に輝く自らの領土を、ただ静かに見下ろしていた。
「……ソラ様。銀河全域の再建プラン、第一段階の完了を報告します。……現在、宇宙全体の幸福指数は、観測史上最高値を更新。誤差はありません」
エリーゼの声が、静かに響く。
彼女の手にある【マスター・アカウント】は、今や銀河の全情報を司り、一瞬ごとに天文学的な因果を処理し続けている。
完成された、調律。
だが、ソラの瞳に満足の光はない。
かつての彼なら、この光景を前にして、安堵の溜息くらいはついたかもしれない。
だが、今の彼には「成功」という実感すらも、遠い。
ただ、システムが正常に稼働している。それだけが、今の彼を支える唯一の事実だった。
「……ソラ様。これ、新しくできた茶葉なんです。……少しだけ、休んでください」
ミィナが、おずおずと差し出したのは、一杯の紅茶だった。
ソラは無言で、そのカップを受け取った。
指先に触れる温度。立ち上る香り。
かつては、それが彼を「人」として繋ぎ止めていた。
ソラは一口だけ口をつけ、機械的な声で言った。
「……ありがとう、ミィナ。……いい香りがするな」
ミィナの瞳が、一瞬だけ明るく輝き、そしてすぐに潤んだ。
彼女には見えていたのだ。
「香りがする」と口にしながら、その瞳が一度も茶葉の香りを慈しんでいないことを。
それが、主(あるじ)による精一杯の「嘘」であることを。
だが、その歪な静寂を破るように、ソラの手の中にあるマスター・アカウントが、鋭い振動を繰り返した。
――ビ、と。
それは、心臓の鼓動などではない。
システムの深淵から発せられた、冷徹な**「臨界エラー通知」**。
「……? ソラ様、今のは……」
エリーゼが即座に因果の波形を読み取る。
負債など一つも残っていないはずの帳簿の最下段に、不気味な文字列が浮かび上がっていた。
『――警告。上位市場(マーケット・ハイアー)より、未確認の請求を検知』
『項目:宇宙占有権料(地代)の不足』
『判定:前管理者の滞納分を、現管理者が継承したと見なします』
ソラの瞳が、かつての鋭い光を取り戻す。
「……なるほど。そういうことか」
原始の七神は、経営者ではあったが、オーナーではなかった。
彼らもまた、さらに上の「誰か」から、この宇宙という区画を借り受けていただけに過ぎなかったのだ。
宇宙の外側。
多次元を跨ぎ、無数の銀河を「金融資産」として取り扱う上位市場。
ソラが神々の権利を奪い取ったことで、その膨大な「地代の支払い義務」までもが、彼の手元に転がり込んできたのだ。
「ソラ様……。……まさか、まだ終わっていないのですか?」
エリーゼの問いに、ソラは口角を微かに上げた。
それは、感情を失ってから初めて浮かべた、本物の不敵な笑みだった。
「……ああ。どうやら、まだ帳簿が合っていない場所があるらしい」
ソラは、マスター・アカウントを強く閉じた。
「この銀河を完璧に管理するだけでは、足りない。……俺たちの存在の代価を、勝手に決めている奴らが、外側にいる」
テラスから空を見上げたソラの瞳に、黄金の光の向こう側――
さらに広大で、さらに理不尽な「多次元市場」の輪郭が、冷たく映り込んでいた。
「エリーゼ、ミィナ。……準備しろ。……管理都市ゴールディングを、次元移動形態へ移行させる」
「……! どこへ、向かわれるのですか?」
ミィナが、決意を込めた瞳で問いかける。
ソラは、かつての追放された日の自分を思い出すように、懐かしい言葉を口にした。
「……不当な請求が来る場所だ。……借りた覚えのない『存在の利息』を、根こそぎ奪い返しに行く」
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多次元を監査し、不当な支配を解体する、真の清算人(リクイデイター)へ。
ソラの歩みは、止まらない。
たとえその先に、どれほどの摩耗と、冷徹な孤独が待ち受けていたとしても。
彼の指先から散る火花が、黄金から、虹色の無機質な多次元発光へと変わっていく。
新たな、そして最も醜悪な市場の幕が、今、開いた。
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