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第三十三回 香花仙《こうかせん》

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 僕と紅花《こうか》さんはまだ砂漠にいた。
 紅花《こうか》さんは、まだ仙人にはなっていなかったので、
 本人の希望で、人のいない砂漠で修行をしていたのだ。
  
「暑いね紅花《こうか》さん。人がいない場所じゃないと、
 修行ができないから仕方ないけど」  

「紅花《こうか》さんはやめてくれよ。
 あんたと蒼《そう》に救われた命だ紅《こう》でいい」

 紅花《こうか》さんは作った水球を何度も壊している、
 それをみながら、コマリは首をかしげている。

「じゃあ紅《こう》君は陰の気が強すぎる。
 もうちょっと陽の気を強くしないと、
 術が続かないと思うよ」

「そうか、それで威力と発動時間が短いのか......
 香花仙《こうかせん》のところでも、
 あまり、うまくは行かなかったからな」

(まあ、子供の頃から辛い境遇だったんだ。
 負の感情に左右される陰の気が強いのは、
 仕方ないことなのかもしれないな......)

 そう思いながら、前から気になっていたことを聞いた。

「国を救うために、香花仙《こうかせん》の元を去ったんだよね?」

「......いや、確かに国を救いたいとは思ったが、
 どうにも香花仙《こうかせん》とは気が合わなかったんだ」

「気が合わない?」

「ああ香花仙《こうかせん》は俺たちには優しかったが、
 人間になんというか冷淡だった。
 人間は自らで決められない存在で
 誰かや何かにすがり付いて生きるしかない、そう言っていた」

「そう......まあ、そう言う面もなくはないけど......」

(玄陽仙《げんようせん》側についていたし......)

「俺にはその考えは、受け入れられなかった。
 人間は自分で考えて生きられると、思っていたから、
 思いたかったからかもな......」

「それで香花仙《こうかせん》のものを去ったのか......」

「ああ、ただ香花仙《こうかせん》には一応の恩がある。
 殺した灰混仙《かいこんせん》とやらを探すのは協力するさ」

 そう言って水球を作っている。さっきよりはもっているようだ。

「山覚《さんかく》大臣の話では、
 曇斑疫《どんはんえき》が流行ったのは二年ほど前か」

「確かにそのぐらいだな......
 急に病人が地下区画へと放り込まれた。
 どうやら、それに荷担した奴らは罪に問われるらしいがな」

「それで何か気づいたことはない?
 薬を渡した銀髪の男について」

「といわれても、あの時薬を持ってきたその男は、
 子供がみただけだから詳しくはわからねえ。
 ......そうだ、薬の瓶に《サク》の文字があった」

「サク? そう言えばどこかで?」

「ああ、朔《サク》という国が東にある。
 とても医学が発達してる国だ。そこは仙人が統治しているらしい」

(そう言えば公尚《こうしょう》さんが話してた気がするな......
 仙人が統治する国......)

「今はそこしか手がかりがない。行ってみよう」

「かまわないが、なあ三咲《みさき》
 もう曇斑疫《どんはんえき》は収まっているのに、
 一体なんでそんなに灰混仙《かいこんせん》を気にしている?
 俺と蒼《そう》には仇だが、あんたには関係ないだろ」

 そう不思議そうに聞いてくる。

「......そうだね。でも、灰混仙《かいこんせん》や、
 曇斑疫《どんはんえき》のことで、
 仙人に関わりたがらない金白仙《こんびゃくせん》や、
 未麗仙《みれいせん》が僕に関わってきた、
 この事はどうにも気になるんだ」

「......未麗仙《みれいせん》十二大仙人か!」
 
 目を見開いて紅《こう》はいう。

「うん、金白仙《こんびゃくせん》も、
 金靂仙《きんれきせん》という十二大仙らしいね」

「二人の十二大仙かよ。
 それが気にする事ってことは何かあるのか......」

「まあ、修行しながら、とりあえず行ってみよう」

「そうだな」

「あっ、そうそう、これ」

 僕は紅《こう》に銀色に輝く棍《こん》を渡す。

「何だこの棍?」 

「流鋼仙《りゅうこうせん》が持ってた扇、
 金漿扇《こんしょうせん》を蒼花仙《そうかせん》が加工した、
 金漿棍《こんしょうこん》だよ。
 元々は晶慈仙《しょうじせん》のものらしいけど、
 蒼花仙《そうかせん》から、
 紅《こう》に渡してくれって預かってた」

「蒼《そう》......」

「じゃあ行こうか」

「ああ」   

 僕たちは朔《さく》の国へと向かった。
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