やり直しの大魔王の弟子

曇天

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第五十五話 旅立ち

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「ええ、こちらでも確認しました。
 彼らの服と魔法の腕輪はありました。
 お話の通り彼らは死んだのでしょうね......」 

 レスパーがそういった。

「うむ、あの者たちは体が結晶化しておった」 

「それなんですがベルさんが持ち帰った結晶の欠片を調べると、肉体を魔力の結晶に変換した痕跡がありました」

 リーゼルがいう。

「錬金術《アルケミスト》でしょうが、どうも古代魔法技術のようですわ」

「やはり......そうか」

「ベル様」

 メリエールが心配そうにベルを見ている。

「ああ、忘れてた。
 シンジさんは免罪されましたので」

「......ほ、ほまえ、わ、わすれるな......」

「それにしてもペラペラになってしまいましたね」

 オレはムキムキの指輪の反動でペラペラの紙のような体になっていた。
 笑いを圧し殺しながら、ではまたとレスパーは帰っていった。

「もう! タオルどこよ! 
 ちゃんと置いておいてっていったでしょ!
 シンジ!」

 そういってメルアはオレで手を拭いた。

「お、オレで、て、てを、ふ、ふくな」

「なんだそこにいたの、もっかい手を洗わないと」
 
「ふ、ふざけんな、よ、おまえ......」


 一日たって元の体に戻った。

「あの仮面が三魔将の最後の一人、大錬金術師《アルケミストマスター》か」

「魔力の高い人間を結晶化するため、囚人を脱獄させたのね」

「仮面の男と混沌教団のこと調べてみるとレスパーさんもいってましたし、どうですシンジさんちょっとボクの試作品をためしてませんか?  
 いや試しましょう! いますぐ試すんです!!!」

 鼻息荒くリーゼルがつめてくる。

「いやだ!!
 おまえのせいでムキムキからペラペラになってんだぞ!!
 誰が試すか!!」

 オレは逃げた。
 外にでるとベルが屋敷の端の切り株に座りたたずんでいる。

「なにたそがれてんだ。
 悩みごとかよ」

「......ふむ、少しな」

「......仮面の男のことか」

 オレがいうとベルは驚いている。

「わかるさ、あいつ知り合いなんだろ」

「なぜそう思った......」

「奴の仮面が外れたとき、おまえとメリエールは驚いていたからな」

「ほほほ、へんなところで鋭いの」

「あの力だ。
 多分幹部、もしかして四天王か」

「......うむ、錬成のヴァルキサスという者だ」

「魔族かモンスター、いや精霊? 奴も封印が解けたってことか?」

「それはない......
 あやつは人間だからな」

「千年もいきてたってことか!?」

「わからん、だがあやつは紛れもないただの人間だった......」

「魔王じゃなくて、おまえを復活させようとしてるんじゃないのか」

「それはないな。
 あやつは千年前にたもとをわかち我の元を去った」

「去った?」

「あやつと我の考えが異なったからだ。
 あやつは人間を滅ぼすべきと強弁に主張しておった」

「人間が人間を!?」

「うむ、あやつは人間を憎んでおった。
 あやつは元々ある国の王子であった。
 幼き頃その国が他国によって攻め滅ぼされ、ひどい迫害を受けたらしい、心身ともボロボロになりさまよっておるところを我が拾って育てたのだ」

「......それで人間を、か」 

「うむ、その後人間と我らの戦いが始まった。
 我が和平を望むのに対し、あやつは人間を滅ぼすべきだといってわが元を去る」

「それから十年前に魔王ゼロの幹部に......」

「そうみたいだな。
 何にせよあやつを止めねばならんな」

 ベルは思い詰めたような顔でそういった。

「あれは尋常じゃない強さだったぜ。
 正直勝算があるのか」

「うむ、ひとつだけな。
 もう一人の四天王にあわねばならんようだ。
 その場所まで行ってくる」 

「オレも行くぞ」
 
「そこはヤード氷原にある。
 確かにシンジはつよくなったが危険すぎるぞ。
 それでも来てくれるか」
 
「オレを鍛えたのはおまえだぜ師匠。
 それを疑うのかよ」  

 オレがそういうとベルは少し笑い。

「そうだな。
 では共に行くか」

「ああ、オレも新しい魔法をつくるぜ!」

「いーかげん回復も覚えなさいよね。
 わたしが困るんだから」

 メルアがいつのまにかそこにいた。 

「おまえも行くつもりかよ。
 お宝なんてないぞ」

「うっさいわね。
 別にお宝なんてなくてもいくわよ。
 もちろんあればいただくけどね」   

「では三人でいくとしようぞ」


 オレたち三人は最後の四天王に会いに行くことにした。

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