BOSS 〜大切な人が殺されたので、女装して仇をうちに行きます〜

おおぞら雲丸

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西の地  ラウルとの出会い

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 トキノはにこやかに微笑んで、自分の事をおねえさんとまで言っている。
 あの状態を見ていなければ、優しいおねえさんだったかもしれないが。
「この私でさえ、まだサラト様に抱かれた事がないのよ?」
 と、案内の途中から愚痴話が始まった。
 長い廊下を歩く2人。
 廊下は緩いカーブを描いている。
 内側の壁には広めの窓があり、そこから土の地面が見えた。
 どうやら、この建物は円柱の様な形をしている。
 真上から見れたとしたら、住居部分は輪の様に見えるだろう。
 そして、中央部分はとても広い中庭があるようだ。
 
「きゃ~!」
 女の歓声が聞こえてきた。
 トキノの後に続いて窓に近づく。
 ハルキ達のいる廊下より、中庭は低い位置にあった。
 それは、ハルキ達の足元ぐらいに中庭にいる女達の顔がある高低差だと分かった。
 円形の広い中庭が見渡せた。
 窓際下には女達が20人程。
 ハルキはその人数にも驚いたが、
 (特有の、産期の香りが立ち込めている……)
 強い香りに、目眩がしてきた。

「あっああ~ああああ!!もしかして~うそうそぉ!!!」
 横で唐突に叫んだトキノの大きな声に、ハルキの目眩は更に酷くなる。
「もしかして、サラト様のバトルだった?」
 慌てて女達に聞くトキノ。
「そうよ、今終わったわよ」
「無謀よね、サラト様に挑もうなんて」
「もちろん勝ったわよ、サラト様」
 嬉しそうに答える女達。
 逆に、トキノは頭を抱えた。
「この私が見守らないで、誰が見守るというの?この勝利の女神とも言えるこのトキノが!」
 と青ざめたかと思えば、
「ああぁん。ミナに時間をくってたばっかりにぃ……でも、でも、心は何時でも貴方の側におりますのよぅ」
 なんて人のせいにしながら、頭を抱えて座り込んでしまった。
 トキノは、自分の世界に入っていったようだ。
 当分出てこないかもしれない。
 ハルキはトキノから視線を外し、1人の男を見つめた。

 (あいつが、西の地のBOSS?…ミズキが愛した男!)
 山に住む、毛深いゴツいゴリラの様な男を想像していた。
 だけど、全然違っていた。
 ゴツくはないが、筋肉のついた逞しい体に、西の地の象徴とも言えるつながった装束を着ている。
 彼の装束だけ、青く染めて豪華な刺繍がしてある。
 ハルキは、彼をじっと見つめていた。
 (ミズキが惚れたんだ……ゴリラって事はないだろうとは思ってたけど)
 小麦色に近い、日に焼けた肌。
 髪は、グレイ。頭にも服と同じ布を巻いている。
 少しつっている、キリリとした目。
 (ミズキは何処に惚れたんだろう……)

 ハルキは睨むように、サラトを見ていた。
 そんな顔をしたハルキに、声をかけてきた男が。
「ねぇ、君……」
 男の声は、
「ちょっとミナ!!何サラト様に見惚れちゃってんのよぅ!」
 というトキノの声に邪魔された。
 トキノの声にハッと我に返る。
「もしかしてぇ、ホレたのぉ?そんなの困るわよぉ」
 人差し指でハルキの顎を持ち上げて、目を覗き込まれた。
「見とれてなんていない」
「じゃあ、な~んで、ホニョホニョ~すきすきって見てんのさぁ」
 変な問いで、言いがかりをつけられてるハルキに、もう一つの危機が再びやってきた。
 窓の下、中庭から、じっとハルキを見上げて男が言った。

「ねえ、君さ…どっかで見た顔だな」
 茶色の髪に。少し下がった目尻。前髪を真ん中で分けている。
 その前髪を右手でかき揚げながら、男はハルキを見つめてくる。
 (俺はこんな男は知らない)
 だが、西の地の情報収集は、あなどれない。
 何処まで調べてあるのか…。
 もしかしたら、北の地の情報も直接集められているのかもしれない。
 どれだけの情報量か分からないが。
 ハルキは窓に背を向け、早まる鼓動を抑えようとした。

 男は窓に登ってくると、窓の縁に腰をかけ、
「ちょっと、こっち向いてよ」
 などと、更に言ってきた。

 (どうしよう!やばい)
「……どこでだったか」
 (どうしたらいいんだ!)
「ちょっと、ラウル!何、ナンパしてるのよ!」
 トキノはハルキを押し退けて、ラウルと呼ばれた男の前に立った。
「やあ、トキノ。今日もカワイイね」
 ちょっと退きながら、ラウルは答える。
「ハイ、さようなら」
 という言葉と共に、ラウルの腹にトキノの蹴りが炸裂。
 ドシン、と音を立てて中庭に見事に落ちた。
「何するんだ、このバカ!」
 地に尻をつけたまま、ラウルは怒鳴る。
「……あんたがいつまでもナンバー2におさまっているのは、あんたがBOSSに惚れてるって噂を聞いたんだけど、ホントなの?」
「は?何言ってるんだ!バカかお前。おかしな奴だと思っていたが、とうとうイカれちまった様だな。このバカ」
「なにさっ!私バカでもないし、イカれてもないわよ!私がバカだとしたら、そんな私を前の産期に選んだ奴は、バカ丸出し、バカバカ男じゃないのっ!」
 (そういう間柄……2人は恋人なのか……???)
 言い争う2人を残して、困惑しながらその場から立ち去ろうとしたハルキ。
 だが、どうやら、そううまくはいかなかった。
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