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最終章
48.フィリッパの悲痛
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その日は、表向きは晴れやかな式典に相応しいような、青空の広がる日だった。
ハメられた、とフィリッパは怒りに青褪めた。
目の前には、床に押さえつけられたダイヤモンドスターのリーダーと副リーダー。
彼らと因縁があるはずのメイベルは、なぜか無感動で。どうして。フィリッパは混乱しながら、内心でうめく。
ダイヤモンドスターが今日ここに現れた理由など、フィリッパはまったく分からない。だが、彼らと嫌でも関わったことがあるフィリッパの、わずかな反応を取られた。
出来レース。この式典は、最初からフィリッパを断罪させるために使われていたのだ。
クーデターが失敗に終わったのを見て、オズワルド派からうまく離れられたと思っての、これ。トーマス大神官に売られたのかと思ったが、あの男もまた青褪めている。
「この手紙は、コルート家の長子に頼まれて、わたくしが確かに認めたもの。このような惨劇が、本当の目的だったのね?」
メイベルを放逐し、あの女が手にしていた栄誉すべてを手に入れたはずが。あともう少しで、フィリッパが生まれ持って手にしているはずだった幸せが、ついえていく。
「恐れながら、王女殿下……! わたくしは、手紙のことなど……存じ上げませぬ……!」
声を振り絞りながら、フィリッパはもう少しで手に入るはずだった栄光が崩れていくのを、まざまざと感じていた。
ユージェニー王女の冷たいまなざしが、フィリッパをゆっくりと見る。
「知らない? この期に及んで、どのような恥をさらすというのかしら? わたくしに、どのような理由があって、見も知らぬ彼らに、わざわざ手を差し伸べるというの?」
王侯貴族にとって、ギルドそのものは下賤な職人階級に近い。A級ほどの実力があって、ようやく王侯貴族の噂の種になってよい、という程度のものなのだ。
庶民には人気のダンジョン探索者だが、上流階級の者からすると、ただの野蛮野卑でしかなかった。
むろん、貴族として義務を果たしている者たちは、ダイヤモンドスターの存在を認識している。
だから当然、彼らがメンバーを一人入れ替えてから、すっかり落ちぶれているのも知っていたが、それを口にすることはない。
今は、国賓を襲った国賊であり、その手引きを、コルート家の長子フィリッパが行った。という事実がある。
義務を果たさず享楽にふけるだけの貴族たちはもちろん、王女殿下が用意した演目に興ずるのみである。昨日までフィリッパに優しい声をかけていようが、そのようなお遊びでしかなかったのだから、なにを思うこともなく。
我らが麗しき、王族の御言葉のままに。
玩具にされていると理解しつつ、いずれは、オズワルドと無事に婚姻を結べば彼らに復讐できるからと、それまで利用するのだと思っていたフィリッパは、彼らを睨みつけたい気持ちをぐっと堪えた。
今はなにをしても、王の御前を穢すのみ。少しでも生き延びる手を探さなければならない。
しかし、フィリッパは詰んでいた。
口先だけでもメイベルを立てておけばよかったものを、コルート家の長子として立ってしまった時点で。
ユージェニーは、コルート家の長子の願いを聞き届けたと言っているのだ。
「こちらにおわす御方は、先だって立国なされた国王陛下であらせられる。陛下の御意志により、わたくしの宣言式に、ひそかに参られていた。すなわち、そなたらは我が国を貶めた国賊である」
「ユージェニー様!」
「気安く我が名を言うでない! そなたは所詮、母親が下賤な身。レルムの民ではなかったのだ。近衛兵、コルート家を全員捕らえなさい!」
「お待ちください」
フィリッパが悲鳴を上げる前に、貴族たちがもうずっと、気になっていたその人物の声が、した。
「メイベル女王」
ユージェニーが目礼する。
それだけで、今までと立場が異なるのだということが伝わる。
フィリッパを筆頭に、メイベルを蔑んでいた貴族たちは青褪めた。
ハメられた、とフィリッパは怒りに青褪めた。
目の前には、床に押さえつけられたダイヤモンドスターのリーダーと副リーダー。
彼らと因縁があるはずのメイベルは、なぜか無感動で。どうして。フィリッパは混乱しながら、内心でうめく。
ダイヤモンドスターが今日ここに現れた理由など、フィリッパはまったく分からない。だが、彼らと嫌でも関わったことがあるフィリッパの、わずかな反応を取られた。
出来レース。この式典は、最初からフィリッパを断罪させるために使われていたのだ。
クーデターが失敗に終わったのを見て、オズワルド派からうまく離れられたと思っての、これ。トーマス大神官に売られたのかと思ったが、あの男もまた青褪めている。
「この手紙は、コルート家の長子に頼まれて、わたくしが確かに認めたもの。このような惨劇が、本当の目的だったのね?」
メイベルを放逐し、あの女が手にしていた栄誉すべてを手に入れたはずが。あともう少しで、フィリッパが生まれ持って手にしているはずだった幸せが、ついえていく。
「恐れながら、王女殿下……! わたくしは、手紙のことなど……存じ上げませぬ……!」
声を振り絞りながら、フィリッパはもう少しで手に入るはずだった栄光が崩れていくのを、まざまざと感じていた。
ユージェニー王女の冷たいまなざしが、フィリッパをゆっくりと見る。
「知らない? この期に及んで、どのような恥をさらすというのかしら? わたくしに、どのような理由があって、見も知らぬ彼らに、わざわざ手を差し伸べるというの?」
王侯貴族にとって、ギルドそのものは下賤な職人階級に近い。A級ほどの実力があって、ようやく王侯貴族の噂の種になってよい、という程度のものなのだ。
庶民には人気のダンジョン探索者だが、上流階級の者からすると、ただの野蛮野卑でしかなかった。
むろん、貴族として義務を果たしている者たちは、ダイヤモンドスターの存在を認識している。
だから当然、彼らがメンバーを一人入れ替えてから、すっかり落ちぶれているのも知っていたが、それを口にすることはない。
今は、国賓を襲った国賊であり、その手引きを、コルート家の長子フィリッパが行った。という事実がある。
義務を果たさず享楽にふけるだけの貴族たちはもちろん、王女殿下が用意した演目に興ずるのみである。昨日までフィリッパに優しい声をかけていようが、そのようなお遊びでしかなかったのだから、なにを思うこともなく。
我らが麗しき、王族の御言葉のままに。
玩具にされていると理解しつつ、いずれは、オズワルドと無事に婚姻を結べば彼らに復讐できるからと、それまで利用するのだと思っていたフィリッパは、彼らを睨みつけたい気持ちをぐっと堪えた。
今はなにをしても、王の御前を穢すのみ。少しでも生き延びる手を探さなければならない。
しかし、フィリッパは詰んでいた。
口先だけでもメイベルを立てておけばよかったものを、コルート家の長子として立ってしまった時点で。
ユージェニーは、コルート家の長子の願いを聞き届けたと言っているのだ。
「こちらにおわす御方は、先だって立国なされた国王陛下であらせられる。陛下の御意志により、わたくしの宣言式に、ひそかに参られていた。すなわち、そなたらは我が国を貶めた国賊である」
「ユージェニー様!」
「気安く我が名を言うでない! そなたは所詮、母親が下賤な身。レルムの民ではなかったのだ。近衛兵、コルート家を全員捕らえなさい!」
「お待ちください」
フィリッパが悲鳴を上げる前に、貴族たちがもうずっと、気になっていたその人物の声が、した。
「メイベル女王」
ユージェニーが目礼する。
それだけで、今までと立場が異なるのだということが伝わる。
フィリッパを筆頭に、メイベルを蔑んでいた貴族たちは青褪めた。
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