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第二章 疑ノ章
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神巫が決まってから早一ヵ月が経った――。
一向に村の裏を掴む情報が一切入らないまま、ただ黙々と職務を全うしていた。そして本日の職務を終えて、私は疲れきった体で帰路に着いた。
「はぁ……。かれこれ一ヶ月やってるけど、いつになったら裏を知る情報が入ってくるのだろうか……」
深く溜め息を吐き、歩いているとそこに曲がり角から一人の少年が飛び出してきた。
途端に避けようとしたけれども、仕事の疲れが反応を鈍らせて避けきれずぶつかってしまった。当然お互いに尻餅を付きいて、お尻を摩るとこまでは全くもって一緒で、先に立ち上がったのは私だった。
「もう……そんな周りが見ない勢いで走って、一体どうしたの?」
少年の元に歩み寄り、手を差し伸べた。
しかし、少年はその手を取ることなく私に突然抱きついてきた。
「助けて……」
唐突にそう言われ、困惑気味に状況を聞こうとする前に少年が飛び出してきた方向から複数人の男たちが物凄い形相でこっちに向かってきた。
「まぁ事情はわからないけど早く逃げよう!」
私は少年の反応を見る前に腕を掴んで無理矢理立ち上がらせて走り出した。
なんでこんなことをしなくちゃいけないのか……。
そんな事を思ってもキリがない。とにかく今はこの現状をどうにかしないと……。
ひたすら逃げ回ってるけど、流石に体力が持たない。このままでは追い付かれるのが時間の問題だ……。
すると先の路地から人影が見え、私は諦めて段々とペースを遅め始めたところでーー。
「こっちだ!」
路地にいた方向から男性の声がした。そこで私はもうどうにでもなれと再度ペースを上げて急いで路地へ向かった。
「今来たばかりで疲れてるだろうけど、あそこまで行って身を隠してくれ!」
路地に入った途端に男性が私達に指示をしてそれに従い、少年を連れ、最後の力を振り絞って示された方向へ急行する。
そこにもう一人別の男性がいて、手招きをしているのでそちらへ向かい物陰に身を潜めた。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れさん、とりあえず落ち着くまでここにいればいいよ」
「はい……ありがとうございます。……ところで貴方達は一体何ですか? 見ず知らずの私達を助けて下さって」
男性はう~ん、とわざとらしく悩む仕草をとる。
「まぁそんな事より……あれを見て」
そう言って、先程私が逃げてきた方向へ指を指す。私はその先を見て、もう一人の男性の事が急に心配になるも、にこやかな表情で問題無さげに止められて様子を見ることになった。
「お前、さっきここをガキ二人が通らなかったか?」
声を荒げ、彼に私達の事を伺っている。しかし、彼は動じることなく余裕の笑みを浮かべる。
「おい! 人の事舐めてんのか!!」
それが癪に障ったのか、今度は彼の胸座を掴み掛かるも、それでも動じない彼に対して我慢出来ず殴り掛かろうとする。そこで遂に彼は動き出した。
「えっ……」
あっという間の出来事で何が起こったのか全く分からなかった。
「あいつすげぇだろ? 全国一に近かっただけあるだろ?」
「…………ちょっと待って下さい、もしかして、彼ってーー」
「そう、外からやってきた余所者だよ」
「でも、この村は……」
「まぁ積もる話しは後ほどしよう。とりあえずこっちに来て」
その前に思うことが合ってその場に留まる。
「それよりもこの子は一体……?」
「う~ん……まぁそのへんに関しても後ほどって事で!」
「分かりました……。僕、立てる?」
「僕じゃない……裕介」
「裕介君ね! もう少し動くけど大丈夫?」
「うん、平気だよ」
手を差し伸べて裕介君を引っ張りあげて、男性の後ろに付いて行った。
「とりあえずここで休むといいよ」
「あ、ありがとう……」
そう言われて案内された所は、至って普通の家屋。
ここに来る途中、ここにいる男性は宮野和也さん、向こうに残してきた男性は橘京介さんと聞いた。そして、和也さんはチラッとここが二人の拠点とは言っていたが、私はここが生活する為の家ではなく、何か別の目的があって、それらをこなす為の拠点ではないかと疑問を抱いたのだけど……私自身の考えとしては、人助けを主として活動しているのではないかと疑問を抱きつつ、その辺も後程聞いておかなくては、と思った。
色々な事があり過ぎて、状況を整理しようと試みるものの、材料が比較的に少なすぎて余計に混乱を招いてしまい断念したところで丁度京介さんが笑顔で帰ってきた。
「やぁ、居心地はどうだい?」
第一声がそれで、先程の事はこれといって気にもしない感じに話しかけてくるあたり、彼からしたら造作もない事なんだなって思った。
「ーーまぁ、それなりですかね……」
あえて素っ気ない感じを装って言うものの、実際のところ、それよりも言うことがあるのではと……頭の中で思いつつ、それを押し殺して本題に移ろうと口を開こうとしたのだがーー。
「そんな事はどうでもいいから、それよりどうだったかを彼女達に伝えるのが先だろ?」
「あ~そうだったな。まぁとりあえず君らを追ってた奴等は撃退して追い払ったけど、あの様子からすると、近々また来るかもしれないから、しばらくはその少年をここで預かっていた方が良いいかもしんないっていうのが俺の見解だな」
ふざけてる雰囲気のわりにはしっかりした言動に私は失礼だと思いながらも少し驚いた。
「そう言ってるようだけど、君、どこか宛てはあるのかい?」
和也さんは祐介君に対して優しく問いかける。
「ーーない」
「ならしばらくここにいるといいよ、ただしタダではいさせないよ」
「ちょっと、いくら何でもこんな小さな子に何をさせるのよ!」
流石にそれを聞いて黙っていられなくなり、即座に立ち上がり異論を唱えたのだが、それを和也さんは笑って私を止める。
「いやいや、別に悪い様にしようなんて思ってないから。ただ、少し俺達の手伝いをしてもらおうかなって思って言っただけだから落ち着いて琴己ちゃん」
「それじゃあ、祐介君に何を手伝ってもらうつもりですか……?」
少し考える素振りを見せつつ、「あっ」と何かを閃いた様子で和也さんは話を続ける。
「それじゃあこんなのはどうかな?」
そう言って、棚の引き出しを開けて何か何回か折られている紙を取り出して、それを広げる。それはこの村の地図であった。
「今、現在地はここね。それで、ここからこう行くとすぐ近くに森があって、そこからまっすぐ行くと小屋があるんだよ。その小屋に詳しい事情は教えられないんだけど、この布袋が置いてあるからそれを毎朝取りに行って欲しいんだよ。それだけやってくれればいくらでも居座ってもらって構わないから、それでどう?」
「因みに中身は何か聞いてもいいですか?」
「全然いいよ、中身は食料なんだけどね」
「それなら大丈夫そうだね。でも……その間でさっきの人達に見つかるリスクが高くなるんじゃないの?」
当然この状況で誰もが思うだろう質問をぶつける。
「それは事前にそのルートにいる人達に監視をお願いして、もしもの時は俺らに伝えるのとその人達で対処してもらうよう伝えておくから大丈夫だよ」
「それならいいですが、祐介君それで大丈夫?」
それに対し祐介君は無言で首を縦に振った。
内心心配ではあるも、この人達がついてるから問題ないだろうと思い、納得した。
「それじゃあ、祐介君のことよろしくお願いします。それでは、そろそろ私は家に帰らないといけないのであとはよろしく頼みます」
「おう、任せろ!」
三人と別れを告げて、私は帰宅することにした。
【更新】
気がつけば辺りはすっかり暗くなり、唯一の明かりが民家から漏れる光のみ。
「随分遅くなっちゃったなぁ……。明日は七時前には家を出ないと行けないから、帰ってすぐにお風呂入って夕飯を済ませて、準備したら寝なきゃなぁ……はぁ……」
小声で独り言を呟きながら家を目指して足を進めるのだけど、その道の向こう側から誰かが歩いてきてるのに気がつく。
よーく目を凝らし、歩調を変えることなく進んでいくうちに見えなかった顔の影が次第に明かりに照らされる。
その人物は、父、天之条だった。
「あまりにもお前の帰りが遅いから、心配になって探しに来たんだぞ」
「ごめんなさい、寄り道せずに帰る予定だったのですが、途中色々ありまして…」
「まぁよい。それについては家に向かいながら聞こう」
「はい」
それから私は、父に事情を説明した。
【ここまで】
一向に村の裏を掴む情報が一切入らないまま、ただ黙々と職務を全うしていた。そして本日の職務を終えて、私は疲れきった体で帰路に着いた。
「はぁ……。かれこれ一ヶ月やってるけど、いつになったら裏を知る情報が入ってくるのだろうか……」
深く溜め息を吐き、歩いているとそこに曲がり角から一人の少年が飛び出してきた。
途端に避けようとしたけれども、仕事の疲れが反応を鈍らせて避けきれずぶつかってしまった。当然お互いに尻餅を付きいて、お尻を摩るとこまでは全くもって一緒で、先に立ち上がったのは私だった。
「もう……そんな周りが見ない勢いで走って、一体どうしたの?」
少年の元に歩み寄り、手を差し伸べた。
しかし、少年はその手を取ることなく私に突然抱きついてきた。
「助けて……」
唐突にそう言われ、困惑気味に状況を聞こうとする前に少年が飛び出してきた方向から複数人の男たちが物凄い形相でこっちに向かってきた。
「まぁ事情はわからないけど早く逃げよう!」
私は少年の反応を見る前に腕を掴んで無理矢理立ち上がらせて走り出した。
なんでこんなことをしなくちゃいけないのか……。
そんな事を思ってもキリがない。とにかく今はこの現状をどうにかしないと……。
ひたすら逃げ回ってるけど、流石に体力が持たない。このままでは追い付かれるのが時間の問題だ……。
すると先の路地から人影が見え、私は諦めて段々とペースを遅め始めたところでーー。
「こっちだ!」
路地にいた方向から男性の声がした。そこで私はもうどうにでもなれと再度ペースを上げて急いで路地へ向かった。
「今来たばかりで疲れてるだろうけど、あそこまで行って身を隠してくれ!」
路地に入った途端に男性が私達に指示をしてそれに従い、少年を連れ、最後の力を振り絞って示された方向へ急行する。
そこにもう一人別の男性がいて、手招きをしているのでそちらへ向かい物陰に身を潜めた。
「はぁ……はぁ……」
「お疲れさん、とりあえず落ち着くまでここにいればいいよ」
「はい……ありがとうございます。……ところで貴方達は一体何ですか? 見ず知らずの私達を助けて下さって」
男性はう~ん、とわざとらしく悩む仕草をとる。
「まぁそんな事より……あれを見て」
そう言って、先程私が逃げてきた方向へ指を指す。私はその先を見て、もう一人の男性の事が急に心配になるも、にこやかな表情で問題無さげに止められて様子を見ることになった。
「お前、さっきここをガキ二人が通らなかったか?」
声を荒げ、彼に私達の事を伺っている。しかし、彼は動じることなく余裕の笑みを浮かべる。
「おい! 人の事舐めてんのか!!」
それが癪に障ったのか、今度は彼の胸座を掴み掛かるも、それでも動じない彼に対して我慢出来ず殴り掛かろうとする。そこで遂に彼は動き出した。
「えっ……」
あっという間の出来事で何が起こったのか全く分からなかった。
「あいつすげぇだろ? 全国一に近かっただけあるだろ?」
「…………ちょっと待って下さい、もしかして、彼ってーー」
「そう、外からやってきた余所者だよ」
「でも、この村は……」
「まぁ積もる話しは後ほどしよう。とりあえずこっちに来て」
その前に思うことが合ってその場に留まる。
「それよりもこの子は一体……?」
「う~ん……まぁそのへんに関しても後ほどって事で!」
「分かりました……。僕、立てる?」
「僕じゃない……裕介」
「裕介君ね! もう少し動くけど大丈夫?」
「うん、平気だよ」
手を差し伸べて裕介君を引っ張りあげて、男性の後ろに付いて行った。
「とりあえずここで休むといいよ」
「あ、ありがとう……」
そう言われて案内された所は、至って普通の家屋。
ここに来る途中、ここにいる男性は宮野和也さん、向こうに残してきた男性は橘京介さんと聞いた。そして、和也さんはチラッとここが二人の拠点とは言っていたが、私はここが生活する為の家ではなく、何か別の目的があって、それらをこなす為の拠点ではないかと疑問を抱いたのだけど……私自身の考えとしては、人助けを主として活動しているのではないかと疑問を抱きつつ、その辺も後程聞いておかなくては、と思った。
色々な事があり過ぎて、状況を整理しようと試みるものの、材料が比較的に少なすぎて余計に混乱を招いてしまい断念したところで丁度京介さんが笑顔で帰ってきた。
「やぁ、居心地はどうだい?」
第一声がそれで、先程の事はこれといって気にもしない感じに話しかけてくるあたり、彼からしたら造作もない事なんだなって思った。
「ーーまぁ、それなりですかね……」
あえて素っ気ない感じを装って言うものの、実際のところ、それよりも言うことがあるのではと……頭の中で思いつつ、それを押し殺して本題に移ろうと口を開こうとしたのだがーー。
「そんな事はどうでもいいから、それよりどうだったかを彼女達に伝えるのが先だろ?」
「あ~そうだったな。まぁとりあえず君らを追ってた奴等は撃退して追い払ったけど、あの様子からすると、近々また来るかもしれないから、しばらくはその少年をここで預かっていた方が良いいかもしんないっていうのが俺の見解だな」
ふざけてる雰囲気のわりにはしっかりした言動に私は失礼だと思いながらも少し驚いた。
「そう言ってるようだけど、君、どこか宛てはあるのかい?」
和也さんは祐介君に対して優しく問いかける。
「ーーない」
「ならしばらくここにいるといいよ、ただしタダではいさせないよ」
「ちょっと、いくら何でもこんな小さな子に何をさせるのよ!」
流石にそれを聞いて黙っていられなくなり、即座に立ち上がり異論を唱えたのだが、それを和也さんは笑って私を止める。
「いやいや、別に悪い様にしようなんて思ってないから。ただ、少し俺達の手伝いをしてもらおうかなって思って言っただけだから落ち着いて琴己ちゃん」
「それじゃあ、祐介君に何を手伝ってもらうつもりですか……?」
少し考える素振りを見せつつ、「あっ」と何かを閃いた様子で和也さんは話を続ける。
「それじゃあこんなのはどうかな?」
そう言って、棚の引き出しを開けて何か何回か折られている紙を取り出して、それを広げる。それはこの村の地図であった。
「今、現在地はここね。それで、ここからこう行くとすぐ近くに森があって、そこからまっすぐ行くと小屋があるんだよ。その小屋に詳しい事情は教えられないんだけど、この布袋が置いてあるからそれを毎朝取りに行って欲しいんだよ。それだけやってくれればいくらでも居座ってもらって構わないから、それでどう?」
「因みに中身は何か聞いてもいいですか?」
「全然いいよ、中身は食料なんだけどね」
「それなら大丈夫そうだね。でも……その間でさっきの人達に見つかるリスクが高くなるんじゃないの?」
当然この状況で誰もが思うだろう質問をぶつける。
「それは事前にそのルートにいる人達に監視をお願いして、もしもの時は俺らに伝えるのとその人達で対処してもらうよう伝えておくから大丈夫だよ」
「それならいいですが、祐介君それで大丈夫?」
それに対し祐介君は無言で首を縦に振った。
内心心配ではあるも、この人達がついてるから問題ないだろうと思い、納得した。
「それじゃあ、祐介君のことよろしくお願いします。それでは、そろそろ私は家に帰らないといけないのであとはよろしく頼みます」
「おう、任せろ!」
三人と別れを告げて、私は帰宅することにした。
【更新】
気がつけば辺りはすっかり暗くなり、唯一の明かりが民家から漏れる光のみ。
「随分遅くなっちゃったなぁ……。明日は七時前には家を出ないと行けないから、帰ってすぐにお風呂入って夕飯を済ませて、準備したら寝なきゃなぁ……はぁ……」
小声で独り言を呟きながら家を目指して足を進めるのだけど、その道の向こう側から誰かが歩いてきてるのに気がつく。
よーく目を凝らし、歩調を変えることなく進んでいくうちに見えなかった顔の影が次第に明かりに照らされる。
その人物は、父、天之条だった。
「あまりにもお前の帰りが遅いから、心配になって探しに来たんだぞ」
「ごめんなさい、寄り道せずに帰る予定だったのですが、途中色々ありまして…」
「まぁよい。それについては家に向かいながら聞こう」
「はい」
それから私は、父に事情を説明した。
【ここまで】
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