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第二章 郷愁と現実
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翌朝――。
転校初日の朝のHRに俺は教卓の横に立ち、自己紹介をしていた。
「金沢高校から転校してきました、近藤聖耶です、これからよろしくお願いします」
「それじゃあ、あの席が空いてるからそこに座ってくれ」
それに従い俺はその席へ向かって歩み始めた。その途中俺は、海斗と文乃は呆気にとられた顔を見つつ、席に着いた。それを確認して教員の話しが始まった。
――これは、つい昨日のこと――。
「そういえば、お前学校はどうすんだ?」
「はっきりとは言えないけど、確か椛高校に転校することになったってたかな?」
「え、聖耶、椛高に来るの!?」
若干、驚きを隠せない様子の文乃に対して、
「そうだと思うけど……何でだ、俺がそこに行くと何か都合が悪いのか?」
「い、いや、違うの……、その高校、私たちも通ってるの」
「ま、まじで!?」
「うん、これがその高校の制服だよ」
そういって、くるっと一回転。その際、スカートがひらりと舞い上がり、白く健康的な太ももが見えてドキッとしてしまった。そして、それに追い討ちを掛けるかのように、一陣の風が文乃を襲った。
その勢いで、スカートはさらに捲り上がり――。
――――あ、白……。
時間が止まったような気がした。海斗は何かを必死に堪えているし、俺は思わぬハプニングに見舞われた為、思考が着いていけていなかった――。被害者の文乃はというと……。
「……え、ぁ……ぁ……」
かなり困惑気味な様子で目に涙を溜めている。
思考が完全に戻ってやっと事の重大さに気づいた。
「ふ、文乃!? 今のは完全に事故だ! 見てしまったのは謝る、だから――」
文乃の爆発しそうな感情を落ち着かせようとしたが、
「――聖耶のバカっ!!」
文乃の手の平が俺の頬をめがけ飛んで来た。
「――ったく、あれは事故だって、俺は何にも手は加えてはいないだろうが」
くっきり手形が着いた頬を押さえつつ、弁解を主張する俺を他所に海斗はそんな俺を見てニヤニヤしていた。
「何もないわけないでしょ! 私の見たには変わりないんだから!」
その刹那、俺は何か思いつき、ふと笑みが零れた。
それに気づいた海斗は「お、始まったな」と文乃に聞こえない程度にぼそっと呟く。
「なぁ、文乃?」
「何よ?」
「見た? って言ったけどさ、俺が一体文乃の何を見たというんだ?」
「そんなの決まってるでしょ、私の…………ッ……」
顔を俯かせて、ボソッと何か呟いた。
「ん、何だって?」
「わ、私の……パ…………ッ。う~、か~い~と~、聖耶が意地悪する~」
顔を真っ赤にして文乃は海斗に駆け寄って行った。
「相変わらずだなそうやって海斗を頼る癖は……、いい加減に直した方がいいんじゃないか」
「確かにそうだな……。でも、聖耶もやり過ぎなところがあるから、そういうお前も直すべきだと思うぞ」
「まぁ、そうだな、正直自分でも自覚はしているんだけど、文乃の反応が楽しくて、つい……」
とりあえず文乃の下へ駆け寄り、
「文乃……ごめんな、ちょっとやり過ぎた」
「もうやらない?」
瞳に涙を滲ませ、小動物のような可愛らしい表情で見せる。
「あぁ、本当にゴメン……。その代わり今度の土曜、俺の家に来てくれないか? 母さんの料理食わしてやるからさ、な?」
とりあえずこれで機嫌を直してもらおう――。
「うん……わかった」
「一応海斗も来るか?」
「一応って何だよ、俺も行くに決まってんだろ」
「とりあえず決まりだな、この事母さんに言って頼んでおくから楽しみにしておけよ」
「うん」
スッと海斗から離れ、目に溜まった涙を拭う。
「いつから登校するかはわからないけど、これからよろしくな」
「うん! 待ってるよ」
チラッと広場の時計を見ると、家を出てから結構経っていたことに気づく。
「――俺、そろそろ家に戻るな、今日帰ってきたばかりだからまだ片付いてないんだよ」
「そうか、今日来たばっかりか……何なら手伝おうか、椿さんに挨拶しておきたいからさ」
「そういえば私も椿さんに挨拶したいかも、ダメかな?」
「う~ん、その気持ちありがたいけど……土曜日までお預けだ」
「む~、聖耶のケチ~、いいじゃん別に減るもんじゃないし……」
「まぁ、いつも元気いっぱいなのに長旅で疲れきった顔なんて見たくないだろ」
どうやら海斗の方は納得してくれたのだけど、文乃は何か納得がいかなくて、それを海斗が何とか説得をする。
「う~ん、まぁ、そう言われてみればそうだね、椿さんの疲れきった顔なんて見たくないよ」
「そうだろ? だから、約束の日まで会うのはやめておこう」
「う、うん、わかった……」
やっと折れてくれた文乃はちょっと残念そうな顔をしていた。因みに“椿”というのは俺の母親の名である。
そして、文乃が何やら携帯を取り出し、
「聖耶、携帯持ってる?」
「うん、あるけど……」
ポケットから携帯を取り出し、文乃に見せる。
「アドレス交換しよう!」
「あぁ、何かと思ったらそれか……おう、わかった」
「あ、俺も」
海斗も携帯を出して、順々に俺らは互いにアドレスを交換して、俺は2人と別れを告げて帰宅した。
「ただいま~……って、誰もいないのか……」
帰ってきたのはいいものの、いつの間にか親父と母さんの2人は俺がいない間に外出しているみたいで、現在家に居るのは俺1人だけのようだった。
「まぁいっか……」
親父たちが帰って来るまで、とりあえず部屋の片づけをすることにした。
荷物はそんなに多くあるわけではないから、片付けに要した時間は30分ぐらいだった。
「ただいま~」
丁度母さんたちが帰宅し、部屋を出て、階下して出迎えることにしたの、だが……。
「お帰り、あれ親父は? 一緒じゃなかったのか?」
「お父さんは、聖耶が通う高校に転入手続きしに行ったわよ」
「あぁ、そういえばそんな事言ってたな……。それで母さんはどこ行ってたの?」
「聖耶の制服を取りに行ってたの」
スッと俺の制服を手前に突き出す。
「今回は随分と早かったな」
「急遽、こっちに行くことを聞いてすぐに瞳ちゃんに頼んで今日に間に合うように準備してもらったのよ。流石に今回は日数的に余裕が無くてちょっと苦労したみたいなんだけどね……」
「……あとで瞳さんにお礼をしに行かないとな」
「大事にしなさいよ、あの子が苦労して準備してくれたんだから……。とりあえず部屋のクローゼットにでも入れてきなさい」
「そうだな、そうするよ」
新品の制服を片手に俺は部屋へ戻って、母さんに言われた通りにクローゼットに制服を収納させ、階段を下りる。それに合わせるかのように親父が帰宅した。
「親父、おかえり」
「あぁ、ただいま。――とりあえず転入手続きは済んだから、明日職員室に来なさいだそうだ」
「ありがとう、親父……」
「おう……何回もすまないな」
「大丈夫だよ、今回は海斗や文乃がついてるから平気だよ」
「そうか……。多分これで最後だと思うから、思う存分高校生活楽しみなさい」
「おう、もちろん!」
「そんな所で話してないで、こっちで話したらどう?」
「だそうだ、行くか」
「だな」
親父と共にリビングへと行き、それぞれソファーに腰を掛ける。
そういえば、と俺は座って直ぐに口を開いた。
「さっき、久々に紅葉ヶ丘に行ってきたんだけどさ、そこに丁度良く海斗と文乃が居てさ~」
「へ~、そうだったんだ、2人とも元気だった?」
台所で用を済ました母さんが、麦茶を持ってきて、話に参加してきた。
「海斗は、相変わらず、といった感じかな? 一目見たとき直ぐに分かったからな、多分母さんたちも分かると思うよ」
「ふ~ん、んで、文乃ちゃんはどうなのよ、すっかり見違えたでしょ?」
「まぁ、あの頃に比べれば随分と変わった……かな」
「あら、そうなの~? 聖耶は文乃ちゃんのことをどう思ってるの?」
「ぶっ、いきなり何を言うんだよ!?」
突然の質問に不意に吹いてしまいそうになった。
「あら、そんなオーバーなリアクションしちゃって、何、文乃ちゃんのこと好きなの?」
「ばっ、そ、そんなことあるわけ無いだろ!」
「果たしてどうだか……」
本当こういうときに限って、母さんの勘は鋭いから恐ろしいんだよな。そんなことを考えながらもつい文乃のことを考えてしまった。
――今、あいつ何やってんだろうな……。
我に返り、ふとさっき文乃と約束したことを思い出した。
「そ、そんなことより……土曜日にさ、海斗と文乃を家に呼ぼうかと思うんだけど、いいかな?」
「あらそうなの、全然大丈夫よ。それで、何時くらいに来るの?」
「だいたい昼ぐらいには来てもらおうかと思ってる」
「お昼ね、分かったわ。なんなら、そのまま泊まってもらっても構わないけどね!」
手馴れたウインクをして、母さんはその場を後にする。
その後、俺も部屋に戻ることにした。
「聖耶、ちょっと」
「ん? 何だ親父」
「母さんに聞かれたこと満更でもないんだろ?」
「……別に、そんなことは……ない」
改めてそのこと言われると凄く恥ずかしいが、それでも文乃は『幼馴染みは幼馴染み』であるに違いないから……。
「まぁいいさ、大切にしろよその気持ち……間違えても後悔するようなことはするなよ」
「……あぁ、じゃあ行くな」
「おう、引き止めて悪かったな」
そうして俺は階上し自室へと戻った。
その後は、それぞれの今日の出来事を会話に入れつつも夕食を摂り、簡単にシャワーを浴びた後に部屋に戻り、直ぐに就寝した。
翌日、かなり早めに家を出て、音楽プレイヤー片手に一人登校する。
学校についたのはいいのだが、相変わらずと言ってもいいほど職員室の場所が分からない……。
まぁ、大方1階の生徒用の昇降口付近にあることが多いのだが……今回は一体どこにあるのか……。
そんなこんなで俺は20分誰にも声を掛けられることも無く、何とか職員室に辿り着いた。
「失礼します。本日より金沢高等学校より椛第一高等学校に転入してきました、近藤聖耶ですが~」
恐る恐る職員室に入りそれなりの声量で自己紹介をすると、数人の教員が俺の方を見る。その中から一人、つい見惚れてしまうほどに綺麗な顔立ちをした女性が俺のところへとやって来た。
「君が聖耶君ね、ようこそ、椛高等学校へ」
丁寧に一礼をしてきたので、とりあえず礼をする。
「ここで立ち話しもなんだから、とりあえず私について来てくれるかな?」
「は、はい」
言われるまま、俺は教員に応接室へ案内された。
「とりあえず、そこに座って」
「あ、はい、失礼します」
「……そういえば、紹介がまだだったね、君が行くクラスの担任を勤めている葛城さくらです。生徒からは、さくらちゃんの愛称で呼ばれてるから近藤君もそう呼んでね」
「気が向いたらそうします」
「そんなつれないこと言わないでよ~」
「そんなことより、色々と説明していただきたいのですが……」
「はぁ……しょうがないわね~」
それでも教師か、あんたは――。
けど、学校説明に入ると人が変わったように真面目に話してくれた。
所要時間はそれほどではなかったが、HR開始時刻となっていた。
「さて、そろそろ行きましょう、みんな近藤君の事待っているから」
応接室を出て、一歩一歩教室へ歩み寄る。
そして、三分も経たずにあっという間に俺がこれからお世話になる三年D組の教室の前まで来た。
「一旦ここで待っててね、後で呼ぶからそのときに入ってきて」
はい、と小声で返事をし、先生は教室へと入って行った。
不意に体の奥底にある何かが溜息となって口から漏れていた。
すると、扉の向こうから「入ってきて~」と声がした。
扉に手を掛け、一度深呼吸をし、扉をあけた。
正直、転校を何回かしているうちに嫌でもこの空気に慣れてしまう。
「それじゃあ、自己紹介お願いね」
「金沢高校から転校してきました、近藤聖耶です、これからよろしくお願いします」
周囲の反応はそれなりで、そこまで大騒ぎするような事にはならなかった。
それに関しては正直ホッとしている。
「それじゃあ、あの席が空いているからそこに座って」
それに従い俺はその席へ向かって歩み始めた。その途中俺は、海斗と文乃は呆気にとられた顔を見つつ、席に着いた。それを確認して教員の話しが始まった。
海斗と文乃が同じクラスだとは内心驚いた。
さらに偶然にも俺の席は文乃の隣で、流石にそれに関しては驚きを隠せないでいた……。
とりあえず、席に着き、文乃の方を見る。
すると、ふっ、と口元を綻ばせ、軽い笑みを見せる。
色々話したいことはあったが、その表情に胸が高鳴った。
い、いまの感覚は……一体、何だ……? 初めて見たわけでもないのに、寧ろ昔と殆ど変わらない文乃の笑顔なのに……一体何で――。
その事が引っ掛かり先生の話しどころじゃなかった。
そして、気がつくとHRが終わっていた。
「よう、聖耶、まさか俺たちのクラスに来るとは……ほんとビックリしたぞ」
「私も~、しかも隣の席だから余計に驚いちゃったよ」
「……そ、そうだな」
「ん、どうした? 何か様子が変だぞ」
「え、そ、そうか? もしかしたら、ここ環境にまだ慣れていないからだろ、きっと……」
「そうだったか……って、そんな事じゃないだろ? 何か別な事だろ」
流石、俺の幼馴染みやってないな……。実際その通りで、さっきの文乃の笑顔で高鳴ったあの気持ちに疑問を抱いていた。
「い、いやなんでもねぇよ、別に何を考えようが別にいいじゃねぇかよ!」
「そ、そんなに強く言う必要はないだろ?」
「聖耶、本当に何でもないの?」
「……ほっといてくれ」
謎の感覚に苛立ちが募るばかりでここにいてもむしゃくしゃするだけだから、二人が静止するのを無視して俺は教室を出て行く。
「――聖耶」
文乃の様子を海斗は見ていた。そして、何かを感じとった。
「――もしかして……あいつ、文乃のこと……」
教室を後にした俺は屋上を目指し、学校内を放浪していた。
曲がり角の人影に気づかず、俺はそのまま歩いた結果――。軽く衝突した。
俺は、ちょっと弾かれた程度で済んだが、もう一方で――。
「あいたた~、もう気をつけなさいよ、君……って――」
「すいません、ぼーっとしてたもの、で……って――」
「『近藤君!』『葛城先生!』」
「だ、大丈夫ですか!?」
俺は慌てて手を差し伸べ、それに答えるように先生は手を掴み、勢いよく引き上げる。
「えぇ、大丈夫よ。近藤君は優しいのね」
「いえ、これぐらい何の造作も無いですから」
ちょっと照れ気味にそう答える。
「近藤君って、『天涯孤独』のイメージがあったから、ちょっと接するの実は怖かったんだ」
「俺って、そんな風に見えます? まぁ前の学校とかの奴にもそんな事言われてましたけど……」
「そんな事はともあれ、どうしたのこんな所で?」
「俺は、ちょっと上の方に……。そう言う先生はどこへ?」
「あなたの教室よ、もしかして、屋上で次の私の授業をサボろう何て考えていたのかな~?」
「い、いや、そういうわけではないんですけど……。まぁ色々と事情が……」
「問答無用です!」
そんな細い体でどこにそんな力があるんですか!? と、疑問を抱きたくなるほどの力で俺の腕を掴み、教室へ強制連行され、その状態のまま教室に入ると、あっという間に笑い者にされてしまった。
本当に恥ずかしくて、死にたいぐらいだった――。
そして、授業の真っ最中――。
「どこに行ってきたの、聖耶?」
ちょっと心配そうな表情で文乃は俺を見た。
「ちょっと校内探検してたら、先生に捕まっちまって……もう最悪だよ……」
「ふ~ん、でも、満更でもない顔してる」
「べ、別にそういうわけじゃないって……」
「まぁ、文乃考えすぎだ、せっかく昔みたいな賑やかな学校生活を送れるんだ、いきなり険悪な雰囲気はやめようぜ」
「……もう、仕方ないなぁ~、しょうがないからこの辺にしておいてあげる」
「それでこそ、俺の“幼馴染み”だよ」
「……“幼馴染み”……か」
一瞬文乃の表情が暗くなった、ような気がした。
「ん、どうかしたか? 文乃」
「……ううん、何でもないよ」
何かを隠すかのように作り笑いを浮かべて誤魔化しているような感じがした。
「……そうか、それならいいけどさ――」
「近藤君、桐沢さん。話をするのは別に良いけど、せめて声のトーンを落としてもらえないかしら? みんながそっちの会話に聞き入って、授業どころじゃないです」
そう言われて初めて気がついた。クラスの半分以上が俺らの方を見ていた。そして、先生の注意を聞いて、他の奴らもこっちを見始める。
「あ……。す、すいませんでした、授業続けてください」
「あんな話を聞かされたらみんな気になるわよね~。というわけで、急遽、授業はここまでにして、近藤君の歓迎会及び、近藤君と桐沢さんの関係でも聞かせてもらうとしましょうか」
その瞬間、歓喜の雄叫び……と、まではいかないが、それなりにクラスの盛り上がりに俺と文乃、それと海斗は少々戸惑いを隠せなかった。
その後、色々なことを洗いざらい吐かされた挙句、案の定海斗も巻き込まれた。
結果、放課後を迎えるまでひたすら質問攻めに遭い、そのせいで俺と文乃の二人は少しぎくしゃくしていた。
――そして、その放課後。
「聖耶、帰ろうぜ……」
鞄を片手にし、気だるそうに俺の所へやって来た。
「お、おう……。文乃、帰ろうぜ」
「ちょっと待って、これ書かないといけないから……」
そう言って俺に学級日誌を見せる。
「それ、時間掛かりそうか?」
「う、うん、少し時間が掛かると思う……」
「それだったら、ちょっとその辺ふらついてるから、終わったらメールくれ」
「うん、分かった、ごめんね私の為に……」
「いいよ、んなこと、それじゃ頑張れよ」
俺は教室を離れ、とある場所へ向かった。
長い階段を上り、屋上へ出た。
「やっぱり、屋上はいいな……」
フェンスの方まで行き、野球部やサッカー部などの外で活動している運動部や、そのまま下校する生徒の姿を見下ろす。
俺はこういう景色は結構好きだが、それでも日中の青空やこの夕日に染まった赤い空を見るのが一番好きだ。
今まで通った学校のほとんどは、こうしてよく屋上に来てはこの景色を見て心を落ち着かせていた。
その理由としては、中学に上がったときに何となく放課後に屋上へやって来たのが全ての始まりだった。まるでそこだけが別世界のように想えた。それ以来、どこの学校でも自然と屋上へ足を運ぶようになった。
暫く、その景色を眺め思い出に浸っていると……文乃からメールが来た。
「――さて、戻るか」
屋上を去り、教室へ向かった。
「お待たせ――って、あれ、いない……」
携帯を取り出し、開くと――。
海斗からメールが届いていた。
「どうしたんだ? ――っ!!」
メールの内容に絶句した……。
俺は慌てて教室を飛び出し、メールに記された場所を目指し、俺は全力で校舎内を走り回った。
「海斗! こんな所に文乃を連れ出して何考えてるんだよ!」
校舎の外に配置されている体育倉庫へ海斗に呼び出され俺はやってきた。
「あれ、文乃はどこだ?」
「文乃には校門で待ってもらってるよ」
「そうか、それで俺に何のようだ……」
海斗は落ち着いた様子で口を開く。
「俺さ、文乃に告ろうと思うんだが、イケると思うか?」
「はぁ!? それマジで言ってんのか?」
正直、冗談にしか感じなかった。
「あぁ、俺は本気だ。お前がこの町にいない時に文乃のことが気になって、最近になってそれが【恋】だと気付いた――。お前は文乃のことをどう思ってるんだ?」
「俺は、あいつのこと――」
「あ、二人とも遅いと思ったらこんな所にいたの……」
いつまでも校門にやって来ない俺たち二人を待ちわびた文乃が若干息を切らしてここまでやってきた。
「ん、何? 二人でこそこそ話しなんかして……」
「いや、なんでもないよ、ちょっと聖耶に相談に乗ってもらってただけだから」
「ふ~ん、まぁいいけど。ほら早く帰ろう」
そう言って、早々と文乃はこの場を後にした。そして、海斗が文乃が行ったことを確認して、
「そういうことだから、お前があいつをどんな風に想っているかは分からないが、さっさと気持ちの整理をつけないと俺があいつを貰っちまうからな」
ボソッと俺に囁き、先を歩いていった。少し遅れて俺はその後を追う。
その帰り、海斗の突然の告白に文乃のことを意識してしまい、他の事は頭に入ってこなかった。そして、気がつけば二人と別れ、俺は家に着いていた。
いつも通りの時間を過ごし、布団に潜り込む。
『俺さ、文乃に告ろうと思うんだが――』
『お前は文乃のことをどう思ってるんだ?』
この言葉が俺の脳内で繰り返し繰り返し再生される。
「……文乃を、どう思ってるか、か……」
そんなことを考えているうちに、俺はふと今日までの事を思い返していた。
どうしてだろうか、あまり意識をしていないのに文乃の笑顔しか浮かんでこない――。
俺、もしかすると……文乃、の……こと……が――。
何かに気付いたときには、睡魔に負けて深い眠りに就いた。
転校初日の朝のHRに俺は教卓の横に立ち、自己紹介をしていた。
「金沢高校から転校してきました、近藤聖耶です、これからよろしくお願いします」
「それじゃあ、あの席が空いてるからそこに座ってくれ」
それに従い俺はその席へ向かって歩み始めた。その途中俺は、海斗と文乃は呆気にとられた顔を見つつ、席に着いた。それを確認して教員の話しが始まった。
――これは、つい昨日のこと――。
「そういえば、お前学校はどうすんだ?」
「はっきりとは言えないけど、確か椛高校に転校することになったってたかな?」
「え、聖耶、椛高に来るの!?」
若干、驚きを隠せない様子の文乃に対して、
「そうだと思うけど……何でだ、俺がそこに行くと何か都合が悪いのか?」
「い、いや、違うの……、その高校、私たちも通ってるの」
「ま、まじで!?」
「うん、これがその高校の制服だよ」
そういって、くるっと一回転。その際、スカートがひらりと舞い上がり、白く健康的な太ももが見えてドキッとしてしまった。そして、それに追い討ちを掛けるかのように、一陣の風が文乃を襲った。
その勢いで、スカートはさらに捲り上がり――。
――――あ、白……。
時間が止まったような気がした。海斗は何かを必死に堪えているし、俺は思わぬハプニングに見舞われた為、思考が着いていけていなかった――。被害者の文乃はというと……。
「……え、ぁ……ぁ……」
かなり困惑気味な様子で目に涙を溜めている。
思考が完全に戻ってやっと事の重大さに気づいた。
「ふ、文乃!? 今のは完全に事故だ! 見てしまったのは謝る、だから――」
文乃の爆発しそうな感情を落ち着かせようとしたが、
「――聖耶のバカっ!!」
文乃の手の平が俺の頬をめがけ飛んで来た。
「――ったく、あれは事故だって、俺は何にも手は加えてはいないだろうが」
くっきり手形が着いた頬を押さえつつ、弁解を主張する俺を他所に海斗はそんな俺を見てニヤニヤしていた。
「何もないわけないでしょ! 私の見たには変わりないんだから!」
その刹那、俺は何か思いつき、ふと笑みが零れた。
それに気づいた海斗は「お、始まったな」と文乃に聞こえない程度にぼそっと呟く。
「なぁ、文乃?」
「何よ?」
「見た? って言ったけどさ、俺が一体文乃の何を見たというんだ?」
「そんなの決まってるでしょ、私の…………ッ……」
顔を俯かせて、ボソッと何か呟いた。
「ん、何だって?」
「わ、私の……パ…………ッ。う~、か~い~と~、聖耶が意地悪する~」
顔を真っ赤にして文乃は海斗に駆け寄って行った。
「相変わらずだなそうやって海斗を頼る癖は……、いい加減に直した方がいいんじゃないか」
「確かにそうだな……。でも、聖耶もやり過ぎなところがあるから、そういうお前も直すべきだと思うぞ」
「まぁ、そうだな、正直自分でも自覚はしているんだけど、文乃の反応が楽しくて、つい……」
とりあえず文乃の下へ駆け寄り、
「文乃……ごめんな、ちょっとやり過ぎた」
「もうやらない?」
瞳に涙を滲ませ、小動物のような可愛らしい表情で見せる。
「あぁ、本当にゴメン……。その代わり今度の土曜、俺の家に来てくれないか? 母さんの料理食わしてやるからさ、な?」
とりあえずこれで機嫌を直してもらおう――。
「うん……わかった」
「一応海斗も来るか?」
「一応って何だよ、俺も行くに決まってんだろ」
「とりあえず決まりだな、この事母さんに言って頼んでおくから楽しみにしておけよ」
「うん」
スッと海斗から離れ、目に溜まった涙を拭う。
「いつから登校するかはわからないけど、これからよろしくな」
「うん! 待ってるよ」
チラッと広場の時計を見ると、家を出てから結構経っていたことに気づく。
「――俺、そろそろ家に戻るな、今日帰ってきたばかりだからまだ片付いてないんだよ」
「そうか、今日来たばっかりか……何なら手伝おうか、椿さんに挨拶しておきたいからさ」
「そういえば私も椿さんに挨拶したいかも、ダメかな?」
「う~ん、その気持ちありがたいけど……土曜日までお預けだ」
「む~、聖耶のケチ~、いいじゃん別に減るもんじゃないし……」
「まぁ、いつも元気いっぱいなのに長旅で疲れきった顔なんて見たくないだろ」
どうやら海斗の方は納得してくれたのだけど、文乃は何か納得がいかなくて、それを海斗が何とか説得をする。
「う~ん、まぁ、そう言われてみればそうだね、椿さんの疲れきった顔なんて見たくないよ」
「そうだろ? だから、約束の日まで会うのはやめておこう」
「う、うん、わかった……」
やっと折れてくれた文乃はちょっと残念そうな顔をしていた。因みに“椿”というのは俺の母親の名である。
そして、文乃が何やら携帯を取り出し、
「聖耶、携帯持ってる?」
「うん、あるけど……」
ポケットから携帯を取り出し、文乃に見せる。
「アドレス交換しよう!」
「あぁ、何かと思ったらそれか……おう、わかった」
「あ、俺も」
海斗も携帯を出して、順々に俺らは互いにアドレスを交換して、俺は2人と別れを告げて帰宅した。
「ただいま~……って、誰もいないのか……」
帰ってきたのはいいものの、いつの間にか親父と母さんの2人は俺がいない間に外出しているみたいで、現在家に居るのは俺1人だけのようだった。
「まぁいっか……」
親父たちが帰って来るまで、とりあえず部屋の片づけをすることにした。
荷物はそんなに多くあるわけではないから、片付けに要した時間は30分ぐらいだった。
「ただいま~」
丁度母さんたちが帰宅し、部屋を出て、階下して出迎えることにしたの、だが……。
「お帰り、あれ親父は? 一緒じゃなかったのか?」
「お父さんは、聖耶が通う高校に転入手続きしに行ったわよ」
「あぁ、そういえばそんな事言ってたな……。それで母さんはどこ行ってたの?」
「聖耶の制服を取りに行ってたの」
スッと俺の制服を手前に突き出す。
「今回は随分と早かったな」
「急遽、こっちに行くことを聞いてすぐに瞳ちゃんに頼んで今日に間に合うように準備してもらったのよ。流石に今回は日数的に余裕が無くてちょっと苦労したみたいなんだけどね……」
「……あとで瞳さんにお礼をしに行かないとな」
「大事にしなさいよ、あの子が苦労して準備してくれたんだから……。とりあえず部屋のクローゼットにでも入れてきなさい」
「そうだな、そうするよ」
新品の制服を片手に俺は部屋へ戻って、母さんに言われた通りにクローゼットに制服を収納させ、階段を下りる。それに合わせるかのように親父が帰宅した。
「親父、おかえり」
「あぁ、ただいま。――とりあえず転入手続きは済んだから、明日職員室に来なさいだそうだ」
「ありがとう、親父……」
「おう……何回もすまないな」
「大丈夫だよ、今回は海斗や文乃がついてるから平気だよ」
「そうか……。多分これで最後だと思うから、思う存分高校生活楽しみなさい」
「おう、もちろん!」
「そんな所で話してないで、こっちで話したらどう?」
「だそうだ、行くか」
「だな」
親父と共にリビングへと行き、それぞれソファーに腰を掛ける。
そういえば、と俺は座って直ぐに口を開いた。
「さっき、久々に紅葉ヶ丘に行ってきたんだけどさ、そこに丁度良く海斗と文乃が居てさ~」
「へ~、そうだったんだ、2人とも元気だった?」
台所で用を済ました母さんが、麦茶を持ってきて、話に参加してきた。
「海斗は、相変わらず、といった感じかな? 一目見たとき直ぐに分かったからな、多分母さんたちも分かると思うよ」
「ふ~ん、んで、文乃ちゃんはどうなのよ、すっかり見違えたでしょ?」
「まぁ、あの頃に比べれば随分と変わった……かな」
「あら、そうなの~? 聖耶は文乃ちゃんのことをどう思ってるの?」
「ぶっ、いきなり何を言うんだよ!?」
突然の質問に不意に吹いてしまいそうになった。
「あら、そんなオーバーなリアクションしちゃって、何、文乃ちゃんのこと好きなの?」
「ばっ、そ、そんなことあるわけ無いだろ!」
「果たしてどうだか……」
本当こういうときに限って、母さんの勘は鋭いから恐ろしいんだよな。そんなことを考えながらもつい文乃のことを考えてしまった。
――今、あいつ何やってんだろうな……。
我に返り、ふとさっき文乃と約束したことを思い出した。
「そ、そんなことより……土曜日にさ、海斗と文乃を家に呼ぼうかと思うんだけど、いいかな?」
「あらそうなの、全然大丈夫よ。それで、何時くらいに来るの?」
「だいたい昼ぐらいには来てもらおうかと思ってる」
「お昼ね、分かったわ。なんなら、そのまま泊まってもらっても構わないけどね!」
手馴れたウインクをして、母さんはその場を後にする。
その後、俺も部屋に戻ることにした。
「聖耶、ちょっと」
「ん? 何だ親父」
「母さんに聞かれたこと満更でもないんだろ?」
「……別に、そんなことは……ない」
改めてそのこと言われると凄く恥ずかしいが、それでも文乃は『幼馴染みは幼馴染み』であるに違いないから……。
「まぁいいさ、大切にしろよその気持ち……間違えても後悔するようなことはするなよ」
「……あぁ、じゃあ行くな」
「おう、引き止めて悪かったな」
そうして俺は階上し自室へと戻った。
その後は、それぞれの今日の出来事を会話に入れつつも夕食を摂り、簡単にシャワーを浴びた後に部屋に戻り、直ぐに就寝した。
翌日、かなり早めに家を出て、音楽プレイヤー片手に一人登校する。
学校についたのはいいのだが、相変わらずと言ってもいいほど職員室の場所が分からない……。
まぁ、大方1階の生徒用の昇降口付近にあることが多いのだが……今回は一体どこにあるのか……。
そんなこんなで俺は20分誰にも声を掛けられることも無く、何とか職員室に辿り着いた。
「失礼します。本日より金沢高等学校より椛第一高等学校に転入してきました、近藤聖耶ですが~」
恐る恐る職員室に入りそれなりの声量で自己紹介をすると、数人の教員が俺の方を見る。その中から一人、つい見惚れてしまうほどに綺麗な顔立ちをした女性が俺のところへとやって来た。
「君が聖耶君ね、ようこそ、椛高等学校へ」
丁寧に一礼をしてきたので、とりあえず礼をする。
「ここで立ち話しもなんだから、とりあえず私について来てくれるかな?」
「は、はい」
言われるまま、俺は教員に応接室へ案内された。
「とりあえず、そこに座って」
「あ、はい、失礼します」
「……そういえば、紹介がまだだったね、君が行くクラスの担任を勤めている葛城さくらです。生徒からは、さくらちゃんの愛称で呼ばれてるから近藤君もそう呼んでね」
「気が向いたらそうします」
「そんなつれないこと言わないでよ~」
「そんなことより、色々と説明していただきたいのですが……」
「はぁ……しょうがないわね~」
それでも教師か、あんたは――。
けど、学校説明に入ると人が変わったように真面目に話してくれた。
所要時間はそれほどではなかったが、HR開始時刻となっていた。
「さて、そろそろ行きましょう、みんな近藤君の事待っているから」
応接室を出て、一歩一歩教室へ歩み寄る。
そして、三分も経たずにあっという間に俺がこれからお世話になる三年D組の教室の前まで来た。
「一旦ここで待っててね、後で呼ぶからそのときに入ってきて」
はい、と小声で返事をし、先生は教室へと入って行った。
不意に体の奥底にある何かが溜息となって口から漏れていた。
すると、扉の向こうから「入ってきて~」と声がした。
扉に手を掛け、一度深呼吸をし、扉をあけた。
正直、転校を何回かしているうちに嫌でもこの空気に慣れてしまう。
「それじゃあ、自己紹介お願いね」
「金沢高校から転校してきました、近藤聖耶です、これからよろしくお願いします」
周囲の反応はそれなりで、そこまで大騒ぎするような事にはならなかった。
それに関しては正直ホッとしている。
「それじゃあ、あの席が空いているからそこに座って」
それに従い俺はその席へ向かって歩み始めた。その途中俺は、海斗と文乃は呆気にとられた顔を見つつ、席に着いた。それを確認して教員の話しが始まった。
海斗と文乃が同じクラスだとは内心驚いた。
さらに偶然にも俺の席は文乃の隣で、流石にそれに関しては驚きを隠せないでいた……。
とりあえず、席に着き、文乃の方を見る。
すると、ふっ、と口元を綻ばせ、軽い笑みを見せる。
色々話したいことはあったが、その表情に胸が高鳴った。
い、いまの感覚は……一体、何だ……? 初めて見たわけでもないのに、寧ろ昔と殆ど変わらない文乃の笑顔なのに……一体何で――。
その事が引っ掛かり先生の話しどころじゃなかった。
そして、気がつくとHRが終わっていた。
「よう、聖耶、まさか俺たちのクラスに来るとは……ほんとビックリしたぞ」
「私も~、しかも隣の席だから余計に驚いちゃったよ」
「……そ、そうだな」
「ん、どうした? 何か様子が変だぞ」
「え、そ、そうか? もしかしたら、ここ環境にまだ慣れていないからだろ、きっと……」
「そうだったか……って、そんな事じゃないだろ? 何か別な事だろ」
流石、俺の幼馴染みやってないな……。実際その通りで、さっきの文乃の笑顔で高鳴ったあの気持ちに疑問を抱いていた。
「い、いやなんでもねぇよ、別に何を考えようが別にいいじゃねぇかよ!」
「そ、そんなに強く言う必要はないだろ?」
「聖耶、本当に何でもないの?」
「……ほっといてくれ」
謎の感覚に苛立ちが募るばかりでここにいてもむしゃくしゃするだけだから、二人が静止するのを無視して俺は教室を出て行く。
「――聖耶」
文乃の様子を海斗は見ていた。そして、何かを感じとった。
「――もしかして……あいつ、文乃のこと……」
教室を後にした俺は屋上を目指し、学校内を放浪していた。
曲がり角の人影に気づかず、俺はそのまま歩いた結果――。軽く衝突した。
俺は、ちょっと弾かれた程度で済んだが、もう一方で――。
「あいたた~、もう気をつけなさいよ、君……って――」
「すいません、ぼーっとしてたもの、で……って――」
「『近藤君!』『葛城先生!』」
「だ、大丈夫ですか!?」
俺は慌てて手を差し伸べ、それに答えるように先生は手を掴み、勢いよく引き上げる。
「えぇ、大丈夫よ。近藤君は優しいのね」
「いえ、これぐらい何の造作も無いですから」
ちょっと照れ気味にそう答える。
「近藤君って、『天涯孤独』のイメージがあったから、ちょっと接するの実は怖かったんだ」
「俺って、そんな風に見えます? まぁ前の学校とかの奴にもそんな事言われてましたけど……」
「そんな事はともあれ、どうしたのこんな所で?」
「俺は、ちょっと上の方に……。そう言う先生はどこへ?」
「あなたの教室よ、もしかして、屋上で次の私の授業をサボろう何て考えていたのかな~?」
「い、いや、そういうわけではないんですけど……。まぁ色々と事情が……」
「問答無用です!」
そんな細い体でどこにそんな力があるんですか!? と、疑問を抱きたくなるほどの力で俺の腕を掴み、教室へ強制連行され、その状態のまま教室に入ると、あっという間に笑い者にされてしまった。
本当に恥ずかしくて、死にたいぐらいだった――。
そして、授業の真っ最中――。
「どこに行ってきたの、聖耶?」
ちょっと心配そうな表情で文乃は俺を見た。
「ちょっと校内探検してたら、先生に捕まっちまって……もう最悪だよ……」
「ふ~ん、でも、満更でもない顔してる」
「べ、別にそういうわけじゃないって……」
「まぁ、文乃考えすぎだ、せっかく昔みたいな賑やかな学校生活を送れるんだ、いきなり険悪な雰囲気はやめようぜ」
「……もう、仕方ないなぁ~、しょうがないからこの辺にしておいてあげる」
「それでこそ、俺の“幼馴染み”だよ」
「……“幼馴染み”……か」
一瞬文乃の表情が暗くなった、ような気がした。
「ん、どうかしたか? 文乃」
「……ううん、何でもないよ」
何かを隠すかのように作り笑いを浮かべて誤魔化しているような感じがした。
「……そうか、それならいいけどさ――」
「近藤君、桐沢さん。話をするのは別に良いけど、せめて声のトーンを落としてもらえないかしら? みんながそっちの会話に聞き入って、授業どころじゃないです」
そう言われて初めて気がついた。クラスの半分以上が俺らの方を見ていた。そして、先生の注意を聞いて、他の奴らもこっちを見始める。
「あ……。す、すいませんでした、授業続けてください」
「あんな話を聞かされたらみんな気になるわよね~。というわけで、急遽、授業はここまでにして、近藤君の歓迎会及び、近藤君と桐沢さんの関係でも聞かせてもらうとしましょうか」
その瞬間、歓喜の雄叫び……と、まではいかないが、それなりにクラスの盛り上がりに俺と文乃、それと海斗は少々戸惑いを隠せなかった。
その後、色々なことを洗いざらい吐かされた挙句、案の定海斗も巻き込まれた。
結果、放課後を迎えるまでひたすら質問攻めに遭い、そのせいで俺と文乃の二人は少しぎくしゃくしていた。
――そして、その放課後。
「聖耶、帰ろうぜ……」
鞄を片手にし、気だるそうに俺の所へやって来た。
「お、おう……。文乃、帰ろうぜ」
「ちょっと待って、これ書かないといけないから……」
そう言って俺に学級日誌を見せる。
「それ、時間掛かりそうか?」
「う、うん、少し時間が掛かると思う……」
「それだったら、ちょっとその辺ふらついてるから、終わったらメールくれ」
「うん、分かった、ごめんね私の為に……」
「いいよ、んなこと、それじゃ頑張れよ」
俺は教室を離れ、とある場所へ向かった。
長い階段を上り、屋上へ出た。
「やっぱり、屋上はいいな……」
フェンスの方まで行き、野球部やサッカー部などの外で活動している運動部や、そのまま下校する生徒の姿を見下ろす。
俺はこういう景色は結構好きだが、それでも日中の青空やこの夕日に染まった赤い空を見るのが一番好きだ。
今まで通った学校のほとんどは、こうしてよく屋上に来てはこの景色を見て心を落ち着かせていた。
その理由としては、中学に上がったときに何となく放課後に屋上へやって来たのが全ての始まりだった。まるでそこだけが別世界のように想えた。それ以来、どこの学校でも自然と屋上へ足を運ぶようになった。
暫く、その景色を眺め思い出に浸っていると……文乃からメールが来た。
「――さて、戻るか」
屋上を去り、教室へ向かった。
「お待たせ――って、あれ、いない……」
携帯を取り出し、開くと――。
海斗からメールが届いていた。
「どうしたんだ? ――っ!!」
メールの内容に絶句した……。
俺は慌てて教室を飛び出し、メールに記された場所を目指し、俺は全力で校舎内を走り回った。
「海斗! こんな所に文乃を連れ出して何考えてるんだよ!」
校舎の外に配置されている体育倉庫へ海斗に呼び出され俺はやってきた。
「あれ、文乃はどこだ?」
「文乃には校門で待ってもらってるよ」
「そうか、それで俺に何のようだ……」
海斗は落ち着いた様子で口を開く。
「俺さ、文乃に告ろうと思うんだが、イケると思うか?」
「はぁ!? それマジで言ってんのか?」
正直、冗談にしか感じなかった。
「あぁ、俺は本気だ。お前がこの町にいない時に文乃のことが気になって、最近になってそれが【恋】だと気付いた――。お前は文乃のことをどう思ってるんだ?」
「俺は、あいつのこと――」
「あ、二人とも遅いと思ったらこんな所にいたの……」
いつまでも校門にやって来ない俺たち二人を待ちわびた文乃が若干息を切らしてここまでやってきた。
「ん、何? 二人でこそこそ話しなんかして……」
「いや、なんでもないよ、ちょっと聖耶に相談に乗ってもらってただけだから」
「ふ~ん、まぁいいけど。ほら早く帰ろう」
そう言って、早々と文乃はこの場を後にした。そして、海斗が文乃が行ったことを確認して、
「そういうことだから、お前があいつをどんな風に想っているかは分からないが、さっさと気持ちの整理をつけないと俺があいつを貰っちまうからな」
ボソッと俺に囁き、先を歩いていった。少し遅れて俺はその後を追う。
その帰り、海斗の突然の告白に文乃のことを意識してしまい、他の事は頭に入ってこなかった。そして、気がつけば二人と別れ、俺は家に着いていた。
いつも通りの時間を過ごし、布団に潜り込む。
『俺さ、文乃に告ろうと思うんだが――』
『お前は文乃のことをどう思ってるんだ?』
この言葉が俺の脳内で繰り返し繰り返し再生される。
「……文乃を、どう思ってるか、か……」
そんなことを考えているうちに、俺はふと今日までの事を思い返していた。
どうしてだろうか、あまり意識をしていないのに文乃の笑顔しか浮かんでこない――。
俺、もしかすると……文乃、の……こと……が――。
何かに気付いたときには、睡魔に負けて深い眠りに就いた。
0
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