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第16話

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 公爵家へと戻ってきた私たちを出迎えたのは、私にとってはいつもの二人組。ほかでもない、公爵とエリーゼだった。

「おかえりおかえり~♪お出かけはどうだった?楽しかったかい?」

 気持ちの悪い笑みを含ませて言葉をかけてくる公爵。その表情はなにかを企んでいると言わんばかり。

「ええ、楽しかったですけれど…。どうされたのですか?わざわざのお出迎えとは」

「ああ。実は君に幸せな知らせがあるんだ。これを君に伝えられるかと思うと、胸が高鳴って仕方がないんだよ~」

「私もお兄様と同じ思いですわ~♪」

 長引かせても面倒なので、私はさっそく本題へ移らせる。

「はぁ…。それで、その知らせとは何ですか?」

 その言葉を待っていた、とばかりに公爵は意気揚々と説明を始める。

「喜ぶといい。君に新しい婚約の申し込みが来ているんだ。まさか断るなんてことはないだろう?君のような大して魅力もないような女に婚約を持ち掛ける相手なんて、そういないのだから」

「お言葉ですね。公爵様も私に申し込んで来たではありませんか」

「そ、それは…た、ただの気まぐれだ。今は心から後悔しているとも」

 上機嫌だった公爵の様子が少しだけ、イライラに変わった様子。

「僕から改めて告げることなどありはしない。婚約の破棄ができないのなら、新しい婚約で上書きするまでの事。相手がいてよかったな?感謝してくれたまえよ?」

「お姉様、お相手なんてどなたでもいいでしょう?お会いしてからの楽しみにされてくださいね♪」

 その時、私は心から思った。この二人に人を見る目がない事はよく知っている。そんな二人が嫌がらせのように私に押し付けようとしているそのお相手は、もしかしてこの二人の期待を裏切るような人物なのではないか、と…

「それはそれは。私なんかのためにそこまでしていただいて、本当になんとお礼を言ったらいいかわかりません」

「ククク…強がらなくてもいいぞ?内心では震えるほど泣きたいのではないのか?公爵であるこの僕との関係が終わってしまったばかりか、どこの誰とも知らない相手との強引な婚約…その相手というのも…あのような男(笑)」

「お兄様、そんなことを言ってはお姉様がかわいそうですわ。まぁ、かわいそうでも何の問題もないですけれどね~♪」

「さぁさぁ、早めに出発したほうがいいぞ!向こうだってさぞ君に会いたがっているだろうからね。まぁせいぜい頑張ってくれたまえ」

 私は特に二人に逆らう事もせず、一旦流れに身を任せてみることにした。
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