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第63話

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――グロス上級公爵視点――

「だから問題ないと何度も言っているだろ!!!私の言う事が信じられないのか!!!もういい出て行け!!」

 今日もまた一人、私の賄賂を受け取っておきながら私に意見してくる貴族が現れた。…少し私がシュルツらに言いくるめられてからと言って、まったくどいつもこいつも…。あれだけ私の言う事を聞くと言っていたのに、ソフィアの告発文書が跳ね返された途端、手のひらを返しよって…。
 これもすべて、シュルツとソフィアのせいだ…!連中とくれば私の邪魔ばかりしよって…!私が次期皇帝の椅子に座ることがそんなに悔しいのか?…まったくなんと卑しい連中か…。
 終わりのないそのような考えを巡らせていたその時、一人の使用人が私のもとにある人物の訪れを知らせに来た。

「グロス様、アルバス様の姿がお見えです」

 アルバス…?ああ、あのくそ真面目に死んだ伯爵の臣下の男か…。あいつも私側の人間のくせに、身の程をわきまえず私に意見しに来たのだろう。次から次へと…

「はぁ?…まあいい通せ」

 いらだちを隠すこともせず、ここに通すよう使用人に告げる。それからほどなくして、使用人の案内を受けながらアルバスが部屋に姿を現した。

「また貴様か…。先に言っておくが、死んだ伯爵の妻と子の面倒を見ろなんて頼みは聞かんぞ。お前にはちゃんと報酬をくれてやっただろう?今更文句はあるまい。あくまで伯爵は勝手に死んだのだ」

 私の味方をして伯爵を裏切っておきながら、いつまでも善人面をしよって…。ほんとうにうっとうしい男だ…。
 そんな私の表情を読み取ったのか、アルバスはめずらしく従順な態度を見せる。

「は、はい…。心得ております」

「ほう…。じゃあ何だ?私も忙しいんだが」

 こんな奴の相手をしている時間など私にはないのだが…。
 もう追い返してしまおうかと考えていたその時、アルバスはとんでもないことを口にする。

「じ、実は…。グロス様が債務飛ばしを行っているという証拠を、シュルツとソフィアがつかんだ様なのです…」

「なっ!!!」

 その言葉に私は感情的になり、口調を荒げる。

「ば、ばかな!!!それに関わる資料は秘密書庫に厳重に保管している!!存在も明かしていない上に、あそこに入れるのは私だけだ!!にもかかわらず秘密が漏れたなど、そんなはずはない!!!」

 そう、あそこは何重にも対策をしている場所だ。シュルツやソフィアはもちろんの事、皇帝陛下だって簡単には立ち入ることはできないだろう。そんな場所に、奴らがそうやすやすと侵入などできるはずがない…!!!
 しかしアルバスは冷静に私に言葉を発する。

「し、しかし、本当のようなのです…私は奴らの屋敷を訪ねて確認しました…」

「!!!」

 私は即座に使用人一人を呼び出し、緊急の仕事を耳打ちして伝える。その内容を聞き届けた使用人はすぐに行動に移り、この場を後にしていった。
 …落ち着こうと思っても全く落ち着けない。心臓の鼓動が早くなり、呼吸も荒くなる…。何度も何度も同じ場所を行ったり来たりし、頭の中で考えをひねり上げる。

「ううう…まずいまずい…あれが表に出てしまえば、私は本当に終わってしまう…」

 …もうこうなってしまっては手段を選んでいる時間はない。向こうが動き出すその前に、どんな手を使ってでも奴らを先につぶさなければならない…!

――フランツ公爵視点――

 私はグロス上級公爵家の屋敷の外に身を隠し、門が見える位置にて準備を整える。ここまでは作戦通りだ。
 …しばらくして、アルバスさんが屋敷の前に到着、そのまま門をくぐって上級公爵家の中へと入っていく。

「さぁアルバスさん、作戦通りお願いしますよ…」

 アルバスさんの姿が見えた段階で作戦開始だ。…心臓の鼓動が早くなり、若干顔に汗をかいているのが感じられる。今までにない緊張感を体が感じているのだから無理もない。…この作戦に失敗すれば、もう上級公爵を攻撃するタイミングは永久に訪れないかもしれない…。失敗は絶対に許されないのだ。
 少し耳を澄ますと、屋敷の中からは何やら上級公爵が大声で何かを言っているのが聞こえる。…ミケラさん、気が弱そうだけれど上級公爵と上手く話せているのだろうか…?
 一抹の不安に考えを巡らせていたその時、一人の人物が上級公爵家の門から飛び出していった。顔を見ればその人物は、あの家の使用人であることが分かった。しかしその服装は使用人のそれではなく、採掘場で働く人間の仕事服を着ていた。

「…よし、とりあえず第一段階成功…!」

 そんな上級公爵家使用人の姿を見た私は、この作戦における第一段階の成功を確信し、彼に見つからないよう細心の注意を払いながらその人物の後を追った。

――――

――アルバス視点――

 部屋に取り付けられた窓から外の方へと視線を移すと、着替えて屋敷を飛び出していく使用人と、その後を追うフランツ公爵様の二人の姿が確認できた。…よし、とりあえず自分のやらなければならない事は無事に終えられたようだ。

「フランツ公爵、後は頼みます…」

 この作戦が成功すれば、上級公爵から貴族位をはく奪するための切り札を手に入れられるだろう。…しかし一方で、私は上級公爵の不穏な動きも見てしまった。ついさっきまで部屋に一緒にいた時、彼は小声で『もう手段は選んでいられない』と言った…。決してこのまま簡単に終わるはずはない…。
 しかし、自分にできることはもうない。私はここを退散しようと考えた。しかしその時、目の前にある人物が現れた。

「…あら、元伯爵の手下の方?」

 声の主は他でもない、上級公爵につるんでいるエリーゼさんだ。…まさかこのタイミングで遭遇してしまうとは。

「もしかして、あなたもシュルツとソフィアに負けた上級公爵様を見限りに来たのかしら?」

 上級公爵が置かれている状況を、やはりこの人もすでに理解しているらしい。…しかしこんな状況だというのに、どこか余裕な様子だ。

「ふふふ。だけどね、あれは向こうが悪あがきをして破滅が少し先延ばしになっただけでしてよ?私たちの上級公爵様が負けるはずありませんもの。くすくす」

 …噂通り、この人は相当な女狐のようだ…こんな人と長く生活を共にしていたというソフィアさんは、それはそれは苦労の連続であったことだろう。

「まあすぐにわかりますわ。上級公爵様と私が婚約し、その後彼が皇帝となり、この帝国を明るい未来へと導く。これはもう決まっていることですもの」

 エリーゼさんが高笑いする横を、私は無言で通り過ぎる。…その場を去ってしばらくしてからも、その不気味な笑い声はしばらく聞こえ続けた。
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