たった一つの居場所が失われても、細い糸を手繰り寄せて

青森りんご

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第三章:才能の開花

第十四話 王太子との再会

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 王宮の広間に足を踏み入れると、かつての記憶が蘇る。

 豪華なシャンデリアが輝き、絢爛な装飾が施された大理石の床が広がっている。

 けれど、それらはもうリリアにとって縁のないものだった。

 そんな彼女を迎えたのは――

「リリア……久しぶりだな」

 王太子エドワードの冷ややかな微笑みだった。

 彼はかつて、リリアを“偽物の聖女”と断じ、婚約を破棄した人物。

 その後、王宮を追われた彼女がこうして再び呼び戻されるとは――なんとも皮肉な話だった。

「……お久しぶりです、殿下」

 リリアは表情を崩さず、静かに頭を下げた。

 だが、エドワードの隣に立つ一人の女性を見て、思わず目を見張る。

「ミレイナ様……」

 そこにいたのは、かつてリリアを陥れた“本物の聖女”とされるミレイナだった。

 優雅に微笑みながら、彼女はリリアを見下ろしていた。

「まあ、あなたが王宮に戻ってくるなんて……本当に驚いたわ」

「……」

 リリアは言葉を返さなかった。

 ミレイナが何を考えているのかはわからない。

 だが、彼女のその微笑みには、どこか余裕のようなものが感じられた。

(やっぱり、何かある……)

 リリアが警戒を強めたその時、エドワードが口を開いた。

「本題に入ろう。リリア、お前の作った魔法具について話がある」

 リリアはゆっくりと頷いた。

「私の魔法具……ですか?」

「ああ。特に〈冷気の指輪〉についてだ」

 エドワードは机に肘を置き指を組みながら、厳しい目を向ける。

「王宮の中でも評判になっている。特に、騎士団や侍従たちが“ぜひ導入してほしい”と言い出しているそうだな」

 リリアは小さく息をのんだ。

(王宮の中でも、庶民と同じように実用性を求める声が出ている……?)

 たしかに、騎士団や下級貴族たちは、酷暑の中で戦ったり働いたりすることが多い。

 〈冷気の指輪〉は、彼らにとっても有用なものなのだろう。

 だが――

「王宮魔法技術顧問の意見は違うようだ」

 エドワードは重々しく言った。

「彼らは、お前の魔法具を“危険視”している」

「……危険視?」

「お前の作る魔法具は、あまりにも魔力効率が良すぎる。これまでの貴族向けの魔法具とは違い、誰にでも使いやすく、価格も安い。……つまり、魔法具を独占してきた貴族社会にとって、脅威になりかねないということだ」

「……!」

 リリアは驚きながらも、すぐに理解した。

 自分が作っているのは、あくまで“便利な道具”のつもりだった。

 だが、それが広まることで、魔法具の市場を独占していた貴族たちの利益が損なわれる。

 だからこそ、王宮の一部が警戒し、こうして自分を呼び出したのだ。

「……つまり、私に魔法具の製作をやめろと?」

 リリアの問いに、エドワードは静かに目を細めた。

 その時――

「まあまあ、殿下。リリアにそんな言い方をするのは酷ですわ」

 ミレイナが優雅に微笑みながら口を挟んだ。

「リリア。私はあなたの発明の才能を素晴らしいものだと思っているの。だからこそ――王宮のために使ってみるのはどうかしら?」

「……王宮のため?」

「ええ。あなたの才能を生かして、王宮専属の魔法具職人になればいいのよ」

 ミレイナは、まるで慈愛に満ちた声でそう提案した。

「そうすれば、あなたの魔法具はすべて王宮が管理し、必要な人々に行き渡るように調整できるわ。もちろん、そのための資金援助や研究施設も提供するわ」

 王宮専属の魔法具職人。

 一見すると、申し分ない条件に思えた。

 だが、リリアはすぐに気づく。

(……これは、“自由”を奪う提案だ)

 王宮専属になれば、彼女が作る魔法具はすべて王宮の管理下に置かれる。

 庶民のために自由に作ることはできなくなるだろう。

 ミレイナは、それを“援助”という形で見返りをちらつかせながら、リリアを囲い込もうとしているのだ。

「どうかしら?」

 ミレイナは微笑みながら尋ねる。

 リリアは少しだけ目を伏せ、そして――

「お断りします」

 はっきりと答えた。

 一瞬、広間の空気が凍りついた。

 エドワードが目を細め、ミレイナの微笑みがわずかに引きつる。

「……どうして?」

「私は、必要としてくれる人のために魔法具を作りたいのです。それが、王宮だけに限られるのは違うと思います」

「……そう」

 ミレイナの表情から笑みが消える。

 そして、エドワードが重々しく言った。

「ならば――お前は王宮にとって、“危険な存在”ということになるな」

 リリアは静かに、しかし強い意思を持って彼を見返した。

「私は、間違ったことはしていないはずです」

「それを決めるのは、お前ではない」

 エドワードは冷たく言い放つ。

 次の瞬間――

「リリア・フォン・アルセイン。お前を“王宮への敵対行為”の疑いで拘束する」

 数人の衛兵がリリアの前に立ちはだかった。

(……やっぱり、こうなるのね)

 リリアはゆっくりと息を吐く。

 だが、次の瞬間――

「リリアを連れて行かせるわけねえだろうが」

 聞き慣れた声が響いた。

 振り返ると、そこには――

「……アレクセイさん!」

 扉の前に立つ、魔法具職人アレクセイの姿があった。

 その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
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