【J庭58無配】組曲 恋 Love Suite

すずかけあおい

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第七曲 なんぞや

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「『好き』とはなんぞや」
 宙詞そらしの唐突な問いに、首をかしげる。
「それなに?」
「雑談。まだ帰りたくないし、もうちょっと笙渡しどと話してたい」
「僕も」
 放課後の教室はからんとして静かで、ときおり廊下を教師や生徒が通る。グラウンドからサッカー部の練習を見ている生徒たちの声援が響いてくるが、笙渡は運動音痴なので見てもわからない。向かい合う宙詞も、声援が聞こえてきても無反応だ。
 宙詞は頭がよくて運動もできて、しかも恰好いい。それだけ揃っているのに彼女を作らず、笙渡と一緒にいてばかり。まわりからは「もったいない」と言われるし、笙渡もそう思う。親友の贔屓目を抜きにしても、恰好よくて優しい素敵な男だ。笙渡が女子なら間違いなく好きになる。男子の目から見たって、好意を向けられて当然だと思う。
 どうしてという理由もなく教室に残り、話していたら話題が途切れた。宙詞と話していると、とにかく楽しい。もっと話していたいと思ったのは宙詞も同じだったようだ。楽しい空気のまま、もう少し会話を弾ませたい。そこで出たお題が『好きとはなんぞや』だ。
「『そばにいてほしい』じゃないか?」
 宙詞が、これははずせない、と頷いた動きに合わせて、ふわふわの黒髪が柔らかく揺れた。たしかに重要なことだ。そばにいてほしくない相手は好きになれない。笙渡も頷くと、さらりと黒髪が流れる。同じ黒髪でも揺れる動きはまったく違う。
「僕もそう思う。恋人って、その気持ちの延長なのかな」
「そんな感じがするけど」
 よくわかんない、と宙詞が笑う。笙渡も同じなので合わせて笑った。こうやって同じ意見で笑い合えることが楽しい。ふたりで天井を見あげ、うーんと頭を悩ませる。普段なにげなく使っている『好き』も、じっくりと考えたことがない。考えてみると、なかなか難しい。
「『気を遣わない』とか」
 思いついたことを言うと、宙詞は首をひねった。
「逆に緊張するんじゃないか?」
「そっか、そうかも」
 難しいね、とふたりで同時にまた首をかしげる。これが他の人とならば退屈な話題なのかもしれないが、宙詞とならばなんでも楽しい。取り留めもなく、思うままに気軽に話せる相手はなかなかいない。宙詞と仲良くできてることを常々感謝している。
「じゃあ……『相手が必要』かな」
「俺は、『なにかをしてあげたい』もだと思う」
「『喜ばせたい』」
 スクールバッグからノートを出して、次々とあがっていく意見をなんとなく書き留めてみた。特に深い意味はないのだが、せっかく考えているのだから、残しておいたらなにかの役に立つかもしれないと思ったのだ。笙渡がノートに書き留めるのを、宙詞が覗き込む。
「うーん。『そばにいてほしい』、『相手が必要』に『なにかをしてあげたい』……」
「それから『喜ばせたい』、と」
 書き終えて、他にもなにかあるかな、とふたりで首をひねる。なかなか結論には行きつかない。それがかえって楽しくて、もっと『好き』について考える。
「『異性』はどうだ」
「異性じゃなきゃだめってことはないでしょ。世の中には同性同士のカップルだっているんだから」
「そうか、それもそうだな」
 頭を悩ませている宙詞は、授業中より真剣だ。他になにかあるだろうか。
 宙詞が手のひらを出すので、持っているシャープペンを渡す。受け取ったシャープペンで、ノートに『異性も同性もあり』と宙詞が書き込んだ。
「『ずっと一緒にいたい』」
 宙詞は続けてあげながら、ノートに書き込む。さらに『相手が良く見える』と書いた。
「良く見えるってなに?」
「恋は盲目って言うし、好きな相手がめっちゃ可愛く見えたり、恰好よく見えたりするんじゃないの?」
「あー、あるね」
 うんうんとふたりで頷く。
 告白はたくさんされている宙詞だが、そういえば彼自身の恋については聞いたことがない。
「宙詞って好きな子とかいないの? 昨日も告白されて断ってたでしょ」
 宙詞は、こともなげに「うん」と頷いた。
「だって笙渡といるほうが楽しいもん」
 そうやって言ってくれると嬉しくなる。笙渡も彼女より宙詞といたいし、他の誰といるよりも宙詞といるのが楽しい。平々凡々な笙渡に彼女ができる可能性なんて、限りなくゼロに近いのだけれど。
「笙渡こそ好きな子いないの? 彼女ほしいとか言わないよな」
「うん。僕も宙詞といるのが楽しいから」
 意見が合って、なんとなく照れくさいけれどやはり嬉しい。こういうところが親友だなと思う。意見を合わせようとしなくても自然と合う。性格もあるだろうが、宙詞とは基本的に気が合うのだ。食べたいものもかぶるし、したいこともたいてい似たようなこと。ゆずれ、ゆずらない、なんて揉めたことは一度もない。
「あ、『一緒にいて楽しい』」
 宙詞からシャープペンを受け取って、ノートに書き込む。けっこういろいろな考えが出ている。どれもたしかに、『好き』に連なる感情だ。
「『もっと一緒にいたくなる』も入れて」
「うん」
 宙詞の考えも書いたところで、書き留めたメモを読み返す。宙詞の視線も同じ動きをしているのがわかった。
「あれ?」
「あれ?」
 声が重なり顔をあげる。視線がぶつかり、ふたりで同じ方向に首をかしげた。こんなときでも気が合って、同時に少し笑う。
「これって笙渡のこと?」
「これって宙詞のこと?」
 また声が重なって、ふたりで目をまたたく。
 ここまで出したものは、すべて宙詞に対していだく気持ちと同じなのだ。申し合わせたわけでもなく、ふたりでメモをひとつずつ読みあげていく。
「……俺は笙渡を? え?」
「僕、宙詞のことが……え、えっ?」
 顔を見合わせてお互いに驚く。たぶん今、宙詞と同じ顔をしていると自分でもわかる。ふたりで目を丸くして、何度もまばたく。ぽかんと開いた口の形まで同じの気がする。
「つまり……」
「僕たち、……両想い、ってこと?」
 急に恥ずかしくなってきた。親友としてたしかに宙詞が好きだ。きっと宙詞も同じ気持ちをいだいてくれている。その言い方を変えると『両想い』になる。でも友情と恋愛の『好き』の違いはわからない。
 しばしの沈黙を破ったのは、やはりふたりで同時に唾を飲んだ、喉の鳴る音だった。
「たしかに僕は宙詞が好きだけど」
「俺も笙渡が好きだよ?」
「うん」
 あらためて言葉に出すとむずがゆい。好きだから一緒にいるのだが、お互いに気持ちを確認し合ったのではなく、自然とそうなったから。仲良くしよう、そうしよう、なんてやり取りもなかった。
「笙渡」
「な、なに?」
「やってみる?」
「え?」
 なにを?
 もしかして、と思いながら、でもまさか、と宙詞に目を注ぐ。宙詞もじいっと視線を向けてくる。
「恋人、やってみる?」
 やっぱり!
 この言葉が出るだろうと思ったので、それほど驚きがない。でも緊張はある。おそるおそる頷いたら、宙詞は表情を和らげて「それじゃ」と軽やかな声を出した。
「次のお題は『恋人とはなんぞや』だ」
「それは深い内容になりそうだね」

(終)
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