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あなたと夕陽と心②
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「光輝、こっち来い」
「うん」
昨日は金曜日で、帰宅後に彼氏…海司に呼び出された。友達と飲むからおまえも来い、と。海司の呼び出しはいつも気まぐれで突然。だけど予定が合わないなんて言えないなから呼ばれたらすぐに行く。俺はそれだけ。
居酒屋で海司の友人達と飲む。と言っても俺はソフトドリンク。海司は俺が酔うのが気に食わないらしい。
全員集まったのかな、と思っていたら、個室のドアが開いた。
「お待たせ。すごいの連れてきたよ」
すごいの、と言われただけあって、その人のうしろから入ってきた男の人はとてもかっこよく、個室内の女性達が色めき立った。居心地が悪そうに女性に囲まれている美形男性をぼんやり眺める。違う世界の人だな、と。
「おい、光輝」
「っ…」
海司に思いきり首のうしろ側を掴まれ、痛みに顔が歪む。
「よそ見すんな」
あ。マジな目だ。
勢いのまま首を絞めてきそうに凄みをきかせる海司に、なんとかこくこくと頷く。すぐに離してくれるかと思ったら、首を掴んだままでいる。痛いなあ、もう…と思っていたら、その手が離れた。無理矢理離されたと言うのが正しい。
俺の首を掴んでいた海司の手を掴む、もう一つの手。
「おいで」
「え」
「この子、もらうから」
あの美形男性さんが俺の肩を抱いて個室から連れ出す。なにが起こったのかわからず首を傾げている間にエスコートするようにタクシーに乗せられ、そのままどこかへ連れて行かれてしまった。
タクシーで十五分ほど走って着いたマンションの一室。この人の自宅だよな、と室内を見回す。ローテーブルに置かれているボールペンにChiakiと刻印されていて、この人の名前だろうかと思い、記憶を辿る。
女性達はなんて言ってたっけ。ぼんやり流し聞いていた会話を思い返す。かっこいい。どこの会社で働いてるの、とか、いくつ、とか女性達が聞いていて。彼女いるの、とか。それからそれから……。
『――――千明くんって言うんだぁ』
思い出した。千明さんだ。やっぱりこの人の名前。
「冷やしたほうがいいかな」
「え?」
突然千明さんが話しかけてくるので顔を上げると、思ったより近くに綺麗な顔があった。思わず顔を引いてしまって、失礼だったかなと反省するけれど、千明さんは気にした風ではなく、俺の首のうしろを指で撫でる。
「痣になりそう」
「あ……え!?」
それくらい大丈夫と答えようとしたら、首筋にキスをされた。心臓が大きく跳ねて口から飛び出すかと思った。やんわりと触れる温もりが首筋から指の先まで伝わっていく。どうしていいかわからず、千明さんの肩に手を置いた。
「あの…大丈夫です、から…」
このままじゃ心臓がどうにかなって倒れてしまいそうだ。彼氏らしきものはいるけれど、こういう接触はないから、心が慣れていない。そもそも海司にとって俺は“人”として認識されているのかわからないくらいの関係。
「千明さん、俺、戻らないと…」
「どこに?」
「店に。海司が怒るから」
いや、既にキレてるな。玄関に向かおうとするけれど、千明さんは俺を背中から抱き締める。
「あんなの放っておけばいい」
「そういうわけには…」
「……大切にするから、そばにいてほしい」
「は?」
身体を包む腕に力がこもる。知らないにおいがして、それが妙に優しい。全てを包むようなおおらかな温かさを背中に感じながら戸惑う。なにを言われているかわからない。
「試しに一週間、俺のそばにいてくれない?」
「あの…」
「本当に、大切にするから」
どうしたらいいかわからない。大切にってなに? 会ったばかりでこんなことを言うって………なにかの詐欺か勧誘? そうに違いない。
「うん」
昨日は金曜日で、帰宅後に彼氏…海司に呼び出された。友達と飲むからおまえも来い、と。海司の呼び出しはいつも気まぐれで突然。だけど予定が合わないなんて言えないなから呼ばれたらすぐに行く。俺はそれだけ。
居酒屋で海司の友人達と飲む。と言っても俺はソフトドリンク。海司は俺が酔うのが気に食わないらしい。
全員集まったのかな、と思っていたら、個室のドアが開いた。
「お待たせ。すごいの連れてきたよ」
すごいの、と言われただけあって、その人のうしろから入ってきた男の人はとてもかっこよく、個室内の女性達が色めき立った。居心地が悪そうに女性に囲まれている美形男性をぼんやり眺める。違う世界の人だな、と。
「おい、光輝」
「っ…」
海司に思いきり首のうしろ側を掴まれ、痛みに顔が歪む。
「よそ見すんな」
あ。マジな目だ。
勢いのまま首を絞めてきそうに凄みをきかせる海司に、なんとかこくこくと頷く。すぐに離してくれるかと思ったら、首を掴んだままでいる。痛いなあ、もう…と思っていたら、その手が離れた。無理矢理離されたと言うのが正しい。
俺の首を掴んでいた海司の手を掴む、もう一つの手。
「おいで」
「え」
「この子、もらうから」
あの美形男性さんが俺の肩を抱いて個室から連れ出す。なにが起こったのかわからず首を傾げている間にエスコートするようにタクシーに乗せられ、そのままどこかへ連れて行かれてしまった。
タクシーで十五分ほど走って着いたマンションの一室。この人の自宅だよな、と室内を見回す。ローテーブルに置かれているボールペンにChiakiと刻印されていて、この人の名前だろうかと思い、記憶を辿る。
女性達はなんて言ってたっけ。ぼんやり流し聞いていた会話を思い返す。かっこいい。どこの会社で働いてるの、とか、いくつ、とか女性達が聞いていて。彼女いるの、とか。それからそれから……。
『――――千明くんって言うんだぁ』
思い出した。千明さんだ。やっぱりこの人の名前。
「冷やしたほうがいいかな」
「え?」
突然千明さんが話しかけてくるので顔を上げると、思ったより近くに綺麗な顔があった。思わず顔を引いてしまって、失礼だったかなと反省するけれど、千明さんは気にした風ではなく、俺の首のうしろを指で撫でる。
「痣になりそう」
「あ……え!?」
それくらい大丈夫と答えようとしたら、首筋にキスをされた。心臓が大きく跳ねて口から飛び出すかと思った。やんわりと触れる温もりが首筋から指の先まで伝わっていく。どうしていいかわからず、千明さんの肩に手を置いた。
「あの…大丈夫です、から…」
このままじゃ心臓がどうにかなって倒れてしまいそうだ。彼氏らしきものはいるけれど、こういう接触はないから、心が慣れていない。そもそも海司にとって俺は“人”として認識されているのかわからないくらいの関係。
「千明さん、俺、戻らないと…」
「どこに?」
「店に。海司が怒るから」
いや、既にキレてるな。玄関に向かおうとするけれど、千明さんは俺を背中から抱き締める。
「あんなの放っておけばいい」
「そういうわけには…」
「……大切にするから、そばにいてほしい」
「は?」
身体を包む腕に力がこもる。知らないにおいがして、それが妙に優しい。全てを包むようなおおらかな温かさを背中に感じながら戸惑う。なにを言われているかわからない。
「試しに一週間、俺のそばにいてくれない?」
「あの…」
「本当に、大切にするから」
どうしたらいいかわからない。大切にってなに? 会ったばかりでこんなことを言うって………なにかの詐欺か勧誘? そうに違いない。
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