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あなたと夕陽と心③
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「俺、お金ないです」
「え?」
「俺からお金を取ろうとしても、なにも取れないですよ」
真剣に言うと、千明さんは目を見開いてからふわっと微笑んだ。
「そんなに気を張らなくて大丈夫。俺は光輝を騙したりしないし傷付けない」
髪を梳くように撫でられ、お金が目的じゃないなら、じゃあなにが目的だと考えるけれど、すぐに思考が止まった。千明さんがあまりに切ない表情をするから。捕まったら目が離せなくなる、時が止まったかのような感覚を覚える瞳。
「奪いたいと思ったからあの男から奪った。それはだめ?」
「だめ、って…」
なんでこんな特徴もない俺を? あの場には綺麗な人や可愛い人もいた。その中で俺っていうのがわからない。絶対なにか裏がある。
「…からかうのはやめてください。帰ります」
もう一度玄関に向かおうと腕の中から出るけれど、すぐに捕まってしまう。先程よりもずっと強く抱き寄せられてしまい、身動きがとれない。
「………どうして、俺?」
裏がないわけがない。裏がないなら理由はなんだ。この見た目の人が平凡中の平凡な俺を選ぶはずがない。やっぱり詐欺か勧誘だ。
「ただ、光輝が欲しいと思った、それだけ。俺、お腹空いちゃったから付き合って」
肩を抱かれてソファにとすんと座らされる。
なんか結構…自由な人? ちょっと待っていたら茶碗が二つ、ソファの前のローテーブルに置かれた。中身はお茶漬け。
「……」
「どうぞ。インスタントだけどおいしいよ」
「えっと…」
これ、後で莫大な金額を請求されたり…?
お茶漬けをじっと睨んでいると、千明さんがソファから立ち上がってキッチンに行ってしまった。請求書を取りに行ったんだろうか、と思ったら持って来たのは木製のスプーン。
「はい、あーん」
「!?」
お茶漬けをスプーンですくって俺に差し出してきた。これ、一口いくらだ。
「そんなに警戒しないで。毒なんて入ってないから」
スプーンをそのまま自分の口に運び、食べて見せる千明さん。そうか、そういう心配もするべきだったのか。
「いえ、一口いくらかなと思って…」
「え?」
「後でいくら請求されるのかと」
「………」
正直に言うと、千明さんは固まってしまった。それから大きな溜め息を吐いて黙り込む。なんだ。バレちまったとでも思っているのか。残念だったな、そこまで単純じゃないんだ、俺だって。
「光輝」
「はい」
「俺がきみを騙したり、なにか悪いことを企んでいる前提で見るのをやめてくれない?」
「………」
ますます怪しい。
「どうしたら信じてくれる?」
「どうしたらって言われても…」
「光輝は俺のなにをそんなに疑ってるの?」
なにをって。
「全部?」
「じゃあ、なにも隠してない証拠に脱いだら信じてくれる?」
「えっ!?」
千明さんがシャツを脱ごうとするので、慌てて止める。
「やめてください!!」
「だって光輝が疑うから…」
「だからって脱がないでください! なに考えてるんですか!」
「なにって…光輝のこと?」
あたりまえのようにそう言う千明さんに、顔が猛烈に熱くなる。なんなんだ、この人。変な人だ!
「光輝、真っ赤で可愛い」
「…からかうのはやめてください」
顔を隠したらお腹がぐうと鳴った。なんでこんなタイミングで。でも千明さんは嬉しそうにさきほどの木製のスプーンを手にする。
「冷めちゃったけど、はい、あーん」
「………」
「毒は入ってないし、お金も取らないよ。なんなら隠すもののない格好で食べさせてあげようか」
「結構です!」
ぱくっと勢いに任せてお茶漬けを食べる。確かに冷めているけれどおいしい。インスタントなのが逆に食べやすい。
「おいしい?」
「……はい」
「じゃあもう一口」
「……はい」
今度は素直にあーんと口を開けると、千明さんは花が咲いたような笑顔を見せた。嬉しいのかな、と思ったら、ほわんと心が温かくなる。一口、一口…と完食してしまった。食べ終わった後は不思議と、いくら取られるんだろう、という考えはもう浮かばなかった。
「……光輝の怯えた目を見て、苦しかった」
「?」
俺の頬をなぞり、ふにふにといじって千明さんが言う。ほとんど知らない人に触られても嫌な感じがしない。むしろ心地好い。
「二度とあんな目をさせたくない」
「怯えてなんて…」
ない。だって、今まで色々なことを面倒だと思ったことはあるけれど、怖いと思ったことはあまりない。海司のことだって、面倒だなって思うけれど怯えるなんてなかった。
「気付いてないだけだよ」
俺の頭にぽんと手をのせて、食べ終わった茶碗を片付ける千明さんの姿を見つめる。じっと、じーっと見つめていたら瞼が重たくなってきた。食べたから眠い。
「光輝? 眠くなった?」
「………」
答えなくちゃ。大丈夫ですって。眠くありませんって。でも唇も重たくなってきて、口が開けられない。千明さんがキッチンから戻ってきた。俺を抱き寄せてくれて、千明さんの肩に頭を乗せたらもう目を開けていられず、すぅっと吸い込まれるように眠りの世界に旅立ってしまった。
「え?」
「俺からお金を取ろうとしても、なにも取れないですよ」
真剣に言うと、千明さんは目を見開いてからふわっと微笑んだ。
「そんなに気を張らなくて大丈夫。俺は光輝を騙したりしないし傷付けない」
髪を梳くように撫でられ、お金が目的じゃないなら、じゃあなにが目的だと考えるけれど、すぐに思考が止まった。千明さんがあまりに切ない表情をするから。捕まったら目が離せなくなる、時が止まったかのような感覚を覚える瞳。
「奪いたいと思ったからあの男から奪った。それはだめ?」
「だめ、って…」
なんでこんな特徴もない俺を? あの場には綺麗な人や可愛い人もいた。その中で俺っていうのがわからない。絶対なにか裏がある。
「…からかうのはやめてください。帰ります」
もう一度玄関に向かおうと腕の中から出るけれど、すぐに捕まってしまう。先程よりもずっと強く抱き寄せられてしまい、身動きがとれない。
「………どうして、俺?」
裏がないわけがない。裏がないなら理由はなんだ。この見た目の人が平凡中の平凡な俺を選ぶはずがない。やっぱり詐欺か勧誘だ。
「ただ、光輝が欲しいと思った、それだけ。俺、お腹空いちゃったから付き合って」
肩を抱かれてソファにとすんと座らされる。
なんか結構…自由な人? ちょっと待っていたら茶碗が二つ、ソファの前のローテーブルに置かれた。中身はお茶漬け。
「……」
「どうぞ。インスタントだけどおいしいよ」
「えっと…」
これ、後で莫大な金額を請求されたり…?
お茶漬けをじっと睨んでいると、千明さんがソファから立ち上がってキッチンに行ってしまった。請求書を取りに行ったんだろうか、と思ったら持って来たのは木製のスプーン。
「はい、あーん」
「!?」
お茶漬けをスプーンですくって俺に差し出してきた。これ、一口いくらだ。
「そんなに警戒しないで。毒なんて入ってないから」
スプーンをそのまま自分の口に運び、食べて見せる千明さん。そうか、そういう心配もするべきだったのか。
「いえ、一口いくらかなと思って…」
「え?」
「後でいくら請求されるのかと」
「………」
正直に言うと、千明さんは固まってしまった。それから大きな溜め息を吐いて黙り込む。なんだ。バレちまったとでも思っているのか。残念だったな、そこまで単純じゃないんだ、俺だって。
「光輝」
「はい」
「俺がきみを騙したり、なにか悪いことを企んでいる前提で見るのをやめてくれない?」
「………」
ますます怪しい。
「どうしたら信じてくれる?」
「どうしたらって言われても…」
「光輝は俺のなにをそんなに疑ってるの?」
なにをって。
「全部?」
「じゃあ、なにも隠してない証拠に脱いだら信じてくれる?」
「えっ!?」
千明さんがシャツを脱ごうとするので、慌てて止める。
「やめてください!!」
「だって光輝が疑うから…」
「だからって脱がないでください! なに考えてるんですか!」
「なにって…光輝のこと?」
あたりまえのようにそう言う千明さんに、顔が猛烈に熱くなる。なんなんだ、この人。変な人だ!
「光輝、真っ赤で可愛い」
「…からかうのはやめてください」
顔を隠したらお腹がぐうと鳴った。なんでこんなタイミングで。でも千明さんは嬉しそうにさきほどの木製のスプーンを手にする。
「冷めちゃったけど、はい、あーん」
「………」
「毒は入ってないし、お金も取らないよ。なんなら隠すもののない格好で食べさせてあげようか」
「結構です!」
ぱくっと勢いに任せてお茶漬けを食べる。確かに冷めているけれどおいしい。インスタントなのが逆に食べやすい。
「おいしい?」
「……はい」
「じゃあもう一口」
「……はい」
今度は素直にあーんと口を開けると、千明さんは花が咲いたような笑顔を見せた。嬉しいのかな、と思ったら、ほわんと心が温かくなる。一口、一口…と完食してしまった。食べ終わった後は不思議と、いくら取られるんだろう、という考えはもう浮かばなかった。
「……光輝の怯えた目を見て、苦しかった」
「?」
俺の頬をなぞり、ふにふにといじって千明さんが言う。ほとんど知らない人に触られても嫌な感じがしない。むしろ心地好い。
「二度とあんな目をさせたくない」
「怯えてなんて…」
ない。だって、今まで色々なことを面倒だと思ったことはあるけれど、怖いと思ったことはあまりない。海司のことだって、面倒だなって思うけれど怯えるなんてなかった。
「気付いてないだけだよ」
俺の頭にぽんと手をのせて、食べ終わった茶碗を片付ける千明さんの姿を見つめる。じっと、じーっと見つめていたら瞼が重たくなってきた。食べたから眠い。
「光輝? 眠くなった?」
「………」
答えなくちゃ。大丈夫ですって。眠くありませんって。でも唇も重たくなってきて、口が開けられない。千明さんがキッチンから戻ってきた。俺を抱き寄せてくれて、千明さんの肩に頭を乗せたらもう目を開けていられず、すぅっと吸い込まれるように眠りの世界に旅立ってしまった。
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