しあわせをあなたと

すずかけあおい

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月曜日、怜司の傷

月曜日、怜司の傷①

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 バイトを終えてマンションの最寄り駅につくと、怜司が待ってくれていた。近寄るとひとりではなく、莉久は足が止まる。
 莉久の知らない男性となにごとか仲良さそうに話しているのに、違和感がある。なんだろう、と考えてわかった。怜司の目が冷たい。

「れ、怜司さん」

 思わず声をかけると、ふたりの視線が莉久に向いた。

「莉久……」
「なに、今の恋人?」

 相手の男性は莉久を怜司の恋人だと勘違いしたようで、莉久の頭から足まで不躾にじろじろと見た。表情には笑みが浮かんでいるが、どこか馬鹿にしていると感じられた。爽やかな雰囲気の見た目に似合うライトブルーのシャツを着た男性は、怜司の白いシャツの肩をひとつ叩いた。

「へえ。怜司ってこういうのも好みなんだ?」
「……」
「行こう。怜司さん」

 押し黙ったまま冷えた瞳をする怜司の腕を引いて歩き出す。怜司は困惑したような顔をしながらついてきた。

「俺はやっぱ無理だったわ」

 笑いながら怜司に声を投げかけた男性を莉久は一度振り返り、怜司を見あげる。その表情は強張っていて、見ていてつらくなるようなものだった。
 莉久が手を引くように歩く。怜司は足取りもふらついていて頼りなく、ますます心配になる。怜司とあの男性はどういう関係なのだろう、と考え、なんとなく前につき合っていた人かなと思った。
 会話もなくマンションについた。力なく自分の部屋に入っていく背中を、どうしようもなく抱きしめたくなった。部屋のドアが閉まる寸前で身体ごと滑り込み、両手を伸ばす。

「……!」

 衝動のまま抱きしめると、怜司は身体を小さく強張らせたあと、莉久の背中にゆっくり手をまわした。
 怜司を慰めたかった。その傷がなにかはわからないけれど、軽くしてあげたいと思った。

「悪い。……今だけ」

 縋るように腕に力がこもり、震える指先を感じて莉久も抱きしめる力を強める。
 莉久を支えてくれた怜司を支えたい――不思議とそんな気持ちが湧きあがった。

 どのくらいそうしていただろう、怜司が顔をあげ、腕の力を緩めた。莉久が顔を覗き込むと、向かい合う彼は無理に強がった笑顔を作った。

「悪いな。もう大丈夫」
「でも」
「ちょっと、ここ座って」

 怜司がベッドの端に腰かけ、その隣を軽く叩くので素直に座ると、肩を抱き寄せられた。怜司の指先がひどく冷たい。温めてあげたくて、だが触れていいのかわからなくて、莉久は手を開いて握り込んだ。

「本当に大丈夫?」
「ああ。ちょっと……なんか」

 言葉にできないものをなんとか言語化しようとしているのがわかった。小さく首を横に振った怜司は、深く長く嘆息した。


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