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土曜日、好き
土曜日、好き②
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バイトが終わって駅につくと、そこには梓眞がいた。
「梓眞さん?」
「バイトお疲れさま」
「怜司さんは?」
「……」
歩き出す梓眞についていくが、梓眞は莉久の問いかけに答えてくれない。なにかあったのかと心配になって、隣を歩く梓眞の腕を掴んだ。
「怜司さんはどうしたの?」
「どうもしないよ。ただちょっと、ね」
曖昧に微笑む梓眞に、帰ったら怜司に直接話を聞いてみよう、と意気込む。静かに歩く梓眞の隣で、怜司の笑顔を思い浮かべた。
帰宅してまっすぐ怜司の部屋にいき、ドアをノックした。
「怜司さん、莉久です。入っていい?」
返事がない。何度かノックをしても反応がないのでそっとドアを開けてみると、室内は暗く、彼の姿はなかった。
「怜司さん、バイト? 今日は休みって言ってなかった?」
梓眞に問いかけると、やはり曖昧な微笑みが返ってくる。なぜか嫌な予感がして、梓眞に詰め寄った。
「梓眞さん、教えて。怜司さんはどうしたの?」
「ちょっと時間がほしいみたいなんだ」
「どういうこと? どこいったの?」
答えてくれない梓眞にいら立ちを覚え、莉久はポケットからスマートフォンを出して怜司にメッセージを送った。
「たぶん既読にならないと思うよ」
梓眞の言うとおり、既読の文字はつかなかった。少し待ってみても、変化はない。
「なんで?」
もう一度問いかけると、梓眞はわずかに目を伏せた。
「莉久は、どうして怜司のことにそんなに真剣になってるの?」
「……」
切り返されて言葉が詰まるが、逃げたくない。
顔をあげて梓眞をまっすぐ見た。
「怜司さんはどこにいるの?」
眉を寄せた梓眞は、小さく息を吐き出した。
「困った子たちだね」
梓眞もスマートフォンを操作して、莉久にメッセージを送ってきた。それはネットカフェの住所だった。
「そこにいるよ」
「なんでネカフェ?」
「ビジネスホテルの部屋とろうかって言ったんだけど、『冗談じゃない』って逃げられたから」
苦笑した梓眞の横をすり抜け、玄関へと向かう。梓眞はもう莉久を止めなかった。
電車にのって、梓眞から教えてもらったネットカフェへいった。暗い道を怖がる余裕なんてない。ただまっすぐに怜司を捕まえに走った。
ついたのはいいけれど、ネットカフェ内のどこにいるかがわからない。メッセージを送ってみよう、と弾む息を整えていたら、店から探し人が現れた。腰に片手を当て、夜空を仰いでいる。
「怜司さん!」
慌てて駆け寄って腕を掴み、逃がさない、と強い意志をもって睨みつけると、怜司は困ったように眉を寄せた。その姿が先ほどの梓眞と重なった。
「……本当にきたのか」
「え?」
「梓眞さんから連絡あった。あの人にいき先教えたのは間違いだったな」
俺に甘いけど莉久にも甘いから、と渋い顔をしている。こんなときでもきちんとサポートしてくれる人に感謝し、腕を掴む力を強める。
「あの、俺――」
「逃げねえから、離せ」
手を揺らされて、離したくないがおとなしく離した。怜司は本当にどこにもいかず、きちんと莉久と向かい合ってくれた。
「なんでこんなとこにいるの?」
聞きたいのはそんなことではない、と口に出してから首を横に振った。怜司は静かに莉久を見ている。
「――じゃなくて」
自分の頬をぱしぱしと叩いて気合いを入れる莉久を、やはり怜司は静かに見つめる。
「……怜司さんは……俺が嫌い?」
一番に聞きたいことを言葉にしたら怖くなった。はっきり肯定されたら立ちあがれないかもしれない。
「……とりあえず、帰らねえ?」
たしかにここでは落ちつかないので、怜司の提案に賛同してふたりで帰宅した。
電車に揺られるあいだ怜司はずっと窓を見ていて、莉久も真似して窓を見たら、窓の中の怜司と目が合った。隣に視線を向けると、柔らかく目を細めて莉久を見つめていた。
「おかえり」
梓眞はただ迎え入れてくれた。なにがあったか、なにを話したか、いっさい聞かなかった。聞かれても、まだなにも話せていないから困るけれど。
「ただいま、梓眞さん」
「……ただいま」
莉久が立ち止まる横をすり抜けて、怜司はバッグを持って自分の部屋に入っていった。もしかして着替えを持っていったのだろうか、と黒いバッグを目で追った。数日帰ってこないつもりだったのかもしれない。莉久がいなくなる日まで、帰らないつもりだったのかも――。
「怜司さん、開けて」
怜司を追いかけて部屋のドアをノックすると、ドアを開けた怜司がひとつ頷いたので莉久も部屋の中に入った。
「見張らなくても、もうどこにもいかねえよ」
「うん……」
それでも不安になってなんとなく怜司の腕を掴み、怜司がベッドに座るので隣に座る。自分の腕を掴む莉久の手に苦笑した怜司は、その手をとって指を絡めた。
「梓眞さん?」
「バイトお疲れさま」
「怜司さんは?」
「……」
歩き出す梓眞についていくが、梓眞は莉久の問いかけに答えてくれない。なにかあったのかと心配になって、隣を歩く梓眞の腕を掴んだ。
「怜司さんはどうしたの?」
「どうもしないよ。ただちょっと、ね」
曖昧に微笑む梓眞に、帰ったら怜司に直接話を聞いてみよう、と意気込む。静かに歩く梓眞の隣で、怜司の笑顔を思い浮かべた。
帰宅してまっすぐ怜司の部屋にいき、ドアをノックした。
「怜司さん、莉久です。入っていい?」
返事がない。何度かノックをしても反応がないのでそっとドアを開けてみると、室内は暗く、彼の姿はなかった。
「怜司さん、バイト? 今日は休みって言ってなかった?」
梓眞に問いかけると、やはり曖昧な微笑みが返ってくる。なぜか嫌な予感がして、梓眞に詰め寄った。
「梓眞さん、教えて。怜司さんはどうしたの?」
「ちょっと時間がほしいみたいなんだ」
「どういうこと? どこいったの?」
答えてくれない梓眞にいら立ちを覚え、莉久はポケットからスマートフォンを出して怜司にメッセージを送った。
「たぶん既読にならないと思うよ」
梓眞の言うとおり、既読の文字はつかなかった。少し待ってみても、変化はない。
「なんで?」
もう一度問いかけると、梓眞はわずかに目を伏せた。
「莉久は、どうして怜司のことにそんなに真剣になってるの?」
「……」
切り返されて言葉が詰まるが、逃げたくない。
顔をあげて梓眞をまっすぐ見た。
「怜司さんはどこにいるの?」
眉を寄せた梓眞は、小さく息を吐き出した。
「困った子たちだね」
梓眞もスマートフォンを操作して、莉久にメッセージを送ってきた。それはネットカフェの住所だった。
「そこにいるよ」
「なんでネカフェ?」
「ビジネスホテルの部屋とろうかって言ったんだけど、『冗談じゃない』って逃げられたから」
苦笑した梓眞の横をすり抜け、玄関へと向かう。梓眞はもう莉久を止めなかった。
電車にのって、梓眞から教えてもらったネットカフェへいった。暗い道を怖がる余裕なんてない。ただまっすぐに怜司を捕まえに走った。
ついたのはいいけれど、ネットカフェ内のどこにいるかがわからない。メッセージを送ってみよう、と弾む息を整えていたら、店から探し人が現れた。腰に片手を当て、夜空を仰いでいる。
「怜司さん!」
慌てて駆け寄って腕を掴み、逃がさない、と強い意志をもって睨みつけると、怜司は困ったように眉を寄せた。その姿が先ほどの梓眞と重なった。
「……本当にきたのか」
「え?」
「梓眞さんから連絡あった。あの人にいき先教えたのは間違いだったな」
俺に甘いけど莉久にも甘いから、と渋い顔をしている。こんなときでもきちんとサポートしてくれる人に感謝し、腕を掴む力を強める。
「あの、俺――」
「逃げねえから、離せ」
手を揺らされて、離したくないがおとなしく離した。怜司は本当にどこにもいかず、きちんと莉久と向かい合ってくれた。
「なんでこんなとこにいるの?」
聞きたいのはそんなことではない、と口に出してから首を横に振った。怜司は静かに莉久を見ている。
「――じゃなくて」
自分の頬をぱしぱしと叩いて気合いを入れる莉久を、やはり怜司は静かに見つめる。
「……怜司さんは……俺が嫌い?」
一番に聞きたいことを言葉にしたら怖くなった。はっきり肯定されたら立ちあがれないかもしれない。
「……とりあえず、帰らねえ?」
たしかにここでは落ちつかないので、怜司の提案に賛同してふたりで帰宅した。
電車に揺られるあいだ怜司はずっと窓を見ていて、莉久も真似して窓を見たら、窓の中の怜司と目が合った。隣に視線を向けると、柔らかく目を細めて莉久を見つめていた。
「おかえり」
梓眞はただ迎え入れてくれた。なにがあったか、なにを話したか、いっさい聞かなかった。聞かれても、まだなにも話せていないから困るけれど。
「ただいま、梓眞さん」
「……ただいま」
莉久が立ち止まる横をすり抜けて、怜司はバッグを持って自分の部屋に入っていった。もしかして着替えを持っていったのだろうか、と黒いバッグを目で追った。数日帰ってこないつもりだったのかもしれない。莉久がいなくなる日まで、帰らないつもりだったのかも――。
「怜司さん、開けて」
怜司を追いかけて部屋のドアをノックすると、ドアを開けた怜司がひとつ頷いたので莉久も部屋の中に入った。
「見張らなくても、もうどこにもいかねえよ」
「うん……」
それでも不安になってなんとなく怜司の腕を掴み、怜司がベッドに座るので隣に座る。自分の腕を掴む莉久の手に苦笑した怜司は、その手をとって指を絡めた。
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