しあわせをあなたと

すずかけあおい

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土曜日、好き

土曜日、好き③

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「れ、怜司さん……?」
「俺、莉久が好きだよ」
「え……?」

 さらりと告げられた言葉が信じられなくて目を瞬く。そんな莉久の様子を見た怜司は、また苦笑いした。
 指を絡めた手をぎゅっと握られ、心臓が跳ねる。

「莉久の気持ちを勘違いだなんて思ってない。本心で想ってくれてるのが伝わってくる。でも俺はそんなに好きになってもらえるようなやつじゃない」
「えっと……、それは」

 莉久が口にする前から気持ちがばれているようで驚くと、「わからないわけねえだろ」と頭を撫でられた。

「どう考えても近づいたらいけない気がして、ひどいこと言った。ごめん」
「ううん。それより、俺の気持ちはどこまで……?」
「莉久が俺を好きだってことははっきりわかる。おまえ、顔に全部出てるから」
「っ……!」

 頬がかあっと熱くなった。いつから気がつかれていたのだろう、顔に出ていたなんて、それはどの段階から――考えてもわかるはずがなく、悔しさに少しむくれた。

「そんな顔すんな」
「……ノンケといたくないって言った」
「そりゃ怖いからな。また裏切られたらって」
「俺はそんなことしない!」

 顔をあげて言い切ると、怜司は穏やかな微笑みを浮かべて頷いた。心臓が激しく脈打ってうるさい。怜司の声が聞こえなくなりそうなくらいに心音が耳に響くので、静まれ、と自分の胸もとに手を置いた。

「わかるよ。おまえ、まっすぐだから」
「怜司さん……」
「諦めようと思ったけど、諦められなかった。だから莉久のほうから離れていってほしいと思った」

 深い息を吐き出した怜司は、莉久の髪を梳くように優しく撫でる。その手つきがいつもの怜司で、莉久はほっとした。

「でも、今はおまえが離れていかなくてよかったって安心してる。勝手だよな」
「俺はそう簡単に離れないよ?」
「しつこそうだしな」

 力の抜けた笑顔に、莉久も力が抜ける。

「莉久が好きだ。怖がりのくせに夜に飛び出していったり変なやつに襲われそうになったり、ほっとけなくてあぶなっかしい莉久を守りたい。莉久は? 俺のことどう思ってる?」
「……」
「莉久」
「……顔に出てるって言ってた」

 上目に睨みつけると指を絡めた手に力がこもり、ぴくんと莉久の身体が跳ねる。怜司は反応を楽しむように、何度も手に力をこめる。握ったり緩めたりを繰り返され、徐々に心がくすぐったくなった。

「顔に出てても、わかってても、それでもちゃんと言ってほしいことだから聞いてる」
「うん……」
「教えて?」

 艶然とした笑みに脈がさらに速くなる。莉久もつないだ手に力をこめて、まっすぐ怜司を見た。

「好き。怜司さんが大好き。捕まえて離さないし、離れないから覚悟して」

 つないだ手を引かれ、怜司の胸に飛び込む。身を委ねた莉久を抱き寄せた怜司は、莉久の頭に顎をのせた。嘆息している様子から、呆れたかもしれない。

「おまえさあ」

 頭上から声が降ってきて、表情が見たくて顔をあげようとしたら、手で押さえられた。

「本当に無理」

 やはり呆れたような声に迷惑だったかと不安になったが、髪を優しく撫でてくれるあたり、ただ迷惑なだけではないようにも感じる。顔が見えないと判断がつかない。

「……そういうとこ、すげえ好き」

 続いた言葉とため息に、もしかしたら顔を見られたくないのだろうかと考えた。頭にのっていた顎が離れ、顔をあげようとしたら腕の中に閉じ込められた。

「まだ遊びたいって言ってたけど、遊びたい?」
「そんな気ないし、莉久しかほしくない。ほんとどうしようもねえよ、おまえ」
「嫌い?」

 また顔が見られなくて身体を離そうとしても、逃がさないと言うように腕に力がこもる。

「大好きだ」

 莉久も怜司の背中に腕をまわし、胸いっぱいに愛しいにおいを吸い込んだら、わずかに滲んだ涙で視界が揺らめいた。


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