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月曜日、帰宅
月曜日、帰宅②
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莉久の自宅の最寄り駅につくと怜司がいた。急いで駆け寄るけれど、赤くなった頬と口の端に胸が痛んだ。うっすらと痣のようにもなっているので、強い力で殴られたのだろう。
「痛そう」
「痛えよ。口の中切れたし」
「えっ、大丈夫なの?」
「ああ。すっきりした」
今までに見たことがないような、なんの思い煩いもない笑顔は、怜司が前に進めたということなのかもしれない。
「少し歩きたい。このへん知らないから案内して」
「うん」
どこにいくでもなく歩き、怜司の隣にいることに安堵する。殴られただけで済んでよかったと考えるべきか――悩んでいると怜司が莉久を呼んだ。
「梓眞さんは?」
「もう帰ったよ」
「そっか。じゃあ俺も早く帰るかな。バイトもあるし」
そこに莉久は帰れない――きゅっと胸が締めつけられて、痛みに目を伏せた。そんな莉久を慰めてくれるのは、やはり怜司だった。ぽんぽんと、いつものように頭を撫でられる。それだけで気持ちが急浮上する莉久は単純だ。
「追い出されてからもずっと引っかかってたから、ちゃんと決着つけられてよかった」
「でも殴られちゃったよ」
「いいんだ。これくらい」
怜司の綺麗な顔に痣ができているのが痛ましい。冷やさなくていいのかな、と顔をじっと見ていたら怜司が悪戯っぽく笑った。
「なんだよ。俺の顔が好きだったのに傷がついて残念か?」
「怜司さんが恰好いいから好きなんじゃないよ」
「わかってる。俺は莉久の見た目も好きだけどな」
莉久の頬を指の背で撫でて、穏やかに微笑む怜司に見惚れる。痛々しいのにこんなにすっきりした表情を見せられたら、莉久だって「よかった」と思ってしまう。
歩いていると公園につき、怜司が足を止めたので莉久も止まった。
「俺、怜司さんを支えたい!」
「は?」
「怜司さんと一緒にいたい……」
怜司が口を開く前に莉久が宣言し、彼の手をとった。驚いた表情をした怜司は、また「本当に無理」と呟く。
「好きだ。好きすぎる」
莉久の手を握り返した怜司はまっすぐな言葉をくれて、心が甘く疼く優しい愛が伝わってくる。
「梓眞さんのところにまた遊びにいくから」
「それなんだけど」
「え?」
怜司は家に戻れないのはわかっていたので、ひとり暮らしをしようと思う、と言う。
梓眞のところにずっといるものだとばかり考えていた莉久は、少し寂しく感じる。梓眞は昨日話をしたときに、ひとり暮らしについてはできるかぎりサポートしたい、と言ってくれたそうだ。もちろん遠慮した、と怜司は苦笑する。
「……ずっと梓眞さんのところにいればいいのに」
つい願望のままが口に出た。莉久が遊びにいったときに、また三人の時間がもてると期待していた。だが怜司は首を横に振る。
「それじゃだめなんだ」
「どうして?」
「今さらかもしれないけど、ちゃんとしたい。逃げるんじゃなくて、自分で居場所を作りたい」
力強い言葉に胸が熱くなった。怜司はなにも迷っていないのだから、莉久が応援しなくてどうするのだ。
「――で」
「で?」
なんだろう、と首をかしげる。
「俺の居場所には莉久が必要だから」
不意打ちでそんなことを言われたら、嬉しすぎて感動してしまう。視界が揺らめき、涙が零れないように唇を噛んでこらえながら何度も頷く莉久を、怜司は優しく抱き寄せた。
「痛そう」
「痛えよ。口の中切れたし」
「えっ、大丈夫なの?」
「ああ。すっきりした」
今までに見たことがないような、なんの思い煩いもない笑顔は、怜司が前に進めたということなのかもしれない。
「少し歩きたい。このへん知らないから案内して」
「うん」
どこにいくでもなく歩き、怜司の隣にいることに安堵する。殴られただけで済んでよかったと考えるべきか――悩んでいると怜司が莉久を呼んだ。
「梓眞さんは?」
「もう帰ったよ」
「そっか。じゃあ俺も早く帰るかな。バイトもあるし」
そこに莉久は帰れない――きゅっと胸が締めつけられて、痛みに目を伏せた。そんな莉久を慰めてくれるのは、やはり怜司だった。ぽんぽんと、いつものように頭を撫でられる。それだけで気持ちが急浮上する莉久は単純だ。
「追い出されてからもずっと引っかかってたから、ちゃんと決着つけられてよかった」
「でも殴られちゃったよ」
「いいんだ。これくらい」
怜司の綺麗な顔に痣ができているのが痛ましい。冷やさなくていいのかな、と顔をじっと見ていたら怜司が悪戯っぽく笑った。
「なんだよ。俺の顔が好きだったのに傷がついて残念か?」
「怜司さんが恰好いいから好きなんじゃないよ」
「わかってる。俺は莉久の見た目も好きだけどな」
莉久の頬を指の背で撫でて、穏やかに微笑む怜司に見惚れる。痛々しいのにこんなにすっきりした表情を見せられたら、莉久だって「よかった」と思ってしまう。
歩いていると公園につき、怜司が足を止めたので莉久も止まった。
「俺、怜司さんを支えたい!」
「は?」
「怜司さんと一緒にいたい……」
怜司が口を開く前に莉久が宣言し、彼の手をとった。驚いた表情をした怜司は、また「本当に無理」と呟く。
「好きだ。好きすぎる」
莉久の手を握り返した怜司はまっすぐな言葉をくれて、心が甘く疼く優しい愛が伝わってくる。
「梓眞さんのところにまた遊びにいくから」
「それなんだけど」
「え?」
怜司は家に戻れないのはわかっていたので、ひとり暮らしをしようと思う、と言う。
梓眞のところにずっといるものだとばかり考えていた莉久は、少し寂しく感じる。梓眞は昨日話をしたときに、ひとり暮らしについてはできるかぎりサポートしたい、と言ってくれたそうだ。もちろん遠慮した、と怜司は苦笑する。
「……ずっと梓眞さんのところにいればいいのに」
つい願望のままが口に出た。莉久が遊びにいったときに、また三人の時間がもてると期待していた。だが怜司は首を横に振る。
「それじゃだめなんだ」
「どうして?」
「今さらかもしれないけど、ちゃんとしたい。逃げるんじゃなくて、自分で居場所を作りたい」
力強い言葉に胸が熱くなった。怜司はなにも迷っていないのだから、莉久が応援しなくてどうするのだ。
「――で」
「で?」
なんだろう、と首をかしげる。
「俺の居場所には莉久が必要だから」
不意打ちでそんなことを言われたら、嬉しすぎて感動してしまう。視界が揺らめき、涙が零れないように唇を噛んでこらえながら何度も頷く莉久を、怜司は優しく抱き寄せた。
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