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大人な貴方とはじめてを④
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「って感じで昨日はふたりでご飯食べた」
「ほう。恋人っぽいじゃない」
翌日の昼休みにまた奥原と食堂で隣り合って座る。一応報告をすると、奥原は割り箸を割りながら声を弾ませた。
「でもさ、俺大丈夫かな」
声を潜めると、奥原も顔を近づけてきた。
「なにが? ああ……わかった」
察してくれた奥原に、神妙な顔でこくんと頷く。
「松田、童貞だもんね」
「誰ともつき合ったことないんだから、しょうがないだろ」
まったくなんの経験もないのだ。所作のひとつ取ってもゆったりとしていて余裕のある崎森とは根本から違う。きっと崎森は片手では足りないくらいの経験があるのだ――勝手な思い込みだけれど。
「そんな心配しなくていいんじゃない? 崎森さんに任せておけば万事オーケーでしょ」
「そう、か……」
たしかにそうかもしれない。
「で、そういう雰囲気になったの?」
首を左右に振る。昨日は食事をしただけで解散した。松田の動きに、奥原は呆れた目を向けてきた。
「じゃあまだそこまで心配する必要ないじゃない」
「でもいつかはと思うと」
やはり失敗は避けたい。むむむ、とランチを睨みつけると、奥原が隣で噴き出した。
「なに?」
「ううん。昨日の様子だとうまくいくか心配だったけど、大丈夫そうだなって」
そこについてはまだ安心できない。松田が眉を寄せると、友は「なに」と神妙な顔をした。
「まだわからない。いつ崎森さんに呆れられて飽きられるか――」
「え?」
「え?」
奥原が目をまたたくので、松田も首をかしげる。なにかおかしなことを言っただろうか。
斜め上を見た奥原はゆっくりと視線を移動させて松田をとらえた。胸もとを指さされ、謎の動作に首をかしげる。
「なに?」
「昨日は憧れとつき合うのは違うみたいに言ってたのに」
「あ……」
たしかにそのようなことを言った。心情は昨日から変わっていないはずなのに。もう一度首をかしげる。
「なんでだろう」
自分でもよくわからないけれど、崎森に呆れられることが怖い。人間としてできた人に見放されるのが怖いのだろうか。
「そういう、なんでかわからない感覚、大事にしたほうがいいと思うよ」
奥原は意味ありげに口角をあげ、手を合わせて「いただきまーす」と小さく言った。奥原の言葉の意味もわからないまま、松田も割り箸を割る。
「俺で満足してもらえるのかな」
「知らなーい」
急に突き放され、心細くなる。
「なんだよ。相談に乗ってくれるんじゃないのか?」
もっと友人思いのやつだと思っていたのに。横目に睨むと、エビフライを食べながら奥原はこくんとひとつ頷く。
「俺は傍観者だもの」
「冷たいやつ」
松田もアジフライを咀嚼しながら考える。なんでかわからない感覚は、なんなのだろう。自分の気持ちなのにはっきりとしない。不可解なものがあるのが落ちつかず、答えがほしくなる。でも奥原は教えてくれない。いや、そもそも奥原も答えがわからないのかもしれない。松田自身のことは、自分で答えを見つけるべきだ。
「難しい」
呟くと、隣で友が「あ」と声をあげた。
「なに?」
「崎森さんがこっち見てる」
「え?」
奥原の視線を目で追うと、たしかに少し離れたところで崎森が見ていた。目が合うと手を振ってくれて同じ動作を返す。なんだか気恥ずかしい。
「嫉妬してたりして」
奥原が楽しげに言うので、今度は松田が噴き出した。
「崎森さんが嫉妬なんてするわけないだろ」
崎森が嫉妬なんて、それこそ違和感しかない。
なんとなく崎森のほうをもう一度見てみると、彼はまだ松田を見ていた。穏やかな表情には嫉妬なんて欠片も見えない。奥原の的はずれな発言を、松田はまた少し笑った。
「ほう。恋人っぽいじゃない」
翌日の昼休みにまた奥原と食堂で隣り合って座る。一応報告をすると、奥原は割り箸を割りながら声を弾ませた。
「でもさ、俺大丈夫かな」
声を潜めると、奥原も顔を近づけてきた。
「なにが? ああ……わかった」
察してくれた奥原に、神妙な顔でこくんと頷く。
「松田、童貞だもんね」
「誰ともつき合ったことないんだから、しょうがないだろ」
まったくなんの経験もないのだ。所作のひとつ取ってもゆったりとしていて余裕のある崎森とは根本から違う。きっと崎森は片手では足りないくらいの経験があるのだ――勝手な思い込みだけれど。
「そんな心配しなくていいんじゃない? 崎森さんに任せておけば万事オーケーでしょ」
「そう、か……」
たしかにそうかもしれない。
「で、そういう雰囲気になったの?」
首を左右に振る。昨日は食事をしただけで解散した。松田の動きに、奥原は呆れた目を向けてきた。
「じゃあまだそこまで心配する必要ないじゃない」
「でもいつかはと思うと」
やはり失敗は避けたい。むむむ、とランチを睨みつけると、奥原が隣で噴き出した。
「なに?」
「ううん。昨日の様子だとうまくいくか心配だったけど、大丈夫そうだなって」
そこについてはまだ安心できない。松田が眉を寄せると、友は「なに」と神妙な顔をした。
「まだわからない。いつ崎森さんに呆れられて飽きられるか――」
「え?」
「え?」
奥原が目をまたたくので、松田も首をかしげる。なにかおかしなことを言っただろうか。
斜め上を見た奥原はゆっくりと視線を移動させて松田をとらえた。胸もとを指さされ、謎の動作に首をかしげる。
「なに?」
「昨日は憧れとつき合うのは違うみたいに言ってたのに」
「あ……」
たしかにそのようなことを言った。心情は昨日から変わっていないはずなのに。もう一度首をかしげる。
「なんでだろう」
自分でもよくわからないけれど、崎森に呆れられることが怖い。人間としてできた人に見放されるのが怖いのだろうか。
「そういう、なんでかわからない感覚、大事にしたほうがいいと思うよ」
奥原は意味ありげに口角をあげ、手を合わせて「いただきまーす」と小さく言った。奥原の言葉の意味もわからないまま、松田も割り箸を割る。
「俺で満足してもらえるのかな」
「知らなーい」
急に突き放され、心細くなる。
「なんだよ。相談に乗ってくれるんじゃないのか?」
もっと友人思いのやつだと思っていたのに。横目に睨むと、エビフライを食べながら奥原はこくんとひとつ頷く。
「俺は傍観者だもの」
「冷たいやつ」
松田もアジフライを咀嚼しながら考える。なんでかわからない感覚は、なんなのだろう。自分の気持ちなのにはっきりとしない。不可解なものがあるのが落ちつかず、答えがほしくなる。でも奥原は教えてくれない。いや、そもそも奥原も答えがわからないのかもしれない。松田自身のことは、自分で答えを見つけるべきだ。
「難しい」
呟くと、隣で友が「あ」と声をあげた。
「なに?」
「崎森さんがこっち見てる」
「え?」
奥原の視線を目で追うと、たしかに少し離れたところで崎森が見ていた。目が合うと手を振ってくれて同じ動作を返す。なんだか気恥ずかしい。
「嫉妬してたりして」
奥原が楽しげに言うので、今度は松田が噴き出した。
「崎森さんが嫉妬なんてするわけないだろ」
崎森が嫉妬なんて、それこそ違和感しかない。
なんとなく崎森のほうをもう一度見てみると、彼はまだ松田を見ていた。穏やかな表情には嫉妬なんて欠片も見えない。奥原の的はずれな発言を、松田はまた少し笑った。
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