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永久糖度
永久糖度②
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「今日も仲良くふたりでご登校。おまえらほんとべったりだな」
教室につくと、友人の梅田が苦笑した。苦笑されたくらいで叶が離れるはずはなく、悠々と恵吾の肩に手をまわした。
「おはよう、梅田。今日の恵吾も可愛いでしょ」
「おい。梅田が困ってんだろ」
「困る理由がないよ?」
きょとんとされると自分がおかしいのかと思ってしまう。梅田は呆れたようにひとつため息を吐き出して頬杖をつく。
「まじですごいな、長沼も岸井も。いつまでもそのままでいてくれていいよ」
褒められているとは思えない。でも文句を言ったら、どうして文句を言ったのか、と問い詰めてくる男が隣にいるから黙る。
「そもそも、高校生にもなって好き好きって馬鹿じゃないのか」
つい本音が口から出た。言葉のとおりに馬鹿にしているわけではない。ただどうしてもわからないのだ。そこまで好意を向けられる理由、相手が恵吾である理由。なにもかもがわからない。
「馬鹿になるくらい恵吾が好きだよ」
「――」
口から出した言葉を後悔する。叶に勝てるわけがないのだ。文句を言ったら数万倍大きくなって愛情として返ってくるのがわかっているくせに、まだぶつぶつと呟いてしまう自分も情けない。でも、慣れと腹をくくるのは別だ。
「恵吾、俺日直だから職員室に行ってくるね」
「おう」
「いってきます」
叶が教室から出ていくのをぽうっと見つめる女子たちは、叶が芸術品と同じ鑑賞用であることをよく知っている。
――岸井くん、私とかわってよ。私も長沼くんに「好き」って言われたい!
――なんで思ってもいないこと言わないといけないの? 俺が好きなのは恵吾だけ。
いつか恵吾に、立場をかわってほしい、と言ってきた女子と叶の会話を思い出す。あのときは様子を見ていた全員の表情が固まっていた。
みんな、時とともに学ぶのだ。変わらないのは叶だけ。叶を見ていると、変わらないのがいいことなのかわからなくなる。
「梅田、聞いて」
「聞かねえ」
でも聞いてくれるとわかっているので、勝手に話す。
「叶ってなんでああなんだと思う?」
「知るかよ。長沼のことは、岸井が一番よく知ってんだろ」
それはそうだけれど。
「なんで俺にあんなに懐いてんのかな」
「長沼に聞けよ」
「聞いたら語り出しそうだろ」
「あー」
わかる、と梅田は他人事なので声をあげて笑っている。
「長沼だもんなあ」
くくっと笑いを噛み殺している姿に、なぜかいらっとしてしまう。
「叶だからなんなんだよ」
「岸井おまえ、長沼の好意が鬱陶しいのか嬉しいのか、どっちなんだよ」
「……」
本当にそのとおりで、なにも答えられない。
自分でもどうしようもないと思うのは、叶を悪く言われたり馬鹿にされたりするとむっとなる。恵吾自身が悪く言うにはかまわないけれど、他人に言われると腹が立つ。自分勝手だとわかってはいるが、これは直らないのだ。どんだけ叶が特別なんだ、と自分に呆れる。
「でもさ、高校生にもなって幼馴染を好き好き言ってんの、おかしくない?」
「知らねえ。あんな美形に好きって言ってもらえるだけ、ありがたいと思うべきじゃね」
鑑賞用だけど、とまた梅田は笑う。どうしてもいらっとする自分は、たぶん叶を嫌いではないのだ。だけれど認めたくない。
「素直になりなよ、恵吾」
「いきなり現れるなよ」
背後からぽんと肩に手を置かれ、誰かはすぐにわかった。ため息をつくと、両腕がにゅっと伸びてきて抱きしめようとしてくるので、慌てて逃げた。
「なにしてるんだよ」
「愛を込めて抱きしめようかなって」
「いらん」
あっち行け、と手を払って見せるが、叶は動かない。にこにこと微笑んで恵吾のうしろに立っている。
「俺、おまえの背後霊に呪い殺されそう」
こういうときに笑ってくれるのは梅田だけだ。叶の存在があって恵吾にかかわりたくないと思う生徒のほうが多く、梅田以外は近づいてきてくれないし、話なんて聞いてくれない。
「やめてくれ。本当になりそうだから」
梅田がこうして恵吾の話を聞いてくれるのが、叶は面白くないらしい。微笑みを絶やさないまま不機嫌を醸し出しているので、逆に怖い。叶の頬をつまみ、睨んで見せる。
「威嚇すんな」
「恵吾がそう言うなら、しょうがないね」
梅田はもうなにも言わずに笑っている。またおかしいことをしただろうか。
教室につくと、友人の梅田が苦笑した。苦笑されたくらいで叶が離れるはずはなく、悠々と恵吾の肩に手をまわした。
「おはよう、梅田。今日の恵吾も可愛いでしょ」
「おい。梅田が困ってんだろ」
「困る理由がないよ?」
きょとんとされると自分がおかしいのかと思ってしまう。梅田は呆れたようにひとつため息を吐き出して頬杖をつく。
「まじですごいな、長沼も岸井も。いつまでもそのままでいてくれていいよ」
褒められているとは思えない。でも文句を言ったら、どうして文句を言ったのか、と問い詰めてくる男が隣にいるから黙る。
「そもそも、高校生にもなって好き好きって馬鹿じゃないのか」
つい本音が口から出た。言葉のとおりに馬鹿にしているわけではない。ただどうしてもわからないのだ。そこまで好意を向けられる理由、相手が恵吾である理由。なにもかもがわからない。
「馬鹿になるくらい恵吾が好きだよ」
「――」
口から出した言葉を後悔する。叶に勝てるわけがないのだ。文句を言ったら数万倍大きくなって愛情として返ってくるのがわかっているくせに、まだぶつぶつと呟いてしまう自分も情けない。でも、慣れと腹をくくるのは別だ。
「恵吾、俺日直だから職員室に行ってくるね」
「おう」
「いってきます」
叶が教室から出ていくのをぽうっと見つめる女子たちは、叶が芸術品と同じ鑑賞用であることをよく知っている。
――岸井くん、私とかわってよ。私も長沼くんに「好き」って言われたい!
――なんで思ってもいないこと言わないといけないの? 俺が好きなのは恵吾だけ。
いつか恵吾に、立場をかわってほしい、と言ってきた女子と叶の会話を思い出す。あのときは様子を見ていた全員の表情が固まっていた。
みんな、時とともに学ぶのだ。変わらないのは叶だけ。叶を見ていると、変わらないのがいいことなのかわからなくなる。
「梅田、聞いて」
「聞かねえ」
でも聞いてくれるとわかっているので、勝手に話す。
「叶ってなんでああなんだと思う?」
「知るかよ。長沼のことは、岸井が一番よく知ってんだろ」
それはそうだけれど。
「なんで俺にあんなに懐いてんのかな」
「長沼に聞けよ」
「聞いたら語り出しそうだろ」
「あー」
わかる、と梅田は他人事なので声をあげて笑っている。
「長沼だもんなあ」
くくっと笑いを噛み殺している姿に、なぜかいらっとしてしまう。
「叶だからなんなんだよ」
「岸井おまえ、長沼の好意が鬱陶しいのか嬉しいのか、どっちなんだよ」
「……」
本当にそのとおりで、なにも答えられない。
自分でもどうしようもないと思うのは、叶を悪く言われたり馬鹿にされたりするとむっとなる。恵吾自身が悪く言うにはかまわないけれど、他人に言われると腹が立つ。自分勝手だとわかってはいるが、これは直らないのだ。どんだけ叶が特別なんだ、と自分に呆れる。
「でもさ、高校生にもなって幼馴染を好き好き言ってんの、おかしくない?」
「知らねえ。あんな美形に好きって言ってもらえるだけ、ありがたいと思うべきじゃね」
鑑賞用だけど、とまた梅田は笑う。どうしてもいらっとする自分は、たぶん叶を嫌いではないのだ。だけれど認めたくない。
「素直になりなよ、恵吾」
「いきなり現れるなよ」
背後からぽんと肩に手を置かれ、誰かはすぐにわかった。ため息をつくと、両腕がにゅっと伸びてきて抱きしめようとしてくるので、慌てて逃げた。
「なにしてるんだよ」
「愛を込めて抱きしめようかなって」
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あっち行け、と手を払って見せるが、叶は動かない。にこにこと微笑んで恵吾のうしろに立っている。
「俺、おまえの背後霊に呪い殺されそう」
こういうときに笑ってくれるのは梅田だけだ。叶の存在があって恵吾にかかわりたくないと思う生徒のほうが多く、梅田以外は近づいてきてくれないし、話なんて聞いてくれない。
「やめてくれ。本当になりそうだから」
梅田がこうして恵吾の話を聞いてくれるのが、叶は面白くないらしい。微笑みを絶やさないまま不機嫌を醸し出しているので、逆に怖い。叶の頬をつまみ、睨んで見せる。
「威嚇すんな」
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梅田はもうなにも言わずに笑っている。またおかしいことをしただろうか。
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