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つながり⑱
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「わ、おいしい!」
アイスクリームショップでアイスを食べるなんてはじめての経験だ。ミント風味のアイスに小粒のキャンディが入っていて、そのキャンディが口の中でぱちぱちと弾ける。思わず目をまたたくほどにおいしい。
「よかったな」
秀星はチョコミント味、琉希は抹茶味を頼んだ。どちらもおいしそうでじいっと見ていると、琉希がアイスの入ったカップを賢太に差し出す。
「ひと口食べるか?」
「だめだ」
なぜか賢太ではなく秀星が答える。せっかくだからひと口だけ味見をさせてもらいたかったのに、と残念に思うと、秀星は自分のチョコミント味のアイスをピンク色のプラスチックのスプーンで掬い、賢太の口もとに差し出す。
「ほら。こっちを食べろ」
「うん」
ぱくりとアイスを口に含むと、爽やかな甘みがおいしい。琉希がなんとも言えないような顔で秀星と賢太を見ていて首をかしげた。
「どうしたの?」
「賢太、気がついてるか?」
「え、なに?」
琉希は苦笑するばかりで答えを教えてくれない。なんだろう、と今の自分の動きを思い返し、はっとした。もしかして俗に言う「あーん」をしたのだろうか。
「えっ! ち、ちが……」
かああっと頬が一気に熱くなり、少し俯く。そんなつもりはなかった。ただアイスがおいしそうで、秀星が食べさせてくれただけだ。隣の秀星を見るとなぜか自慢げな顔をしていて、秀星はわかっていてやったのだとさらに頬が火照った。
「兄さんってほんと、賢太といると人間くさいよな」
「俺は人間だ」
「だって昔はサイボーグみたいだっただろ」
寝てる姿さえ想像できなかった、と琉希はおかしそうに笑う。賢太もサイボーグな秀星を想像してみるが、できなかった。どう考えても優しくて恰好いい、感情に溢れた秀星しか浮かばない。たしかに出会った頃にはいろいろな感情とか味覚とか、人として大事なものが乏しかったかもしれない。でも今の秀星はそのすべてをきちんと楽しんで、喜んでいる。それが賢太にも嬉しくて仕方がない。
でも一番嬉しいのは、秀星と琉希がこうやってふざけ合ってくれることだ。互いを疎んでいたのが嘘のような仲良し兄弟――まではいかなくても、きちんとそれぞれを認めているのがわかる。
「賢太はもう大丈夫なのか?」
「うん。心配かけてごめんね」
琉希もあの事故のときに賢太を追いかけてきていたから、現場を見ている。かなり焦ったけれど、それ以上のパニック状態で狼狽する秀星を落ちつけないといけないと思ったら冷静になれたという。賢太にはそれほどに慌てる秀星は想像できないが、それだけふたりに心配も迷惑もかけたのだ。申し訳ない。
「たまにはまた前みたいに話したいな」
「できたら楽しいね」
琉希はわかっていて言っている。
琉希も賢太も、家族の回復とともに心の声が聞こえなくなった。心を塞ぐこと自体がなくなったのだ。ひとりで閉じこもる状況にさえならない。それはとても幸せで、ほんの少しだけ寂しかった。
「あれはなんだったんだろうな」
「うん。本当に」
琉希と賢太の孤独が互いの心を引き寄せたのか、それとも神様のいたずらだったのか。不可思議な現象は、今思い返しても夢の中の出来事のようだ。どうして琉希と賢太の心がつながったのか、なぜ他の誰かではなかったのか。考えてみたところでわからないけれど、きっと今があるために必要なことだったのだ。そう思えば、つらかったすべてを感謝できるような気がした。
「兄さん、睨まないでくれ」
「睨んでない。もともとこういう顔なんだ」
秀星は琉希と賢太が心の中で会話をしていたことが面白くない。それをわかっていて琉希が話題を振ってくるのは、秀星の反応を楽しんでいるのだ。けっこういたずら好きなところがある琉希と、甘くて優しい秀星の違いを見つけるたびに楽しくなる。人間だから違いがあっていいし、それを比べる必要はない。
「もしかしたら、賢太と俺は支えを求めていたのかもな」
「支え?」
「そう。ひとりが耐えられなかったから」
でも、と賢太は首をかしげる。
「それなら、どうして相手は秀星じゃなかったんだろう」
「兄さんが相手だったら、もっと嬉しかったってこと?」
意地悪なことを言うので、少し拗ねて見せる。
「そんなこと言ってないよ。秀星も琉希も、僕にはどっちも大切」
「ふうん」
秀星がどこか面白くなさそうに琉希を横目に見る。
「睨まないでくれ」
「もともとこういう顔だ」
けっこう仲良しな兄弟だな、とふたりの様子を眺めながらアイスを食べた。
大満足でアイスクリームショップをあとにし、アーケードを歩いて大きな商業ビルがあるほうに向かう。
「僕、クレープも食べてみたい」
こんなふうにいろいろと歩きまわったり食べたりするのははじめてだから、わくわくする。心が弾んで止まらないのがわかるのだろう、秀星も琉希も苦笑した。
「琉希はもう充分だろ。帰ればいい」
「兄さん、賢太以外には冷たくないか?」
三人で歩いていると、とても不思議な心持ちになる。なにかひとつ違えば、こうして三人でなんていられなかった。
「ハンバーガーもおいしそう!」
「アイスの前に昼ご飯も食べたのに、まだ食べられるの?」
琉希が苦笑いすると、秀星は正反対に柔らかく微笑んで賢太の頭を撫でた。
「賢太が食べたいならなんでも食べよう。琉希は帰れ」
早足になった賢太を見守るように、ふたりが少しうしろを並んで歩いている。秀星と琉希が並んで軽口を言い合っていることが嬉しくて足取りが弾み、なにもないところで躓いた。
「わっ」
「賢太!」
「あぶない!」
右側と左側から同時に手が伸びてきて、身体を支えてくれる。転びそうになった焦りで心臓が脈を速くしているけれど、右側から身体を支えてくれる手にはいっそう拍動が速くなる。
右側――秀星の手は、いつでも賢太を守ってくれる。なんとなくその手を握ると、自分からしたことなのに猛烈に恥ずかしくなった。
「惚気ないでくれ」
琉希が困った顔をしている。惚気ているつもりはない――ないのだけれど、秀星が手を離してくれない。
「秀星、手……」
「また転んだりしたら大変だから、つないでおこう。琉希は」
「帰らないからな」
火照る頬を片手で押さえ、秀星と手をつないで歩く。少し振り向くと、一歩うしろにいる琉希は困り顔で笑っている。幸せすぎて泣きたくなった。
アイスクリームショップでアイスを食べるなんてはじめての経験だ。ミント風味のアイスに小粒のキャンディが入っていて、そのキャンディが口の中でぱちぱちと弾ける。思わず目をまたたくほどにおいしい。
「よかったな」
秀星はチョコミント味、琉希は抹茶味を頼んだ。どちらもおいしそうでじいっと見ていると、琉希がアイスの入ったカップを賢太に差し出す。
「ひと口食べるか?」
「だめだ」
なぜか賢太ではなく秀星が答える。せっかくだからひと口だけ味見をさせてもらいたかったのに、と残念に思うと、秀星は自分のチョコミント味のアイスをピンク色のプラスチックのスプーンで掬い、賢太の口もとに差し出す。
「ほら。こっちを食べろ」
「うん」
ぱくりとアイスを口に含むと、爽やかな甘みがおいしい。琉希がなんとも言えないような顔で秀星と賢太を見ていて首をかしげた。
「どうしたの?」
「賢太、気がついてるか?」
「え、なに?」
琉希は苦笑するばかりで答えを教えてくれない。なんだろう、と今の自分の動きを思い返し、はっとした。もしかして俗に言う「あーん」をしたのだろうか。
「えっ! ち、ちが……」
かああっと頬が一気に熱くなり、少し俯く。そんなつもりはなかった。ただアイスがおいしそうで、秀星が食べさせてくれただけだ。隣の秀星を見るとなぜか自慢げな顔をしていて、秀星はわかっていてやったのだとさらに頬が火照った。
「兄さんってほんと、賢太といると人間くさいよな」
「俺は人間だ」
「だって昔はサイボーグみたいだっただろ」
寝てる姿さえ想像できなかった、と琉希はおかしそうに笑う。賢太もサイボーグな秀星を想像してみるが、できなかった。どう考えても優しくて恰好いい、感情に溢れた秀星しか浮かばない。たしかに出会った頃にはいろいろな感情とか味覚とか、人として大事なものが乏しかったかもしれない。でも今の秀星はそのすべてをきちんと楽しんで、喜んでいる。それが賢太にも嬉しくて仕方がない。
でも一番嬉しいのは、秀星と琉希がこうやってふざけ合ってくれることだ。互いを疎んでいたのが嘘のような仲良し兄弟――まではいかなくても、きちんとそれぞれを認めているのがわかる。
「賢太はもう大丈夫なのか?」
「うん。心配かけてごめんね」
琉希もあの事故のときに賢太を追いかけてきていたから、現場を見ている。かなり焦ったけれど、それ以上のパニック状態で狼狽する秀星を落ちつけないといけないと思ったら冷静になれたという。賢太にはそれほどに慌てる秀星は想像できないが、それだけふたりに心配も迷惑もかけたのだ。申し訳ない。
「たまにはまた前みたいに話したいな」
「できたら楽しいね」
琉希はわかっていて言っている。
琉希も賢太も、家族の回復とともに心の声が聞こえなくなった。心を塞ぐこと自体がなくなったのだ。ひとりで閉じこもる状況にさえならない。それはとても幸せで、ほんの少しだけ寂しかった。
「あれはなんだったんだろうな」
「うん。本当に」
琉希と賢太の孤独が互いの心を引き寄せたのか、それとも神様のいたずらだったのか。不可思議な現象は、今思い返しても夢の中の出来事のようだ。どうして琉希と賢太の心がつながったのか、なぜ他の誰かではなかったのか。考えてみたところでわからないけれど、きっと今があるために必要なことだったのだ。そう思えば、つらかったすべてを感謝できるような気がした。
「兄さん、睨まないでくれ」
「睨んでない。もともとこういう顔なんだ」
秀星は琉希と賢太が心の中で会話をしていたことが面白くない。それをわかっていて琉希が話題を振ってくるのは、秀星の反応を楽しんでいるのだ。けっこういたずら好きなところがある琉希と、甘くて優しい秀星の違いを見つけるたびに楽しくなる。人間だから違いがあっていいし、それを比べる必要はない。
「もしかしたら、賢太と俺は支えを求めていたのかもな」
「支え?」
「そう。ひとりが耐えられなかったから」
でも、と賢太は首をかしげる。
「それなら、どうして相手は秀星じゃなかったんだろう」
「兄さんが相手だったら、もっと嬉しかったってこと?」
意地悪なことを言うので、少し拗ねて見せる。
「そんなこと言ってないよ。秀星も琉希も、僕にはどっちも大切」
「ふうん」
秀星がどこか面白くなさそうに琉希を横目に見る。
「睨まないでくれ」
「もともとこういう顔だ」
けっこう仲良しな兄弟だな、とふたりの様子を眺めながらアイスを食べた。
大満足でアイスクリームショップをあとにし、アーケードを歩いて大きな商業ビルがあるほうに向かう。
「僕、クレープも食べてみたい」
こんなふうにいろいろと歩きまわったり食べたりするのははじめてだから、わくわくする。心が弾んで止まらないのがわかるのだろう、秀星も琉希も苦笑した。
「琉希はもう充分だろ。帰ればいい」
「兄さん、賢太以外には冷たくないか?」
三人で歩いていると、とても不思議な心持ちになる。なにかひとつ違えば、こうして三人でなんていられなかった。
「ハンバーガーもおいしそう!」
「アイスの前に昼ご飯も食べたのに、まだ食べられるの?」
琉希が苦笑いすると、秀星は正反対に柔らかく微笑んで賢太の頭を撫でた。
「賢太が食べたいならなんでも食べよう。琉希は帰れ」
早足になった賢太を見守るように、ふたりが少しうしろを並んで歩いている。秀星と琉希が並んで軽口を言い合っていることが嬉しくて足取りが弾み、なにもないところで躓いた。
「わっ」
「賢太!」
「あぶない!」
右側と左側から同時に手が伸びてきて、身体を支えてくれる。転びそうになった焦りで心臓が脈を速くしているけれど、右側から身体を支えてくれる手にはいっそう拍動が速くなる。
右側――秀星の手は、いつでも賢太を守ってくれる。なんとなくその手を握ると、自分からしたことなのに猛烈に恥ずかしくなった。
「惚気ないでくれ」
琉希が困った顔をしている。惚気ているつもりはない――ないのだけれど、秀星が手を離してくれない。
「秀星、手……」
「また転んだりしたら大変だから、つないでおこう。琉希は」
「帰らないからな」
火照る頬を片手で押さえ、秀星と手をつないで歩く。少し振り向くと、一歩うしろにいる琉希は困り顔で笑っている。幸せすぎて泣きたくなった。
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