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(6)残酷な優しさ ◇侑大視点◇③
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◇◆◇
「俺、黛さんが好きです。…男の人を好きになったのは初めてなんでどうしたらいいのかわからないんですけど…どうしても伝えたくて」
ある日、バイトの笹倉さんとふたりきりになった時に突然告白された。
「…え?」
「あの、付き合ってる人とかいますか…?」
「あ、うん。いるんだ…ごめん」
「ですよね。いますよね…」
「……」
どうしよう。
でもいないって言いたくないし、相手が要だとは言ってないから大丈夫、だよな。
「あの、すごく図々しいお願いで申し訳ないんですけど、一回だけでいいので店の外で会ってもらえませんか?」
「…それは…」
「一回でいいんです。初めて好きになった男の人とのふたりでの思い出が欲しいんです」
「………」
真剣な目。
なんとなく過去の自分と重なった。
これを断る事で、春臣に拒絶された時の俺のような傷が笹倉さんの心に残ってしまったら…。
そう思ったら断れなかった。
「……一回なら」
「ありがとうございます!」
今にも泣きだしそうなほどに喜んでくれる笹倉さんと向かい合いながら、頭の中は要の事でいっぱいだった。
◇◆◇
「もしかして俺と付き合ってんのも絆されてるだけだったりすんじゃないの」
要の言葉に目の前が真っ赤になって、かっとなった勢いで頬を叩いてしまった。
「あ、悪…」
赤くなった頬に触れようとしたら跳ね除けられた。
右手が行き場を失う。
「…絆されてるだけなら無理して俺といなくてもいいよ」
……え?
要はそのまま自室に戻ってしまう。
俺は動けない。
『無理して俺といなくてもいいよ』
要に捨てられる。
要は俺を手放そうとしている。
全てが真っ暗になった。
◇◆◇
俺がはっきりしないから要を傷つけた。
笹倉さんを傷つけたくないからという理由でお願いを聞いてしまった俺のせいだ。
今からでも笹倉さんに連絡して断るか。
でも一度いいと言った事をやっぱり無理と言うのもまた傷つけるのでは。
…じゃあ笹倉さんを傷つけないために要を傷つけていいのか。
色々な事が頭の中をぐるぐる回る。
時計を見ると約束した時間が近い。
着替えて部屋を出た。
約束の場所に行って、謝って帰ろうと思った。
「黛さん?」
「あ…笹倉さん」
ぼんやりと約束の場所へ向かうと笹倉さんが既に来ていた。
まだ約束した時間前なのに、待っていてくれたようだ。
「何かありましたか?」
「え?」
「なんだか沈んでいるように見えて…勘違いだったらすみません」
「いや、ちょっと…」
謝ろう。
それで帰ろう。
そしてそれを要に報告して要にも謝ろう。
「もしかして俺と店の外で会う事で彼女さんと何かありましたか?」
「あ、あの…いや、」
「まさか喧嘩になっちゃったとか!?」
笹倉さんはすぐに気づいて顔色を変えた。
「う、ん…まあそんなとこ」
「え、どうしよう。そんなつもり全然なかったんですけど」
「いや、気にしないで。それと…」
「?」
「あの、彼女じゃなくて、彼氏なんだ…」
「え…」
「ごめん、黙ってて。俺、ゲイなんだ」
なんて思われるだろう。
でもなんだか笹倉さんに嘘をつきたくなかった。
「そう、なんですか…。でも喧嘩しちゃったのは本当なんですよね?」
「うん、でも大丈夫だから」
笑いかけると、笹倉さんは口を引き結ぶ。
「……黛さんって、」
「?」
「優しいですね」
切なげな笑顔。
「そんな事…」
「その優しさが、…ちょっと痛いです」
「あ…」
俺の選択は間違っていた。
笹倉さんを傷つけたくなくてお願いを承諾して要を傷つけて、結局笹倉さんも傷つけた。
泣き出しそうな笑顔が要と重なった。
『侑大も、俺から離れてく…?』
離れない。
離れたくない。
でも要が離れていってしまうのは俺には止められない。
「ごめん、笹倉さん…」
ごめん、要。
◇◆◇
結局俺は帰るという選択肢を選べず、どこに行くでもなく笹倉さんと並んで歩き、カフェで話し込む。
背の高い笹倉さんを見上げる感覚が慣れなくて、笹倉さんの向こう側に要の影を見てしまう。
多分そんな俺に笹倉さんも気づいている。
「黛さんの彼氏さんってどんな人なんですか?」
「…?」
ちょっとぼんやりしていた。
唐突な話題に反応できなかった。
「あ、いや、話したくなかったらいいんです。でもやっぱり気になって」
「……すごく優しくて、でもちょっと意地悪で…俺を大好きだって言ってくれる人」
要、ごめん。
早く仲直りしたい。
離れていかないで。
置いていなかないで。
俺を捨てないで。
俺には要が必要だから、お願い。
「幸せそうですね」
「そう?」
今の俺はあんまりそんな感じじゃなくなっていそうだけど。
「はい。彼氏さんの事を話している時、すごく幸せそうです」
「それは…そう、かも」
要の事を考えると幸せになれる。
要の優しくて少し意地悪な笑顔。
抱き締める腕の力の強さ。
落ち着く温もりと要の香り。
全てが鮮明に思い出せる。
「いいな、俺もその人になりたかった…」
俯いた笹倉さんの手元に涙が一粒落ちた。
「俺、黛さんが好きです。…男の人を好きになったのは初めてなんでどうしたらいいのかわからないんですけど…どうしても伝えたくて」
ある日、バイトの笹倉さんとふたりきりになった時に突然告白された。
「…え?」
「あの、付き合ってる人とかいますか…?」
「あ、うん。いるんだ…ごめん」
「ですよね。いますよね…」
「……」
どうしよう。
でもいないって言いたくないし、相手が要だとは言ってないから大丈夫、だよな。
「あの、すごく図々しいお願いで申し訳ないんですけど、一回だけでいいので店の外で会ってもらえませんか?」
「…それは…」
「一回でいいんです。初めて好きになった男の人とのふたりでの思い出が欲しいんです」
「………」
真剣な目。
なんとなく過去の自分と重なった。
これを断る事で、春臣に拒絶された時の俺のような傷が笹倉さんの心に残ってしまったら…。
そう思ったら断れなかった。
「……一回なら」
「ありがとうございます!」
今にも泣きだしそうなほどに喜んでくれる笹倉さんと向かい合いながら、頭の中は要の事でいっぱいだった。
◇◆◇
「もしかして俺と付き合ってんのも絆されてるだけだったりすんじゃないの」
要の言葉に目の前が真っ赤になって、かっとなった勢いで頬を叩いてしまった。
「あ、悪…」
赤くなった頬に触れようとしたら跳ね除けられた。
右手が行き場を失う。
「…絆されてるだけなら無理して俺といなくてもいいよ」
……え?
要はそのまま自室に戻ってしまう。
俺は動けない。
『無理して俺といなくてもいいよ』
要に捨てられる。
要は俺を手放そうとしている。
全てが真っ暗になった。
◇◆◇
俺がはっきりしないから要を傷つけた。
笹倉さんを傷つけたくないからという理由でお願いを聞いてしまった俺のせいだ。
今からでも笹倉さんに連絡して断るか。
でも一度いいと言った事をやっぱり無理と言うのもまた傷つけるのでは。
…じゃあ笹倉さんを傷つけないために要を傷つけていいのか。
色々な事が頭の中をぐるぐる回る。
時計を見ると約束した時間が近い。
着替えて部屋を出た。
約束の場所に行って、謝って帰ろうと思った。
「黛さん?」
「あ…笹倉さん」
ぼんやりと約束の場所へ向かうと笹倉さんが既に来ていた。
まだ約束した時間前なのに、待っていてくれたようだ。
「何かありましたか?」
「え?」
「なんだか沈んでいるように見えて…勘違いだったらすみません」
「いや、ちょっと…」
謝ろう。
それで帰ろう。
そしてそれを要に報告して要にも謝ろう。
「もしかして俺と店の外で会う事で彼女さんと何かありましたか?」
「あ、あの…いや、」
「まさか喧嘩になっちゃったとか!?」
笹倉さんはすぐに気づいて顔色を変えた。
「う、ん…まあそんなとこ」
「え、どうしよう。そんなつもり全然なかったんですけど」
「いや、気にしないで。それと…」
「?」
「あの、彼女じゃなくて、彼氏なんだ…」
「え…」
「ごめん、黙ってて。俺、ゲイなんだ」
なんて思われるだろう。
でもなんだか笹倉さんに嘘をつきたくなかった。
「そう、なんですか…。でも喧嘩しちゃったのは本当なんですよね?」
「うん、でも大丈夫だから」
笑いかけると、笹倉さんは口を引き結ぶ。
「……黛さんって、」
「?」
「優しいですね」
切なげな笑顔。
「そんな事…」
「その優しさが、…ちょっと痛いです」
「あ…」
俺の選択は間違っていた。
笹倉さんを傷つけたくなくてお願いを承諾して要を傷つけて、結局笹倉さんも傷つけた。
泣き出しそうな笑顔が要と重なった。
『侑大も、俺から離れてく…?』
離れない。
離れたくない。
でも要が離れていってしまうのは俺には止められない。
「ごめん、笹倉さん…」
ごめん、要。
◇◆◇
結局俺は帰るという選択肢を選べず、どこに行くでもなく笹倉さんと並んで歩き、カフェで話し込む。
背の高い笹倉さんを見上げる感覚が慣れなくて、笹倉さんの向こう側に要の影を見てしまう。
多分そんな俺に笹倉さんも気づいている。
「黛さんの彼氏さんってどんな人なんですか?」
「…?」
ちょっとぼんやりしていた。
唐突な話題に反応できなかった。
「あ、いや、話したくなかったらいいんです。でもやっぱり気になって」
「……すごく優しくて、でもちょっと意地悪で…俺を大好きだって言ってくれる人」
要、ごめん。
早く仲直りしたい。
離れていかないで。
置いていなかないで。
俺を捨てないで。
俺には要が必要だから、お願い。
「幸せそうですね」
「そう?」
今の俺はあんまりそんな感じじゃなくなっていそうだけど。
「はい。彼氏さんの事を話している時、すごく幸せそうです」
「それは…そう、かも」
要の事を考えると幸せになれる。
要の優しくて少し意地悪な笑顔。
抱き締める腕の力の強さ。
落ち着く温もりと要の香り。
全てが鮮明に思い出せる。
「いいな、俺もその人になりたかった…」
俯いた笹倉さんの手元に涙が一粒落ちた。
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