キミのすべては俺のもの

すずかけあおい

文字の大きさ
28 / 283

(6)残酷な優しさ ◇侑大視点◇③

しおりを挟む
◇◆◇

「俺、まゆずみさんが好きです。…男の人を好きになったのは初めてなんでどうしたらいいのかわからないんですけど…どうしても伝えたくて」

ある日、バイトの笹倉ささくらさんとふたりきりになった時に突然告白された。

「…え?」
「あの、付き合ってる人とかいますか…?」
「あ、うん。いるんだ…ごめん」
「ですよね。いますよね…」
「……」

どうしよう。
でもいないって言いたくないし、相手が要だとは言ってないから大丈夫、だよな。

「あの、すごく図々しいお願いで申し訳ないんですけど、一回だけでいいので店の外で会ってもらえませんか?」
「…それは…」
「一回でいいんです。初めて好きになった男の人とのふたりでの思い出が欲しいんです」
「………」

真剣な目。
なんとなく過去の自分と重なった。
これを断る事で、春臣に拒絶された時の俺のような傷が笹倉さんの心に残ってしまったら…。
そう思ったら断れなかった。

「……一回なら」
「ありがとうございます!」

今にも泣きだしそうなほどに喜んでくれる笹倉さんと向かい合いながら、頭の中は要の事でいっぱいだった。

◇◆◇

「もしかして俺と付き合ってんのも絆されてるだけだったりすんじゃないの」

要の言葉に目の前が真っ赤になって、かっとなった勢いで頬を叩いてしまった。

「あ、悪…」

赤くなった頬に触れようとしたら跳ね除けられた。
右手が行き場を失う。

「…絆されてるだけなら無理して俺といなくてもいいよ」

……え?

要はそのまま自室に戻ってしまう。
俺は動けない。

『無理して俺といなくてもいいよ』

要に捨てられる。
要は俺を手放そうとしている。

全てが真っ暗になった。

◇◆◇

俺がはっきりしないから要を傷つけた。
笹倉さんを傷つけたくないからという理由でお願いを聞いてしまった俺のせいだ。
今からでも笹倉さんに連絡して断るか。
でも一度いいと言った事をやっぱり無理と言うのもまた傷つけるのでは。

…じゃあ笹倉さんを傷つけないために要を傷つけていいのか。

色々な事が頭の中をぐるぐる回る。
時計を見ると約束した時間が近い。
着替えて部屋を出た。
約束の場所に行って、謝って帰ろうと思った。

「黛さん?」
「あ…笹倉さん」

ぼんやりと約束の場所へ向かうと笹倉さんが既に来ていた。
まだ約束した時間前なのに、待っていてくれたようだ。

「何かありましたか?」
「え?」
「なんだか沈んでいるように見えて…勘違いだったらすみません」
「いや、ちょっと…」

謝ろう。
それで帰ろう。
そしてそれを要に報告して要にも謝ろう。

「もしかして俺と店の外で会う事で彼女さんと何かありましたか?」
「あ、あの…いや、」
「まさか喧嘩になっちゃったとか!?」

笹倉さんはすぐに気づいて顔色を変えた。

「う、ん…まあそんなとこ」
「え、どうしよう。そんなつもり全然なかったんですけど」
「いや、気にしないで。それと…」
「?」
「あの、彼女じゃなくて、彼氏なんだ…」
「え…」
「ごめん、黙ってて。俺、ゲイなんだ」

なんて思われるだろう。
でもなんだか笹倉さんに嘘をつきたくなかった。

「そう、なんですか…。でも喧嘩しちゃったのは本当なんですよね?」
「うん、でも大丈夫だから」

笑いかけると、笹倉さんは口を引き結ぶ。

「……黛さんって、」
「?」
「優しいですね」

切なげな笑顔。

「そんな事…」
「その優しさが、…ちょっと痛いです」
「あ…」

俺の選択は間違っていた。
笹倉さんを傷つけたくなくてお願いを承諾して要を傷つけて、結局笹倉さんも傷つけた。
泣き出しそうな笑顔が要と重なった。

『侑大も、俺から離れてく…?』

離れない。
離れたくない。
でも要が離れていってしまうのは俺には止められない。

「ごめん、笹倉さん…」

ごめん、要。

◇◆◇

結局俺は帰るという選択肢を選べず、どこに行くでもなく笹倉さんと並んで歩き、カフェで話し込む。
背の高い笹倉さんを見上げる感覚が慣れなくて、笹倉さんの向こう側に要の影を見てしまう。
多分そんな俺に笹倉さんも気づいている。

「黛さんの彼氏さんってどんな人なんですか?」
「…?」

ちょっとぼんやりしていた。
唐突な話題に反応できなかった。

「あ、いや、話したくなかったらいいんです。でもやっぱり気になって」
「……すごく優しくて、でもちょっと意地悪で…俺を大好きだって言ってくれる人」

要、ごめん。
早く仲直りしたい。
離れていかないで。
置いていなかないで。
俺を捨てないで。
俺には要が必要だから、お願い。

「幸せそうですね」
「そう?」

今の俺はあんまりそんな感じじゃなくなっていそうだけど。

「はい。彼氏さんの事を話している時、すごく幸せそうです」
「それは…そう、かも」

要の事を考えると幸せになれる。
要の優しくて少し意地悪な笑顔。
抱き締める腕の力の強さ。
落ち着く温もりと要の香り。
全てが鮮明に思い出せる。

「いいな、俺もその人になりたかった…」

俯いた笹倉さんの手元に涙が一粒落ちた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

パパ活は塾の帰りに。

茜琉ぴーたん
BL
 塾講師の下滝は、生徒の赤坂少年のことが気になっている。  彼は最近どうも元気が無く、挙動不審で落ち着かない。  悩みでもあるのかと下滝が助け舟を出したら、事態は思わぬ方向へと走り出す。 (58話+番外5話) *性描写あります。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

青は藍より出でて藍より青し

フジキフジコ
BL
ヤクザの跡取りの高校生とその同級生の話。高校生からはじまり40代になるまで続きます。 【青は藍より出でて藍より青し】本編。高校時代。 【番外編/白い花の家・月を抱く】葉月と綾瀬が出会った頃の話。 【番外編/Tomorrow is another day ・Sweet little devil】綾瀬と高谷の高校時代の短いエピソード。 【朱に交われば赤くなる】本編「青は藍~」の続き。 【狭き門より入れ】本編「朱に交われば~」の続き。7年後のお話になります。 【番外編/BLEED】篤郎の事情 【三代目の結婚】本編「狭き門~」の続き。綾瀬の結婚問題。 【番外編/刺青】高谷×綾瀬のいちゃいちゃ 【瑠璃も玻璃も照らせば光る】本編「三代目の結婚」の続き。主役は篤郎です。エピローグに高谷×綾瀬のいちゃ。 【番外編/古傷】高谷×綾瀬のいちゃいちゃ 【番梅花は蕾めるに香あり 】本編「瑠璃も玻璃~」の続き。高谷と男子高校生の話。 【天に在らば比翼の鳥】本編の完結編。 他シリーズ『チェリークール』の【番外編】「東京ミスティ」「東京ミスティ2」「微笑みの行方」に綾瀬と高谷が出ています。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...