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【番外編⑤】Happy Christmas(終)
【番外編】Happy Christmas ⑥
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「どれにしよう」
ふたりに贈るクリスマスカードが、なかなか決まらない。せっかくならばとっておきのカードを見つけたくて、ショップをまわる。幸いどこに行ってもクリスマスカードがたくさん並んでいるし、インターネットショッピングでもたくさんの種類がある。見ているとどれも素敵に見えて目移りするから余計に決まらない。
「……」
カードを見ているとついプレゼントにも目が行く。
「カードだけって約束したし」
でも気がつくと目がプレゼントを探している。あまり高くないものならいいかな、なんて考えまで浮かんできて頭を振った。
「約束したから!」
自分に言い聞かせてカードだけを購入する。悩んで悩んで決めたのはオルゴールつきのクリスマスカード。それぞれのカードに曲がたくさん入っているものにして、藍流にはクリスマスツリーのデザイン、流風にはクリスマスの街をレーザーカットしたデザインにした。どちらもブルーで、色あいがあのイルミネーションの湖と似ていたのもあってこれに決めた。
プレゼントを贈るのもわくわくするけれど、カードも楽しい。どんなメッセージを添えようかと考えるのも心が弾んで仕方がない。
街の中はどこを見てもクリスマス一色で楽しい気分になる。電車に揺られたあと、足取り軽く自宅最寄り駅の改札を出た。寒いから早く帰ろう、と歩を進める。
「奏先輩?」
「え?」
突然呼びかけられて振り返ると、懐かしい姿がそこにあった。
「桜弥くん?」
「はい」
綺麗に微笑むのは、高校のときの後輩である御園桜弥だ。
「久しぶり! 近くに住んでるの?」
「俺じゃなくて知りあいが近くに住んでて、これから遊びに行くところなんです」
「そうなんだ。大人っぽくなったね!」
「もう十九ですから。奏先輩は――」
奏の顔をじいっと見た桜弥は、にこっと優しく目を細めた。
「奏先輩ですね」
「それってどういうこと? 変わらない?」
「うーん……、変わった変わらないというより、奏先輩だなあと」
よくわからないけれど、言った桜弥本人が自分で納得しているので、まあいいかと奏も素直に受け取っておいた。
「奏先輩もこの近くに住んでるんですか?」
「うん。駅からちょっと歩くけどね」
「そうなんですね」
高校卒業以来なので懐かしくて、ついいろいろと話していてはたと気がつく。彼は知りあいのところに遊びに行くところだった。
「ごめん、引き留めちゃったね」
「いえ。俺も久々に奏先輩と話せて嬉しいですし」
過去には奏を押し倒すという暴挙にも出たことがあるけれど、すっかり大人の男性になっている。もともと穏やかな人だったが、やはり年を重ねて落ちついたのもある気がする。
「よかったら今度遊びにきてよ」
「ありがとうございます。藍流先輩と流風先輩がいいと言ったら、ぜひ」
そうだった。
奏にしこりがなくても、藍流と流風にはまだ桜弥に対してのわだかまりがあるかもしれない。奏としてはまた桜弥と話ができたら嬉しいけれど、ふたりはいいと言ってくれるだろうか。
「どうだろう」
真剣に悩むと、桜弥がふっと噴き出した。くつくつと喉の奥で笑っている姿に、大人になったのとは違う、雰囲気の変化を感じた。
「奏先輩は、やっぱりクリスマスは藍流先輩と流風先輩と三人ですごすんですか?」
「うん。イブはみんなバイトだけど、クリスマス当日は休みが取れたんだ」
奏が頷くと、桜弥は穏やかに笑んだ。なんだか見守られているような笑顔だ。
「桜弥くんは?」
問いかけると、桜弥は一瞬渋面を見せた。
「ごめん。聞いちゃいけなかった?」
「そんなことはないんですけど」
今度は苦笑した桜弥は、奏から視線をはずす。
「……今から会う知りあいとすごすんです」
どこか遠くを見ているけれど、はにかむような表情を浮かべている。大事な人なのかもしれない。
「そうだ。これ、よかったら」
「え?」
「ノンアルコールシャンパンです。迷惑じゃなければ、どうぞ」
「迷惑なんて思わないけど、でも」
これから行く先に持っていくつもりだったのではないかと思うとさすがに受け取れずまごついていると、桜弥はまた苦笑いしてボトル型の細長い紙袋を軽く持ちあげる。
「『どうせ持ってくるならアルコールにしろ』って言われたんです。俺がまだ二十歳になってなくてアルコール買えないのわかってて、そういうこと言う人なんですよ」
困ったような顔だが優しくて、心がほんわりと温かくなった。彼もこんな顔をする人と出会えたのだと感慨深くもある。
「それじゃ、お言葉に甘えて。ありがとう」
「はい」
差し出された紙袋を受け取る。ノンアルコールシャンパンなら、お酒の弱い藍流と流風にちょうどいい。
「クリスマスに飲むね」
「藍流先輩と流風先輩がいいと言ったら」
また同じ言葉が返ってきて、奏も噴き出した。たしかに嫉妬深いあのふたりなら、ひと言ふた言どころか十言くらいなにか言いそうだ。
「じゃあ、そろそろ行きますね。寒い中呼び止めてすみません」
「ううん。俺こそ長話しちゃってごめんね」
手を振って奏とは反対方向に歩いていく背中を少しのあいだ見送ってから、奏も帰路につく。楽しいことは重なるものなのだな、と自然と鼻歌が零れた。
帰宅してすぐに夕食を作りはじめた。今日は藍流と流風がアルバイトだから夜は奏ひとりで、ふたりへのメッセージを考えるのにちょうどいい。簡単な食事をして、部屋でデスクに向かった。
なんて書こう。
考えてみると、書きたい言葉が次々に浮かんで決まらない。日本語のメッセージもいいし、英語のメッセージを送ってもいい。レポート用紙に候補をメモしていって、小さく唸りながら悩む。
「どうしようかな」
あれもこれも書きたくて欲張ると、メッセージというより手紙になってしまうから難しい。ひと言でうまくまとめられたら、カードに書くのにもぴったりなのに。
「うーん……」
本当になんと書いたらいいか。
藍流と流風は、奏にどんなメッセージをくれるのだろう、と考えてみたら、想像しただけで頬が緩むのが自分でわかった。奏といるときの藍流と流風は表情筋が緩みっぱなしだけれど、奏自身もふたりのことを言えなそうだ。
翌日、朝食を食べながら桜弥に会ったことを藍流と流風に話した。
「そう。御園くんか、懐かしいね」
「うん。すごく大人っぽくなってた。でも話してみると、やっぱり桜弥くんだなって感じがした」
「へえ」
藍流も流風も穏やかに話を聞いてくれる。これなら遊びにきてもらうのもだめと言わないかもしれない。
変わったなあ。
ふたりは心が丸くなった。高校生のときだったら奏の口から桜弥の名前が出るだけでむっとしていただろうに、こんなに優しい表情で頷いているなんて。
驚きが顔に出ていたのか、藍流と流風は奏でもため息が出るような微笑みを浮かべる。
「俺たちだって成長してるんだ」
笑みをたたえて奏を見つめるふたりは、感心するほど大人の男性の表情をしていた。
ふたりに贈るクリスマスカードが、なかなか決まらない。せっかくならばとっておきのカードを見つけたくて、ショップをまわる。幸いどこに行ってもクリスマスカードがたくさん並んでいるし、インターネットショッピングでもたくさんの種類がある。見ているとどれも素敵に見えて目移りするから余計に決まらない。
「……」
カードを見ているとついプレゼントにも目が行く。
「カードだけって約束したし」
でも気がつくと目がプレゼントを探している。あまり高くないものならいいかな、なんて考えまで浮かんできて頭を振った。
「約束したから!」
自分に言い聞かせてカードだけを購入する。悩んで悩んで決めたのはオルゴールつきのクリスマスカード。それぞれのカードに曲がたくさん入っているものにして、藍流にはクリスマスツリーのデザイン、流風にはクリスマスの街をレーザーカットしたデザインにした。どちらもブルーで、色あいがあのイルミネーションの湖と似ていたのもあってこれに決めた。
プレゼントを贈るのもわくわくするけれど、カードも楽しい。どんなメッセージを添えようかと考えるのも心が弾んで仕方がない。
街の中はどこを見てもクリスマス一色で楽しい気分になる。電車に揺られたあと、足取り軽く自宅最寄り駅の改札を出た。寒いから早く帰ろう、と歩を進める。
「奏先輩?」
「え?」
突然呼びかけられて振り返ると、懐かしい姿がそこにあった。
「桜弥くん?」
「はい」
綺麗に微笑むのは、高校のときの後輩である御園桜弥だ。
「久しぶり! 近くに住んでるの?」
「俺じゃなくて知りあいが近くに住んでて、これから遊びに行くところなんです」
「そうなんだ。大人っぽくなったね!」
「もう十九ですから。奏先輩は――」
奏の顔をじいっと見た桜弥は、にこっと優しく目を細めた。
「奏先輩ですね」
「それってどういうこと? 変わらない?」
「うーん……、変わった変わらないというより、奏先輩だなあと」
よくわからないけれど、言った桜弥本人が自分で納得しているので、まあいいかと奏も素直に受け取っておいた。
「奏先輩もこの近くに住んでるんですか?」
「うん。駅からちょっと歩くけどね」
「そうなんですね」
高校卒業以来なので懐かしくて、ついいろいろと話していてはたと気がつく。彼は知りあいのところに遊びに行くところだった。
「ごめん、引き留めちゃったね」
「いえ。俺も久々に奏先輩と話せて嬉しいですし」
過去には奏を押し倒すという暴挙にも出たことがあるけれど、すっかり大人の男性になっている。もともと穏やかな人だったが、やはり年を重ねて落ちついたのもある気がする。
「よかったら今度遊びにきてよ」
「ありがとうございます。藍流先輩と流風先輩がいいと言ったら、ぜひ」
そうだった。
奏にしこりがなくても、藍流と流風にはまだ桜弥に対してのわだかまりがあるかもしれない。奏としてはまた桜弥と話ができたら嬉しいけれど、ふたりはいいと言ってくれるだろうか。
「どうだろう」
真剣に悩むと、桜弥がふっと噴き出した。くつくつと喉の奥で笑っている姿に、大人になったのとは違う、雰囲気の変化を感じた。
「奏先輩は、やっぱりクリスマスは藍流先輩と流風先輩と三人ですごすんですか?」
「うん。イブはみんなバイトだけど、クリスマス当日は休みが取れたんだ」
奏が頷くと、桜弥は穏やかに笑んだ。なんだか見守られているような笑顔だ。
「桜弥くんは?」
問いかけると、桜弥は一瞬渋面を見せた。
「ごめん。聞いちゃいけなかった?」
「そんなことはないんですけど」
今度は苦笑した桜弥は、奏から視線をはずす。
「……今から会う知りあいとすごすんです」
どこか遠くを見ているけれど、はにかむような表情を浮かべている。大事な人なのかもしれない。
「そうだ。これ、よかったら」
「え?」
「ノンアルコールシャンパンです。迷惑じゃなければ、どうぞ」
「迷惑なんて思わないけど、でも」
これから行く先に持っていくつもりだったのではないかと思うとさすがに受け取れずまごついていると、桜弥はまた苦笑いしてボトル型の細長い紙袋を軽く持ちあげる。
「『どうせ持ってくるならアルコールにしろ』って言われたんです。俺がまだ二十歳になってなくてアルコール買えないのわかってて、そういうこと言う人なんですよ」
困ったような顔だが優しくて、心がほんわりと温かくなった。彼もこんな顔をする人と出会えたのだと感慨深くもある。
「それじゃ、お言葉に甘えて。ありがとう」
「はい」
差し出された紙袋を受け取る。ノンアルコールシャンパンなら、お酒の弱い藍流と流風にちょうどいい。
「クリスマスに飲むね」
「藍流先輩と流風先輩がいいと言ったら」
また同じ言葉が返ってきて、奏も噴き出した。たしかに嫉妬深いあのふたりなら、ひと言ふた言どころか十言くらいなにか言いそうだ。
「じゃあ、そろそろ行きますね。寒い中呼び止めてすみません」
「ううん。俺こそ長話しちゃってごめんね」
手を振って奏とは反対方向に歩いていく背中を少しのあいだ見送ってから、奏も帰路につく。楽しいことは重なるものなのだな、と自然と鼻歌が零れた。
帰宅してすぐに夕食を作りはじめた。今日は藍流と流風がアルバイトだから夜は奏ひとりで、ふたりへのメッセージを考えるのにちょうどいい。簡単な食事をして、部屋でデスクに向かった。
なんて書こう。
考えてみると、書きたい言葉が次々に浮かんで決まらない。日本語のメッセージもいいし、英語のメッセージを送ってもいい。レポート用紙に候補をメモしていって、小さく唸りながら悩む。
「どうしようかな」
あれもこれも書きたくて欲張ると、メッセージというより手紙になってしまうから難しい。ひと言でうまくまとめられたら、カードに書くのにもぴったりなのに。
「うーん……」
本当になんと書いたらいいか。
藍流と流風は、奏にどんなメッセージをくれるのだろう、と考えてみたら、想像しただけで頬が緩むのが自分でわかった。奏といるときの藍流と流風は表情筋が緩みっぱなしだけれど、奏自身もふたりのことを言えなそうだ。
翌日、朝食を食べながら桜弥に会ったことを藍流と流風に話した。
「そう。御園くんか、懐かしいね」
「うん。すごく大人っぽくなってた。でも話してみると、やっぱり桜弥くんだなって感じがした」
「へえ」
藍流も流風も穏やかに話を聞いてくれる。これなら遊びにきてもらうのもだめと言わないかもしれない。
変わったなあ。
ふたりは心が丸くなった。高校生のときだったら奏の口から桜弥の名前が出るだけでむっとしていただろうに、こんなに優しい表情で頷いているなんて。
驚きが顔に出ていたのか、藍流と流風は奏でもため息が出るような微笑みを浮かべる。
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