君の想い

すずかけあおい

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君の想い①

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 インターホンを押すと、よく知った男が整った顔を複雑そうに歪めて出てくる。

「泊めて?」
「自宅はまた?」
「うん。彼女が来るからどこか泊まってって言われた」
「おまえは彼氏だろ」
「かな」

 どう見ても呆れてる。毎回のことだけど、それでも部屋に上げてくれる幼馴染は本当に優しい。

「ありがとう……。いつもごめんね、芳貴よしき

 たぶん誰よりも馬鹿な俺を見限らないでいてくれて、俺はつい甘えてしまう。悪いなと思うのに、こいつ以外に頼れるところがない。



 来る途中のコンビニで買ってきたお酒とおつまみをローテーブルに出していると、その横で芳貴が二本の缶ビールのプルタブを上げる。一本を俺に差し出し、一本を自分の手元に置く。こういうところ、ずっと変わらない。

燈路ひろさぁ……」
「はは」
「いや、わかってるんだけど」
「はは」
「……はぁ」

 ため息を吐く芳貴は、心の底から俺を心配してくれている。ごめんね、ともう一回言うと、またため息を吐かれた。

「彼女、ふたりになったんだよ」

 ビールを飲んでから言うと、芳貴がぽかんとしている。あ、ため息吐くな、と思ったら芳貴はやっぱりため息を吐いた。

「別れないのか」

 おつまみのするめ足を引っ張りながら芳貴が聞くので、首を小さく横に振る。

「……琉太りゅうたを好きでいないと、自分がわからなくなりそうだから」
「だから彼氏を好きでいるのか?」
「そう」
「……はぁ」

 盛大なため息を吐かれた。これでため息何回目かな。
 こんなの間違っているんだろう。でも、俺にはこれしかない。琉太を好きでいない自分がわからないから好きでいる。それが正しい“好き”ではないことはわかっている。



 ひとつ上の琉太とは、大学のときに琉太の友達が仲介してくれて付き合い始めた。「きみのことが気になっている奴がいるから話してみてよ」と。最初はなんの冗談かと思った。人気者で目立つ琉太が、こんな地味な俺を選ぶ理由がわからなかったから。……もしかしたらその時点で、誰かに必要とされたいという強い気持ちを見抜かれていたのかもしれない。琉太は俺を特別に必要としてくれた。

 別に家族から蔑ろにされて育ったわけではない。でも、いつも自分の価値がわからなくて、誰かに求められたかった。

 琉太の大学卒業と同時に同棲を始めて、同じ時期に琉太にひとりめの彼女ができた。
 最初は当然ショックだったけれど、琉太は変わらず俺を好きだと言ってくれるし、求めてくれる。必要としてくれる。必要とされることの心地よさに溺れ、琉太とそのまま付き合い続けた。

「彼女が来るからどこかに泊まってくれる?」と言われることがあり、そのたびに電車で二駅行ったところに住んでいる芳貴のところに泊まりに行くようになった。芳貴は小中高と同じ学校で、大学は別だった。それでも連絡はとっていたし、ずっと仲良くしてくれていた。
 琉太は俺がどこに泊まったかなど聞かないので、特に興味がない様子。俺が言わないことは聞かないタイプのよう。
 そして二週間前、ふたりめの彼女ができた。特にショックもなかった。

 好きだと言ってくれる。琉太を好き、だと思う。だって必要としてくれるから。


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