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一章 契約と回帰
四十五話
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ゴーマンは背を向けたまま、ゆっくりと息を吐いた。
――終わった。
そう思った。胸を刺し、確かに手応えもあった。もし仮に自分と同じようにハイポーションを使ったとしてもあれで生きているはずがない。だからこそ、緊張の糸がわずかに緩んだのだ。
「……思ったより、骨の折れる依頼だったな」
独り言が、崩れかけた教会に虚しく響く。
――学生を数人攫う。
――その中の一人、目立つガキを痛めつける。
――殺しは任意。だが再起不能にできれば尚良し。
いつも通りだ。
泣き喚くガキどもを脅して、少し殴ってやれば終わる。恐怖を植え付けるだけの、実に楽な仕事のはずだった。
それが、どうだ。
(まさか……俺が追い詰められる側になるとはな)
脳裏に、先ほどまでの戦いが嫌でも蘇る。
あの少年――ソラ。武器も満足に使わず、派手なスキルを振り回すわけでもない。ただ必死に、紙一重で攻撃を避け、わずかな隙を突いてくる。
身体能力強化。
ゴーマンが持つ戦闘系スキルは実戦で磨き上げた一級品だ。
体格も経験も、純粋な力も、すべてが自分のほうが上だった。
それなのに――
(雷魔法だと?……)
確実に仕留めたと思った瞬間、まさかのソラから距離を縮めゼロ距離で叩き込まれた雷。
あの一撃で、意識が白く弾け、膝をついた屈辱。
あのとき使わされたハイポーションの重みを思い出し、奥歯を噛みしめる。
(……俺が、学生相手に“とっておき”を使う羽目になるとは)
あれは虎の子だった。
命を繋ぐために、ここぞという時まで温存していた高級品。
それを、ガキ一人に使わされたという事実が、何よりも腹立たしかった。
だが――同時に、背筋が冷えたのも事実だ。
(あのまま戦い続けていたら……)
ゴーマンは無意識に、自分の拳を見つめる。
戦闘経験の差も、スキルを使っての戦いの完成度も、今はまだ自分が上だ。
だが、ソラはそれを理解したうえで、なお食らいついてきた。
恐怖に呑まれながらも、折れなかった目。
自分より遥かに弱い立場にいながら、最後まで勝ちを捨てなかった思考。
(成長すれば……危険だ)
確信があった。
あのガキは、このまま放置すれば、いつか自分の手の届かない場所へ行く。
嵐を巻き起こす存在に、なる。
だからこそ――
(ここで、殺しておかなければならない)
合理的な判断だ。
感情ではない。恐れでもない。
危険因子は、芽のうちに摘む。それがこの世界の常識だ。
ゴーマンは、振り返らずに教会の出口へ向かう。
床に倒れ伏す少年が、もう動かないことを疑いもしなかった。
(……きつい依頼だったが、後腐れはない)
そう自分に言い聞かせるように、低く呟く。
だがその胸の奥に残る、言いようのない違和感を、ゴーマンは振り払うことができなかった。
――あのガキ、本当にこれで終わりか?
そんな考えが浮かんだ瞬間、彼は小さく舌打ちをした。
(馬鹿らしい)
心臓を貫かれて、生きている人間などいない。
そう思いながらも、なぜか足取りは、わずかに早くなっていた。
――終わった。
そう思った。胸を刺し、確かに手応えもあった。もし仮に自分と同じようにハイポーションを使ったとしてもあれで生きているはずがない。だからこそ、緊張の糸がわずかに緩んだのだ。
「……思ったより、骨の折れる依頼だったな」
独り言が、崩れかけた教会に虚しく響く。
――学生を数人攫う。
――その中の一人、目立つガキを痛めつける。
――殺しは任意。だが再起不能にできれば尚良し。
いつも通りだ。
泣き喚くガキどもを脅して、少し殴ってやれば終わる。恐怖を植え付けるだけの、実に楽な仕事のはずだった。
それが、どうだ。
(まさか……俺が追い詰められる側になるとはな)
脳裏に、先ほどまでの戦いが嫌でも蘇る。
あの少年――ソラ。武器も満足に使わず、派手なスキルを振り回すわけでもない。ただ必死に、紙一重で攻撃を避け、わずかな隙を突いてくる。
身体能力強化。
ゴーマンが持つ戦闘系スキルは実戦で磨き上げた一級品だ。
体格も経験も、純粋な力も、すべてが自分のほうが上だった。
それなのに――
(雷魔法だと?……)
確実に仕留めたと思った瞬間、まさかのソラから距離を縮めゼロ距離で叩き込まれた雷。
あの一撃で、意識が白く弾け、膝をついた屈辱。
あのとき使わされたハイポーションの重みを思い出し、奥歯を噛みしめる。
(……俺が、学生相手に“とっておき”を使う羽目になるとは)
あれは虎の子だった。
命を繋ぐために、ここぞという時まで温存していた高級品。
それを、ガキ一人に使わされたという事実が、何よりも腹立たしかった。
だが――同時に、背筋が冷えたのも事実だ。
(あのまま戦い続けていたら……)
ゴーマンは無意識に、自分の拳を見つめる。
戦闘経験の差も、スキルを使っての戦いの完成度も、今はまだ自分が上だ。
だが、ソラはそれを理解したうえで、なお食らいついてきた。
恐怖に呑まれながらも、折れなかった目。
自分より遥かに弱い立場にいながら、最後まで勝ちを捨てなかった思考。
(成長すれば……危険だ)
確信があった。
あのガキは、このまま放置すれば、いつか自分の手の届かない場所へ行く。
嵐を巻き起こす存在に、なる。
だからこそ――
(ここで、殺しておかなければならない)
合理的な判断だ。
感情ではない。恐れでもない。
危険因子は、芽のうちに摘む。それがこの世界の常識だ。
ゴーマンは、振り返らずに教会の出口へ向かう。
床に倒れ伏す少年が、もう動かないことを疑いもしなかった。
(……きつい依頼だったが、後腐れはない)
そう自分に言い聞かせるように、低く呟く。
だがその胸の奥に残る、言いようのない違和感を、ゴーマンは振り払うことができなかった。
――あのガキ、本当にこれで終わりか?
そんな考えが浮かんだ瞬間、彼は小さく舌打ちをした。
(馬鹿らしい)
心臓を貫かれて、生きている人間などいない。
そう思いながらも、なぜか足取りは、わずかに早くなっていた。
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