52 / 116
一章 契約と回帰
四十八話
しおりを挟む
翌日の朝、ソラが目を覚ますと、窓から差し込む日差しはすでに高く、時計があれば昼前だと分かる明るさだった。
ゆっくりと上体を起こし、見慣れない天井を仰ぐ。
「……ここは……」
混乱したまま周囲を見回すと、部屋は質素だった。小さな机と椅子、壁際に並ぶ工具、棚に積まれた金属片や木材。
そして、開け放たれた窓から聞こえる、規則正しい金属を叩く音。
――鍛冶場だ。
そう理解した瞬間、部屋の扉が軋む音を立てて開いた。
「お、起きたか」
顔を出したのは、見覚えのある少年だった。
短く切った髪に、少し煤のついた頬。
前に廊下で助けた同じ学校の生徒で鍛冶師見習いであるカジトだった。
「……カジト……?」
名前を呼ぶと、カジトはほっとしたように肩を落とした。
「良かった……本当に起きないかと思ったぞ。」
「ここ、どこだ……?」
「俺が世話になってる鍛冶屋の裏の住み込み部屋だ。師匠には事情を話して、黙っててもらってる」
そう言ってから、カジトは少し言い淀んだ。
「……あのな、ソラ。昨日のこと、どこまで覚えてる?」
ソラは一瞬、視線を落とす。
そして、静かに答えた。
「……ゴーマンと戦った。勝った……と思った。
でも、油断して……刺された」
カジトの表情が強張る。
「……やっぱり覚えてるか…」
お互いに気まずい空気が流れる。ソラは何が起こったのか自分ではわからない故に黙る、カジトはそんなソラを見て離せない理由があると勝手に推測する。
「なあ、ソラ。もし……何か秘密があって話せないなら、無理に話さなくていい」
「……」
「俺は、それを聞き出そうとは思わない。安心してくれ」
その言葉に、ソラの肩から少しだけ力が抜けた。
「とにかく、大事なことは一つだ」
カジトはそう言うと、真っ直ぐソラの前に立ち、深く頭を下げた。
「俺は、お前に助けられた。本当にありがとう」
「や、やめてくれよ」
ソラは慌てて身を起こし、カジトの頭を軽く押し上げる。
「当たり前のことをしただけだ。礼を言われるようなことじゃない」
「それでもだ」
カジトは小さく笑い、椅子に腰掛けた。
「一応、ことの顛末を話しておくな。お前がゴーマンを倒した後、捕まっていた人たちを起こしてすぐに目を覚ました」
「……」
「その後で全員で協力して大人を呼んだ。教会に来た衛兵と教師たちが、ゴーマンと不良生徒たちをまとめて捕まえたよ」
ソラは静かに息を吐く。
「それから……」
カジトは少し言いづらそうにしながら続けた。
「捕まっていた人には、お前のことを話した。全部じゃないけどな。皆、口外しないって約束してくれた」
「……そうか」
「今朝には全員、家に帰ってる。怪我も大したことなかった」
それを聞いて、ソラはようやく心から安堵した。
「本当に……よかった」
カジトは立ち上がり、扉に向かいながら振り返る。
「今日は無理せず休め。学校には俺から適当に伝えておく」
「……助かる」
扉が閉まり、部屋に静けさが戻る。
ベッドの脇には、いつの間にか黒猫が丸くなっていた。ソラが視線を向けると、猫は小さく鳴く。
「……クロ」
昨夜、確かに“何か”があった。
自分が生きている理由も、あの力の正体も、まだ何一つ分からない。
それでも――今は、確かに生きている。
きっとクロのおかげで。
ゆっくりと上体を起こし、見慣れない天井を仰ぐ。
「……ここは……」
混乱したまま周囲を見回すと、部屋は質素だった。小さな机と椅子、壁際に並ぶ工具、棚に積まれた金属片や木材。
そして、開け放たれた窓から聞こえる、規則正しい金属を叩く音。
――鍛冶場だ。
そう理解した瞬間、部屋の扉が軋む音を立てて開いた。
「お、起きたか」
顔を出したのは、見覚えのある少年だった。
短く切った髪に、少し煤のついた頬。
前に廊下で助けた同じ学校の生徒で鍛冶師見習いであるカジトだった。
「……カジト……?」
名前を呼ぶと、カジトはほっとしたように肩を落とした。
「良かった……本当に起きないかと思ったぞ。」
「ここ、どこだ……?」
「俺が世話になってる鍛冶屋の裏の住み込み部屋だ。師匠には事情を話して、黙っててもらってる」
そう言ってから、カジトは少し言い淀んだ。
「……あのな、ソラ。昨日のこと、どこまで覚えてる?」
ソラは一瞬、視線を落とす。
そして、静かに答えた。
「……ゴーマンと戦った。勝った……と思った。
でも、油断して……刺された」
カジトの表情が強張る。
「……やっぱり覚えてるか…」
お互いに気まずい空気が流れる。ソラは何が起こったのか自分ではわからない故に黙る、カジトはそんなソラを見て離せない理由があると勝手に推測する。
「なあ、ソラ。もし……何か秘密があって話せないなら、無理に話さなくていい」
「……」
「俺は、それを聞き出そうとは思わない。安心してくれ」
その言葉に、ソラの肩から少しだけ力が抜けた。
「とにかく、大事なことは一つだ」
カジトはそう言うと、真っ直ぐソラの前に立ち、深く頭を下げた。
「俺は、お前に助けられた。本当にありがとう」
「や、やめてくれよ」
ソラは慌てて身を起こし、カジトの頭を軽く押し上げる。
「当たり前のことをしただけだ。礼を言われるようなことじゃない」
「それでもだ」
カジトは小さく笑い、椅子に腰掛けた。
「一応、ことの顛末を話しておくな。お前がゴーマンを倒した後、捕まっていた人たちを起こしてすぐに目を覚ました」
「……」
「その後で全員で協力して大人を呼んだ。教会に来た衛兵と教師たちが、ゴーマンと不良生徒たちをまとめて捕まえたよ」
ソラは静かに息を吐く。
「それから……」
カジトは少し言いづらそうにしながら続けた。
「捕まっていた人には、お前のことを話した。全部じゃないけどな。皆、口外しないって約束してくれた」
「……そうか」
「今朝には全員、家に帰ってる。怪我も大したことなかった」
それを聞いて、ソラはようやく心から安堵した。
「本当に……よかった」
カジトは立ち上がり、扉に向かいながら振り返る。
「今日は無理せず休め。学校には俺から適当に伝えておく」
「……助かる」
扉が閉まり、部屋に静けさが戻る。
ベッドの脇には、いつの間にか黒猫が丸くなっていた。ソラが視線を向けると、猫は小さく鳴く。
「……クロ」
昨夜、確かに“何か”があった。
自分が生きている理由も、あの力の正体も、まだ何一つ分からない。
それでも――今は、確かに生きている。
きっとクロのおかげで。
10
あなたにおすすめの小説
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる