60 / 116
二章 黒曜麒麟
五十六話
しおりを挟む
家に帰ると、ソラは戸を閉め、深く息を吐いた。外での鍛錬とは違い、ここは自分と向き合う場所だ。肩掛けのカバンを外し、床に腰を下ろす。クロは机の上に跳び乗り、尻尾をゆらりと揺らした。
『始めるぞ、ソラ。今回は前とは違う。覚悟しろ』
ソラは小さく頷いた。
一度目――アイテムボックスのレベルアップは、確かに拍子抜けするほど簡単だった。魔力を流し、扉を押すような感覚で終わった。だが、クロは最初から言っていた。二度目以降は別物だと。
『丹田にある魔力を、すべて胸に集めろ。逃がすな、溢れさせるな。暴れた瞬間、失敗だ』
「……全部、胸に」
言葉にするほど簡単ではない。
丹田に溜まった魔力は、普段なら丹田から離れることはない。それを別の場所に一点に集めるというのは、濁流を小さな器に注ぎ込むようなものだった。
意識を沈め、呼吸を整える。
魔力に触れると、ざわりと抵抗が返ってくる。嫌がるように、逃げるように、体内で渦を巻いた。
「くっ……!」
額に汗が滲む。
魔力を引き寄せるほど、胸の内側が熱を帯びていく。心臓の鼓動がやけに大きく、速く感じられた。集中が一瞬でも乱れれば、魔力は暴れ、全身を引き裂きかねない。
『焦るな。力でねじ伏せるな。“制御”だ』
クロの声は低く、しかし確かだった。
ソラは歯を食いしばり、魔力に命じる。
集まれ。
散るな。
ここにいろ――。
時間の感覚が曖昧になる。数分か、数十分か、それとももっと短かったのか。
胸の奥で、ぎゅっと何かが圧縮される感覚がした。自分という存在が内側から膨らみ、限界まで引き伸ばされていくような、不思議な感覚。
「……っ!」
次の瞬間、世界が一瞬だけ遠のいた。
――パキン。
何かが噛み合う音が、確かにした。
同時に、頭の奥に澄んだ声が響く。
《アイテムボックス:レベル3に到達しました》
《雷魔法:レベル2に到達しました》
ソラはその場に崩れ落ちるように両手をついた。
肺に空気が一気に流れ込み、心臓が荒く脈打つ。全身が重く、指先がわずかに震えていた。
「……はぁ、はぁ……」
『成功だ』
クロの声に、わずかな安堵が混じる。
『感じただろ。今回は“簡単”じゃなかった。これが本来のレベルアップだ』
「……ああ。正直、途中で……弾けるかと思った」
『それでいい。いや、それが普通だ。お前はよく耐えた』
クロは机から降り、ソラの前に座る。
『忘れるな。この力は、誰にでも扱えるものじゃない。私と契約したお前だからこそ、そして――日々、積み重ねてきたからこそだ』
ソラは仰向けになり、天井を見上げた。
体は限界に近いが、不思議と心は澄んでいる。胸の奥に、確かな“広がり”を感じた。
「……まだ、先があるんだよな」
『ああ。だが今日はここまでだ。無理をすれば、積み上げたものを壊す』
クロはそう言って、軽くあくびをした。
ソラは小さく笑い、目を閉じる。
簡単ではない。危険もある。
それでも――前に進める実感が、確かにそこにあった。
『始めるぞ、ソラ。今回は前とは違う。覚悟しろ』
ソラは小さく頷いた。
一度目――アイテムボックスのレベルアップは、確かに拍子抜けするほど簡単だった。魔力を流し、扉を押すような感覚で終わった。だが、クロは最初から言っていた。二度目以降は別物だと。
『丹田にある魔力を、すべて胸に集めろ。逃がすな、溢れさせるな。暴れた瞬間、失敗だ』
「……全部、胸に」
言葉にするほど簡単ではない。
丹田に溜まった魔力は、普段なら丹田から離れることはない。それを別の場所に一点に集めるというのは、濁流を小さな器に注ぎ込むようなものだった。
意識を沈め、呼吸を整える。
魔力に触れると、ざわりと抵抗が返ってくる。嫌がるように、逃げるように、体内で渦を巻いた。
「くっ……!」
額に汗が滲む。
魔力を引き寄せるほど、胸の内側が熱を帯びていく。心臓の鼓動がやけに大きく、速く感じられた。集中が一瞬でも乱れれば、魔力は暴れ、全身を引き裂きかねない。
『焦るな。力でねじ伏せるな。“制御”だ』
クロの声は低く、しかし確かだった。
ソラは歯を食いしばり、魔力に命じる。
集まれ。
散るな。
ここにいろ――。
時間の感覚が曖昧になる。数分か、数十分か、それとももっと短かったのか。
胸の奥で、ぎゅっと何かが圧縮される感覚がした。自分という存在が内側から膨らみ、限界まで引き伸ばされていくような、不思議な感覚。
「……っ!」
次の瞬間、世界が一瞬だけ遠のいた。
――パキン。
何かが噛み合う音が、確かにした。
同時に、頭の奥に澄んだ声が響く。
《アイテムボックス:レベル3に到達しました》
《雷魔法:レベル2に到達しました》
ソラはその場に崩れ落ちるように両手をついた。
肺に空気が一気に流れ込み、心臓が荒く脈打つ。全身が重く、指先がわずかに震えていた。
「……はぁ、はぁ……」
『成功だ』
クロの声に、わずかな安堵が混じる。
『感じただろ。今回は“簡単”じゃなかった。これが本来のレベルアップだ』
「……ああ。正直、途中で……弾けるかと思った」
『それでいい。いや、それが普通だ。お前はよく耐えた』
クロは机から降り、ソラの前に座る。
『忘れるな。この力は、誰にでも扱えるものじゃない。私と契約したお前だからこそ、そして――日々、積み重ねてきたからこそだ』
ソラは仰向けになり、天井を見上げた。
体は限界に近いが、不思議と心は澄んでいる。胸の奥に、確かな“広がり”を感じた。
「……まだ、先があるんだよな」
『ああ。だが今日はここまでだ。無理をすれば、積み上げたものを壊す』
クロはそう言って、軽くあくびをした。
ソラは小さく笑い、目を閉じる。
簡単ではない。危険もある。
それでも――前に進める実感が、確かにそこにあった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
魔法至上主義の世界で『筋力』だけカンストした男が拳一つで全てを覆す
ポポリーナ
ファンタジー
魔法こそが至高——この世界では呼吸も移動も戦闘も、あらゆる営みが魔力で成り立っている。
筋力は「野蛮人の遺物」と蔑まれ、身体を鍛える者は最底辺の存在とされていた。
そんな世界に転生した元・体育教師の剛田鉄心は、魔力適性ゼロ、しかし筋力だけが測定不能のカンスト値。
魔法障壁を素手でぶち抜き、転移魔法より速く走り、最上位魔法を腹筋で弾く——
「なぜ魔法を使わないんだ!?」と問われるたびに「だって使えないし」と笑う男の、
常識を腕力でねじ伏せる痛快・逆転無双が今始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる