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二章 黒曜麒麟
七十二話
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ユナが公爵家の令嬢だったと知り、ソラは言葉を失った。
(え……セイカイ公爵家……?)
頭の中で今までの会話が一気に蘇り、ぞっとする。
自分は今まで、どれだけ失礼な口をきいてきたのか。
「い、今まで大変失礼な言動を……!」
ソラは慌てて深々と頭を下げる。
何度も何度も角度を変えて謝ろうとするその様子に、ユナは思わずくすりと笑った。
「ふふ……」
「ほ、本当に申し訳ありませんでした……!」
へこへこと頭を下げ続けるソラに、ユナは一歩近づき、穏やかな声で言う。
「ソラ君。そんな畏まる必要なんてありません」
ソラが顔を上げると、ユナはいつもの柔らかな笑顔を浮かべていた。
「今まで通り、ユナと呼んでください。
それに――」
そう言ってユナは、ボッケたちの方にも視線を向ける。
「ボッケさん、リンさん、ファラさん、マルコさん。皆さんも、どうか今まで通り気軽に接してください」
そして、貴族としてではなく、一人の少女として軽くぺこりと頭を下げる。
その仕草に、場の緊張がふっと和らいだ。
そして屋敷の奥から、静かに車輪の音が響いてくる。
メイドに車椅子を押され、ひとりの女性が姿を現した。
その姿に、ユナが真っ先に気づく。
「お母様……!」
ユナはぱっと表情を明るくし、早足で駆け寄った。
車椅子の女性は、穏やかな微笑みを浮かべて言う。
「おかえりなさい、ユナ」
優しい声とともに、ユナの頭をそっと撫でる。
その仕草だけで、深い愛情が伝わってきた。
ユナはメイドに一礼し、
「私が押します」と静かに申し出て、車椅子の取っ手を受け取る。
そして母親をソラたちの前へと連れてきた。
「お母様。こちらが、私の学校でのお友達です」
紹介を受け、車椅子の女性はソラたちを見渡し、背筋を正す。
「皆さん、初めまして。
ユナの母の、ハルナ=セイカイと申します」
そう言って、車椅子に座ったまま、非の打ちどころのない美しい礼をした。
「このような姿で失礼いたしますが……
いつもユナがお世話になっております」
その佇まいは、気品に満ちている。
ハルナはユナがそのまま成長したかのような容姿をしており、
年齢を感じさせないほど美しい。
髪にはわずかにロールがかかっているので間違うことはないが、姉妹だと言われても疑わないとソラは思った。
――しかし。
顔色は少し青白く、
どこか儚げで、身体の調子が良くないことは一目で分かった。
ソラは胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるのを感じる。
(……この人のために、ユナは……)
言葉にせずとも、その理由がはっきりと伝わってきた。
ハルナは起き上がっているのが辛いのか、少しだけ青白かった顔が徐々に青白さを増していく。
しばらくするとメイドにそっと声をかけられ、
ユナもそれに気づき、名残惜しそうに母の側へ寄る。
「無理をさせてごめんなさい……」
「いいえ。どうしても、あなたのお友達を一目見ておきたかったの」
ハルナはそう言って、もう一度ソラたちに向き直る。
「皆さん、今日はここまで来てくださってありがとうございます。
これからも……ユナのことを、どうかよろしくお願いしますね」
その笑顔はとても穏やかで、まるで自分の体調など微塵も気にしていないかのようだった。
だが、その笑顔の裏にある無理をソラたちははっきりと感じ取っていた。
ハルナは軽く会釈をすると、メイドに車椅子を押され静かに屋敷の奥――自身の寝室の方へと戻っていった。
その姿が完全に見えなくなったあと、しばしの沈黙が落ちる。
ユナはぎゅっと手を握りしめ、一度深く息を吸ってから、ソラたちの方を向いた。
「……皆さんが見た通り、母は体調が良くありません」
ユナの声は震えていたが、はっきりとした意思が込められていた。
「母の身体は、ある特殊なウイルスに侵されています。
感染力はありません。でも、発症すると……とても恐ろしい速さで身体を蝕んでいくんです」
ソラたちは言葉を失い、ユナの話を黙って聞く。
「薬も治療も……ほとんど効果がありません。
今できるのは、進行を少し遅らせることだけ……」
ユナは視線を伏せ、静かに続ける。
「今のところ、完全な治療方法は一つしかありません。
砕いて服用することで、身体の免疫力を爆発的に高めることができる黒曜麒麟の角……それだけが、母を救う唯一の方法なんです」
その言葉が、重く部屋に落ちた。
ソラは無意識のうちに拳を握りしめる。
ここに来る前から分かっていたはずの理由が、今、改めて胸に突き刺さった。
(え……セイカイ公爵家……?)
頭の中で今までの会話が一気に蘇り、ぞっとする。
自分は今まで、どれだけ失礼な口をきいてきたのか。
「い、今まで大変失礼な言動を……!」
ソラは慌てて深々と頭を下げる。
何度も何度も角度を変えて謝ろうとするその様子に、ユナは思わずくすりと笑った。
「ふふ……」
「ほ、本当に申し訳ありませんでした……!」
へこへこと頭を下げ続けるソラに、ユナは一歩近づき、穏やかな声で言う。
「ソラ君。そんな畏まる必要なんてありません」
ソラが顔を上げると、ユナはいつもの柔らかな笑顔を浮かべていた。
「今まで通り、ユナと呼んでください。
それに――」
そう言ってユナは、ボッケたちの方にも視線を向ける。
「ボッケさん、リンさん、ファラさん、マルコさん。皆さんも、どうか今まで通り気軽に接してください」
そして、貴族としてではなく、一人の少女として軽くぺこりと頭を下げる。
その仕草に、場の緊張がふっと和らいだ。
そして屋敷の奥から、静かに車輪の音が響いてくる。
メイドに車椅子を押され、ひとりの女性が姿を現した。
その姿に、ユナが真っ先に気づく。
「お母様……!」
ユナはぱっと表情を明るくし、早足で駆け寄った。
車椅子の女性は、穏やかな微笑みを浮かべて言う。
「おかえりなさい、ユナ」
優しい声とともに、ユナの頭をそっと撫でる。
その仕草だけで、深い愛情が伝わってきた。
ユナはメイドに一礼し、
「私が押します」と静かに申し出て、車椅子の取っ手を受け取る。
そして母親をソラたちの前へと連れてきた。
「お母様。こちらが、私の学校でのお友達です」
紹介を受け、車椅子の女性はソラたちを見渡し、背筋を正す。
「皆さん、初めまして。
ユナの母の、ハルナ=セイカイと申します」
そう言って、車椅子に座ったまま、非の打ちどころのない美しい礼をした。
「このような姿で失礼いたしますが……
いつもユナがお世話になっております」
その佇まいは、気品に満ちている。
ハルナはユナがそのまま成長したかのような容姿をしており、
年齢を感じさせないほど美しい。
髪にはわずかにロールがかかっているので間違うことはないが、姉妹だと言われても疑わないとソラは思った。
――しかし。
顔色は少し青白く、
どこか儚げで、身体の調子が良くないことは一目で分かった。
ソラは胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるのを感じる。
(……この人のために、ユナは……)
言葉にせずとも、その理由がはっきりと伝わってきた。
ハルナは起き上がっているのが辛いのか、少しだけ青白かった顔が徐々に青白さを増していく。
しばらくするとメイドにそっと声をかけられ、
ユナもそれに気づき、名残惜しそうに母の側へ寄る。
「無理をさせてごめんなさい……」
「いいえ。どうしても、あなたのお友達を一目見ておきたかったの」
ハルナはそう言って、もう一度ソラたちに向き直る。
「皆さん、今日はここまで来てくださってありがとうございます。
これからも……ユナのことを、どうかよろしくお願いしますね」
その笑顔はとても穏やかで、まるで自分の体調など微塵も気にしていないかのようだった。
だが、その笑顔の裏にある無理をソラたちははっきりと感じ取っていた。
ハルナは軽く会釈をすると、メイドに車椅子を押され静かに屋敷の奥――自身の寝室の方へと戻っていった。
その姿が完全に見えなくなったあと、しばしの沈黙が落ちる。
ユナはぎゅっと手を握りしめ、一度深く息を吸ってから、ソラたちの方を向いた。
「……皆さんが見た通り、母は体調が良くありません」
ユナの声は震えていたが、はっきりとした意思が込められていた。
「母の身体は、ある特殊なウイルスに侵されています。
感染力はありません。でも、発症すると……とても恐ろしい速さで身体を蝕んでいくんです」
ソラたちは言葉を失い、ユナの話を黙って聞く。
「薬も治療も……ほとんど効果がありません。
今できるのは、進行を少し遅らせることだけ……」
ユナは視線を伏せ、静かに続ける。
「今のところ、完全な治療方法は一つしかありません。
砕いて服用することで、身体の免疫力を爆発的に高めることができる黒曜麒麟の角……それだけが、母を救う唯一の方法なんです」
その言葉が、重く部屋に落ちた。
ソラは無意識のうちに拳を握りしめる。
ここに来る前から分かっていたはずの理由が、今、改めて胸に突き刺さった。
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