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二章 黒曜麒麟
106話
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花火が打ち終わったあとも、
ソラとユナは、しばらく言葉を交わせずにいた。
胸の奥に残る余韻。
そして、少しだけ臭いことを言ってしまった自覚と、
妙に良い雰囲気になってしまったことへの照れ。
どちらからともなく、視線を逸らしたまま沈黙が続く。
そのときだ。
――ザッ。
草を踏む足音。
ふたりは同時に身構え、気配のする方へ視線を向けた。
「……誰だ?」
だが、闇の中から現れた人物を見て、
ふたりは揃って目を見開く。
「やぁ、若人たちよ。こんばんは」
穏やかな声とともに、白髪の老人が姿を現した。
「今夜は、実に良き星空だね」
「……っ!」
「しょ、ショーイチロー校長!?」
思わぬ人物の登場に、ユナが思わず声を上げる。
「どうして、こんな場所に……?」
問いかけられたショーイチローは、
にこやかに笑い、懐から一通の手紙を取り出した。
それを見た瞬間、ユナの表情が変わる。
「それは……!
私がお願いして出した手紙!」
「うむ。確かに受け取ったよ」
ショーイチローは頷き、穏やかな口調で続ける。
「ちょうど私の用事が終わったタイミング受け取ってね。
そのまま足を運んでみたのだが……
どうやら、良い意味で無駄足だったようだ」
そして、少し視線を横に逸らす。
「先ほど、ハーデン先生にも会ってきたよ。
聞いたよ、Bランクダンジョン踏破――おめでとう」
その言葉に、ソラとユナは軽く頭を下げる。
「「ありがとうございます」」
だが、ソラはすぐに首を傾げた。
「……理由は分かりました。
でも、校長先生。
どうしてピンポイントで、俺たちがここにいるって分かったんです?」
その問いに、ショーイチローは少し考える仕草をしてから、肩をすくめる。
「うーむ……何と言うべきかね」
そして、どこか茶目っ気のある笑みを浮かべた。
「私は昔から、勘が良くてね。
君たちの気配、とでも言おうか。
それを辿っていたら、気づけばここに来ていた――そんなところだ」
理由としてはかなり曖昧だが、
それでもこの場所に辿り着いている以上、
全くの嘘とも言い切れない。
(流石Sランクシーカー、化け物みたいな勘まで持ち合わせているのか……)
とソラはそう思う事にした。
そんな化け物じみた勘を持つショーイチローが、改めてソラへと視線を向ける。
その目は、どこか感心したように細められていた。
「ソラ君。君とは以前、模擬戦をしたね」
ソラは一瞬、あの時の記憶を思い出す。
「……ええ」
「どうだい?」
ショーイチローは、静かに、しかし楽しげに笑う。
「もう一度、私と手合わせしてみないかね?」
夜空の下、
穏やかな誘いの言葉が、静かに響いた。
あまりにも唐突な提案に、ソラは一瞬だけ言葉を失った。
だが――次の瞬間、胸の奥で、確かに何かが跳ねた。
(三ヶ月前の俺は……まるで歯が立たなかった)
あの時はただショーイチローに
翻弄され、何もできなかった。
けれど今ならどうか。
過去に戻り
経験を積み
命を賭した戦いをくぐり抜けてきた
今の自分なら――
(どこまで通用するのか、確かめたい)
それは挑戦心であり、好奇心であり、
そして確かな成長への渇望だった。
ソラは一歩前に出て、深く頭を下げる。
「……分かりました。よろしくお願いします」
ショーイチローは満足そうに頷く。
「うむ。では――戦いの方法は、前と同じでよいかね?」
「はい!」
即答だった。
そのやり取りを横で聞いていたユナが、少し不安そうにソラへ声をかける。
「ソラ君……大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ソラは穏やかに笑って答える。
「ただの手合わせだ。心配するようなことじゃない」
そう言ってから、ほんの一瞬だけ言葉を選び、続けた。
「……それと、これからユナに見せるものは、できるだけ秘密にしてほしい」
「え?」
突然のお願いに、ユナは目を瞬かせる。
理由は分からない。
だが、迷いはなかった。
「……分かりました」
そして、柔らかく微笑む。
「仲間ですから。ソラ君の秘密は、私が守ります」
その言葉に、ソラは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(……ありがとう)
心の中でそう呟き、ソラはショーイチローへと向き直る。
一方のショーイチローは、相変わらずだった。
準備運動をするでもなく、構えを取るでもない。
シャツの上のボタンを一つ外し、
動きやすいとは言い難いスーツ姿のまま、
ただ立っている。
それでも――
その佇まいだけで、隙がない。
「いつでも、かかってきなさい」
その一言に、ソラは静かに息を吐いた。
意識を内側へ
腹の奥にある魔力へと、神経を集中させる。
ゆっくりと、丁寧に。
荒れないように、溢れさせないように。
魔力を練り上げ、全身へと巡らせていく。
そして――
十分に魔力が行き渡った、その瞬間。
バチッ、と空気が弾けた。
ソラの全身が、雷に打たれたかのように青白い光を放つ。
夜の静寂の中で、
戦いの火蓋が、静かに切って落とされた。
ソラとユナは、しばらく言葉を交わせずにいた。
胸の奥に残る余韻。
そして、少しだけ臭いことを言ってしまった自覚と、
妙に良い雰囲気になってしまったことへの照れ。
どちらからともなく、視線を逸らしたまま沈黙が続く。
そのときだ。
――ザッ。
草を踏む足音。
ふたりは同時に身構え、気配のする方へ視線を向けた。
「……誰だ?」
だが、闇の中から現れた人物を見て、
ふたりは揃って目を見開く。
「やぁ、若人たちよ。こんばんは」
穏やかな声とともに、白髪の老人が姿を現した。
「今夜は、実に良き星空だね」
「……っ!」
「しょ、ショーイチロー校長!?」
思わぬ人物の登場に、ユナが思わず声を上げる。
「どうして、こんな場所に……?」
問いかけられたショーイチローは、
にこやかに笑い、懐から一通の手紙を取り出した。
それを見た瞬間、ユナの表情が変わる。
「それは……!
私がお願いして出した手紙!」
「うむ。確かに受け取ったよ」
ショーイチローは頷き、穏やかな口調で続ける。
「ちょうど私の用事が終わったタイミング受け取ってね。
そのまま足を運んでみたのだが……
どうやら、良い意味で無駄足だったようだ」
そして、少し視線を横に逸らす。
「先ほど、ハーデン先生にも会ってきたよ。
聞いたよ、Bランクダンジョン踏破――おめでとう」
その言葉に、ソラとユナは軽く頭を下げる。
「「ありがとうございます」」
だが、ソラはすぐに首を傾げた。
「……理由は分かりました。
でも、校長先生。
どうしてピンポイントで、俺たちがここにいるって分かったんです?」
その問いに、ショーイチローは少し考える仕草をしてから、肩をすくめる。
「うーむ……何と言うべきかね」
そして、どこか茶目っ気のある笑みを浮かべた。
「私は昔から、勘が良くてね。
君たちの気配、とでも言おうか。
それを辿っていたら、気づけばここに来ていた――そんなところだ」
理由としてはかなり曖昧だが、
それでもこの場所に辿り着いている以上、
全くの嘘とも言い切れない。
(流石Sランクシーカー、化け物みたいな勘まで持ち合わせているのか……)
とソラはそう思う事にした。
そんな化け物じみた勘を持つショーイチローが、改めてソラへと視線を向ける。
その目は、どこか感心したように細められていた。
「ソラ君。君とは以前、模擬戦をしたね」
ソラは一瞬、あの時の記憶を思い出す。
「……ええ」
「どうだい?」
ショーイチローは、静かに、しかし楽しげに笑う。
「もう一度、私と手合わせしてみないかね?」
夜空の下、
穏やかな誘いの言葉が、静かに響いた。
あまりにも唐突な提案に、ソラは一瞬だけ言葉を失った。
だが――次の瞬間、胸の奥で、確かに何かが跳ねた。
(三ヶ月前の俺は……まるで歯が立たなかった)
あの時はただショーイチローに
翻弄され、何もできなかった。
けれど今ならどうか。
過去に戻り
経験を積み
命を賭した戦いをくぐり抜けてきた
今の自分なら――
(どこまで通用するのか、確かめたい)
それは挑戦心であり、好奇心であり、
そして確かな成長への渇望だった。
ソラは一歩前に出て、深く頭を下げる。
「……分かりました。よろしくお願いします」
ショーイチローは満足そうに頷く。
「うむ。では――戦いの方法は、前と同じでよいかね?」
「はい!」
即答だった。
そのやり取りを横で聞いていたユナが、少し不安そうにソラへ声をかける。
「ソラ君……大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ソラは穏やかに笑って答える。
「ただの手合わせだ。心配するようなことじゃない」
そう言ってから、ほんの一瞬だけ言葉を選び、続けた。
「……それと、これからユナに見せるものは、できるだけ秘密にしてほしい」
「え?」
突然のお願いに、ユナは目を瞬かせる。
理由は分からない。
だが、迷いはなかった。
「……分かりました」
そして、柔らかく微笑む。
「仲間ですから。ソラ君の秘密は、私が守ります」
その言葉に、ソラは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
(……ありがとう)
心の中でそう呟き、ソラはショーイチローへと向き直る。
一方のショーイチローは、相変わらずだった。
準備運動をするでもなく、構えを取るでもない。
シャツの上のボタンを一つ外し、
動きやすいとは言い難いスーツ姿のまま、
ただ立っている。
それでも――
その佇まいだけで、隙がない。
「いつでも、かかってきなさい」
その一言に、ソラは静かに息を吐いた。
意識を内側へ
腹の奥にある魔力へと、神経を集中させる。
ゆっくりと、丁寧に。
荒れないように、溢れさせないように。
魔力を練り上げ、全身へと巡らせていく。
そして――
十分に魔力が行き渡った、その瞬間。
バチッ、と空気が弾けた。
ソラの全身が、雷に打たれたかのように青白い光を放つ。
夜の静寂の中で、
戦いの火蓋が、静かに切って落とされた。
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