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3章 フェイトエピソード
盛大過ぎる勘違い
しおりを挟む──俺は五日目の朝を迎えた。
そう、まだ五日目なんだ。だが体感では数ヶ月は経過している。とんでもない世界だ……逆時間泥棒。
俺は目を覚ましベッドから体を起こすと、さも当たり前の様にアルマスが実体化して俺を見つめていた。
少しビビったんだが……やめてほしいホント。
よく考えたらこいつとも出会ってまだ1日しか経ってないんだよな?なんか既に居て当たり前みたいな雰囲気を醸し出している。
俺は驚かせてきたアルマスを睨みつけてやるのだが、様子が昨日と違う事に気が付く。
俺が寝てる間に何かあったんだろうか?
「おまえいつもと違うけど、なんかあったか?」
「はい……おまえ……?」
「覇気がないぞ?どうしたアルマス?」
昨日はあれだけ過敏に反応していた、お前呼びにも鈍いリアクション。
俺はボケ&突っ込みマシーンのアルマスが、本職を放棄した事で更におかしいと思った。
おまえって100回くらい言ったろか?
「いえ……たか……マスターのステータスを確認しておりましたら、新しく加護が付与されておりまして……」
「勝手に見んなよ!……って、え?加護?なんで?」
俺はベッドから飛び降り、ステータスカードが置いてある机に向かう。そしてカードを確認した。
【ティファレトの加護】
「……どうしてなの?」
速攻で見つかったそれを見て俺は驚愕した。
いったい、いつのまに加護なんか……てかティファレトって誰だ?
「ティファレト様はこの世界の女神様ですよ?」
口に出してないのだが、アルマスは俺の心を読み取ったかの様なタイミングでティファレトの正体について教えてくれた。
この加護の人はこの世界の女神様だったのか……というか心当たりがまるで無いのだが?
それにこの世界の女神って性格悪いみたいだし、マイナスな効果だったり、これを人に見られたら避けられたりしないか?
俺は思った事をそのままアルマスに言うが、彼女は少し悲しそうな表情をみせた。
「……マスターはこの世界の女神様について色々聴かされているものかと思いますが、あまり真に受けない様にお願いします」
確かにそうかも知れない。
それに理由はどうあれ、ティファレトという女神がこの世界を見捨てたと言う話が事実だとしても、俺はこの世界の産まれでは無いので、薄情な言い方になってしまうが憎しみを抱いたりとかはない。
てゆーか今のアルマス、直接知ってるみたいな言い方だったな。
「……知ってるの?この女神様」
「はい……昔、会ったことがあります」
俺がその事を聞くと、アルマスはあっさり白状した。
「アルマスってすげぇ奴だったんだな」
この世界でも唯一の人型スキルとか言ってたし、もしかして女神に造られたとか?
少し気になるが、アルマスの出生などはもう少し落ち着いてから改めて聞くとしよう。
アルマスは神妙そうな顔で何かを考える仕草を見せると、嬉しそうな口振りでこんな事を言った。
「……それと、この加護がマスターに付与されているという事は、人の姿を借りて地上に降りてる筈です」
「……本当に?ってことは俺何処かで会ってるのか?」
「はい。その筈です」
うわぁ……心当たり全くゼロだわ……この世界ってダイアナさん以外にろくな女居ないもん。
……つまりダイアナさんが女神様?
俺が思考していると、アルマスは続けてこう言う。
「それと申し訳ありませんが、この事は他言無用でお願いします」
「解ったよ……つーかアルマスに関する事はだいたい他言無用じゃないかよ」
アルマスは少しバツが悪そうな表情する。
でもアルマスが口止めする事って本当に言わない方が良い事な気がするから従うけどね。
「そういえば人の姿を借りて、今は地上に降りてるんだよな?」
アルマスは黙って頷くだけだ。ティファレトという女神はアルマスにとって本当に大事な存在なのだろう。
思うところがあるみたいだし、どういう関係かは気になるが、アルマスが打ち明けてくれるまで詮索せずに気長に待つか……別に無理に話さなくても良いけどな。
「誰が女神なのか解ったりするか?」
まぁ100%ダイアナさんだけどな。
………え?てことは俺って女神様にロリコンだと思われてんの?それヤバくない?
「はい……心当たりが一人……いえ、恐らく間違いないと思います」
「……もし話せるなら教えてくれないか?」
ダイアナさんだろ?勿体ぶらずとも解ってるって。
……しかし、彼女が口にしたのは意外過ぎる人物だった。
「アリアンさんです」
「……マジで?」
「デジマデジマ」
──え?破壊神じゃなくて女神を聞いてるんだけど?
いやないないないない!アリアンさんが女神とか絶対あり得ないから!もしそうだとしたら詐欺って次元じゃないんだけど?
俺が頭の中で全力否定してると、アルマスはそう思うに至った原因を語り始めた。
「はい、確証があります……昨日、マスターのピンチに彼女と出会ったのは偶然だと思いますか?」
それを聞いて俺もハッとしてしまった。
あの時は超ラッキー位にしか思わなかったけど、良く考えたら偶然って事はあり得ない気がして来たぞ。
「言われてみれば確かにそうかも……」
※偶然です
「それと出会った時の反応も普通と違いました。他人の様に振舞っていた私にマスターを託したのですよ?私は女神様であるアリアンさんがあそこにマスターが来るのを予知し、待っていたとしか思えません」
※違います
「そ、そうだろうか……でも何で俺を助けたんだ?」
一番確率が高いとすれば、アルマスが居たからってのが理由なんだけど──
「っっ!!そ、それは……」
どうやらそれだけではなさそうだ。
アルマスは激しく動揺し、気まずそうに目を伏せ出した。要するに言えない理由があるんだな?秘密の多い女だぜ。
「そうか!俺が勇者だからか!」
俺はアルマスを落ち着かせる為に、適当な事を言って誤魔化す事にした……が、アルマスにそれが当たり前の様に見破られる。
「本当にごめんなさいマスター……ですが時が来れば必ず話します……全ての事を……それまで黙ってる事をどうかお許し下さい」
「……わかった」
そんな申し訳なさそうな顔しなくていいのにな。
いずれ必ず話すとまで言ってくれたんだから、俺としてはそれで十分だ。
俺が気にすんなと手を挙げる仕草を見せると、アルマスはニコっと笑う。
そして1つ思った事がある。
アリアンさんが女神だったら、女神って伝承通りヤバい人じゃん!
──もちろん、真の女神はヴァルキュリエ隊のシーラであるのだが、孝志はこのやり取りを切っ掛けに盛大な勘違いをしてしまうのだった。
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