107 / 217
6章 勇者と、魔族と、王女様
孝志と穂花
しおりを挟むアリアンの作った朝食を食べ終えた後、孝志はアルマスに訓練所まで案内される。
案内後はまだ体調が優れないらしく、アルマスは具合が悪そうに自分の部屋へと帰って行った。
訓練所の中は、誰かが訓練に使った形跡は無かったが、それでも掃除は行き届いているらしく埃などは積もってない。
正直、宮殿の訓練所も相当な綺麗さだったが、ここは普段から使われてないのもあり、宮殿とは比べ物にならないほどの綺麗さだ。
信じがたい事に小石一つ転がっていなかった。
そして、この場所で孝志はアリアンと嫌々ながら訓練に励んでいた──
「──お前……ふざけているのか?」
「いや、全力ですよ!!?アリアンさん相手にふざける訳ないでしょ!?急にどうして??」
俺と数回ほど剣を合わせたアリアンさんは、次第に表情を歪め出し、とうとう怒りの声を上げるのだった。
理由は孝志の力が明らかに城を出発する前と比べて大幅に落ちており、手抜きで訓練に励まれていると考えたからである。
もちろん、孝志がアリアン相手に手抜きなんて恐ろしい行為が出来る筈がない。
ただ単に、ミーシャの禁呪のせいで能力が極端に下がっただけなのだが、その事実は孝志も知り得ないこと。
なので可哀想なことに孝志も弁明が出来ないのだ。
「なぁ孝志?私との訓練に何か不満んでもあるのかぁ?手を抜かれて私は悲しいぞ?」
──アナタの訓練には不満しかないですよ。
くっ!言ってやりたいが、殺されそうだからそんなこと言えない!
でも本当に全力なのに、どうしてそんな事言うんだ?
「いや!本当に今度ばかりは嘘ではありません!」
孝志は大きく首を縦に振り、必死で自らの発言が真実だとアピールする。
「……誓えるか?」
「……はい!この目を観て下さい!」
「…………わかった──どれどれ?」
すると、アリアンは互いのオデコが引っ付くかという位に顔を近付けて孝志の瞳を覗きこむ。
当然、孝志は内心ガクブルだった。
アリアンが相手のときに限って、これだけ近い距離でも孝志がドギマギする事はない。だって怖いんだからっ!
「嘘は言ってない様だな……しかし、いきなりそこまで弱くなる訳ないし…………孝志、ステータスカードを見せてみろ」
「あ、はい!」
無実が晴れた事で心底安心した孝志は、何も考えずステータスカードをアリアンへと渡すのだったが……直ぐに『やっば!』と心の中で叫ぶ。
「(やべぇな……ステータスカードには、思いっきりティファレトの加護って書いてるんだよな……アルマスの方は、あいつが俺の中に居る時しかステータスカードに記載されないから大丈夫だけど……)」
この世界の人間が女神を嫌っている事を知っているので、狂人だと、いったいどんな反応を見せるのか……?
孝志は大きな不安を抱くのであった。
「………………………なるほど…………全体的に能力が下がっている……それと、強烈なデバフを掛けられた形跡もある…………済まなかったな、疑ってしまって。どうやら本当にさっきのは全力らしい。カードを返すぞ」
そう言ってアリアンは加護については何も触れず、あっさりステータスカードを孝志へと返す。
流石に全く女神の加護に触れられないのは予想外だったので、アリアンはどう思ったのか気になり、孝志は思わずその事を自分から尋ねるのだった。
「あの……ティファレトの加護ってあったと思うんですけど?」
「ん?……ああ、確かにあったな。だけど気にするな。そんなモノが有ったところでお前への評価は変わらん」
「……あ、ありがとうございます」
「おう──それに女神を悪く言う輩は多いが、私は直接その女神と会った訳ではないしな。周囲の反応だけで女神へ嫌悪感を抱く事はない。お前も噂話や歴史上の記録だけで、人や女神を悪く思ったりする様な……そんなくだらない人間にはなるなよ?」
「…………はい」
だから!アリアンさん訓練以外では本当にカッコ良いんだよっ!絶対上司としては最高だと思うわ。俺は嫌だけど。
しかも器も大きい。
ユリウスさんなんか女神の話題出しとき、目くじら建てて説教して来たんたぜ!?
やっぱりあの親父って器小さいわ……裏切るだけのことはあるぜ、ほんと。
アリアンさん、あの親父も説教してやってくれ!
「──だが、この能力値なら、予定している訓練だと効果は無さそうだ……予定を変えないと……」
「なんかすいません」
「謝るな。何が原因で弱体化したのかは不明だが、お前が悪くない事くらい解っている。お前は後ろめたい気持ちを抱くな。お前はこれまでの頑張りに自身を持て」
「……はい」
──やべぇ……ちょっと泣きそうだった。
これまでの頑張りが褒められたのは、ほんと嬉しい……だってたくさん怖い目にも、死ぬ様な目にも遭って来たんだよ。
多分、メンタル弱い奴なら潰れていたと思うぞ?
ほんとアリアンさんの言葉は暖かい。
でも騙されるなよ俺!!
ここで良い人とか思ったら、さっきみたいに酷い目に遭わされるからね!!
…………てか俺、いつのまに弱体化してたの?
──孝志はアリアンに言われ、初めて自分の身に起こっていた、弱体化という異変に気が付くのであった。
────────────
「──ところで孝志、少し聞きたい事が有るんだが……少し良いか?」
「はぁ……はぁ……はぁ……ど、どうしました……?」
訓練内容を手合わせから剣の素振りへと変更になった。
アリアンと戦わず済んだので多少は気持ち楽になったが、それでも1時間以上休みなく素振りを続けさせられ、孝志の疲労は肩で息をするくらいに溜まっていた。
故に、このアリアンからの質問でようやく休める事になる。
「──ふむ……実は穂花について何だが……お前は彼女の事をどう思っている?」
「え?……穂花ちゃんですか?どうしていきなり?」
「いや、少し気になってな」
「そうですね……まぁ妹みたいなものですかね」
「妹?」
「いや、流石に本当の妹とは思ってませんよ?!あの……実は彼女、妹の友達なんですよ。なんでどうしても妹として扱ってしまうですよね」
「………………」
「ど、どうしました?」
「いや……穂花が可哀想だと思ってな」
「え……可哀想?」
もしかして、穂花ちゃんを妹扱いする俺のことキモいとか思っている?
──もちろん、全然違うのでアリアンは話を続けた。
「なぁ孝志。余計なお世話かも知れんが、次に穂花と会ったとき、少し女性として接してやれないか?」
「え?そんな妹の友達を女扱いしたらおかしいですよ。多分、穂花ちゃんも、兄がゴミ屑なんで僕を兄代わりとして慕ってくれてるんだと思いますよ?勘違いしたら失礼です、穂花ちゃんに対して……」
「……はぁ~~……」
あっ?今の溜息なんだよ?腹立つんだがマジで。
しかもなんで急にそんなこと言ってくるんだろうか?
まさか最近、穂花ちゃんとベタベタしてたから、恋人同士だと勘違いしたのかも知れないな。
誤解されたら嫌だし、その事も言っとくか……
「確かに、彼女とはくっ付いたり、腕を組まれたりしてましたけど……さっき言った様に間違いなく穂花ちゃんは僕の事は兄代わりか、気の良い先輩としか思ってないでしょう──ですから、穂花ちゃんも僕に対して恋愛感情を持つことは無いと思います。結構、僕って恋愛とかには詳しいんですよ。だから自身満々で言えますよ?」
「はああああぁぁぁぁぁぁ~~~……………」
なんだこの女……?
──アリアンはこれ以上ない程のドでかい溜息を吐く。
そして首を振りながら……これもまた、これ以上無いほどの呆れ顔で孝志を見据える。
「言いたいことがあるなら言って下さいよ、そんなため息吐かずに!」
「解った……ではハッキリ言おう──お前、男としてダメダメだな」
「……!!?」
本当に思ったこと言いやがった……!普通なら気を遣って言わない筈なのに……!
てか男として何処がダメなんだよ!めっちゃ穂花ちゃんに気遣えてんじゃん!
ここは例え相手がアリアンでも、孝志は反論せずには居られなかった。
「ぜ、全然ダメじゃないですよ……」
「いや、女目線からするとダメダメだぞ?」
「いや、ダメじゃないですし……」
「いや、ダメだぞ?」
「いや、ダメじゃないと思いますし……」
「いや、ダメだぞ?」
「そんなこと無いですし……」
「──お前、しつこいな」
「よく考えたらダメダメですね、僕」
「そうだろう?」
「…………はい」
殆ど脅迫じゃねーか……!
でもなんなのマジで、そんな男としてダメだとか言わなくても良いのにさ……そもそも一緒に寝た仲じゃないっ!
「なぁ孝志」
「はいなんでしょう?」
「一度、穂花と真剣に向き合ってみろ。そうすれば、見えてくるモノもあるぞ?まぁ強制はしないがな」
「……分かりました。穂花ちゃんが帰ってきたら、少し意識してみます」
──そこまで言うからには、今度再会した時に女扱いして舐めるような視線で観てやるよ(※そこまで言ってない)
これで穂花ちゃんに嫌われたら一生恨むからな!
けど、穂花ちゃん大丈夫かな……?
裏切ったけど、あのユリウスさんなら酷い事はしないとは思うけど……でも早くあの明るい笑顔を見たい。
あの子の笑顔を見ると、本当に元気が湧いてくるんだよな~……
孝志は、心からそう思うのであった。
──正直、アリアンと穂花は凄く仲が良い。
なので、孝志へ対する想いも彼女から聴かされており、どうにか彼女の力になろうとしているのだが……
……もし、テレサと孝志の関係を知ったら彼女はどう動くのだろうか……?
いや、アリアンなら上手く二人の為にやってくれるだろう。
ユリウスなんかとは立ち回りの巧さが違うのだから……
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。
みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。
勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。
辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。
だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる