普通の勇者とハーレム勇者

リョウタ

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6章 勇者と、魔族と、王女様

王国救援作戦③

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──アリアンは王国へと出発し、二体の魔族が占領した市街地へはオーティスが向かう手筈だ。

ならば、王宮内部へ既に潜入して居る魔族を誰が対処するのかと言うと……


「あ、そこには俺が行くわ」

意外な事に孝志が自ら名乗りを挙げるのであった。
それを観ていたアルマスと新参者のアルベルト達以外は不思議そうに首を傾げる。
彼が自ら動くタイプだと思ってなかったからだ。


……しかし、孝志の心情としてはこうだ。
流石に自分が言い出した事なのに、言い出しっぺが全く動かないのは如何なものかと。

なので正義感では無く、ただ見栄を張っているだけ。
それに加え、城内には敵が一体だけなので、アッシュかアルベルトあたりが一緒に来てくれれば大丈夫だろうと高を括ってもいた。

何と言っても向かう先に待ち受けているのは十魔衆以下の能力しか無い相手だ。本物の十魔衆が一緒なら負ける事は無い。
打算的に孝志は考えているのだ。本当に汚い。

そんな風に主人が考えているなど思いもしないアルベルトは、孝志の意向をアッサリと了承するのであった。


「畏まりました。では王宮への救援には主人が向かい、お供に私と……それからアッシュで参りましょう。ミイルフとサイラムは此処で待機だ……過剰戦力になってしまうからな………いいな?」

待機組の二人は大人しく頷いた。
孝志としてもこれがベストメンバー。
この中で誰かに着いて来てもらうとしたアルベルトかアッシュと始めから考えて居たので異論は無い。
もちろん、アレクセイやアルマスが健全なら話は別なのだが、二人が本調子では無い以上無理をさせたくはなかった。


「アレクセイ様、それに奥方様も宜しいでしょうか?」

「了解よん。ただ、くれぐれも孝志ちゃんに怪我させない様にね?」

「ちょ、ちょっと、アルベルト!私も行くに決まってるでしょう!?」

「こら、アルマス。貴女隠してる様だけど、ふらふらよ?」

「マスターの盾くらいになら慣れますッ!──ねぇ、マスター?それなら着いて行ってもいいでしょう?」

「…………いや尚更ダメだから。次同じ事を言ったらマジで口聞かないからな?」

「……う、うん……」

アルマスは反省した。
だけど心配の気持ちは充分に伝わり、その気遣いが何より嬉しかったので、それ以上わがままは言わない事にした。


「取り敢えず、身体が良くなるまでゆっくりしとけって、な?」

「ごめんなさい──でも、ありがとうね?」

「べ、別に心配して言ってんじゃないからなっ!勘違いしないでよね!?」

「ふふ♫好きっ、ちゅ」

「後で覚えとけ、くそがっ!」


相手は十魔衆に及ばない相手なのだ……アッシュとアルベルトの二人が同行するなら危険にはならない。
そして何より、テレサも着いていく事がアルマスにとって何よりの安心材料であった。


「その代わり、アルベルト、アッシュ……マスターに怪我を負わせたらただでは済みませんよ?」

「承知しました、奥方様」

「へへ、任せなッ!」

「孝志、魔王テレサにも宜しく言っといて下さいね?」

「うん………………テレサもわかったって言ってる」

「ふぅ~……なら安心です」

アルマスにとって一番怖いのはアッシュとアルベルトが孝志を裏切ること。全く信用していない訳では無いが、信じ切ってる訳でもない。

ただテレサは別だ。
彼女が一緒なら安心して送り出せるとアルマスは安堵した。
テレサを此処まで信頼しているのは、彼女の境遇を聞いた限りテレサが孝志を裏切るとは考え難くかった。
また、洞窟から孝志を救い出して貰った恩も有るので、ライバルだがテレサの事は高くを評価しているのであった。


──こうして、アルマス以外は誰も異議を唱えないので話はスムーズに進んで行く。


「主人、城門前へは既にアリアンが向かいました。そして市街地へはオーティス、親衛隊が侵入した場内へは主人とアッシュ、それとこのアルベルトで向かいます……改まして皆さん……宜しいですかな?」

アルベルトが話を纏めると皆は黙って頷く。
オーティスもアッシュも準備は万全、転移装置の場所まで移動を開始するのであった。


──────────


──俺たちは待機組も含め全員で転移装置前まで移動する事となった。
待機組は見送りとして着いて来ている。

城の廊下を歩いている最中、俺は会議の中に出て来たある話が気になり、俺の隣を得意顔で歩くおばあちゃんにそれを尋ねる事にした。


「──おばあちゃん、どうしてスキルとか魔法効果が受けれないの?やっぱり人間性に問題があるから?」

この質問を受け、弘子は驚いた表情で孝志を挟んだ反対側に居るアルマスを見た。
因みに人間性うんぬんについてはスルーである。


「……アルマス……孝志ちゃんには話してないのね?」

アルマスもおばあちゃんと同じように隣を歩いているのだが、おばあちゃんの目を盗んで腕を絡めて来たり、指を絡めて来たりしている。
背徳感を楽しんで居るんだろうか?そんなことばっかりしてるとおばあちゃんに言うぞ?
でも対抗して同じことして来そうだから黙っていよう。



──孝志の内情とは真逆に、二人は割りかしシリアスな会話を繰り広げていた。


「……もちろんです、弘子の時みたいな失敗は繰り返しません」

「……ありがとう、孝志ちゃんに言わないでくれて……だから大好きなのよ」

「いやいや、孝志以外に好きと言われてもキモいのですが」

「ちょっと!?昔は大喜びしてたじゃないっ!」

「くっ、私の弘子歴史が……」

「おいっ!黒歴史みたいに弘子歴史とか言うの止めろっ!煽ってんのっ!?」

「うるさいですね、引き篭もりのクソ陰キャが」

「誰が引き篭もりよ!……てか隠キャって何?」

「隠キャとは……まぁ社会不適合みたいな感じです」

「ぶっ殺すっ!!」

……言うほどシリアスでは無かった。
ただ、間に挟まれている孝志はまともに騒音を一身に受けているのでたまっものではない。
何より周囲の目が痛かった。


「アルマスッッ!!おばあちゃんッッ!!」

「「ッッ!?」」

「恥ずかしいからガチ喧嘩しないでくれる!?皆んな何とも言えない顔で見てんだけど!?」

そう言われて辺りを見渡すアルマスと弘子。
アレクセイは疲れたように額を抑えており、十魔衆は凄く気まずそうしている。
そしてオーティスは弘子歴史がツボに入って笑っていた。

そんな周囲の様子を目の当たりにした二人は顔を赤くし我に返るのだった。
こんな二人はともに数百歳。


「「……ごめんなさい」」

「ごめんじゃないわよ──特におばあちゃん、俺もう身内として恥ずかしいよ。アホアンドロイドとかオカマとか中二病とかアリアンさんの相手で普段手一杯なんだら、せめておばあちゃんはマトモで居てくれない?……俺の中で一番評価が高いのは、今のところダントツでアルベルトなんだけど?」

「──ッ!主人……大変嬉しゅうございます!これからも精進してゆく所存です!もちろん、主人の御迷惑とならない様に!」

アルベルトは感極まって涙を流す。
その姿が、頭のおかしい連中ばかりずっと観てきた孝志の目に微笑ましく映るのであった。


「アルベルト……もう、超好き」

「主人……ありがとう──って、ひぃっ!?」

喜びは一瞬だけ。
アルベルトはアルマスと弘子に殺意の篭った凄まじい眼差しで睨まれてしまう。
なのでそれ以上、調子に乗らずに押し黙るのであった。


「……孝志……もしや中二病とは……我の事か……?」

「オカマって……言われてショックだけど、孝志ちゃんだから許しちゃう~」

これから戦闘が始まるとは思えない、そんな雰囲気のまま一向は転移装置へ向かい歩き続けるのであった。



──そして、盛り上がる会話を黙って聞いていたのがアッシュ、ミイルフ、サイラムの三人。
中でもミイルフはさっきまで緊張している様子だったが、気の抜けたやり取りをずっと見せられだいぶ緊張は解れた様だ。今はいつもの調子に戻りつつある。


「──孝志さまって超おもしろいんだけど!なんか上手くやっていけそうみたいな??キャハッ」

「拙者もでござるぞミイルフ殿」

「ま、楽しくやろーぜ?」


この中で一番まともなのは、実の所この三人なのかも知れない。


───────────


一向は転移装置の前に到着した。

「では気を取り直して──正門前にはアリアン殿が向かいました。少し時間が経つので、もうすぐ戦闘が始まる事でしょう」

アルベルトの能力は非常に優秀で、ザイスを侵入させた時は結界の影響で、監視を一体潜り込ませる事で精一杯だったが、結界が破壊された今となっては王国の隅々まで監視の目を張り巡らせていた。


──では会議の話をわかり易くまとめるとしよう。


まず、アリアンが既に向かった王宮城門前。
此処が一番の激戦区で、十魔衆もどきの七人の内、四人も集結しており、六神剣や兵士達と戦いを繰り広げていた。
ただ、戦況は王国側の圧倒的不利らしく、ふざけてる場合では無かったと孝志は反省する。
因みに、六神剣は六人のうち四人が不在らしく、残った二人の六神剣でどうにか持ち堪えて居るらしい。
アルベルト曰く、国中に目を光らせても見付けられない事から、国王と共に何らかの理由で国を離れた可能性が高いという。


そして、魔族に占領された市街地。
ここでは偶々居合わせた若い女性の魔法使いが対抗しているらしいが、ここも敗北は時間の問題らしい。

ここの敵はたった二人。
アリアンの向かったところの半分だが、王宮側と比べて人間側の戦力が少ないのでかなり危ない状況だ。


最後に孝志の向かう王宮内だが……
そちらの状況を聞いて、彼はヤル気を極限まで失くしていた。


「──なんで俺があいつらを助けに行かなきゃなんないんだよ……」

あろう事か、俺の向かう先で戦闘を繰り広げて居たのは勇者達なのである。
と言っても三人全員ではなく、橘、中岸さん、奥本の内の二人が戦っており、その二人が何とか持ち堪えてる状況らしい。

戦闘に至った経緯までは不明だ。
しかし、一つだけ解った事がある。
それは、俺が向かう気を失くしてしまったと言うこと。
なんでわざわざ大嫌いな橘と奥本を助ける為に行かなきゃならないんだよ。
二人の中の一人が中岸さんならまだ良いけど、あの二人を助けに行くとか死ぬほど嫌だわ。


孝志がそう思っていると、気配りの出来るアルベルトは主人が嫌そうにしてるのを察する。


「では、主人も奥方様やアレクセイ様と同じく、ここに残りますか?」

「…………う~ん」

一瞬だが本気で悩んだ。
でも、オーティスさんも既に市街地へ向かっているし、此処で俺がゴネてしまうと十魔衆だけで行かせる事になるのか。幾ら何でもそれはヤバい気がする。

……っはあぁあぁ~~死ぬほど嫌だけど、腹を括るしかないか……あぁやだやだ。


「いや、一緒に行く様にお願いしたのは俺だし、流石に任せっきりは悪いわ」

「おお!流石は主人!責任感が強い!」

「おっ、サンキュー!褒められて元気になったよ!」

いろいろツッコミたいけど、いいや。
アルベルトいい奴だし……ただ、一つだけ気掛かりな事があるな。


「肝心なカルマってやつは何処に居るの?」

そうだ、今から戦うのはカルマ親衛隊らしいのだが、肝心のカルマは三ヶ所の何処にも居ないそうなのだ。
何処かに隠れて居たりしないだろうか?

アルベルトは執事の様に胸元に手を当てながら質問に答える。


「彼なら、戦闘が行われている場所からかなり離れた所に居ますので無視して問題ないでしょう……最も、来たところで主人の敵では無いでしょうが──ですが念の為、カルマは私が常に監視致しましょう……もし、何らかの動きが有りましたら報告しますので、ご安心頂けましたらと」

……もう他の皆んなもアルベルトを見習ってくれよ。
堅実で真面目で、俺の好きなタイプの奴やんけ。抜け目なさも好感が持てる。
俺の敵では無いとか言ってたのが少し気になったけど。


「ありがとう。ところでこのカルマってのは、なんでリーダーなのに戦ってないんだ?」

「そうですね。三大戦力の居ない王国などカルマが出るまでも無いと言えばそれまでですが……」

言葉を途中で区切り、溜息混じりにアルベルトは言葉を続けた。


「彼はそういう男です……例えこれがもう少し劣勢状態でも、カルマは自ら動く事はないでしょう。そのせいで私がどれだけ苦労させられたか──それに比べて主人は素晴らしい!!こうして自ら動かれるのですからっ!」

……いや、俺も動きたくて動く訳じゃないんだけど……?
周りが逃げられない状況を作るから悪いんだよ?


「え?俺も行くだけで戦わないぞ?」

「当然ですっ!主人はどっしり構えていて下さい!一緒に居て下さるだけで意味があるのです!」

「そ、そうか」

「ええそうですとも!貴方みたいな方に仕える事が出来て、私もこれからは胃痛に悩まされず済みそうです!!」

「そ、そうか」

なんかいろいろストレス抱えてんだな。
見た目は一番人間離れしてるけど、この世界で出会った奴らの中で誰よりも社会人っぽい性格だ。

アルベルトとの話が終わったところで、アレクセイさんが入れ替わりに俺の元にやって来た。
オーティスさんを送ったインターバルが終わり、俺を転移させる準備が整ったようだ。
そしてアレクセイさんがオレに労いの言葉を掛ける。

「私は怪我で役に立たなそうだし、残るけど、終わったら迎えに行くわね?……でも気を付けて?アルマスと10Km以上離れて2日経過すると、強制的にアルマスそっちに飛んで行っちゃうからね?」

なにその呪いのアイテム?初耳なんだが?
アルマスの方を見ると恥ずかしいそうに身体をくねらせている……コイツ本当に具合が悪いのか?



──何はともあれ、アリアンは城門前の救援、オーティスは占領された市街地の奪還へ既に向かっている。

そして孝志、アッシュ、アルベルト、テレサが勇者達の助力へと向かい、他の者達は城に残る事となった。




「──そう言えばおばあちゃん、会議中静かだったけど、なんで?」

「え?会議で発言とか緊張するじゃない?」

「…………」


──その気持ちすげぇ分かる。
でもおばあちゃん、コミュ症過ぎない?










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