根雪の証

宮内

文字の大きさ
15 / 22

14

しおりを挟む
 夫とは歳が離れているが、彼が以前懇意していた相手が没落しいなくなったと言う噂は姉から聞いたことがある。
 
相手の女性の家は事業に失敗し、彼の家も巻き添えを受け一時は危ういこともあった。
それを支援したのが父である。
 
新たな事業の協力者となり、その信頼関係を確固たるものにするべく、姉との婚姻を結ぶこととなった。
全ては順調にいくはずだった。
姉が亡くなりさえしなければ。
 
両家に今頃、初孫の知らせなど届いていたかもしれない。

事業も順調に進み繁栄を絵にかいたようなことになっていたのかもしれない。
 
でも、姉は突然亡くなり、そのまま事を進めなければよかったものを男たちは相手をかえてあったことに目を向けず何もなかったかの様に体裁だけ見繕うことにした。
そこに、ちょうどお誂え向きの私がいたから。
 
 
知っていた事実なのに気持ちが沈んだ。
少し夜風にあたろうとテラスに出てそばにあったベンチに腰を下ろした。

凍てつくような空気を大きく吸い込むと胸の奥が押しつぶされそうになる。
この痛みは冷たい空気のせいだと何度も自分に言い聞かす。
私に選択肢などなかったのだ。
 
だから彼がいらないと私を捨てるか、父が私を別の駒に使うため別れさせるかどちらかするまでは自分で踏み出さない私はここにいなければならない。
学校へ行っていた時に、何も考えなかったわけではない。
自由について、女の生き方について私にも思うところはあった。

でも結局のところ何かを成し遂げるほどの力は私にはなく、父に言われる通り松岡家に嫁いだ。

それも私の選択なのだろう。
詰まるところ自分のふがいなさを突き付けられるばかりで吸い込む空気がどんどん身体を冷やしていく。

どのぐらい時間が経ったかわからない位そこにいた。
遠くのパーティーの音は小さくなったような気がして、私は慌てて会場に戻る。

入り口あたりでまた静かに立たずもうと丁度良い頃合いの場所を目で探していると、不意に後ろから声がかかる。

「雪乃さんではありませんか。」

振り返ると見覚えのある長身の男がたっていた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

抱きしめて

麻実
恋愛
夫の長期に亘る不倫に 女としての自信を失った妻は、新しい出会いに飛び込んでいく。

処理中です...