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「山口様。」
それは女学校の同窓の百合子さんの次兄の啓介さんだった。
「久しぶりだね。元気にしているかい?」
「はい。お久しぶりでございます。百合子さんもご一緒ですか?」
「いや。今日は家とは別でね。新しい仕事の関係で来ているんだ。」
「そうなのですね。百合子さんはお元気ですか?」
「元気にしているよ。毎日課題が間に合わないって言いながら相変わらず騒がしいよ。」
想像出来て思わず笑ってしまう。
「僕は君も学校へ行くんだと思っていたよ。」
「いえ。私は。」
「百合子が家でよく君の話をしているよ。」
「本当ですか。」
「ああ。こんな時に雪乃さんがいたらって。」
嬉しい。
「よかったら今度一度家に遊びに来てやってよ。百合子が喜ぶ。」
「ありがとうございます。私も百合子さんにお会いしたいです。」
百合子さんは女学校で一番仲の良かった友達だった。
明るく優しく美しい百合子さんとは学校に入学した当初からなぜか気が合い何度か我が家へも遊びに来てくれた。
そして課題を一緒にしたり、外国語の本を二人して一生懸命翻訳して教えあったりしていた。
名前を聞いただけで懐かしく温かい気持ちになり思わず笑みがこぼれた。
そこに後ろからいら立ったような声がした。
「雪乃。何をしている。」
振り向くとこちらを見据える夫がいた。
「申し訳ありません。少し気分が悪くなって夜風に当たっておりました。」
「そろそろ会がお開きになる。帰るぞ。」
先ほどの声色のままそう告げられる。
「はい。」
もう藤原雪乃ではないという現実に一気に引き戻された。
「こんばんは。私は山口啓介と申します。雪乃さんは妹の学友で、妹がよくしていただいておりましたのでつい声をかけてしまいました。申し訳ない。」
「そうでしたか。では。」
値踏みするような目で啓介さんを一瞥した後に踵を返す。
「ありがとうございました。百合子様によろしくお伝えください。」
啓介さんに慌ててそう告げて夫の後を追おうとしたとき不意に腕を取られ
「必ず百合子に会いに来てやってくださいね。」
と啓介さんが心配そうな顔で私の覗き込む。
「ありがとうございます。」
お礼だけ残し私は今度こそ夫の後を追った。
「何を話していた。」
直ぐに追いつけた夫は振り向くこともせず気配だけ感じたであろう私を問い詰める。
「百合子様。学友によろしくお伝えくださいと。」
「あのような場で知らぬ男と二人になるな。」
「知らぬ方では。」
「わかったのか。」
「はい。」
私に許されるただ一つの言葉を決められた通りに決められた大きさで発すると夫は車に乗りこんだ。
それは女学校の同窓の百合子さんの次兄の啓介さんだった。
「久しぶりだね。元気にしているかい?」
「はい。お久しぶりでございます。百合子さんもご一緒ですか?」
「いや。今日は家とは別でね。新しい仕事の関係で来ているんだ。」
「そうなのですね。百合子さんはお元気ですか?」
「元気にしているよ。毎日課題が間に合わないって言いながら相変わらず騒がしいよ。」
想像出来て思わず笑ってしまう。
「僕は君も学校へ行くんだと思っていたよ。」
「いえ。私は。」
「百合子が家でよく君の話をしているよ。」
「本当ですか。」
「ああ。こんな時に雪乃さんがいたらって。」
嬉しい。
「よかったら今度一度家に遊びに来てやってよ。百合子が喜ぶ。」
「ありがとうございます。私も百合子さんにお会いしたいです。」
百合子さんは女学校で一番仲の良かった友達だった。
明るく優しく美しい百合子さんとは学校に入学した当初からなぜか気が合い何度か我が家へも遊びに来てくれた。
そして課題を一緒にしたり、外国語の本を二人して一生懸命翻訳して教えあったりしていた。
名前を聞いただけで懐かしく温かい気持ちになり思わず笑みがこぼれた。
そこに後ろからいら立ったような声がした。
「雪乃。何をしている。」
振り向くとこちらを見据える夫がいた。
「申し訳ありません。少し気分が悪くなって夜風に当たっておりました。」
「そろそろ会がお開きになる。帰るぞ。」
先ほどの声色のままそう告げられる。
「はい。」
もう藤原雪乃ではないという現実に一気に引き戻された。
「こんばんは。私は山口啓介と申します。雪乃さんは妹の学友で、妹がよくしていただいておりましたのでつい声をかけてしまいました。申し訳ない。」
「そうでしたか。では。」
値踏みするような目で啓介さんを一瞥した後に踵を返す。
「ありがとうございました。百合子様によろしくお伝えください。」
啓介さんに慌ててそう告げて夫の後を追おうとしたとき不意に腕を取られ
「必ず百合子に会いに来てやってくださいね。」
と啓介さんが心配そうな顔で私の覗き込む。
「ありがとうございます。」
お礼だけ残し私は今度こそ夫の後を追った。
「何を話していた。」
直ぐに追いつけた夫は振り向くこともせず気配だけ感じたであろう私を問い詰める。
「百合子様。学友によろしくお伝えくださいと。」
「あのような場で知らぬ男と二人になるな。」
「知らぬ方では。」
「わかったのか。」
「はい。」
私に許されるただ一つの言葉を決められた通りに決められた大きさで発すると夫は車に乗りこんだ。
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