50 / 76
十二月『消ゆ根雪』
その五
しおりを挟む
勝敗は決したも同然だった。
死力を尽くしたところで、天才に敵う道理はない。
ましてや彼は、戦うことにおいて、致命的な欠陥があったからだ。
――いくら力を与えられても、私は強くなれない
強さを纏えない
纏うだけの器がない
私は本来、戦うことを許されぬ――強くなることを許されない体なのだ
刀なんて振れるわけがない
彼は、脚に力を込めながら思う。
だから、勉学に逃げたんだ
剣の道を断念したのではない
そうすることしか、私には許されなかった
実のところ、彼は無才でさえない。
彼はもはや、戦うことができないという才覚を持った天才だった。
――馬鹿な真似をしたものだ
神鳴郷を使うことで肉体を無理やり活性化して、私は戦場に立った
本当なら、戦えるわけがないのに
どんなに体を鍛えても、どんなに経験を積んでも
私の体はそれを拒む
戦うことを拒む
それを無理やり動かしていただけに過ぎない
地を蹴り、ただ前を見据えて、そして思う。
――阿呆のように後先考えず
ただただ命を削って
……否、どうせ死にゆくのだから
考える必要がなかったから、そうしなかっただけ
それでも――
そうしてでさえ、私は弱かったのだ――
彼は笑う。
駆けながら笑う。
少しも笑わない、冷徹な男と言われた彼が、笑っていた。
だが、駆け出した脚は既に崩落し始めていた。
脚だけではない。
彼を形作っていた全身の肉が破綻し、
彼の全身を巡っていた血液が溶け出している。
自分の体だから――すぐに分かった。
彼の口の中は、濃厚な血で満ちようとしていた。
――あぁ、馬鹿らしい
私はこうやって死ぬんだ
実に阿呆らしい
本当は――本当は
私は戦いたくなかったはずなのに
こんな形で死にたくなかったのに
そうして、彼は悟る。
死にたがりだった彼は、悟る。
――あぁ、そういうことか
復讐なんて、私にはどうでも良かったのだ
死にたければ、さっさと死んで終わればいい譚だった
一族に合わせる顔がないなんて、そんなの戯言だ
あの世なんてあるものか
死後の世界なんてあるものか
死の先にあるのはただの『無』だ
一族の顔だって、真央以外はこの十年で忘れたじゃないか
そもそも、私は一族になんの感慨もない
士道なんて、誇りなんて知ったことか
死にたければいつだって死ねたのに
それをしなかった時点で自明ではないか
私は、死にたがることで生きようとした
死ぬ理由に縋ることで、生きようとした
生きるには力がいるから
家族も、夢も、将来も、居場所さえも
全ての力を失った私には、それくらいしかなかった
復讐の炎を無理やり燃やして
そうまでして私は、生きてきた
悟った彼は、そうして悔いた。
悔いる自分に向かって、笑った。
――もう少し、気づくのが早ければなぁ
さっさと逃げればよかった
逃げて生きればよかった
真央のことなんて、事件のことなんて
忘れたってよかっただろう
もう十分だったじゃないか
十分頑張ったじゃないか
十年前からここまで立て直したのになぁ
私はいつから履き違えていたんだろう
死ぬために生きるなんて
いつからそんな逆転が起きていたんだ
そのせいで私は
あぁ、――
そして彼は、最期の一撃を見舞う。
それは妹に届かない、届くはずもない一撃であった。
――馬鹿だなぁ
床に崩れていく彼は最期にもう一度微笑んで、その瞳を閉ざそうとして――完全に閉ざされる寸前に、一瞬の高熱を肌に感じた。
彼の眼は、眩い光をとらえる。
破綻した肉を――肉ですらなくなりそうな組織たちを僅かに動かして、彼は光の先を見た。
朦朧とした意識の中で、彼は声をとらえる。
「祓い清めよ――『**』」
聖なる焔が、彼の胸元目がけて放たれる。
胸元のその内側――心臓に放たれた焔は血液に引火するように、崩れかかった彼の血管に乗って、全身を駆け巡った。
けれど、焔は彼自身を焼くことはなかった。
彼が蝕みかけていた不浄――毒を焼き払った。
そうして焼き清められながら、彼はふと思い出した。
――そうか、まだ、告げていなかった
そういう契約だったからな
忘れてた
――なあ、お前なら――私の願いを聞いてくれるだろうか?
私はもうすぐ死ぬから
私はもう、十分頑張ったから
それくらいは願ってもいいだろう?
彼は告げる。
音のない声で告げる。
崩れていく体を動かしながら、力の限り告げる。
「――解した」
焔の先で、その男の口が返答する。――承諾する。
その瞬間、彼の胸元にあった銀製のループタイがほつれた。
ほつれた銀は光の糸となり、柔らかな光の粒となって舞い上がり――否、下に崩れていく彼にはそう見えただけで、実際はそうではないのだけど――それは雪明かりのように淡く輝いた。
故郷の曇天を鈍く照らす、白雪の輝きにも似た、冷たくも懐かしい光だ。
それを見届けて、彼は――彼だったものは、ぐしゃりと崩落した。
*
真央の防御が間に合うか、修一郎の刃が先か――!
という流れを生んだのは、彼の策略であった。獣でありながら、最期の最後まで冷静であった修一郎による、騙し討ちである。
結果は、完全なる成功であった。
彼は見事、その場の全員を騙した。真央が咄嗟に刀を構えたことが、襲いかかる修一郎に対して防御の態勢を取ったことこそが、修一郎の思惑通りの誤算を生んだのである。
悲鳴が上がったのは――刀身で斬撃を防ごうとした真央の、その後方からであった。
「ぐ、ぅ……ッ!?」
苦悶に歪む男の声。
「兄上!」
ほどなくして、その弟の声。
真央が振り返ったその先に、修一郎はいた。
「にい、さま……?」
修一郎の体はなぜか炎をまとって、遠く離れた後方に倒れていた。
その一番近くにいた、つまりは標的となった男――冬嗣は、ぎょろりと目を見開いている。その胴体はざっくりと斜めに斬り裂かれていた。
修一郎は最初から真央を避け、体勢を低くして突進――その体勢のまま、冬嗣の体を逆袈裟斬りにしたのである。
残る最後の力を振り絞って、兄妹対決を見ていた、――観察気分で油断していた冬嗣を斬りつけた。
――そう。修一郎は騙し討ちのために真央の名前を呼んだだけで、真央を攻撃するつもりは毛頭なかった。真央のことを見てはいなかったのだ。
「兄上、兄上! 大丈夫ですか!」
そばにいた秋久が、体勢を崩す兄をすかさず支える。細められていた双眸は開かれ、真央は初めてこの男の瞳が藤色であることを知った。
「しっかりなさってください、兄上! 今手当てを……――ッ!?」
そして真央は、秋久の瞳の色以外にもう一つ認識する。それは、冬嗣が倒れたから見えたその先――石室の奥から続く通路からやってきた、一人の乱入者だった。
「……お前は」
呆然としている真央はその者に動じたりはしなかったが、秋久のほうは違った。狐のように目を細めてはいられないほど、狼狽していた。
「久しいな、秋久。それと、冬嗣殿」
乱入者――尾前兄弟の退路を塞ぐように立っているその男は、左手に白い装丁の真新しい本を持っている。黒地に緑でふちどられた隊服を崩して着用し、右眼には眼帯をしていて、晒された左眼は若草色である。癖のある黒髪に、口元の黒子――その顔を、冬嗣と秋久が見知らぬわけがなかった。
「八田光雪――!? なぜ、ここに!」
こつ、こつ、こつ、とブーツのそこを鳴らし、乱入者・八田光雪は石室に足を踏み入れる。秋久や真央に目をやることもなく歩み寄ったのは、今度こそ動かなくなった修一郎の傍であった。
「――君もまた、『私の可愛い子』だったのだな、修」
光雪が彼の頭部に手を伸ばせば、毒を焼き清めていた焔はふっと消えた。
「よく頑張った。いい譚だったよ」
緊迫したこの場には似つかわしくない、穏やかな声音で言って、光雪は修一郎の頭部を壊れ物のようにそうっと撫でていた。
「ぐ、は……ッ、ごふ……っ」
一方、冬嗣もまた、修一郎によって致命傷を負わされていた。傷跡からはとめどなく血が溢れ、その髭は吐いた血液で濡れている。
冬嗣は狼狽える秋久の肩をぎちりと掴んだ。
「貴様、秋久…っ、私を盾にしたな――!?」
「……おや、バレていましたか」
冬嗣の言葉を秋久は否定せず、あっさり肯定的な態度をとった。泣きそうな表情から一転、すっ……と魂が抜けたような無表情を見せた秋久は、弟の裏切りに憤慨していた冬嗣に薄ら寒い恐怖を植えつけるのに十分であった。
「彼の視線の移動に気づかなければ、危うく僕まで斬られるところでした」
秋久はそう言って、抱えていた兄の体をぽいっと捨てるように手放した。血の海に放り出された体から、ばしゃんと水の音が立つ。
「どういうことだ……なぜ――ぐッ!?」
仰向けに倒れた冬嗣の首の上から、光雪の片足が遠慮なく載せられる。首を固定された冬嗣は、視線だけで光雪を見た。
しかし、そこにあったのは光雪の顔ではなく――螺旋を描く円筒の口であった。
ぱんっ──
石室中にこだました破裂音を聞いた直後、尾前冬嗣は絶命した。
帝国司書隊を蹂躙し、国賊の実質的な長となった男は、たった一つの鉛玉を額の中央に受けて――実に呆気なく絶命したのだった。
「禁書での戦闘は避けられないと思ったが、あっさり済んだな。この子が健闘してくれたおかげだ」
無茶をしおってと言いながら、光雪は円筒の先から上がる煙をふっと吹いて揺らす。
「自動拳銃ですか。そんなもの、一介の貸本商がどこで入手したんです」
「あの方が持っていけと寄越した」
冬嗣を手放して即座に修一郎の応急処置にあたっていた秋久に、光雪が答える。
「どうだ。助かりそうか」
「辛うじて息はあります。毒が回る前に清めましたから、彼の生命力次第では助かるかもしれません。――ですが、肉体が破綻している。慎重に運ばないと」
医療技術を記した術本を用いながら、冷静に慣れた手つきで止血していく秋久の背後で、ふと、通路の奥からばたばたと走り回る靴音が聞こえてくる。
「なんだ今の音は!? 銃声か!」
「ばかな、被検体は銃使いではないだろう!」
奥にいた尾前一派の者たちが、銃声で異変に気づいたのだろう。声は次第に慌ただしさを増していった。
「くそっ、ここも開かない! 一体どうなっているんだ!」
「なぜ出入り口が全て封鎖されている!」
騒がしく駆け回る声たちを背後に、光雪は秋久へ問いかけた。
「……お前がやったのか?」
「ええ。尾前一派は一人残らず排除するつもりでしょう? 鍔倉修一郎を被験体とした実験の準備をせよ――と言って、配下を全員施設に集めておきました。あとは貴方のご随意になさってください、光雪様」
「……大量殺人の片棒をこうまで見事に担ぐとは、お前とんでもない医者だな」
「担がせたのは貴方でしょう」
敵の本拠地の中、この事態の中で軽口を叩き合う二人。そのすぐそばの通路から、白衣を着た男たちがわらわらと飛び出てきた。
「ふ、冬嗣様!? 冬嗣様が倒れているぞ!」
「どういうことですか、秋久様!」
時すでに遅し――知らぬ間に長を失った男たちは、突然の異常事態に当惑していた。当然ながら、明らかに不審な男と共に平然と会話を繰り広げている、秋久の様子にもである。
「――まあいい。効率的に仕事ができるのはいいことだ。その子を頼んだぞ、秋久」
「はいはい。承知しましたよ」
処置を済ませた秋久が修一郎の体を抱きかかえる。肉体が崩れないよう全身を固定したその姿は、異国の怪談に出てくる包帯まみれの怪物のようだった。秋久が包帯まみれの修一郎を運びだそうと立ち上がった時、それまで沈黙して立ち尽くしていたその女が、悲鳴をあげた。
*
兄様は、私よりもあの男を選んだ。
私を殺すことではなく、尾前冬嗣を殺すことを選んだ。
兄妹の因縁よりも、帝国司書としての使命を選んだ。
――ずっとずっと、十年間も追い続けたこの私よりも!!
「私の兄様を――離しなさい!!」
倒れた兄を抱えた男の首を跳ね飛ばしてやろうと、真央は鞘を捨てて襲いかかった。真央が駆け出したのと同時に、もう一人の男も動く。
「行け!」
眼帯をした隊服の男――八田光雪が、手に持った拳銃の引き金を引く。
真央にとって高速移動するだけの鉛玉はさほど脅威ではない。真央は自身に向かって飛んでくる鉛玉の速度に合わせ、刀身を振る。鉛玉を真っ二つに両断したその流れで、脇を走り抜けようとした秋久に斬りかかる。だが、それより一瞬前に――秋久の体は宙に舞う。
「ッ!?」
否、正確には宙を舞うように駆けていたというべきか――
「『糜爛の処女』!」
真っ黒な影の塊が秋久の足場を物理的に盛り上げ、真央の斬撃から逃がしたのである。さらに。
「っく!」
走って移動する秋久の周囲一帯をぐるりと守るように、歩兵銃が十丁ほど宙に浮かんでいる。さながら一つの部隊のように整列した長筒たちは、それぞれに真央を狙撃した。近距離で放たれた十発の弾それぞれを見切って両断する動体視力は、さすがに真央も持っていない。たまらず飛び退いた真央は、唯一解放されている出入口までの道を開けさせられることになった。
「待て、この――」
「こっちだよ」
修一郎を連れた秋久を追おうする真央が、刀を持った腕を振り上げる。その手首を、真っ黒な鎖のようなものが絡めとった。後方へぐんっ、と強制的に重心が移動する。
「離せ、離せ離せ! 兄様、兄様、兄様ぁ!」
「だめだよ、選手交代だ。次の相手は私だよ、鍔倉真央」
秋久が通路の奥に消えていく。白衣の後ろ姿が完全に見えなくなれば、鎖を振りほどいて後を追っても間に合わないだろう。
――そう分かって、真央は後ろに振り返る。
「お前の、せいで……!」
ぐるりと、ごきりと振り返る。人体の構造上ありえない角度で、真央の頭部は光雪のほうへ向けられる。
「八田光雪――お前のせいで、兄様は……ッ!!」
血のように赤い目から滲み出るのは、光雪へのとめどない憎悪と怨恨、そして殺意――兄が倒れる原因を与えた張本人に対する、激しい怒りである。
「そうだな。私はこうなることを知っていた。それを分かった上で彼に神鳴郷を与え、破滅の道を歩ませるきっかけを作ったのは、他でもないこの私だ」
だが、と光雪は返す。
「こうでもしなければ、彼の望みは叶わなかった。彼の弱さは圧倒的で例外的――覆しようもないその性質を覆すには、禁書の力でああするしかなかった。私は彼の譚に選択肢を与えただけ――分岐点を設けただけなのさ」
実に淡々とした感情で返す。それはもはや冷徹でさえない、ある意味での無情である。
「あの子は弟子としては優秀だったが、実に馬鹿だった。己の譚が単なる復讐譚ではないと気づけなかった。――それでも、最後の最後に気づけただけマシだったのやもしれないが」
真央はますます憤る。
兄をこんな目に遭わせたこの男に。自分が寂しい思いをしていた十年間、兄を離すまいと縛りつけていたこの男に。
――ただ自分が譚を得たいがために、兄を破滅に追いやったこの男に。
否、そもそも、自分たち兄妹の絆を無惨に踏み荒らしたこの場の全員に!
「――死ねぇぇぇぇ!!」
真央は泣き叫びながら、手首に巻きついた引きちぎる。自由になった腕を振り回し、やたらめったらに斬撃を飛ばす。
光雪は影の禁書を呼び出し、その鉄壁で防御しながら跳躍した。――当然、光雪を挟み撃ちにするように立ち塞がっていた尾前一派は、もろにその剣を浴びることになる。
「待て、俺たちはみか――」
尾前一派のそんな言葉など、乱心状態の真央に届くわけもなく。白衣の男たちは先頭にいる者から順番に次々と斬られ、倒れていった。整列して並べられた木片が、連鎖的にぱたぱた倒れていくように――男たちもぱたぱた倒れていった。
「死ね死ね死ね死ね死ね――ッ!! みんな死んじゃえ――――ッ!!」
泣き叫ぶ真央には、兄と似通った美貌など既になかった。醜く歪んだその顔は、その肌は、――炭のように黒くなっていた。
「全く、これではただの幼子だな」
もはや異形と化した真央に対し『幼子』という言葉を使うのは、辛うじて人の形を保っているからか――それとも、譚好きのこの男の性なのか――いずれにしても、光雪はこれ以上、人間としての鍔倉真央に対処するつもりはなかった。
「いい加減に黙れ、餓鬼」
光雪は忌々しげに呟きながらも、実のところは嘆いていた。
深く深く、嘆いていた。
死力を尽くしたところで、天才に敵う道理はない。
ましてや彼は、戦うことにおいて、致命的な欠陥があったからだ。
――いくら力を与えられても、私は強くなれない
強さを纏えない
纏うだけの器がない
私は本来、戦うことを許されぬ――強くなることを許されない体なのだ
刀なんて振れるわけがない
彼は、脚に力を込めながら思う。
だから、勉学に逃げたんだ
剣の道を断念したのではない
そうすることしか、私には許されなかった
実のところ、彼は無才でさえない。
彼はもはや、戦うことができないという才覚を持った天才だった。
――馬鹿な真似をしたものだ
神鳴郷を使うことで肉体を無理やり活性化して、私は戦場に立った
本当なら、戦えるわけがないのに
どんなに体を鍛えても、どんなに経験を積んでも
私の体はそれを拒む
戦うことを拒む
それを無理やり動かしていただけに過ぎない
地を蹴り、ただ前を見据えて、そして思う。
――阿呆のように後先考えず
ただただ命を削って
……否、どうせ死にゆくのだから
考える必要がなかったから、そうしなかっただけ
それでも――
そうしてでさえ、私は弱かったのだ――
彼は笑う。
駆けながら笑う。
少しも笑わない、冷徹な男と言われた彼が、笑っていた。
だが、駆け出した脚は既に崩落し始めていた。
脚だけではない。
彼を形作っていた全身の肉が破綻し、
彼の全身を巡っていた血液が溶け出している。
自分の体だから――すぐに分かった。
彼の口の中は、濃厚な血で満ちようとしていた。
――あぁ、馬鹿らしい
私はこうやって死ぬんだ
実に阿呆らしい
本当は――本当は
私は戦いたくなかったはずなのに
こんな形で死にたくなかったのに
そうして、彼は悟る。
死にたがりだった彼は、悟る。
――あぁ、そういうことか
復讐なんて、私にはどうでも良かったのだ
死にたければ、さっさと死んで終わればいい譚だった
一族に合わせる顔がないなんて、そんなの戯言だ
あの世なんてあるものか
死後の世界なんてあるものか
死の先にあるのはただの『無』だ
一族の顔だって、真央以外はこの十年で忘れたじゃないか
そもそも、私は一族になんの感慨もない
士道なんて、誇りなんて知ったことか
死にたければいつだって死ねたのに
それをしなかった時点で自明ではないか
私は、死にたがることで生きようとした
死ぬ理由に縋ることで、生きようとした
生きるには力がいるから
家族も、夢も、将来も、居場所さえも
全ての力を失った私には、それくらいしかなかった
復讐の炎を無理やり燃やして
そうまでして私は、生きてきた
悟った彼は、そうして悔いた。
悔いる自分に向かって、笑った。
――もう少し、気づくのが早ければなぁ
さっさと逃げればよかった
逃げて生きればよかった
真央のことなんて、事件のことなんて
忘れたってよかっただろう
もう十分だったじゃないか
十分頑張ったじゃないか
十年前からここまで立て直したのになぁ
私はいつから履き違えていたんだろう
死ぬために生きるなんて
いつからそんな逆転が起きていたんだ
そのせいで私は
あぁ、――
そして彼は、最期の一撃を見舞う。
それは妹に届かない、届くはずもない一撃であった。
――馬鹿だなぁ
床に崩れていく彼は最期にもう一度微笑んで、その瞳を閉ざそうとして――完全に閉ざされる寸前に、一瞬の高熱を肌に感じた。
彼の眼は、眩い光をとらえる。
破綻した肉を――肉ですらなくなりそうな組織たちを僅かに動かして、彼は光の先を見た。
朦朧とした意識の中で、彼は声をとらえる。
「祓い清めよ――『**』」
聖なる焔が、彼の胸元目がけて放たれる。
胸元のその内側――心臓に放たれた焔は血液に引火するように、崩れかかった彼の血管に乗って、全身を駆け巡った。
けれど、焔は彼自身を焼くことはなかった。
彼が蝕みかけていた不浄――毒を焼き払った。
そうして焼き清められながら、彼はふと思い出した。
――そうか、まだ、告げていなかった
そういう契約だったからな
忘れてた
――なあ、お前なら――私の願いを聞いてくれるだろうか?
私はもうすぐ死ぬから
私はもう、十分頑張ったから
それくらいは願ってもいいだろう?
彼は告げる。
音のない声で告げる。
崩れていく体を動かしながら、力の限り告げる。
「――解した」
焔の先で、その男の口が返答する。――承諾する。
その瞬間、彼の胸元にあった銀製のループタイがほつれた。
ほつれた銀は光の糸となり、柔らかな光の粒となって舞い上がり――否、下に崩れていく彼にはそう見えただけで、実際はそうではないのだけど――それは雪明かりのように淡く輝いた。
故郷の曇天を鈍く照らす、白雪の輝きにも似た、冷たくも懐かしい光だ。
それを見届けて、彼は――彼だったものは、ぐしゃりと崩落した。
*
真央の防御が間に合うか、修一郎の刃が先か――!
という流れを生んだのは、彼の策略であった。獣でありながら、最期の最後まで冷静であった修一郎による、騙し討ちである。
結果は、完全なる成功であった。
彼は見事、その場の全員を騙した。真央が咄嗟に刀を構えたことが、襲いかかる修一郎に対して防御の態勢を取ったことこそが、修一郎の思惑通りの誤算を生んだのである。
悲鳴が上がったのは――刀身で斬撃を防ごうとした真央の、その後方からであった。
「ぐ、ぅ……ッ!?」
苦悶に歪む男の声。
「兄上!」
ほどなくして、その弟の声。
真央が振り返ったその先に、修一郎はいた。
「にい、さま……?」
修一郎の体はなぜか炎をまとって、遠く離れた後方に倒れていた。
その一番近くにいた、つまりは標的となった男――冬嗣は、ぎょろりと目を見開いている。その胴体はざっくりと斜めに斬り裂かれていた。
修一郎は最初から真央を避け、体勢を低くして突進――その体勢のまま、冬嗣の体を逆袈裟斬りにしたのである。
残る最後の力を振り絞って、兄妹対決を見ていた、――観察気分で油断していた冬嗣を斬りつけた。
――そう。修一郎は騙し討ちのために真央の名前を呼んだだけで、真央を攻撃するつもりは毛頭なかった。真央のことを見てはいなかったのだ。
「兄上、兄上! 大丈夫ですか!」
そばにいた秋久が、体勢を崩す兄をすかさず支える。細められていた双眸は開かれ、真央は初めてこの男の瞳が藤色であることを知った。
「しっかりなさってください、兄上! 今手当てを……――ッ!?」
そして真央は、秋久の瞳の色以外にもう一つ認識する。それは、冬嗣が倒れたから見えたその先――石室の奥から続く通路からやってきた、一人の乱入者だった。
「……お前は」
呆然としている真央はその者に動じたりはしなかったが、秋久のほうは違った。狐のように目を細めてはいられないほど、狼狽していた。
「久しいな、秋久。それと、冬嗣殿」
乱入者――尾前兄弟の退路を塞ぐように立っているその男は、左手に白い装丁の真新しい本を持っている。黒地に緑でふちどられた隊服を崩して着用し、右眼には眼帯をしていて、晒された左眼は若草色である。癖のある黒髪に、口元の黒子――その顔を、冬嗣と秋久が見知らぬわけがなかった。
「八田光雪――!? なぜ、ここに!」
こつ、こつ、こつ、とブーツのそこを鳴らし、乱入者・八田光雪は石室に足を踏み入れる。秋久や真央に目をやることもなく歩み寄ったのは、今度こそ動かなくなった修一郎の傍であった。
「――君もまた、『私の可愛い子』だったのだな、修」
光雪が彼の頭部に手を伸ばせば、毒を焼き清めていた焔はふっと消えた。
「よく頑張った。いい譚だったよ」
緊迫したこの場には似つかわしくない、穏やかな声音で言って、光雪は修一郎の頭部を壊れ物のようにそうっと撫でていた。
「ぐ、は……ッ、ごふ……っ」
一方、冬嗣もまた、修一郎によって致命傷を負わされていた。傷跡からはとめどなく血が溢れ、その髭は吐いた血液で濡れている。
冬嗣は狼狽える秋久の肩をぎちりと掴んだ。
「貴様、秋久…っ、私を盾にしたな――!?」
「……おや、バレていましたか」
冬嗣の言葉を秋久は否定せず、あっさり肯定的な態度をとった。泣きそうな表情から一転、すっ……と魂が抜けたような無表情を見せた秋久は、弟の裏切りに憤慨していた冬嗣に薄ら寒い恐怖を植えつけるのに十分であった。
「彼の視線の移動に気づかなければ、危うく僕まで斬られるところでした」
秋久はそう言って、抱えていた兄の体をぽいっと捨てるように手放した。血の海に放り出された体から、ばしゃんと水の音が立つ。
「どういうことだ……なぜ――ぐッ!?」
仰向けに倒れた冬嗣の首の上から、光雪の片足が遠慮なく載せられる。首を固定された冬嗣は、視線だけで光雪を見た。
しかし、そこにあったのは光雪の顔ではなく――螺旋を描く円筒の口であった。
ぱんっ──
石室中にこだました破裂音を聞いた直後、尾前冬嗣は絶命した。
帝国司書隊を蹂躙し、国賊の実質的な長となった男は、たった一つの鉛玉を額の中央に受けて――実に呆気なく絶命したのだった。
「禁書での戦闘は避けられないと思ったが、あっさり済んだな。この子が健闘してくれたおかげだ」
無茶をしおってと言いながら、光雪は円筒の先から上がる煙をふっと吹いて揺らす。
「自動拳銃ですか。そんなもの、一介の貸本商がどこで入手したんです」
「あの方が持っていけと寄越した」
冬嗣を手放して即座に修一郎の応急処置にあたっていた秋久に、光雪が答える。
「どうだ。助かりそうか」
「辛うじて息はあります。毒が回る前に清めましたから、彼の生命力次第では助かるかもしれません。――ですが、肉体が破綻している。慎重に運ばないと」
医療技術を記した術本を用いながら、冷静に慣れた手つきで止血していく秋久の背後で、ふと、通路の奥からばたばたと走り回る靴音が聞こえてくる。
「なんだ今の音は!? 銃声か!」
「ばかな、被検体は銃使いではないだろう!」
奥にいた尾前一派の者たちが、銃声で異変に気づいたのだろう。声は次第に慌ただしさを増していった。
「くそっ、ここも開かない! 一体どうなっているんだ!」
「なぜ出入り口が全て封鎖されている!」
騒がしく駆け回る声たちを背後に、光雪は秋久へ問いかけた。
「……お前がやったのか?」
「ええ。尾前一派は一人残らず排除するつもりでしょう? 鍔倉修一郎を被験体とした実験の準備をせよ――と言って、配下を全員施設に集めておきました。あとは貴方のご随意になさってください、光雪様」
「……大量殺人の片棒をこうまで見事に担ぐとは、お前とんでもない医者だな」
「担がせたのは貴方でしょう」
敵の本拠地の中、この事態の中で軽口を叩き合う二人。そのすぐそばの通路から、白衣を着た男たちがわらわらと飛び出てきた。
「ふ、冬嗣様!? 冬嗣様が倒れているぞ!」
「どういうことですか、秋久様!」
時すでに遅し――知らぬ間に長を失った男たちは、突然の異常事態に当惑していた。当然ながら、明らかに不審な男と共に平然と会話を繰り広げている、秋久の様子にもである。
「――まあいい。効率的に仕事ができるのはいいことだ。その子を頼んだぞ、秋久」
「はいはい。承知しましたよ」
処置を済ませた秋久が修一郎の体を抱きかかえる。肉体が崩れないよう全身を固定したその姿は、異国の怪談に出てくる包帯まみれの怪物のようだった。秋久が包帯まみれの修一郎を運びだそうと立ち上がった時、それまで沈黙して立ち尽くしていたその女が、悲鳴をあげた。
*
兄様は、私よりもあの男を選んだ。
私を殺すことではなく、尾前冬嗣を殺すことを選んだ。
兄妹の因縁よりも、帝国司書としての使命を選んだ。
――ずっとずっと、十年間も追い続けたこの私よりも!!
「私の兄様を――離しなさい!!」
倒れた兄を抱えた男の首を跳ね飛ばしてやろうと、真央は鞘を捨てて襲いかかった。真央が駆け出したのと同時に、もう一人の男も動く。
「行け!」
眼帯をした隊服の男――八田光雪が、手に持った拳銃の引き金を引く。
真央にとって高速移動するだけの鉛玉はさほど脅威ではない。真央は自身に向かって飛んでくる鉛玉の速度に合わせ、刀身を振る。鉛玉を真っ二つに両断したその流れで、脇を走り抜けようとした秋久に斬りかかる。だが、それより一瞬前に――秋久の体は宙に舞う。
「ッ!?」
否、正確には宙を舞うように駆けていたというべきか――
「『糜爛の処女』!」
真っ黒な影の塊が秋久の足場を物理的に盛り上げ、真央の斬撃から逃がしたのである。さらに。
「っく!」
走って移動する秋久の周囲一帯をぐるりと守るように、歩兵銃が十丁ほど宙に浮かんでいる。さながら一つの部隊のように整列した長筒たちは、それぞれに真央を狙撃した。近距離で放たれた十発の弾それぞれを見切って両断する動体視力は、さすがに真央も持っていない。たまらず飛び退いた真央は、唯一解放されている出入口までの道を開けさせられることになった。
「待て、この――」
「こっちだよ」
修一郎を連れた秋久を追おうする真央が、刀を持った腕を振り上げる。その手首を、真っ黒な鎖のようなものが絡めとった。後方へぐんっ、と強制的に重心が移動する。
「離せ、離せ離せ! 兄様、兄様、兄様ぁ!」
「だめだよ、選手交代だ。次の相手は私だよ、鍔倉真央」
秋久が通路の奥に消えていく。白衣の後ろ姿が完全に見えなくなれば、鎖を振りほどいて後を追っても間に合わないだろう。
――そう分かって、真央は後ろに振り返る。
「お前の、せいで……!」
ぐるりと、ごきりと振り返る。人体の構造上ありえない角度で、真央の頭部は光雪のほうへ向けられる。
「八田光雪――お前のせいで、兄様は……ッ!!」
血のように赤い目から滲み出るのは、光雪へのとめどない憎悪と怨恨、そして殺意――兄が倒れる原因を与えた張本人に対する、激しい怒りである。
「そうだな。私はこうなることを知っていた。それを分かった上で彼に神鳴郷を与え、破滅の道を歩ませるきっかけを作ったのは、他でもないこの私だ」
だが、と光雪は返す。
「こうでもしなければ、彼の望みは叶わなかった。彼の弱さは圧倒的で例外的――覆しようもないその性質を覆すには、禁書の力でああするしかなかった。私は彼の譚に選択肢を与えただけ――分岐点を設けただけなのさ」
実に淡々とした感情で返す。それはもはや冷徹でさえない、ある意味での無情である。
「あの子は弟子としては優秀だったが、実に馬鹿だった。己の譚が単なる復讐譚ではないと気づけなかった。――それでも、最後の最後に気づけただけマシだったのやもしれないが」
真央はますます憤る。
兄をこんな目に遭わせたこの男に。自分が寂しい思いをしていた十年間、兄を離すまいと縛りつけていたこの男に。
――ただ自分が譚を得たいがために、兄を破滅に追いやったこの男に。
否、そもそも、自分たち兄妹の絆を無惨に踏み荒らしたこの場の全員に!
「――死ねぇぇぇぇ!!」
真央は泣き叫びながら、手首に巻きついた引きちぎる。自由になった腕を振り回し、やたらめったらに斬撃を飛ばす。
光雪は影の禁書を呼び出し、その鉄壁で防御しながら跳躍した。――当然、光雪を挟み撃ちにするように立ち塞がっていた尾前一派は、もろにその剣を浴びることになる。
「待て、俺たちはみか――」
尾前一派のそんな言葉など、乱心状態の真央に届くわけもなく。白衣の男たちは先頭にいる者から順番に次々と斬られ、倒れていった。整列して並べられた木片が、連鎖的にぱたぱた倒れていくように――男たちもぱたぱた倒れていった。
「死ね死ね死ね死ね死ね――ッ!! みんな死んじゃえ――――ッ!!」
泣き叫ぶ真央には、兄と似通った美貌など既になかった。醜く歪んだその顔は、その肌は、――炭のように黒くなっていた。
「全く、これではただの幼子だな」
もはや異形と化した真央に対し『幼子』という言葉を使うのは、辛うじて人の形を保っているからか――それとも、譚好きのこの男の性なのか――いずれにしても、光雪はこれ以上、人間としての鍔倉真央に対処するつもりはなかった。
「いい加減に黙れ、餓鬼」
光雪は忌々しげに呟きながらも、実のところは嘆いていた。
深く深く、嘆いていた。
0
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。